2.重なる奇々に【前編】
誤字脱字はお知らせください。泣いて喜びます。
「うん、これでおっけー!」
沙多は再セットしたVR機器を見下ろす。
ベアルの居住へと転移し、寂れたボロ屋には不釣り合いな最新ゲーム機があった。
「感謝するぞ、妹君よ」
「同じやつ買ったから楽だったけどね」
結局、購入したのは所有していたのと全く同じ型番。
これならば、操作の負担は増えないだろうという考えもあった。
「まあ、魔力の問題は変わってないけどね」
逆に言えば、仕様も変わらない。
魔力を変換し、直接電力を賄うという問題は据え置き。
コンセントにも繋がっていないVRを俯瞰する沙多。
「それについては見当がある。して、ウヌには再びこれを預けよう」
「あっ、そういえば前もらったやつ壊しちゃったの。ガチでごめん!」
「構わぬ。故に預けるのだ」
渡されたのは、悪魔の髪飾りとして使われる水晶。
山吹色から毛先が深緑へグラデーションする髪を七つに分け、束ねる内の一つ。
魔力こそが人外の根源。
つまり、命の一部を託したと言っても過言ではない。
それを悪魔は何の躊躇いもなく渡した。
「これには魔力を強く注いだ。ウヌの所在も、世界を変えたとて知覚可能であろう」
「もはやGPS…束縛エグめの彼氏みたくなってる…」
「じーぴーえす?」
思うところもあるが、また異世界を彷徨うよりはマシかと受け取る沙多。
「とりま、しばらくアタシはゲーム無理かな。休んだ埋め合わせとかあるし」
「フム、ならば吾一人で『ろぐいん』しよう」
「…ガチでしんっちょ~に使ってよ?地味に高いんだからソレ」
しばらくは、無作為にレアエネミー探しを始めるのだろう。
また砂漠でコンタクトを拾うような、効率も当てもない探索が待っている。
「ねえ、ル・シファルを探す手がかりとか、ベルは持ってないの?」
「指標は持ち得ぬ」
故に近道を尋ねるも、ベアルとて心当たりは無い。
他に何か有用な情報を持っていそうなのは、直に異世界に触れた陽太郎。
だが彼はもういない。故人ではないが。
やはり地道に可能性を辿るしかないらしい。
「ル・シファル様は前触れもなく、吾を置いて消えた故にな」
ヘッドギアをカポっと被る悪魔。
それを口にした表情は、沙多には見えなかった。
しかしゲームを起動する直前、彼はふと言葉を思い出す。
「直前にル・シファル様は、自らを"憎い"と口にしていたな」
次には完全にログイン。意識を電子世界の向こうへ飛ばす。
プレイ時に着席、または仰向けが推奨されるVRで、またしても仁王立ち。
直立不動のままゲームに没頭し始めた。
「…なんそれ?」
答える者は居ない。
排熱のファンが唸り、ランプがピコピコと光るだけ。
廃屋には滑稽のゲーミングカラーだった。
***
「やば、傷開いてきた」
徒歩で山を降り、線路がある麓までやってきた沙多は、回復薬をゴクゴクと飲み干す。
既に一度は回復済みだった。
だが効果が低く、即効性も無い安物を使ったせいか、じんわりと皮膚に血が滲みだす。
そうして電車を待つまでの時間に、二度目の回復。
ゆっくりと傷が完治する頃には到着のアラームが響き、乗車した。
(けどなんでバレたかなぁ)
電車内は満席でないが、乗客はそこそこ。
綺麗に戻った自身の肌を見つめ、呆然と席に座る沙多。頭の中は謎で溢れている。
――特に、宗仁に現実で出会ったという事実が悩ましい。
沙多は現実と『ルシフェル・オンライン』で姿を使い分けている。
ゲームでは紫紺が目立つハーフアップの髪型。
現実では、桃色をストレートに両肩へ下ろした髪型。
顔そのものは変えられない。が、ガラッと雰囲気が変わるという自負があった。
それらは身バレ防止のための策で、実際バレたことはない。
しかし彼はそれを見破った。
(ちゃんと見た目変えてんのに…)
クルクルと桃の髪を指で巻き、唸る沙多。
――しかし、やけに寄せられる視線に、思考は中断された。
今日何度目か分からない、妙な注目だ。
(服に何か付いてる?)
