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悪魔が捧ぐオンライン  作者: ヒイロロ*ヒノキ
幕間

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83/109

ex.ヒテンジさん【前編】

誤字脱字はお知らせください。泣いて喜びます。


 齢が五にも満たない影が、桶を二つ、両手に持って村を外れる。向かう先は離れた湖のほとり。

 裸足で枝や砂利の混じる獣道を歩き、水を掬う。

 その役目を果たし終えるには、小さな手と足では何往復も必要だった。


 数時間後には、とても身に余る干し草を運ぶ。

 足取りはフラフラと、両手で抱える腕は震えていた。

 やがてドテッと転ぶ。腰部から生えた二つの狐の尾が、宙に踊った。


 幼児に任せるには過剰すぎる量。

 散らばる干し草。しかし周囲には、誰も心配して駆け寄る様子はない。

 

「■◆■■■!」


 それどころか村民から罵声が飛んだ。

 石を投げつけられ、額から血を流す。

 だが少女はこれに瞳を滲ませず、言葉も発さず、せっせと散乱したものを拾い直し、家畜小屋へ向かった。


 仕事はまだ終わりでない。

 村に帰れば、待っているのは村の雑務や家畜の手入れ。


 その日は少女の誕生日だった。

 だが祝われる事もなく、せっせと体を酷使する。

 最近は呪いの影響だとかで村民は疲労を訴え、むしろ少女を倍以上働かせていた。

 

 気付けば時間は夜。

 誰にも甘えられず、ウトウト睡魔と戦い、動物の体の汚れを落とし終われば、倒れるようにその場で眠りにつく。


「――■■◆◆◆■!」 


 刹那、少女は飛び起きた。

 心臓が暴れ、脳がキンキンと叩き起こされる。

 少女が目に映したのは、斧を手にした数人と――叩き切られた自身の一尾。

 

「…ッ……!?」


 少女はパクパクと口を開いて痛みを訴える。だが言葉は発さない。

 口答えを許されずに生きてきたが為に、その手段を知らない。

――代わりに、少女は逃げ出した。 


 暗い夜道を知らぬまま、草木で柔肌を切り、野生動物に襲われながらフラフラと走る。

 だが、やがて体中を熱が襲った。

 切られた片尾を抑える手は、まるで赤色塗料に突っ込んだかのよう。

 

 出血と眩暈が酷い。

 遂に自分を支える力すら無くなり地に倒れ込む。


「――■■◆◆?」


 最後にぼんやりと目が捉えたのは、狐耳の同胞。女性の姿。

 そこで幸か不幸か、一命は取り留めた。


――――――

――――

――


「《あいつ無口だよな》」

「《名前も言わねえんだぜ?あの名無し》」

「《でも(ツラ)はべっぴんだべ》」


 年を重ねると、周りの目が変わった。

 拙いが、ようやく言葉を覚えてきた彼女には、その会話の内容が明確に分かるようになっていた。


 無論、妬み僻みもある。

 呪いの影響なのか、同年代は誰一人生まれておらず、周囲は年上のみ。

 そんな"姉"なる身分に冷水を浴びせられる事も少々。

 だが、幼少と比べれば苦では無かった。 


 むしろ贅沢を知った。

 忌み子という事実を隠し、男性に歩み寄れば、施しを受けられる。

 暖かい食事にありつけるのは、いつもこの時だった。


「《何処に行ってたの?》」

「《ごはん、たべた…です》」


 預り所の教会へ帰れば、たどたどしい言葉で報告。

 唯一心を開いた女性、行き倒れを拾ってもらった義姉だった。


「《ふぅん…もう寝な》」

「《…はい、ねる…ます》」


 しかし最近は忙しいのか、構ってはくれない。

 放置されることも多く、だからこそ少女は食い扶持を自分で求めていた。


 ぞんざいな言葉の意味にも気付かず、やがて少女は毛布を整えて就寝。

 眠る前に、挨拶を口にする。


「《おやす――》」


 だが最後まで噤まれることは無かった。

 義姉の顔を見ようと振り向けば――かつての痛みが蘇った。


「《あんた、自分が何をしたか分かってんの!?》」


 包丁を持ち出し、激昂する義姉。

 残された狐の片耳が、自分の一部だった塊の落下音を拾う。


「《っ…いた…いたい…》」

「《あの人を誑かしておいてッ!色んな男に媚を売って…ッ!!》」


 義姉は想いを告白し、散ったらしい。

 その男へ理由を聞けば、少女の名が挙がった。

 少女には預かり知らぬ事情だった。

 ただ――


――ああ、何か失敗した。

 それだけは確かなんだと、少女は思った。


 そして義姉だった者が、その取り乱した桃の髪色が、ずっと目の奥に焼き付いた。


***


 ある時、当時の国の長から声がかかった。


 成長すればするほど、同胞は容姿を求め寄ってくる。

 片耳が欠けていようと、それをも凌駕する圧倒的美しさ。

 この頃には少女から女性へ。全てを魅了する魔性そのものになった。


 招待という名の命令。

 王室へ赴けば当然、彼女の美貌を求める内容。

 本来なら、それだけのはずだった。

 侍女として使えるか、(めかけ)という結末を迎えたであろう未来。

 

