表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪魔が捧ぐオンライン  作者: ヒイロロ*ヒノキ
幕間

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

84/109

ex.ヒテンジさん【後編】

誤字脱字はお知らせください。泣いて喜びます。


――――――

――――

―― 


 やがて、そんな彼の訃報が走った。

 『"暴君"ベアル・ゼブル』が襲来。

 脅威に晒された帝国の為、『"英雄"ガブル・エルシオン』が剣を取り、消息不明。


 相打ちになっただの、功績から神に迎えられただの、俗説も流れる。


(《其方は天の遣いなどを承る器ではあるまい》)


 だが、カナンはこれを死亡と断じる。

 密かに黙祷を捧げ、目を見開いた彼女は、一つの花園を歩く。


 揺れる裾、フードのように被る頭巾。巫女のような白装束。

――今から行うのは、世界平和の盛儀。

 

 確かに英雄は消えたが、暴君の消失もまた事実。

 世界はこれを称えて祝典を開く。

 カナンもまた、祝詞を綴る一人として招かれていた。


(《やはり知る顔も多いか、このような祭事では》)


 会談の席にもいた面影を確認しつつ、前方を見据えるカナン。

 白百合が咲き乱れるこの道の先、アーチを潜れば式場の本丸。

 そこへ登壇し、ミズクメ領を背負う長として、言葉を口にすれば役目は終わる。


――しかし、カナンがそこへ辿り着く事は無かった。


「《…これは?》」


 やけに大きな風が唸り、銀の長髪が揺蕩う。


 ビュウッと吹き抜ければ花弁を一つさらい、二つさらう。

 さらに三つ四つと舞い上がれば――やがて視界は花吹雪で埋め尽くされた。


 周囲を確認。側近すらも消えている。

 ただ一人の孤立状態。

 もはや前方すらも分からない。歩くべき道が消えていた。


「《敵襲か…?だが…》」 


 彷徨うように花畑へ踏み入る。

 靴が白百合を踏みつけ、花の蜜が垂れていく。

 

『――お前だ』 


 刹那、脳内に響いた声に全身は弾かれる。

 

「《この声、"魔王"か!?》」


 直接それを聞いたことは無い。

 しかし直感全てが、その正体を告げていた。

 

 それでも姿は確認できない。

 振り向けども、目を薙ごうと誰も居ない。


『――私の結び目、世界の楔となれ』


 意味の分からない言葉。しかし説明の間もなく、足元が()()した。

 白く澄んだ透明な何か。

 それが足元に浸かり、膝まで、そして腰までと徐々に這い上がっていく。 


 しかし不思議と、悪い気分は抱かなかった。

 ほんのり香る甘い匂いに、表情が解されていくことすら自覚し――


――――――

――――

――


「《――ここは…?》」


 目が覚めれば、カナンは見知らぬ草原にいた。


***


 広く、風が草を撫でる光景を前に、背を一つの木に預け座っている。

 日差しが温かく、自然の香りがくすぐる。

 ひと眠りしてしまいそうな心地よさだった。


(《幻では…無いのか…?》)


 だが夢ではなく現実。

 この白装束は、間違いなく亜人連邦の、ミズクメ領の長として振舞うための姿。

 あまりに明瞭だった。

 周囲を散策すれば、五感全てが本物の世界と肯定する。


(《おまけに――》)


――ヒラリと身を躱す。

 元居た場所には、鳥が急降下。嘴が地面を抉る。


(妾の知らぬ生き物…。して、かなりの大きさよのう) 


 武器も何も無い。しかし不足はない。

 空へ飛び立つ前に、回し蹴りを叩き込めば、一撃でノックアウト。


「《…何?》」


 だが思わず唇から音が漏れた。

 巨大なツバメらしき敵は、跡形も残さず泡沫へ変わる。


「《この地は…どうなっている?》」


 死骸すら残さず消滅。

 彼女は、長らく封じていた表情を変化させた。

 

***


(《――やはり通じぬか》)


 カナンは、()()()()()を前に、密かに眉をひそめる。


「は?何言ってんだお前?」

「何語?どこの国だ」


 人影を発見し、口を開けば、これまた知らぬ言語。

 お互いに聞き取れず、喋れずの平行線。


「ってか今の声、女だったか?」

「マジ?外国人の女とか絶対やべえじゃん」


 だが悪意は確認できた。

 頭の被り物を取り払って、顔を拝もうとする男性プレイヤー二人。

 

 刹那、獣のように細まる眼光。

 咄嗟に魔力を運用。己の爪を刃のように尖らせ、右手を振るい――


「――何やってんだ」


 第三者の介入により、全員の動きは中断される。


「…いや、何もしてねえだろ」

「チッ、面倒になりそうだな。おい、行くぞ」


 いざこざを警戒した二人はやがて退散。

 カナンと、一人の青年が残った。


「大丈夫なのか、その左腕は…いや、今できた傷じゃないのか…?」


 銅色の髪で左目が隠れた彼。暗めな配色かつ動きやすい軽装だ。


 先ほどと違い、悪意は感じない。

 だが意思疎通は相変わらず不可能。身振り手振りにも限界はある。


「《この者ならば良いか》」


 だからこそカナンは――装束の頭巾を取った。


「なッ!?」


 あらわとなった絶世の美貌。

 目を見開き、時が止まったように立ち尽くす彼。

 その瞬間、カナンは隙を逃さず、その顎を持ち上げて視線を絡めた。


 時間にして十秒。

 僅かにも逸らさずに見つめ続け――


「――…俺と一緒に来ないかっ」


 感情を一つ芽生えさせた。

 この別れを惜しむほどの魅力、手放したくないという執着。

 カナンはこれにコクリと頷き、頭巾を被り直す。

 

