3.息抜きざかり【前編】
誤字脱字はお知らせください。泣いて喜びます。
「最近初心者という名のカモが少ないですねぇ」
「鍋で煮込んでるのアンタらじゃん。そのせいじゃん」
沙多の所属する時計台へ戻れば、そこに居るのは新堂。
黒インナーに白衣を纏った胡散臭げな男だ。
しかし何やら、意味不明な事を言っている。
「初心者の減少は、界隈の衰退を意味します。沙多さんも他人事ではありませんよぉ?」
「アンタがいっちゃん他人事だけどね」
この拠点は初ログイン時に降り立つスタート地点、その近くに構える初心者の為の窓口。来る者拒まずのスタンス。
だが彼は利益を最重視して動くプレイヤー。儲かるならば初心者だろうと騙し、狩る。
「人聞きの悪いこと言わないでください。どうせ長続きもせず、引退するであろう人を前もって摘んでいるだけです」
「この部屋って鏡無いの?」
皮肉すらも飄々と受け流すこと数分。
カチャカチャと何かを調合し終えた彼は、ソファに腰掛ける。
「しかし沙多さん、連絡もなしにどこ行ってたんですかぁ?心配したんですよぉ?」
「アンタはアタシの親かよ」
薄っぺらい言葉に感じるが、メッセージには彼からの着信が多く残されている。
事実、肉親よりも高い関心。沙多は自分の言葉で辟易した。
「で、何の用?」
「"裏ギルド"との交渉を頼もうと思ってたんですよぉ」
「はぁ!?またぁッ!?」
とはいえメッセージの内容は任務の話。
心配しているんだか、便利にコキ使いたいだけなのか良く分からない。
表情は哀から怒へ。対面のソファでくつろぐ沙多は飛び起きる。
「別に戦えとは言ってません」
その剣幕に、緑の天然パーマが揺れる彼。
だが終始落ち着いていた。
「裏ギルドもあくまでギルド、人の集合ですからねぇ」
そもそもギルドとは情報交換の場。
戦闘を目的とする"バトル"系譜。
利益を追求する"マイン"系譜。
天恵や探索が第一の"エース"系譜。
集まる傾向は大まかに決まっている。
それはPKを犯した業値の低いプレイヤーでも変わらない。
「当然、裏の"マイン"や"エース"のギルドだって存在する。違いは『たまたま人を殺しちゃっただけ』、話の通じる相手です」
むしろ前回が特殊だったと、新堂は書類をまとめながら言う。
そこには、これから向かうであろう裏ギルドの情報が記されているのだろう。
「じゃあアタシ行かなくていいじゃん。話すだけなら」
「女子であれば警戒されにくい。第一印象という点では適しているんです」
「…ホントにそれだけ?」
確かにこのギルド、女性プレイヤーは沙多のみの紅一点。
だが含みを感じた。
他に理由があるような気がしてジト目を繰り出す。
「後は万が一、戦闘になった場合に備えてですね」
「やっぱ戦うじゃん!!」
嫌な予感的中。
緑の天パをもみくちゃにする。
「痛いイタイイタイ…良いじゃないですか、【占星術師】って不意打ち向いてるんですよ」
「なら【暗殺者】でいいでしょ!!」
「いやぁ~あの職、人気が無くて人手が…」
「占星術師のが無いわ!!」
沙多はウガーッと怒りの沸点に達した。
「――キミは対人向きなんですよ」
しかし、やけに真面目な声音が返ってきた。
思わずワサワサする手が止まる。
「このゲームは【格闘家】や【魔導士】、そして僕の【錬金術師】といった職が好まれます。何故か分かりますか?」
「強いとか、便利だからじゃないの?」
人気ランキングを作れば、上位に来るだろう職種。
理由は沙多が言うように明白。
火力が高かったり、継戦に秀でているためだ。
「――補足するなら『エネミーに対して強い』。結局はこのゲーム、エネミーとの戦いです」
エネミーの討伐報酬には実利が、目玉のレアエネミーには天恵がある。
「殺人よりも遥かにメリットがありますねぇ」と彼は肩を竦めた。
「なので職の強さとは、エネミーを物差しに語られる。ここまではよろしいですか?」
「だから【暗殺者】も人気無いって言うんでしょ?」
「その通り。対人向けの職種は、エネミー相手にやや力不足ですので」
