ex.○○さん【前編】
誤字脱字はお知らせください。泣いて喜びます。
「――なあ、現実のプレイヤーとリンクしてねえかッ?」
「…どうしたんだ、急に」
俺は様子を伺うので精一杯。
威勢よく、大発見と言わんばかりに、そいつは飛び込んできた。
伸び始めた亜麻色の髪。鈍色と黄土色の革鎧を揺らしながら扉を破る。
いい加減に髪を切れと言い始めたが、「まだ大丈夫」と、そいつはゲームの世界に熱中する。
「プレイヤー現在地…つまり住所を記録してたら、絵みたいなのが浮かんできたんだよ!」
権限がない限り入れない団長室、そこの本棚から一つの書物を取り出した。
テーブルに広げ、バラバラと捲れば、窓から陽光が字面を照らす。
「点描みたいな感じなんだっ、住所の地点をこうポツポツ打ってけば…ほら!」
「確かに…何らかの紋様…"古代言語"らしき箇所もあるが…」
埃っぽい部屋の中、インクの匂いが混ざる空間に、確かな熱気が生まれる。
だが情報として未確定。
懸念や疑念は山ほどある。それに――
「――公表できないだろ。個人情報を参照した一説なんて」
「…まあな、参照されたプレイヤーの反感もあるし、ギルドとしての信頼も落ちる」
「配信は?まさか今ライブ中じゃないだろうな」
「安心しろ、ここ最近はやってない」
そいつが手に持つ書物は、ギルドを運営する過程で保管された個人情報。
情報屋として渡り歩き、仲介に掲示板を使えば、手に入ってしまう機密だ。
「だから俺らだけの秘密な、いいだろ?『ルシフェル・オンライン』の何か重要な意味がある気がするんだ」
「…はあ、また調子の良いことを」
いつもそうだった、楽しげに笑って俺を引っ張り出す。このゲームすら、始めた起因はお前にあるんだぞ。
そして今回も断れなかった。
椅子を引く手が、自分でも上機嫌だと分かってしまう。
――この紋様は何だ?意味は分かっているのか?
――言葉じゃないのは確かだ。俺が読めない。
――ここは何を表している?古代言語でいいのか?
――ああ、"唄"…"ル"…"◆■"?駄目だ、文字が不完全だと天恵でも分からない。
――全ての住所を照らし合わせよう。手伝うぞ。
――サンキュ、俺がいま打ったのはここの範囲で…
お互いが机に向かって数時間。
広くもなく、狭くもない、二人で使うには丁度いい書斎。
ランプがほどよく熱と明かりを届け、気付けば点描は終わっていた。
「…流石に全部は完成しねえか」
「完成度は四割ほどか?だが全貌は見えたぞ」
それは円形に並べられた紋様と文字列。
随所に欠けた箇所はあるものの、言い表すならば――
「――魔法陣、なのか?」
「ぱっと思いつくのはそれだな。…ってことはスキルか何かで発動するもんなのか…?」
「スキルに魔法陣のエフェクトがあるのは基本的に魔法職だ。これはどれかの職に該当する魔法陣の可能性もある」
一つずつ仮説を立て、しらみ潰しに可能性を探る。
とはいえ正体に迫るにはまだ遠い。
数千人という情報からなる点。それでもなお、プレイヤーの居住情報が欲しくなるほど穴あきが多い。
「…待て、中心地はどこになっている?」
だからこそ、やけに点が、住所が一つもない魔法陣の中心が気になった。
「何故こんなにも空白なんだ?ここは地図のどこだ」
「病院だよ、プレイヤーなんて居なくて当然だ」
至極真っ当な意見。納得した。
だが同時に、中心が病院であるという事実に違和感があった。
俺は思わず眉をひそめる。
「何故そこが中心なんだ、理由や根拠が見いだせない」
「偶然じゃないのか?」
「そもそもこの周辺に、プレイヤーが密集しているのがおかしいだろう」
非正規とはいえゲームなんだぞ?ネットを介して、プレイ人口は全国に散らばるはずだ。
にも関わらず、知り得た住所は全て偏った地域。
「…確かに、プレイヤーの住所は全員この円の内側…。外には誰一人居ない」
ハッと気付いて息を飲む。「何で気付かなかったんだ」と悔しさが混ざるそれに、俺はぶっきらぼうな笑みを返す。
するとそいつは借りを返すように席を立った。
「俺はスキルの魔法陣に該当するものが無いか、手当たり次第に調べてくる。だから代理を頼む」
「…プレイヤーの情報をかき集める役目を押し付けてないか?」
「いいじゃんか、なら変わるか?」
「いや、面倒だ。俺がしばらくギルドを預かろう」
「だろ?」
役割分担は決まった。
しばらくは俺が団長代理として活動を行う。
結局やる事は情報収集。ギルドのスタンスとなんら変わりはない。
とはいえ、長い目で見る必要があるだろう。
目標を達成するには最低でも半年、ともすれば一年以上の歳月が必要に――
「――天恵は?これに使用してみるか?」
だからこそ、最短距離で答えが拝める可能性に、ふと触れた。
本来は情報交換のための手札。誰かに売り渡そうとしていた情報だ。
「一つだけ伏せていたレアエネミーがあっただろう?」
「…ありだな。あれって"微妙"だった奴だし」
「ああ、あの人面樹みたいなエネミーだ」
実際にレアエネミーかは、撃破するまで分からない。
事前に判断する材料は、エネミーの強さ、希少さ、異質さ。
だが俺らが知るレアエネミーは、森林エリアにて遭遇したそれは、強敵では無かった。
評価できるのは、未確認個体という希少性だけ。
「確かに取引で使うにも持て余すし…ここで使うか」
逆に言えば、倒したとて得られる天恵。その"質"が悪い可能性が高い。
あまり幅を利かせた願いは叶えられないだろう、という推測があった。
ならば無理に手札とするより、個人で利益に繋げた方が波は立たない。
「そうと決めりゃ行ってくる!」
「俺も同行しよう」
「いやいいよ、一人で問題ない」
強敵ではないとはいえ、腐ってもレアエネミー。死の危険性はある。
だがそいつは単騎で平然と挑むという。
「…お前が言うなら大丈夫か」
それでも俺は、そいつの実力を信頼している。
俺がゲームを始めた時点で既にトップ層。リリース後まもなく始めた古参組でもある。
「おう、俺が留守の間頼んだぜ?副団長」
籠手を装備し、振り向く背中。
準備運動とばかりに腕を回し、扉の取っ手に手を掛けた。
「なるべく早く帰って来い。俺も結果が気になる」
――それが、交わした最後の言葉だった。
全く異世界に関係ない奴のエピソードです。しかも"こっち?"って感じのキャラ。
そろそろ週2での投稿頻度を目指していこうと思います。
基本月曜に追加で上げます。
話のストック無くなったら週1に戻します。




