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悪魔が捧ぐオンライン  作者: ヒイロロ*ヒノキ
五章.遊戯のまにまに編

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1.揺蕩うままに【後編】

誤字脱字はお知らせください。泣いて喜びます。


「そろそろベル来るかな?」


 十分後、購入したシェイクを片手に街を練り歩く沙多。

 ズズズと残り僅かを飲み干し、ゴミ箱へ。


 予感があった。悪魔ならいきなりドンと、眼前にワープしてくるに違いない。

 なので人目の集まらない路地裏を探すべきと。


(にしても、なんか今日は見られてんな~)


 この間にも、何故か注目を集めた沙多。

 今日は別にビジュ盛れてないけど、と呑気に零しながらも、手頃な空間を発見。

 人通りもなく、待つには及第点の広さだった。 


――――――

――――

――

 

「…ん…ベル?」


 そこで待てば、やがて人影が現れた。

 ただ転移ではない。

 角からフラッと姿を見せ――


「――明野…沙多…」


 名を呼ばれ、固まる。


 その人物は見覚えがあった。

 男の髪は銅色。伸びた前髪が左目を隠している。

 

 彼を目にしたのは二度。

 一度は潜入を見破られ、二度目は衝突の末に氷漬けにした――


「…え…シュウト…?」


 だが髪は記憶よりもボサボサ、目の焦点も定まっていない。


「見…つけたッ…」


 服も汚れ、相当な時間彷徨っていたようだ。

 そこまでして彼女を探し回り、遂にと言葉を零す。


 沙多は動けなかった。豹変した様に頭が追い付かない。


「何で…てかアタシの場所どうやって…」

()()()()()だ…」


 その間にも彼は危うげな足取りで接近し――銀の輝きが、手元から鋭利に光った。


「ちょおっ!あぶな!?」


 キィンと甲高い金属音が路地裏に響く。

 沙多がいた位置には、ナイフが突きつけられた。


「お前が…ヒテンジ様を唆したせいで…ッ!」

「は?人のせいにすんなしッ」


 声はもはや届かず、充血した瞳で怨嗟を溢す。

 関節が外れるほどの大振り、二度三度と空を切る刃。


「答えろッ!ヒテンジ様は何処にいるッ」

「ヒテンジはもう居ないんだってのッ!現実見ろしっ!」


 逃げ回ってた沙多だが、見繕った路地裏が仇となった。


「ぃや…ッ」


 刹那、手首から斜めに傷が刻まれる。

 狭い空間、退路は徐々に失われてしまった。


 次いで一閃。何とか躱すが、肩にも一筋の赤色が滲み出る。


(ヤバ…これ、普通に…殺される?)


 ドクドクと流れる鮮血。

 傷口が熱く、体温が跳ね上がる。


「お前があの方を消したんだァッ!」


 唾ごと吐き出す彼は、言葉では止まらない。

 そのナイフは脅しに終わるのか、命を奪うのかも分からない。

 

 だからこそ――手に()()()()した。


「ごふァッ!?」


 横から頬を貫く一閃。

 地面へ宗仁(しゅうと)は投げ出される。


「…ヒテンジにも考えがあんでしょ」

 

 クルクルと器用に杖の重心を操る沙多。その手の動きには一切の迷いがない。


「見たくないものから目ぇ背けんなし」


 一方で、地に伏せてもなお、ナイフを探る宗仁(しゅうと)

 これも杖で弾き飛ばし、無力化。

 刃が地面と擦れる音が残る。

 

(やっぱ嫌い)


 同時に沙多は腑に落ちた。ここまで彼を嫌う理由が。


 確証も無く沙多を探していた盲目と、敬愛する人を追う盲信。

 かつての自分と重なった。姉を求め、彷徨っていた頃と。


(うっわ最悪…自己肯定感バリ削られるわ)


 明確に、再認識する。

 『ルシフェル・オンライン』を始めたばかりの自分はとても醜く、つまらなかったのだろうと。


(パパとママと喧嘩したのも…メンタルヘラッてた時だし…)