――ここで新堂、パンッと両手を合わせ問いかける。
「さて、では昨今の初心者ですが、対人向けの職を選択したプレイヤーは何人でしょうか?」
「…まさかゼロなわけ?」
すかさずパチパチと、正解の拍手が鳴り響く。
「つまり我がギルド、【暗殺者】すら不在です。対人ならばキミが最も秀でています」
「うっわ嫌なこと聞いた」
「環境が煮詰まってきましたねぇ、もう昔のような混沌とした最強ランキングは拝めません」
ゲームリリース直後の黎明期にとあるキャラや装備が持て囃される。
だが時間が立てば「そうでも無かった」と評価が右肩下がり。良くある話だ。
「昨今の若者は合理的だ。"とりあえずゲームを起動する"よりも先に、強い武器や行動をネットで調べる傾向がある」
「そりゃスマホ使えばすぐ出てくんだから……じゃなくて、とにかくアタシはヤだからね?」
かくして話を戻し、抗議する沙多。
裏ギルド絡みの面倒事はゴメンと、席から離脱した。
「えぇー?僕のギルドの為に一肌脱いでくださいよぉ」
しかしインベントリから金貨をチャリンと投げ渡す新堂。
額にして十万円相当。
沙多はスチャっと着席した。
「…で、いつ行くんよ。団長も一緒なんでしょ?」
「キミのそういう所、僕は好きですよ」
ついでに、都合よくマスター呼びだった。
***
「妹君よ、『げぇむまねぇ』とは如何にして得るのだ?」
「えっ?」
久しぶりにベアルと合流しプレイするゲーム。
しかし、いざ始めれば、そんな問いが投げられた。
「ベルってお金とか気にするんだ…」
まるでツチノコを発見したような緊張。
失礼な感想だが、彼が無関心だったのも事実だ。
ゲームマネー=現金なこの世界。
この人外の悪魔が、何をどこまで理解をしているかは、沙多とて把握できていない。
「なしてお金欲しいん?」
「この『ぶいあぁる』には必要なのだろう?」
漠然と理解した。
前日に家電量販店で再購入したVR機器。
その内の一つ、消費電力が少ないタイプを欲しているのだと。
「やっぱ安定なのはエネミーを倒すことかな。倒せば倒すだけ儲かるし」
ベアルにとって電気代は自身の魔力。人外にとって魔力は自身の根源。
決してぞんざいに扱っていい問題ではないのだろう。
沙多も真摯に知恵を絞る。
「みんな効率の良い『狩場』とか探してるよ?…っても、色んなギルドで取り合ってるけど」
ギルドに入るメリットの一つが、金策の効率化だ。
情報や場所を共有し、収益を得るプレイヤーは多い。
「既に『えねみぃ』とやらは全て屠っているぞ?」
「また掲示板が荒れてんのってベルのせい………あ、報酬品も拾って」
休息の必要がないプレイ時間と、一撃での粉砕による圧倒的な効率。
今もなお荒野を歩き、この話題を広げる間にも、出会った敵をワンパンして回るベアル。
余談だが、インベントリ操作の練習も兼ねている。
「――後は大会とかに出るとか?プレイヤーが集まって、色んな勝負したりするんよ」
「フム、闘技の場か」
「ちなみにそういうの開催してんのが"バトル"系譜のギルドね。ほんと戦闘狂ばっか」
数十体の鹿らしきエネミーを泡沫にする中で、次に上げる候補は賞金狙い。
物好きは意外と多いようで、参加する人も、出資する人も一定数いると言う。
――――――
――――
――
「じゃあ後はよろ」
やんわりと手を振る沙多。
その先には群青の髪にツーブロックを持つ青年。
職種は【聖騎士】だ。
「なんでや」
大盾を装備した彼こと菅原 純貴は、言葉訛りのまま問い返す。
その顔は無感情。事態を咀嚼できていない。
条件反射で、言葉だけは出た様子だ。
「別にいいじゃん。迷惑かけないって」
「そういう話ちゃうて、一体どういう風の吹き回しで――」
菅原からすればあまりに説明不足。
DMが届いたと思えばフラッと現れ、開始数秒でこのやり取りだった。
「――兄ちゃんを預かる事になんねや」
少しだけ一、二話完結の短い話が続きます。
日常回の練習したがってるぞコイツ




