4.目立つ頃合い【前編】
誤字脱字はお知らせください。泣いて喜びます。
「あっつ…」
ジリジリと焼かれる肌。
汗が垂れる中、沙多は最悪とハンディファンを仰ぐ。
モーターで回る小型扇風機は、熱風を運ぶだけとしか思えないほどの暑さ。
「夏休み入ったばっかなのに…もうこれ意味ないじゃん」
しかし装いは制服。学校へ向かっていた。
――――――
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――
「じゃあ始め。終わったら帰っていいぞ」
しっかりと赤点を確保し、夏休みの補習へと誘われた沙多。
最終確認として、簡単な小テストにペンを走らせる。
「――ねえ、これどうやるんだっけ?」
「――終わったらどっか行く?」
「――せんせ~分からんー」
緩い雰囲気の教室、様々な声が飛び交う。だが一人、二人と退室。
活気は徐々に失われ、次は沙多の番となる。
「あ、明野」
「はーい?」
「進路調査票、出しとけよ」
「…はぁーい」
扉を出る際に呼び止められれば、まだ提出していない書類の催促。
当然、その欄など埋っているわけもなく、曖昧な返事を返した。
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――
ガコンッと、小銭を入れれば自販機から吐き出されるジュース。
それを口に学校のエントランスで一息つく沙多。
ふと窓の外を見れば、グラウンドを走る部活生が映った。
「…なに書きゃいいか分かるわけないじゃん」
今は姉を探すことで手一杯。
将来など二の次と愚痴を零す。
一方窓の外では、息を切らしながらも、真剣に研鑽を積み上げていく光景が広がる。
「…もう行こ」
予定の電車にはやや早い出発時間。
だが何となく、この場に居たくなかった。
そうして校門をくぐればまた灼熱の蒸し暑さが襲う。
――――――
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――
「うわ、壊れた…まじ最悪」
道すがらでは止まるハンディファン。
異音を出してモーターが空回る。
「……っあ~~ッッ何かバッド入りそう!!今日ダメ!今日は駄目な日!!」
噛み合わせの悪いブルーな気持ちの蓄積に、頭を掻きむしる。
次第に鬱憤が爆発し――手帳を開いた。
『ルシフェル・オンライン』のオプションを司るそこへ、スキルを書き込み、杖も召還。
「――【氷元素】!!」
発動するのは【属性術師】のスキル。
氷属性を意のまま己に纏わせ、ひんやりと涼み始めた。
(ふう…魔力ちゃんと減ってる感覚する…)
現実で行使したスキル。
これはインベントリ機能や、補佐スキルでない。
魔力を用いた奇跡の御業。
――やはりゲームさながら、問題なく発動できてしまう。
現実で魔法が使えるなど、一度は憧れるだろう。
インベントリは荷物を減らせるし、スキルで体を強化すれば、アスリート顔負けの成績も残せる。
将来など考える必要もなく安泰だ。
(…こんなのより、お姉ちゃんに会いたいのになぁ)
だがそれまで。姉を探す手掛かり足りえない。
望んだもの以外が手に入る現状、体以上に心が冷えていく。
だからなのか、道行く風景が頭に入らない。
呆然とがらんどうのまま、のらりくらりと足が動いた。
***
公園さながら、噴水と草花で彩られる憩いの場。
まるでピクニック気分。ベンチに佇む菅原は、ポツリと溢した。
「もうアイツ1人でええやろ…」
――騒々しい喧噪の響く中で。
「グガッ!?」
「ガァ!!」
「アグッ!?」
小気味よい悲鳴の三コンボ。
ドンッドンッドンッと墜落し、地面に埋まる上半身。そのまま体力が限界を迎え泡沫化。
ベアルが全てを蹂躙する、まさに真っ最中だ。
「これでも相手は凄いベテランなんだよね…」
「せやな、確か常連。オレらが戦えば負けるんちゃう?」
ベンチに座り、団欒とした会話。
「純貴お茶飲む?」「頼むわ」と、悟りの境地に達したのか、もはや他人事だ。
二人でズズズとカップに口を付ける。
「…なあスガ、これどういう事だ…?」
「見ての通り兄ちゃんのお金稼ぎやろ」
一方で今日、合流したギルドメンバーの少年は戸惑いを隠せない。
大剣を持つ【重戦士】こと光平。
