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悪魔が捧ぐオンライン  作者: ヒイロロ*ヒノキ
六章.竜鳥虎搏編

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2.自明の層【前編】

誤字脱字はお知らせください。泣いて喜びます。


『――◆■■■■■■■■◆◆!!!』


 誰も聞き得ない咆哮が、巨大な湖から孤独に届く。

 まるで汽笛のように低く、悍ましくも荘厳な慟哭。


 その正体はレアエネミー。水面からたまらず頭部を出し、天を仰ぐ。

 やがて次には――山が動いた。

 隆起する地面、豆粒のように投げ出される数多の木々。

 それら全てが湖へと注がれ、バシャバシャと波紋を呼べば、山脈と見紛った甲羅が露出。

 

 大自然をも凌駕する巨躯だった。だが雲にすら届きうるその体は震え――崩れる。

 四つの脚が自重を拒むように墜落。地脈が震え、次いで崩落音と衝撃派が殺到。

 

 緩やかにも見えるそれは、一つの街が優に消し飛ぶ規模。ドミノ倒しと思わせるほど簡単に、周囲の緑が押し流される。

 いくつもの高層ビルが倒壊したような塵芥、氷山が沈んだような波飛沫を上げ、環境を風化。

 

 当然、ここまで被害を及ぼす大災害。その()に居る者も、無事では済まないだろう。


***


「うおおおぉォォッッ!?」

「どこまで傾くんだ!?まさかこれ垂直に…ッ!」


 レアエネミーが身を捩った天変地異。

 それは参加者全員に、等しく厄災として降りかかっていた。


 一瞬でも判断が遅れた者は重力に晒され、断崖絶壁より一直線に落下。

 既に数名は影となって下方に消えた。

 かろうじて崖の突起に掴まれたプレイヤーは、掌に力を籠める。


「壁に掴まれ!振り落とされるなよッ!」

「ああクソが!何なんだよこれ!」


 だが、決死にしがみ付いていた者も次には死亡(ゲームオーバー)


「――おい!雪崩がッ!!」

「ヤバイッ逃げられ…」

「フゲッ…」


 流れてきた岩石や巨大なサンゴ礁もどき。

 一つ一つが身の丈以上。車が降ってきたようなもの。それらのザラついた表面に押し潰され、即死、あるいは道連れに墜落。


――これにより悲鳴が体内中で響き、二割ほどのプレイヤーが脱落した。


――――――

――――

――


「ベルタッ、手ぇ伸ばせッ!!」

「純貴ぃぃぃッ!」


 大気を切り裂く落下。体重という(ことわり)から解放され、両耳にヒュウと風切り音がつんざく。

 フライト中の飛行機から飛び降りたようだ。体感は既に終端速度に達している。

 遥か眼下に待ち受けるは、壁という名の地面。距離はもう千メートルとない。


――つまり、十秒足らずで地に堕ちる。 


「【ロック・リザード】!!」


 そこで触れたお互いの手。

 少女が胸に抱き寄せられれば、スキルをカシャリと発動。

 やや離れた垂直の"崖"を、"斜面"に変え、手の届く範囲にまで隆起させる。


「【イージス】!!」


 菅原もすかさずスキルを発動。青藍の輝きを放ち、身体を極限まで硬化させ――大盾を斜面へ突き刺した。

 ガリガリと掘削される嫌な音、右腕だけに掛かる重力の負荷、左腕に包む少女から伝わる緊張。

 頭上から降りかかる瓦礫や残骸の雪崩すら無理やり跳ね除け、無限に感じる時間を堪えれば――


――速度は緩やかに殺された。


「うぐ…ォッ…!?」


 やがてレアエネミーは身じろぎを終えるように、再び自転。緩やかに地面と壁が、正位置へと回帰する。

 それに伴い二人は、"斜面"が"床"へ戻る傾きの変化を、身をもってゴロゴロと体感した。


「く…はァッ…」

「止まっ…たの…?」


 いざ全てが終われば、シンとした空間。

 重力がしっかりと働き、足が大地を踏みしめる感覚が蘇る。


「あぁ…ホンマに三途の川見えた……」

「純貴ぃぃぃ~ッ…」


 そうして二人はパタリと、両足の筋肉が緩んだ。


――――――

――――

――


「えっぐぅ…なんだったん今の…」

「なるほど、こういった回転ギミックもあるようですねぇ」 


 その異変は、沙多と新堂も例外ではない。とはいえ二人の被害は軽微だった。

 【錬金術師(アルケミスト)】の彼が【錬成(スキル)】を使用。

 壁に穴を開け、即興の避難豪を作成。そこに身を隠し、事態が収束すればボコッと顔を出す。


「…ガチで【錬金術師(アルケミスト)】って便利ね」

「ええ、大体の事は何でも出来ます」

 

