3.息抜きざかり【後編】
誤字脱字はお知らせください。泣いて喜びます。
菅原のギルドを訪ねた沙多。
その要求は至ってシンプル。
ベアル・ゼブルの身を、彼のギルドに置かせてほしいとのこと。
「お金稼ぎたいってベルが言うんだけど、アタシしばらく忙しくてさ、心配なんよ」
「何でオレらんとこなん、沙多もギルドあるやろ」
「ベルの事情知ってそうなの、ここくらいだし。多分スガも聞いてるっしょ?」
無論、菅原は純粋なプレイヤー。
人外という存在や、異世界のあれこれは知る由もない。
しかし例外が居る。
「――なになに~、何の騒ぎ~?」
「出たかっクラゲ娘よ」
「あっ、久しぶりだっ」
やがて背後から無邪気な少女――水色のウルフカットと紅色の瞳が特徴的な、ベルタが現れる。
すると悪魔は、興味深そうに彼女を凝視。
やはりその存在に惹かれるものがあるらしい。巨躯で一メートル以上から見下ろし、威圧感を醸し出す。
とはいえこの行動に慣れたのか、誰もツッコまないが。
「あーな…そういう事か…」
これに「納得」と空を仰ぐ菅原だった。
彼女は天恵によって生まれた存在。
真実は不明だが『ル・シファル』を母と仰ぎ、沙多の姉についても知る特異点だ。
「それにサっちゃ~ん、どこ行ってたの~?」
「ちょい異世界。急に消えてゴメンね」
「…それってママの産まれたところ?」
かくかくしかじか経緯を伝えれば、ベルタは別の世界を理解し、当然と咀嚼。
気楽にその話題へ、首を突っ込む素振りさえ見せる。
「…けどまあ、話は分かった」
閑話休題。
兎にも角にもと、察した菅原は頭をボリボリと掻き、件の要求を飲んだ。
「けど、特にこれといった協力は出来んで?オレらも金欠やし」
仄かに硫黄が香る中、視線を投げる。
そこには彼らのギルドがあった。
火山地帯の一角、削った岩の中に建つ、神殿さながらの拠点。
「おー、頑張って直してんね、前は凄い壊れちゃってたのに」
「手持ち全部はたいてこれ。直るんはまだまだ先やな」
レアエネミーの戦禍――各所を貫いた陥没や、荒れた内装は綺麗になっている。
だが全て元通りとはいかないらしい。
彼のボロイ鎧、急所だけ最低限カバーしたような装備も未だに更新されず、世知辛さを物語る。
「おまけに例の噴火から、プレイヤーと会う頻度も増えてんねん。そのいざこざもあるしな」
「あ!じゃあベルが用心棒ってことで良くない!?『ケースバイケース』?みたいな」
「ギブアンドテイクやろ」
そこから数分。
結局、ベアルの動向はしばらく菅原らが見守る事となる。
かくして押しつけに近い形で、沙多はとっととログアウト。
「テストがやばい」と残して消えていった。
***
「――優勝!プレイヤー"ベアル"!!」
薄暗く冷たい、地下の賭博場。
鉄の牢獄さながらの広場で、スポットライトが照らされる。
「…圧倒的だね…あんちゃん」
「始まって5分も経っとらんな…」
コートに立ち、歓声を浴びる悪魔。
それを観客席から遠巻きに眺めるベルタと菅原。
二人がパチパチと奏でる拍手は、やけに乾いて聞こえた。
結果は語るまでもなく必然。
バトルロイヤル形式の大会に飛び入り参戦し、即優勝。
次から次とプレイヤーを倒す様は「もはやワンコそば」と揶揄される。
「しかし、よう戦おうと思うわな。あのバカでかい図体、向かいあったら怖いやろ普通」
――ヤベェ…どこのプレイヤーだ!?
――【格闘家】だよな?スキル使ったか…?
――てかあれ、前に噂なってた"通り魔"の奴じゃね?