まるで珍しい何かを見るような目。
だが自身の格好を見下ろせば――その理由が分かった。
(あれ、アタシ――)
それは制服でも、出かけるときの私服でもない。
最近ずっと着用していたが為、もはや違和感が無くなった衣服。
「――なしてこの服来てんの?」
それは修道服。
黒を基調に白が混ざり、裾は動きやすいよう自身でカスタマイズした服。
――つまりゲームの服装。
理解不能。その一言で頭が埋め尽くされる。
むしろ「いつも通りじゃん」とすら一瞬思えてしまった。
だが、徐々に奇妙な点が浮上する。
(待って、普通にスキルとかインベントリ…使ってた?)
襲われた際、杖を取り出して応戦。
怪我をしても、回復薬を取り出し回復。
時刻を見たスマホも、購入したVR機器も、インベントリに収納し、片手で悠々とシェイクを飲んでいた。
(じゃあ…)
それはゲームだけの機能だ。
いや、そもそも前提がおかしい。
沙多は転移の直前まで、『ルシフェル・オンライン』をプレイしていた。
ゲームでの最後の記憶は、"タマモ"ギルド。
そこで得た天恵が、異世界へやって来た原因。
しかし、帰ってきたのは――ベアルの家。
「なんでリアルの方にいんの?」
その疑問も、やはり答える者は居なかった。
レールを進む車輪が、踏切を通過する振動が、無機質にゴトゴト響く。
***
「沙多っちどこいってたん?」
「返信なくて寂しすぎな」
翌日、学校へ向かえば友人たちから問いの嵐。
「ガチでごめ~ん、めちゃ忙しくて死んでた」
机に腰かける沙多は鞄を置く。
「てか聞いて。バイトさ、クビんなったんだけど。ヤバくない?」
「えぐ、何やらかしたのよ沙多は」
「一週間近く無断欠勤した」
「それはクビで草」
やがて鳴るチャイムの音。
談笑すれば経つ時間も早く、学業に励む時間が訪れる。
「…あれ、アタシの席なんか変じゃね?」
教師を待つ間に、プリント類を確認。
しかし机の中が、沙多の記憶と少々違った。
教科書の類はやけに整頓され、手鏡といった小道具も存在しない。
「そいや沙多っち居ない間に席替えしたよ」
「マ?」
しれっと友人から知らされる情報。
となれば、誰かを席を占拠し、十分近く喋っていた事になる。
相手からすればいい迷惑だろう。
「アタシの席ないなった…」
「あるから、あっち」
指された先には確かに空席が一つ。荷物をまとめ移動する。
占拠されていた席には、男子生徒がスチャっと着席した。
――――――
――――
――
「…アタシの知らん間に世界が変わってるなぁ」
一限目、二限目と続く授業。
聞かされる内容はもはや未知の領域だ。
一週間の差は重く、ついていけない。
板書すら億劫でままならない。まあ、元からではあるが。
(後で課題とか写させてもらお)
教師の目を盗み見てスマホを触る。
画面には『ルシフェル・オンライン』と打った文字。
だがやはり、検索しても件数はゼロ。言葉が似ただけのゲームや漫画がヒットする。
(アタシっていま、どういう状態なんだろ)
何故か現実でもインベントリやスキルを扱える。
この意味がまるで分からない。
ならば今ログインしたら、ゲームの中の自分がどうなっているのかという疑問もあった。
(決めた、しばらくはガッツリやろ)
欠いた日数の埋め合わせが激しく、しばらく触れていないVR。
幸い、あと少しで長い休みが待っている。
バイトもクビになった今、全ての時間をゲームに注ぎ込むと決心。スマホを消し、黒板を見上げる。
「それで夏休み前の期末テストだが…」
「…やばい、ガチで詰んだ」
しかしここでゲームオーバーだ。
一般人からはコスプレイヤーと思われていた模様。
今さらですが、序章リメイクで新しい番外編を一話分差し込んであります。
時空を跨いだ話ですが、興味ある方は遡ってみてください。
ほんとに今さらな報告だな