亜麻色の髪を持つ彼は眉間を押さえる。
「そうじゃなくて、今俺らは何をしてるんだ……」
「大会に参加してるんでしょっ?」
「じゃあ何故こんなに寛いでられるんだ…っ」
――今はまさに、大会の渦中。
さながら大乱闘が繰り広げられている。
そんな空間で、プレイヤーを上空へ蹴り飛ばす悪魔。
まるで打ち上げ花火だ。次々と落下死の報告が相次ぐ。
「せやかてオレら、やる事ないやん」
「チーム戦だから、ウチらも一応は参加しないとだしねっ」
「せやんなぁ?」
「なぁって言われても…」
戦場ど真ん中での会話だった。
周囲は騒がしいが、ここはまるで台風の目のように平穏。
――仕事内容はベンチでの歓談。報酬は優勝賞金。
言いかえるならば、こういう求人募集だろう。
数合わせの為だけに参加した一同は遠い目をする。
「…一体どこのギルドだ?」
「最近結成されたのか…?注意しておく必要があるぞ…」
今回はギルド対抗戦とも言っても差し支えない大会だ。
そんな場で無双してしまえば、どうなるかなど明白。
「もしかしてあの暴れる奴って…ただの先鋒か?」
「は…?つまり四天王の中で最弱…?」
「じゃあ残りの3人はもっと強って事か…?」
これが菅原らのギルドの勢力と認知度が高まっていく。
助っ人外国人が混ざっているが、外野には伝わるはずもない。
というか、ベアルこそが最大戦力だ。
しかし、単なる一戦力に過ぎないと誤解が生まれ、伝播していく。
「おい、後で対策するぞ。掲示板で情報共有しとけッ」
「調べるぞ。あのギルド、いつから活動していた」
注目度は依然と増していった。
「ああ…これ、まともに付き合ってられないんだな…」
やがて同じ境地を悟った犠牲者は、二人と同じく遠い目になった。
***
「――来たぞ…『賞金狩り』のギルドだ…」
「今日は何が目的だ?大会荒らしか…?」
「いや、この前は賞金首を狩ってたらしい。そっちの可能性も…」
また後日。
プレイヤー同士の休息場、要点に置かれた街。
その一つを歩けば、すれ違う者からヒソヒソと噂話が止まない。
「あなた達、一体何をしでかしたのよ…?」
「誤解やねん」
ノシノシと歩く悪魔。
その背後にて、真美が耳打ちする。同じくギルドメンバーである【属性術師】。
ローブを着こなす彼女は光平の従姉らしく、頭を抱える様が瓜二つだった。
「ちょいと知名度がうなぎ上りしてるだけや…悪い方向に」
「掲示板とかじゃもう有名人らしいよ?凄いねっ」
既に彼らは『ルシフェル・オンライン』を騒がす中枢。
『狩場』のエネミーを容易く潰し、『大会』は百戦錬磨。
業値の低い『賞金首』は数多くをしょっ引いた。
――言わずもがな、全てベアルの仕業である。
「だから今日妙に絡まれたのよね!?宗谷くん疲れ切ってログアウトしちゃったわよ!?」
今日は件の三人に加え、真美と宗谷の五人構成。
だが最年少である彼は「明日は学校あるから…」と早々に離脱。
その際の目は同じく虚無だった。
言うまでもなく、同行するには消費カロリーが高すぎたのだろう。
「…それで、今日は後何するのかしら…?」
「めっぽう強いエネミー居るっちゅう話が掲示板であってな、そこに行こ思て」
「それってレアエネミーなのっ?」
目を輝かせたベルタ。
悪魔もピクッと、天恵を得る可能性に反応。
だが菅原は首を振る。
「ちゃうな、ただ強いだけやな」
「え~どうして言い切れるのさ。倒してみるまで分からないんじゃないのっ?」
「既に他所様が倒してんねん。んで、その結果がちょいと豪華な報酬品。天恵は無しっちゅうオチや」
無論、強敵が全てレアエネミーとは限らない。
あらかじめの判別も不可能。
やっとの思いで倒しても、ただのエネミー格だったという話はありふれている。
「話によると、他所んギルドで高く売られた情報だったらしいねん。……けどいざ蓋を開ければ普通のエネミー。カモられたゆうて掲示板を荒らしとったわ」
カラカラと笑う菅原、だが一種の現実逃避らしく目が笑っていなかった。
「ねえ菅原くん…いま掲示板荒らしてるの、どちらかと言うと私達よね…?」
この非正規ゲームで注目を集める。
その意味と重さを背負い、気苦労が増えていく。
菅原のエンゲル係数に胃薬代が加わってます。