一方アリーナは大盛り上がり。
優勝を奪われた悔しさはある。だが強者の登場に、それ以上の熱を見せるプレイヤーが殆ど。
MCすら声音に熱が乗っている。
どうも"バトル"系譜は、より狂人の集まりらしい。
「…これがこの世の通貨であるか」
「現実に反映させるんには、それをインベントリに入れてログアウトする必要があんで」
「フム、『いんべんとり』か」
「したら、いつの間にか残高に足されとる」
優勝賞品である金貨を受けとり、かざして眺める悪魔。
ともすれば握りつぶしてしまいそうだ。
「ねえ純貴、それどういう仕組みなの?」
「知らん。金の出所もよう分からん。いつか警察にしょっ引かれそうな不安はある」
「捕まっちゃ嫌だよ!?」
しれっと追及する謎の反映システム。
その流通はブラックボックスらしい。
やはり非正規ゲーム。その所以にベルタは震える。
一方で悪魔は、インベントリを使うべく手を開閉。ぎこちない動作を見せていた。
「『いんべんとり』なる操作は不得手である。ウヌらに預けようぞ」
「…十万近くある金、人にホイホイ渡しちゃアカンで?」
「フム、それほど貴重な物であるのか?」
チャリンと弾かれる金貨。慌てて受け取る菅原。
他人のお金を懐に入れるのは気が重いのか、げんなりとした様子だ。
「でも十万円って安いんでしょ?ママの記憶にあるよ」
「…その思想はホンマにマズイやつや」
一方でベルタも現実世界を知らない。
記憶でのみ受け継いだ知識は、経験を伴っていない未完全。
「『ガチャ』っていうのをしたら、一瞬で消えちゃうんだって?」
「おい知識偏りすぎやろッ、なんちゅうもん教えとんねん"ママ"は」
片や、見逃せない発言をするベルタ。
片や、もうここに用は無いと勝手口を歩いていく悪魔。
菅原は頭を抱えた。
見かけや思考こそ成熟しているこの二人、だが現実世界については赤子同然。
放っておけば何か大きな"やらかし"をする。
「沙多ってどうやってこれ捌いてたんや…?」
特に後者は危うい。
まるで猛獣のお守りを任されたような気分だった。
***
「今月の収入エグイだろこれ…!」
「この『狩場』は絶対死守しねえとな」
どこかのマップ、どこかのプレイヤー。
消えゆく泡沫ことエネミーの残骸を尻目に、数人が顔を綻ばせる。
「敵が強めなのが玉にキズなんだなぁ」
「もう少し狩ってくか?」
秘密の穴場を発見し、独占。
これだけでお小遣いと呼ぶには過剰な額が手に入る。
しかし根気は必須。
怪我もそこそこ多く、油断すれば赤字になりかねない。
「――待て、誰か来た」
やや手ごわい動く木々との連戦。
疲弊を感じる中、足音を拾う。
――ウチもインベントリ使ってみたいな!
――プレイヤーちゃうから手帳も無いやろ
「…どうする?殺るか?」
「おい、殺したら死の代償増えちまうだろ」
「バカお前、死なない程度にだよ」
「万が一でも業値は下げたくない。隠れて様子見だ」
声からプレイヤーと判断。
絶好のスポットが知られる前に、茂みに隠れる。
「――次はどうするのっ?」
「この先にあるんはレース系やけど…兄ちゃんはええか?」
「吾は全てを統べるのみ。手段は問わぬ」
やがて現れたのは件の三人。
指定され敵を倒し、報酬品を持って帰還する競技。
そんな次なる大会へ向けての移動中だった。
(おい、何だッ!?見るからにヤバイの1人いるぞ!)
(知らねえ!トップランカーの誰かじゃねえのか!?)
最小限にバレない息で、最大限の震えを訴える彼ら。
特に目を引くのは巨躯のベアル。
情報の無い怪物に、プレイヤーとしての危機感が働く。
(というか女子いるぞ!珍しっ)
(いまそれどころじゃ…カップルか?あの二人)
(リア充…許せねぇ)
だが次第に、明るい軍服を纏う少女が視界に止まる。
女性が滅多に居ないこのゲーム、彼らの矜持が刺激された。
身の震えが止まり、逆に身を隠した茂みをガサガサと震わせる。
――やがて、その憎悪が伝わったのか、物陰から鹿型のエネミーが飛び出す。
(よしやっちまえ!)
(情けねえとこ晒せやオラ!)
「――ムッ?」
しかし一撫で。蚊を払うが如く張り手。
パァンと盛大な音を響かせ破裂。塵へと散っていった。
「雑兵か」
「わっビックリ!」
「よお気付いたな」
やがて皮切りに集まるエネミー。
とはいえやる事は同じ。肩の力すら抜けた一撃の繰り返しだ。
「あれ、結構お金くれちゃうよ?このエネミー」
パチンパチンとハエ叩きよろしく、リズミカルに戦闘は終わった。
まるで鈍器で殴られたかのように痙攣する敵は、やがて泡沫化。
エネミーの素材や金銭が景気よく散らばった。
「ホンマや、占領されとる様子も無いみたいやし、『狩場』にはええんちゃう?」
「これは『げぇむまねぇ』にしてどれ程となるのだ?」
「結構いい額やろ。二、三万くらいには…」
そのまま三人は森を抜けていった。少なくない報酬を収めながら。
これを見届け、無言で茂みから抜けるプレイヤー数人。
「俺らあれ、一体倒すのにどんくらいかかるよ…?」
「…大体五分。しかも結構アイテムとか使って」
「それを張り手…一撃って…」
有無を言わさぬ暴力に行動も思考も奪われる。
しっかりと穴場も認知され、今月の収入は破綻した。
沙多が居ないと緩めな空気です。
ベアルが最初、沙多以外と出会ってたらコメディほんわか路線になってた気がする。




