8.異世界オンライン【章末-後編】
誤字脱字はお知らせください。泣いて喜びます。
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「…姉ちゃんって『カナン』…王様だったのか」
「その名は好かんな、ヒテンジと称せ」
マズい、頭ん中が漏れ出てる。まだ魅了の余韻ある。しっかりしろ俺。
本で読んだ亜人連邦の『愚王』、呼ばれて良い気はしないだろ。
「明野は大穴の中に入った。…姉ちゃんはどうしてここに?」
「遣いの者を出すより、妾が首を持参した方が早かろう?」
しれっとヤバい内容を事もなさげに言う。
マラソン並みの距離を馬より速く来たのか…?
何時間かかるとお思いで?心臓破裂するだろ普通。
「明野なら心配ない。ちゃんと帰る方法があった。っても別の手段で帰るらしいが」
「ならばベアル・ゼブルの術か、先ほど出現を悟った」
やっぱり暴君の存在は知っている。
素性を聞いた今なら、色々と腑に落ちた。
明野との関係も突っ込まないあたり、既に面識は……あれ、何も知らなかったのって俺だけ?
「つまり魔鉱晶は未使用。ならば妾も使えるな」
「あの…何か企んで…ます?」
「無論だ」
黄金色の目を細める姉ちゃん。
茶目っ気を演じて、ニヤリと俺を見つめてきた。怖い。
「其方らが為、妾は国へ戻り駆け回った。これでは骨折り損であろう?」
とはいえ否定はできない。
俺たちが帰還を目指し、挙句の結果は"暴君"により、どんでん返し。
戦争の膠着も、魔鉱晶の採取も、全ての問題は解決どころか粉砕。
姉ちゃんの東奔西走は水の泡だ。
「それは恩に着るけど……」
「冗談だ、これを"貸し一つ"とするほど醜くはない」
けどそんな徒労も呑み込んで、むしろ姉ちゃんは安堵さえ見せている。
疲労も色濃く、体には無数の怪我。
そりゃそうだ。文字通りに、国家転覆なんだろ?
クーデター後なんて、まず他を優先したって文句は無い。身の周りを固めたり。
しかもこの強行策だと、帝国との関係が後々厄介なことになるハズ。
そんな無理をしてまで、第一に駆けつけた。
「だが、やはりこの名を呼ばれるのが恋しいのでな――」
だからこそ、嫌な寒気が走った。
強かに笑うその顔は、なんだか心臓を掴まれたような気分になる。
そして姉ちゃんは顔の布切れを外し…ってあれ、それ外したらヤバいやつ――
***
黒で染められる視界。
街灯の無い深夜を徘徊するが如く、岩を潜り、塊根を抜ける。
「てか陽太郎はいいんかな?」
そんな中、ふと背後を振り返る沙多。不可解とばかりに表情に疑問が浮かんでいた。
それもそのはず。
先ほど彼と合流すれば、なんと帰還を先送りにする旨を告げられた。
――俺ぁぃいよ、さき帰っぇてくぇえ~
それも酔っ払ったような、浮かれた様子。
呂律が回っていなかった。
その後は大きな魔鉱晶を採取。身の丈の半分ほどあるそれをインベントリに抱え、フラッと消えてしまった。
「ま、いっか」
しかし心配は最低限。割とドライである。
「本人がいいならもう帰っちゃお」と足を運ぶ。
――――――
――――
――
やがて暗闇の中、最深部であろう場所に辿り着く。
沙多が目を凝らす先、抜け穴らしき最奥には、魔法陣が光を発していた。
その輝く紋様は、まさに陽太郎が図面にしたものと類似している。
「っあ、ワープ…ってなんか明るくない?…クラブ?」
周囲には一際大きな魔鉱晶が散乱し、一帯はプリズムのように虹色に反射していた。
深淵に染められた大穴。その想像に反し、目が痛くなるような空間だった。
「妹君よ、もはやここは無用ッ。『るしふぇる・おんらいん』なる場所に戻ろうぞッ」
早急に、遅れた分を取り返すようにゲームへの熱を見せるベアル。
魔法陣を発動させるためか、力を蓄積させ、徐々に大気を揺るがしていく。
「――ねえ、アタシも特別ってどゆこと?」
しかし、ポツリと吐かれた沙多の問いに中断。
「アタシは別に"妹君"ってやつでも無いし、お姉ちゃんみたくゲームの関係者ってわけでも無かったよ?」
「そこは要点であるまい。ウヌは求められたのだ。この世界にて吾は確信したッ」
「ふぇ?」
淡々と事実であるように強まる語気。だが漠然とした内容だった。
意味が分からず、相槌が崩れる沙多。
「アタシ求められた?なして分かんの」