 ただ、謀反(クーデター)が起こった。

 彼女の存在を惜しみ各所にて、王の首を狙う反乱の動きが活発に。

 たった一人を巡り、全ての土地が動いた。


 しかし結果は鎮圧。辛うじて王権は崩れなかった。

 とはいえ混乱と疲弊は必須。

 目まぐるしく駆け回る兵や報告は、丁重に扱われた彼女の客間まで届く。


――しかし、ドンッとその扉が破られる。


 当時の長は、息抜きに彼女を求めた。

 やがて縮まる距離。

 ベッドに腰掛ける彼女へ、その手が触れようとした途端――尾と耳の欠損。昔の記憶が蘇った。

 

 今は間違いでないはず。

 引き延ばされていた時間の中、そんな思考ばかり繰り返される。


 しかしふと、よぎってしまった。

――このまま間違え続けたなら、何が起こるだろうか?


 刹那、反射的に練られる魔力。

 己の爪を刃のように尖らせ、右手を振るった。


「《――貴様ッ!?》」


 あっさり穿たれる命。

 そこにあるのは袈裟切りにされた、長だった何か。

 どしゃりと崩れ、血飛沫が舞う。


 未だに止まない耳鳴り。

 だが、表情は崩れなかった。

 感情を封じるのが生存の術と、昔日に悟って以降、思考は冷静に回る。


(《この身は…誰の為に捧ぐべきなのだ…》)


 その瞬間、空っぽだった彼女の、何かが吹っ切れた。


***


 やがて、彼女は"カナン"を名乗った。

 国の伝統である名を継ぐのも、何もかも、問題は無かった。

 その美貌を持って迫れば、瞬時に異を唱える声は止む。


 名実ともに、傾国の美女となったカナン。

 彼女が長として君臨する間は、絶対独裁。穏やかな時間が続いた。


――――――

――――

――


(ここに…手掛かりがあればいいが…)


 カナンが目を細める先は、暗く地底まで続くような深淵。

 岩肌や空までも黒く、塗りつぶされたような地帯。


――長となり(まつりごと)を続ける中で、そんな"大穴"に赴く機会があった。


 それは先代の長から、国を挙げて続いていた実態の調査。もちろん彼女が引き継ぐべき役目だ。

 しかし何よりも強い理由があった。


(魔王ル・シファルも行方不明…消失か)

 

……

 王位を得てから間もなく、開かれた首脳会談。

 それは"呪い"の対策を講じるもの。一つの国の長となったカナンもまた、隅で傾聴していた。

 

 その最中(さなか)で――禁忌の象徴、"呪い"が消失。

 騒然とする会議の場に、彼女もまた居合わせた。


 誰もが狂喜乱舞する朗報。

 全員の声色が弾むまま、議題は『対策』から『事実確認』へ移る。

……


 そして、カナンの国に求められたのは、"大穴"の現状確認。

 魔王に関連する『人外』の生態を探るべく足を運ぶ。


「《カナン様、お下がりください》」

「《良い、妾を誰と心得る》」


 頭をすげ替えたばかりの小国。

 余所には強く出られないという政治的な理由もありつつ、調査は大々的。

 だが正式な調査以外に、カナンはお忍び的な側面も含め、向う時があった。

 

「《人外は居るが…動いておらぬな。まるでがらんどうだ》」 

「《――こちらに魔鉱晶を複数発見》」

「《足りぬ。正確に効果を把握するため、数と質を揃えよ》」


――――――

――――

――


「《――ならば『魔王』が何かを求めたと、妾は推測する》」

「《――なるほど、()()()()()今なら腑に落ちます》」


 そして彼女は、調査に誰よりも熱心だった。

 とある男へ、会談の場すら設けるほどに。

 

「《しかし何故、貴方はそこまで呪いの因果に興味を有するのですか?》」


 孤児院の役割を持つ、『メギド帝国』の教会。

 連邦に属する長が、本来立ち入るべきでない他国。

 そこへ足を運ぶほどの動機を問われれば、ただ無表情に返すカナン。

 

「《後進が健やかであればいい。それだけだ》」


 自身を忌み子たらしめた概念の消失。

 誰よりも呪いに悩んだからこそ、誰よりも胸を撫でおろした。


――そんな胸中は誰にも打ち明ける予定は無い。


 だが眼前の屈強な男性は、それすらも悟ったかのように、敬意を優しく包む。


「《貴方には感服するばかりだ》」


 やがて奥の扉からガチャッと、小さな亜人の少女が現れる。

 勉学を終え、彼に褒めてもらおうと入室したという。


 本来、一国の長が居合わす場にて、そんな事態はあってはならない。

 だがカナンは目線で促し、これを受けた男性は「失礼」と感謝を表せば、子供と真正面に向き合う。


「《其方を前には、誰であろうと霞むであろう。ガブル・エルシオン殿》」


 屈託ない笑顔を浮かべるその子を前に、カナンは昔の自分を重ね、肩を竦めた。 


exシナリオの存在を忘れていたため、全速力で書いてまいりました。その結果一日遅れて申し訳ない。

内容はヒテンジ。そろそろヒテンジの株を下げとこうかと思います。


あとガブルはマジでもう出てくんな。ビジュアルとか性格とか何も決まってないんじゃ


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