 やり方はこれまでと同じ。

 その魔性を持って毒のように蝕み、付け入る。

 信頼も愛情も持ちえないそれが、今までを生き抜いた術だった。


***


(《この世の者らは、狩りを生業としているらしいな》)


 それから数日間、カナンは無言だった。

 言葉以外を駆使し、情報を集めていく。

 やがて撃沈したエネミーの泡沫化も見届ける。

 

「どうした?行かないのか?」


 普通ならば、無表情に付いていく様は不審だろう。

 しかし魅了されれば、多少の違和感も盲目。

 衣食住すら用意し、彼女のために時間を捧げてしまう。


――とはいえ限度はある。

 彼は現実世界に生きる人間。ログインしない時間が存在する。


 カナンも漠然とだが、ここは()()()()()()

 真に生きる者は少ないと悟っていた。

 

(《手駒を増やすか…?》)


 故に彼がいない時間帯は、別の補佐(プレイヤー)で埋めようとした。

――だが、逡巡もあった。


 思い出すのは昔日。

 失った右耳を、残された右腕で、頭巾の上から抑えた。


(《しかし…――》)


 魅了は、()()。意思と自我が残っている。

 まだ全てを、命を投げ出させるような傀儡とまでは誘っていない。


(《――亜人も存在せぬようだ》)


 つまりは、孤独。

 そう考えた途端、スイッチは容易く押された。


 再び取り除かれる白装束。

 優しく擦れる布の音。これに青年は視線を向け――


「――シュウ…ト…」


 言葉は分からない。

 だがこの数日間で、唯一理解することが出来たのは――彼の名。

 たどたどしい言葉。だがそれで充分。

 名前を声にして、より強く、より深い毒牙に誘う。


 刹那、開く彼の瞳孔。

 口の筋肉すら力を失い、茫然と呼吸だけが継続する。

 

「…ァ…貴方は……」

 

 すると、己の名も求められていることも察した。


 返答は簡単だ。"カナン"と、ただ発すれば良い。

 自分が一つの長であることを体現する称号。その為だけの名前だ。

 

 ただ、その時はまだ名乗る気分になれなかった。


***


 はや数か月、カナンはこれまでの情報を整理する。


(《徐々に掴めてきたな》)


 その静かな思考とは裏腹、全方位から巨大なアリ型のエネミーが押し寄せる。

 まさしく四面楚歌、逃げ場はない。

 だが脅威足り得ず、余裕があった。


 踊るように攻撃を潜り抜け、女王アリらしき個体を爪で切り裂く。

 正確無比な致命傷。

 泡沫化が始まり、大将を屠られた取り巻きは逃げるように散って――――


――間もなく、光球(オーブ)が現れた。


「てん…けい」


 日本語でそれを発した。

 片言、だが徐々に学んだ言葉を反芻。

 また、天恵が願いを叶える代物であることも漠然と学んだ。


――しかしそれに手が触れる事は無かった。

 

 指先を近づけても、幻のように通り抜ける。

 光や熱は感じるのに、空を切り、感触が無い。


「《小癪な…》」


 思わず元の言語が飛び出す。

 これは初めての事ではない。

 既にレアエネミーは二度討伐し、全て同じ結末だった。


 天恵を顕現させる所までは良い。

――だがそれ以降、願いを叶える権限が無い。

 レアエネミーを屠り、彼女の手元に現れたとて、結局は誰かを頼らねばいけない。


 カナンは行き場を失った右手を握りしめ、解放。

 魔力で鉤爪を形作り、敵の住処だった巨大な蟻塚を木っ端微塵に破壊。

 顔を歪めた八つ当たりだった。


「失礼します。周囲の取り巻きは狩り終えました」


 やがて戦闘を終えれば、ゾロゾロと現れるプレイヤー。

 宗仁(シュウト)を始めとし、数十人が既に傀儡と化していた。


「それを…何に…する?」 

「エネミーは武具になります」 


 彼女が持ち得ぬインベントリ機能に、敵の素材(ドロップアイテム)を詰め込むプレイヤー。

 それを問えば、分かりやすい簡潔な返答。カナンにも意味が理解できた。


(《『えねみぃ』とやらは武器になる…か》) 


 そして彼女は自分の身体を見下ろした。


***


「貴方にこれを送らせていただきたく」

「これは何だ?」

「義手です」


 さらに数か月後。カナンは会話に困ることもなく、また、配下は百を超えていた。

 そんな大人数を仕切るには、"ギルド"として統治した方が円滑。

 かくして設立すれば、宗仁(シュウト)から欠けた左腕の代替を進呈される。


「礼を言う」

「ありがとうございます」


 素直に嬉しい。そんな感想が彼女にあった。

 それでも表現の方法を知らず、結局は言葉のみとなる。


「それで…代わりと言っては傲慢ですが…」


 しかし忠実な彼からは珍しく、歯切れの悪い続きがあった。


「――貴方の名を教えていただきたい」


 顎に手を当てるカナン。

 もはや半年以上の滞在。しかし誰にも名乗らずにいた。

  

「…"ヒテンジ"、そう名乗ろう」   


 やがて、この世界の言葉で、この世界での生き方を決めた。 

 自分でも不思議だった。

 "カナン"とは裏腹に、その四文字は口からスルリと出た。


 無論、長としての役目を忘れたわけではない。 

 ギルド設立の話を聞いた当初も、ミズクメ領を率いる糧の一つにでもなればいいと、そう思っていた。

 

 ただ少しだけ、己が"ヒテンジ"になった瞬間、肩の荷が下りた気がした。



ヒテンジのexは終わり。

次は陽太郎か?って思うけど奴にオマケは無いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