「ウヌを呼ぶ声が響いていようぞ」
それは人外の呻き。
岩や天蓋に反響するそれを、同じくベアルも聞き届けていた。
――刹那、物陰から何かが飛び出した。
「うわっ、人外ッ?」
彼の発言を肯定するように接敵した黒い影。
ドンッとぶつかり、後ずさること数歩。沙多は咄嗟に臨戦態勢へ移る。
だが、相手は全く意に返していない。
むしろ衝突すら認知していないようにフラフラと徘徊していた。
「形成されたばかりの個体であるな、人の形とは稀有である」
「えっ赤ちゃんなんッ!?」
例えるならば新生児らしく、生まれたて。脅威にすらならないと言う。
先ほどの命のやり取りが表情を険しくさせるも、やがて困惑へと変わる。
「その多くは吾が主君に影響された存在。自我を持たぬ内は、ル・シファル様の残滓そのものである」
「残滓…じゃ戦おうとしてないのも、ル・シファルって人の気持ちが出てんの?」
自分と同等かそれ以上の等身、ポンポンとその頭を撫でるも反応は無し。
そんな無垢な存在が、ル・シファルの残滓。写し身であり代弁者という。
「ならこの子から色々聞けば、何考えてるか分かんじゃ…」
繰り返すが、それは生まれたて。まともな意思疎通は不可能。
唯一、呻きとして上げる声も、名前を呼ぶばかりでそれ以外はない。
「あ~赤ちゃんなんだった」と、ジロリ見つめる沙多。
人外は微動だにせず、ポツリと佇んでいた。
「――えいっ」
だからこそ、沙多は抱き着いてみた。
「何をしているのだ?」
「なんか寂しそうだったし。アタシが求められてんなら、何か反応あっても良くない?」
だから直接確かめる。
ベアルの怪訝な目も構わず、ギュウッと体温を分け与えた。
肌が触れ合うゼロ距離。優しい抱擁にて包み込む。
――すると人外は、同じく抱擁を返した。
無機質な、冷たい腕が徐々に動き、沙多の背中に触れる。
「わっ見てこれ!一旦仲良し、平和条約ッ!」
能天気に、初の友好関係を作った一幕。
興奮を隠さず、沙多は顔を輝かせる。
「ってヤバイッ成仏してくッ!」
しかしそれは泡沫と帰していった。
戦闘を経る事もなく、満たされたように消えていく。
突如の人外乱入も、白昼夢のように片付き、辺りに残すは魔法陣のみとなった。
「フム、主君が求めたものはそれか」
「…あれがしたかった事?ハグなんていくらでもしたげるのに」
「否、ウヌの存在そのものを欲したのだ。『げぇむ』なる世界へ誘う為に」
振り向きざま、沙多を真っ直ぐ見つめるベアル。
幾多の色彩に照らされたその姿は、なんとも荘厳で、それだけで説得力が生まれてしまいそうだった。
「特別な存在に求められたならば、それもまた特別よ」
「…ぅん?ル・シファルとお姉ちゃんのゲームにアタシが必要で…?だからハグしてくれて…?――あぁもうッ全っ然意味不ッ!」
沙多はいつも通りに思考が停滞。頭を抱えて難しい話はパスと、奥へ向かう。
――ただ、この世界の意味はボンヤリと理解した。
"ゲームであった古代言語だぜ!?"
"レアエネミーとか天恵は存在してなくてな"
"どうも天恵と似てねえか!?というかまんま同じだろ?"
起因は陽太郎。彼の言葉が記憶に残る。
異世界とVRの世界。この二つには多くの共通点があった。
前者をベースに、後者を作ったのだろうと納得できる。
「…ベル、帰ろ。ワープお願いしていい?」
「承ったぞ妹君よッ」
だが『ルシフェル・オンライン』を作った理由は分からない。
なにより、姉が介入する余地が無い。
何時知り合ったのか、どうして共にいるのか、二人の関係性がまるで未知数。
「――帰ったらベルの話、色々聞かせて。もちろんル・シファルって人の話もね?」
だからこそ魔法陣の上に立てば、そんな言葉を投げかける。
ベアルを背後に、従者の如く引き連れて魔王さながら。
しかし対等に、素性を知る絶好の機会と、その顔を真っ直ぐ見据えた。
「クハハハハッ良かろう!千夜を通してウヌに追想を授けようぞッ」
「え…うん、やっぱもうちょいしてから聞こうかな」
しかし冗談に聞こえない時間の長さ。
悪魔なら比喩抜きで語り明かす恐怖があったので、沙多は及び腰になりながら一歩下がる。
そうして次の瞬間、ベアルが奔流させた魔力に包まれ魔法が起動。
ただ静かに、黒い霧のような渦に呑まれていった。
陽太郎だけ異世界で誕生日ルート続行です。かわいそ




