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悪魔が捧ぐオンライン  作者: ヒイロロ*ヒノキ
五章.遊戯のまにまに編

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4.目立つ頃合い【前編】

誤字脱字はお知らせください。泣いて喜びます。

 

「あっつ…」


 ジリジリと焼かれる肌。

 汗が垂れる中、沙多は最悪とハンディファンを仰ぐ。

 モーターで回る小型扇風機は、熱風を運ぶだけとしか思えないほどの暑さ。


「夏休み入ったばっかなのに…もうこれ意味ないじゃん」


 しかし装いは制服。学校へ向かっていた。

 

――――――

――――

――


「じゃあ始め。終わったら帰っていいぞ」


 しっかりと赤点を確保し、夏休みの補習へと誘われた沙多。

 最終確認として、簡単な小テストにペンを走らせる。


「――ねえ、これどうやるんだっけ?」

「――終わったらどっか行く?」

「――せんせ~分からんー」


 緩い雰囲気の教室、様々な声が飛び交う。だが一人、二人と退室。

 活気は徐々に失われ、次は沙多の番となる。


「あ、明野」

「はーい?」

「進路調査票、出しとけよ」

「…はぁーい」


 扉を出る際に呼び止められれば、まだ提出していない書類の催促。

 当然、その欄など埋っているわけもなく、曖昧な返事を返した。


――――――

――――

――


 ガコンッと、小銭を入れれば自販機から吐き出されるジュース。

 それを口に学校のエントランスで一息つく沙多。

 ふと窓の外を見れば、グラウンドを走る部活生が映った。


「…なに書きゃいいか分かるわけないじゃん」


 今は姉を探すことで手一杯。

 将来など二の次と愚痴を零す。


 一方窓の外では、息を切らしながらも、真剣に研鑽を積み上げていく光景が広がる。

 

「…もう行こ」


 予定の電車にはやや早い出発時間。

 だが何となく、この場に居たくなかった。

 そうして校門をくぐればまた灼熱の蒸し暑さが襲う。


――――――

――――

――


「うわ、壊れた…まじ最悪」


 道すがらでは止まるハンディファン。

 異音を出してモーターが空回る。


「……っあ~~ッッ何かバッド入りそう!!今日ダメ!今日は駄目な日!!」


 噛み合わせの悪いブルーな気持ちの蓄積に、頭を掻きむしる。

 次第に鬱憤が爆発し――手帳を開いた。


 『ルシフェル・オンライン』のオプションを司るそこへ、スキルを書き込み(セットし)、杖も召還。


「――【氷元素(アイス)】!!」


 発動するのは【属性術師(エレメンタラー)】のスキル。

 氷属性を意のまま己に纏わせ、ひんやりと涼み始めた。


(ふう…魔力ちゃんと減ってる感覚する…)


 現実で行使したスキル。

 これはインベントリ機能や、補佐(サポート)スキルでない。

 魔力を用いた奇跡の御業。

 

――やはりゲームさながら、問題なく発動できてしまう。


 現実で魔法が使えるなど、一度は憧れるだろう。

 インベントリは荷物を減らせるし、スキルで体を強化すれば、アスリート顔負けの成績も残せる。

 将来など考える必要もなく安泰だ。


(…こんなのより、お姉ちゃんに会いたいのになぁ)


 だがそれまで。姉を探す手掛かり足りえない。

 望んだもの以外が手に入る現状、体以上に心が冷えていく。


 だからなのか、道行く風景が頭に入らない。

 呆然とがらんどうのまま、のらりくらりと足が動いた。


***


 公園さながら、噴水と草花で彩られる憩いの場。

 まるでピクニック気分。ベンチに佇む菅原は、ポツリと溢した。


「もうアイツ1人でええやろ…」


――騒々しい喧噪の響く中で。


「グガッ!?」

「ガァ!!」

「アグッ!?」


 小気味よい悲鳴の三コンボ。

 ドンッドンッドンッと墜落し、地面に埋まる上半身。そのまま体力が限界を迎え泡沫化(ゲームオーバー)

 ベアルが全てを蹂躙する、まさに真っ最中だ。

 

「これでも相手は凄いベテランなんだよね…」

「せやな、確か常連。オレらが戦えば負けるんちゃう?」


 ベンチに座り、団欒とした会話。

 「純貴お茶飲む?」「頼むわ」と、悟りの境地に達したのか、もはや他人事だ。

 二人でズズズとカップに口を付ける。


「…なあスガ、これどういう事だ…?」

「見ての通り(あん)ちゃんのお金稼ぎやろ」


 一方で今日、合流したギルドメンバーの少年は戸惑いを隠せない。

 大剣を持つ【重戦士(ウォーリア)】こと光平(こうへい)