 呼吸浅く、辟易する沙多。逃げ出したい気持ちが強かった。

 昔の自分を想起させるこの場から一早く。


 傷も加害者(シュウト)もそのままに、何故か警察を呼ぶ気にもなれなかった。

 足早に背を向けようとすれば――


――パキンとナイフは踏み砕かれる。


***


「…ベルっ!?」


 振り向いた路地裏には、不釣り合いなほど巨躯のベアル・ゼブルがいた。

 約束した小休止後の登場。現れるタイミングがいいのか悪いのか分からない。


「サタよ、()()銀狐(ぎんぎつね)の腰巾着か?」


 周囲を俯瞰し、低い声音を発せば――明確に、悪魔は敵意を灯す。


 感じた事の無い重圧だった。

 沙多ですら息を呑み、呆然と行動が遅れる。


「今、その息が絶えるわけにはいかぬ。本懐を果たすその時まで、吾は命運を委ねたのだ」


 ゲームならばここまで過剰ではない。

 しかしここは現実。

 人間は無力で、復活が無いことは悪魔とて理解している。


「その過程に、ウヌは障害である」


 地鳴りを錯覚するほどの重い脚。

 宗仁(しゅうと)の眼前へ歩けば、顔を掴んでも有り余る、大きな片手で持ち上げ――


「ベルッ!!駄目ッ!」


――叫びが届く前に弾けた。

 パンッと小さな爆発を、魔力が織り成す。

 一瞬の破壊。視界を埋める閃光。響いた音は最小限。


 まるで現実感が無かった。

 次には、ただ静かな路地裏が鎮座している。


「あっ…」

 

 呟きが零れる頃には、バラバラと手中から灰塵が落ちる。

 まるで火葬、いや、それ以上だった。体の原型が残っていない。

 花火を遊び終えたように、チリチリと嗅覚が焼け付く。


「ベル、駄目だって!この世界は人殺しちゃマズいの!!」


 慌てて駆け寄る沙多。

 インベントリからレアエネミーの報酬品(ドロップアイテム)、ヒテンジを蘇らせたものを取り出し、有効かも分からず使用する。

 超が付くほど貴重な報酬品(ドロップアイテム)はこれで品切れ。手元にはもう一切残っていない。


「絶対では無かろう?人間の歴史にとって、これも手段の一つであろうに」

「絶対だから!それは最後の最後の手段!!」


 悪魔の胸をドンドンと叩き訴える。

 だがそれは『人外』だ。

 人の姿を模しているだけで、性質は素朴に冷徹。

 異世界で学んだと思っていたが、まだ理解しきれていなかった。


「ゲームはともかく、この世界は言うことを聞いて?」

「だが妹君よ――」

「――アタシに従って。アタシが絶対。いい?」

 

 故に、手綱は絶対に離してはいけないと悟る。

 ヒテンジの如く有無を言わさぬ目に、悪魔は口を閉ざし、いつかの如く片膝を付いた。


「承ったぞッ!この身、この世においてウヌに捧げようッ」

「声デカっ…けど…うん、今日はそれでいい」


 誰にも御されない暴君。そんな畏まる彼の口角は上がっていた。

――やはり特別。


(ル・シファル様と血は繋がらずとも、魂の輪郭が瓜二つよッ!!)


 これまでの活動を経て、彼女の探し求める姉と、主君は別人。

 沙多は血縁の妹でもなく、赤の他人という事実を知っている。


 しかし直感がこれを許さなかった。

 知れば知るほど惹きつけられ、ル・シファルを想起させる。


――その一方で、弱く息が吐かれた。


「……ぁ…ぇ…ッ?」

「ッ!ガチ…?良かったぁ~…けどあのアイテムえぐ…」


 見れば青年が――宗仁(しゅうと)が息を吹き返していた。

 灰すら残らなかったはずが、人の形を取り戻している。


 沙多はその事実に、安堵かドン引きか分からない溜息をつく。


 同じく焼け焦げた衣服すら真新しく再生。

 本人に至っては、むしろ血色が良くなってすらいた。


――――――

――――

――


 死んだはずだ。

 その感覚が確かに、俺にはあった。ゲームではない現実で。

 けれど今、正常に呼吸をして、心臓が脈を打っている。

 

 なんだ…?何が起こっている…?


「体、だいじょぶそ?」


 コクンと頷く。言葉が出なかった。

 「よかった~」と零す明野 沙多(コイツ)は呑気。

 命を狙っていた奴から心配されている。あまりに滑稽だ。


 夢でも見ていたのか…?


 いや違う。俺は確かに殺そうとした。

 そうしようとして――


――…どうして…殺そうとしていた?


 妙に頭が鮮明だ。今までに比べてクッキリと思考が浮かぶ。

 ヒテンジ様に会いたいから。それが、それだけが理由だ。

 あの方に魅入られて以来、俺の全てを捧ぐべく…。


――何故そこまで会いたかった?

 

 分からない。

 あの時の、目の前で消えた瞬間の感情が思い出せない。


 それにコイツを手にかけたところで、何も変わらないだろ。 

 どうしてこんな行動に出た…?


 分からない。

 憑き物が落ちたような感覚だけが、頭を冷やし続ける。


「じゃあアタシらは行くから。…アンタはガチで一回病院とか行っとこ?」


 ゲームを騒がした"辻斬り"、本人らしき大柄の外国人プレイヤーに説教をしながら去っていく明野 沙多。

 何が何だか分からなかった。


 ただ…――あのゲームはもう離れよう。

 人を破滅に導く代物だ。

 あんなの、狂気に塗れていないとやってられない。


致命傷だけは絶対避けるウーマン沙多。

現実でも急所はやらせません。

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