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悪魔が捧ぐオンライン  作者: ヒイロロ*ヒノキ
幕間

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86/109

ex.○○さん【後編】

誤字脱字はお知らせください。泣いて喜びます。


「何?連絡が取れない?」


 数日後、ギルドメンバーから知らされたのは、団長(マスター)が音信不通の旨。

 あいつは熱中するあまり、連絡をすっぽかすことはよくある。

 だが俺からならば、ほぼ確実に返信がある。だからこそ俺に確認したのだろう。

 

「…確かにDMが無い」


 しかし俺が待てども、一向に連絡は届かなかった。

 ゲームのメッセージ機能も、現実のスマホでの呼び出しも、未読で終わっている。

 こんな事は初めて、あいつらしくない行動だ。


「最後に目撃したのはいつだ?」 


 団員に各々問うも、どれもが古い。

 魔法陣について議論したものより、新しい証言はなかった。


――――――

――――

――


「…おい、居るのか?」


 後日、そいつの家に向かった。

 だがインターホンを押せど、扉をノックしようと返事は無し。

 仕方なく合鍵を使って部屋に上がらせてもらった。


「…居ない?」


 中はもぬけの殻。

 普通に考えれば外出中が妥当。

 しかし違和感――生活感がやけに()()感じた。


 散らかった形跡はない。だが中途半端。

 靴は棚に全て揃い、VR(ゲーム)機は電源が付きっぱなし。おまけに炊飯器の中には、数日前らしき米が放置されている。


 嫌な予感がした。


***


 あいつが消えて一か月。

 連絡も痕跡もまるで無い。もう分かっている、失踪状態にあると。


 ギルドの運営は辛うじてやれている。

 ただ、方針は大きく変わった。

 あくま中立の立場は変わらない。だが、少し踏み込んだ行動が増えた。


「おい、どういうつもりだッ!」

「全て契約の範囲内だろう。何に不満がある」


 取引に用いられた情報は、原則不干渉。

 こちらに有利なものであっても黙過し、私益としない。

 それがギルドの掟。あいつが団長として活動していた頃の鉄則。


「デマを売りやがったな!?レアエネミーなんて居なかったぞッ!!」

「ならば他の勢力も同じく発見し、先に盗られたまで」


 嘘だ。俺はその掟を裏切った。

 グレーな内容の取引は増えたし、情報を得るためならば、取引の情報を横流しにすることもあった。


 レアエネミーだってそうだ。

 相手の討伐決行日を知りながら、それより先に赴いた。

 天秤(レアアイテム)を用いて、部下を駆り出してまで、私欲のままに天恵を得た。


――――――

――――

―― 


 全てはあの魔法陣の為。

 失踪の鍵を掴む為。


――『接続失敗。権限が不足』  


 だが駄目だった。天恵の質が足りなかった。

 

「何故だッ!あいつは今どこで何をしているッ!死んだのか!?」


 当時、新人の部下を背に、みっともなく叫んだのを覚えている。

 "会わせてくれ"という願いは却下され、"魔法陣の完成"も無効。


 ゼロからの願いではなく、あいつのように書きかけの設計図(ベース)でも持っていけば、また違う結果になったかもしれないと遅まきながら後悔した。


「――ならば絶対に忘れない記憶力を俺にくれ」


 もはや天恵でゴールまで辿り着くのは不可能。

 願いを叶える神様(システム)など存在しない。

 俺が自力で魔法陣を完成させるしかない。

 

――『承諾。天恵を付与。世界の中核へ接続…完了』


***


 失踪から六か月。一年の内、半分が過ぎた。

 代わりに家賃を払うのも、定期的に清掃に向かうのも、随分と慣れたものになった。


 またギルドの運営も、すっかり手慣れたものになった。

 いや、なってしまった。


「クソがッ、"アカシック"も胡散臭くなったもんだなッ」

「証拠も無しに八つ当たりをするな」


 唾棄する客の後ろ姿を見送り、俺は仮面(ポーカーフェイス)を剥ぎ取り、溜息を降ろす。

 もうあれは客として訪れないだろう。だが問題ない、個人情報は得た。

 その住所を魔法陣に打てば用済みだ。


「…これだけやって六割か」


 完成のために覚えることは多い。 

 住所はもちろん、"古代言語"すらも知っておく必要がある。

 いや、極論を言うならば、このゲームに関わる情報は全て欲しい。


 とはいえ傲慢ではない。その知識を一人で扱いきれるとは思わない。

 だから全てを記憶できる頭脳を貰った。


――――――

――――

――


「俺は何をやっている…」


 シャワーを浴びるも、気分転換にすらならない。

 ただ冷たい雫が伝うだけ。体から熱が奪われるくせ、頭は醒めず、モヤは晴れない。


 あいつの手掛かりはどこにも無い。

 いっそ別の世界へ行ったと言われた方が納得できる。


「あいつの形見(ギルド)をこんな形で食い荒らして…」


 ゲームをログアウトして、現実に帰れどもこんな時間ばかりだ。

 いや、一度寝よう。きっと疲れている。

 タオルで水分を拭き取るのも不十分に、ベッドに向かう。

 横たわれば、推測通り眠気が襲って来た。


 …しかし完成まで程遠いな。現状、魔法陣の完成以外に手段が見いだせない。

 だが一年以上もの情報収集があってようやくこの現状。

 

 あまりに果てしない。

 完成させたところで、あいつに会える保証もない。

 そもそも生きているのか…?もう何処かで死んでいるのでは?…――

 

――いっそ全て投げ出して水の泡に…


「ッ何を考え…!?」


 睡魔に誘われる寸前、過った思考に体が跳ね起きる。

 五指に力が入るまま、頭を掻きむしる。自分で自分が分からなかった。

 ガリッと嫌な音がして、ようやく爪が止まる。


「――思い出せ。あの日を忘れるな」


 最後に記憶した時間。

 くだらない談笑を交えながら、書斎で世界の秘密を解き明かそうとした二人の時間。

 もはやそれだけが頼りだ。


――正直に言おう。記憶能力なんて、その為だけだ。

 住所やらゲームの情報など、書物に残せばいい。時間はかかるがそれで問題ない。


 ただ、あの日を風化させてはならない。

 謎を共に解き明す思い出を、突如と告げられた喪失感を。

 この執念を、俺だけは覚えておかねばいけない。


「お前はどこに居るんだ…陽太郎」

 

 あまりに自暴自棄な行動。我に返る事など何百と経験した。

 だからこそ、その度に思い出さなくてはいけない。

 俺だけは忘れない。忘れてはならない。


こいつ感情重っ


次回はようやくメインストーリー戻ります

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