 亜麻色の髪を持つ彼は眉間を押さえる。


「そうじゃなくて、今俺らは何をしてるんだ……」

「大会に参加してるんでしょっ?」

「じゃあ何故こんなに寛いでられるんだ…っ」


――今はまさに、大会の渦中。

 さながら大乱闘が繰り広げられている。


 そんな空間で、プレイヤーを上空へ蹴り飛ばす悪魔。

 まるで打ち上げ花火だ。次々と落下死の報告が相次ぐ。

 

「せやかてオレら、やる事ないやん」

「チーム戦だから、ウチらも一応は参加しないとだしねっ」

「せやんなぁ?」

「なぁって言われても…」


 戦場ど真ん中での会話だった。

 周囲は騒がしいが、ここはまるで台風の目のように平穏。


――仕事内容はベンチでの歓談。報酬は優勝賞金。

 言いかえるならば、こういう求人募集だろう。


 数合わせの為だけに参加した一同は遠い目をする。

 

「…一体どこのギルドだ?」

「最近結成されたのか…?注意しておく必要があるぞ…」


 今回はギルド対抗戦とも言っても差し支えない大会だ。

 そんな場で無双してしまえば、どうなるかなど明白。


「もしかしてあの暴れる奴って…ただの先鋒か?」

「は…?つまり四天王の中で最弱…?」

「じゃあ残りの3人はもっと強って事か…?」


 これが菅原らのギルドの勢力と認知度が高まっていく。

 助っ人外国人が混ざっているが、外野には伝わるはずもない。

 というか、ベアルこそが最大戦力だ。


 しかし、単なる一戦力に過ぎないと誤解が生まれ、伝播していく。


「おい、後で対策するぞ。掲示板で情報共有しとけッ」

「調べるぞ。あのギルド、いつから活動していた」


 注目度は依然と増していった。

 

「ああ…これ、まともに付き合ってられないんだな…」


 やがて同じ境地を悟った犠牲者(こうへい)は、二人と同じく遠い目になった。


***


「――来たぞ…『賞金狩り』のギルドだ…」

「今日は何が目的だ?大会荒らしか…?」

「いや、この前は賞金首を狩ってたらしい。そっちの可能性も…」


 また後日。

 プレイヤー同士の休息場、要点に置かれた街。

 その一つを歩けば、すれ違う者からヒソヒソと噂話が止まない。


「あなた達、一体何をしでかしたのよ…?」

「誤解やねん」


 ノシノシと歩く悪魔。

 その背後にて、真美(まみ)が耳打ちする。同じくギルドメンバーである【属性術師(エレメンタラー)】。

 ローブを着こなす彼女は光平(こうへい)の従姉らしく、頭を抱える様が瓜二つだった。


「ちょいと知名度がうなぎ上りしてるだけや…悪い方向に」

「掲示板とかじゃもう有名人らしいよ?凄いねっ」 


 既に彼らは『ルシフェル・オンライン』を騒がす中枢。


 『狩場』のエネミーを容易く潰し、『大会』は百戦錬磨。

 (カルマ)値の低い『賞金首(プレイヤーキラー)』は数多くをしょっ引いた。


――言わずもがな、全てベアルの仕業である。


「だから今日妙に絡まれたのよね!?宗谷(そうや)くん疲れ切ってログアウトしちゃったわよ!?」 


 今日は件の三人に加え、真美(まみ)宗谷(そうや)の五人構成。

 だが最年少である彼は「明日は学校あるから…」と早々に離脱。


 その際の目は同じく虚無だった。

 言うまでもなく、同行するには消費カロリーが高すぎたのだろう。


「…それで、今日は後何するのかしら…?」

「めっぽう強いエネミー居るっちゅう話が掲示板であってな、そこに行こ思て」

「それってレアエネミーなのっ?」


 目を輝かせたベルタ。

 悪魔もピクッと、天恵を得る可能性に反応。

 だが菅原は首を振る。


「ちゃうな、ただ強いだけやな」

「え~どうして言い切れるのさ。倒してみるまで分からないんじゃないのっ?」

「既に他所様が倒してんねん。んで、その結果がちょいと豪華な報酬品(ドロップアイテム)。天恵は無しっちゅうオチや」


 無論、強敵が全てレアエネミーとは限らない。

 あらかじめの判別も不可能。

 やっとの思いで倒しても、ただのエネミー格だったという話はありふれている。


「話によると、他所んギルド(とこ)で高く売られた情報だったらしいねん。……けどいざ蓋を開ければ普通のエネミー。カモられたゆうて掲示板を荒らしとったわ」


 カラカラと笑う菅原、だが一種の現実逃避らしく目が笑っていなかった。


「ねえ菅原くん…いま掲示板荒らしてるの、どちらかと言うと私達よね…?」


 この非正規ゲームで注目を集める。

 その意味と重さを背負い、気苦労が増えていく。


菅原のエンゲル係数に胃薬代が加わってます。

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