 まさしく人気(ジョブ)である所以と、説得力を体現してみせた新堂。


「しかし、ようやく他の参加者を確認できましたねぇ」

「確認ってか悲鳴が聞こえただけっしょ」


 勾配が元通りになった今、辺りを確認すれば一掃された地平線。

 本当に先ほどまでと同じ地形だったのか、疑わしいほど荒廃している。


「ま、多分もうどっか行っちゃってるけど」


 穴の外から転がるような絶叫を聞いたが、その方向を見たとて何もない。

 激突したであろう壁は遥か先で、生死も不明だ。


「どうする?無視でいい?」

「ええ、叫び声の距離や時間から、この区域の構造は大よそ掴めました。それで充分です」


 しかし似た者同士に反応はドライ。被害者も無関心に、探索を再開する。


――――――

――――

――


「うっひょおお!!凄えぇぞ!!」

「…なにこれ」


 無論、"パラダイム"にも環境変化は等しく影響。致命傷になりうる床の回転が牙を剥く。

 

「我々の知らぬ事象…まさに未知!!」


 瞳ちゃんの言うように、ベアルが引き起こした異変は、この三人も初見だ。

――とはいえ、やはり対処は楽々。


 有栖(アリス)は【属性術師(エレメンタラー)】として操るスキルを【風元素】にシフトチェンジ。緻密に作り出す上昇気流にて、スカートを抑えながら滞空。


 瞳ちゃんに至っては、原理も分からず普通(ナチュラル)に浮いていた。

 まるでヘリウム風船さながら。そんなプカプカ浮かぶ背中に右頂が座り、楽しそうに大口を開ける。


「…おッ、収まったか?元に戻ったぜ!!」

「右頂、あまり揺れないように!地味に痛い」


 やがてレアエネミーの身動ぎが終わり、地形が水平になれば三者三様に着地。

 ハプニングを難なく往なした"パラダイム"。トイレットペーパーを切らした程度の気楽さだった。


「あ、ヤベッ!床に置いといた砂時計どっか行ってんじゃん!」

「しまった!あれは落下コース一直線ですぞッ」

「…普通に手帳(オプション)で時間見れるじゃん」


 そんな中、嘆く二人は何か時間を計っていたらしい。

 されどわざわざ砂時計で計測する必要もない。有栖(アリス)は至極真っ当な意見を投じるが――


「砂が落ちるのを待つのが良いんだって有栖(アリっ)さんっ」

「左様、世界観にそぐわぬ小道具では興醒め!」

「…うざ」


 譲れぬこだわりがあるらしい。

 そんな理解を求めるリアクションは、天変地異の発生時と変わらない大きさだった。


*** 


「あれはしばらく夢に出るわ……」


 あれから時が少し進んだ菅原サイド。

 全てのプレイヤーを波乱に巻き込んだ元凶は、未だに動機激しくうずくまる。


「純貴、大丈夫?」

「おれはな……。そっちは?」

「ウチは死ななかったからもう平気。フリーフォールってあんな感じなんだよね?」

「あれはもう紐無しバンジーや」


 菅原はトラウマになりつつあるが、ベルタは妙に図太かった。

 いざ喉元を過ぎれば熱さを忘れるが如く、アトラクションに例える様に「うそやろ…」と零す。


「それでね、壁側(あっち)見てきたけど、やっぱり人が凄い死んじゃってるっぽいよ?」

「…開始30分もせんうちに、エライ変わってもうたな」


 少女の頭の汚れを払いつつ、周囲を俯瞰する彼の感想は簡潔だ。 


――随分と環境が変わった。


 美しく、(みやび)を感じさせた迷宮(ダンジョン)は荒れ果てた。

 随所にはゴミの山が集るよう。土砂なのかエネミーの骸なのか分からない。 

 依然と埃は舞い上がり、磯の匂いと混じって不快感すらある。


 何より、あちこちに散見する血痕。

 事件現場のようにこびり付いた赤黒い染料があった。

 これが何を意味するか、どんな規模で被害を及ぼしたかなど語るまでもない。


(不幸中の幸いなんはエネミーを一掃できた事か?…けど時間経過で復活するしなんとも……)


 逆にそれ以外は全て凶事。

 他のプレイヤーにどう指を差されるか、考えたくもない。


(そう考えたら目撃者は出えへんかったし、良い事は二つ……あれ?何か思考バグっとらん…?)


 そんなマッチポンプじみた矛盾に首を傾げていれば――上空から悪魔が降り立った。


「フム、吾の魔力に随分と余裕があるな」

「あんちゃんお疲れ様っ、変わってそうなところあった?」

「否であろう。ウヌらの求める変化は何も存在しまい」


 天変地異後の調査に出向くも、レアエネミーの手掛かりもない。

 つまり、いたずらに被害を出しただけ。そんな事実に背筋が凍る菅原。


「どうしたもんか…。今ので特に変化無しやったら、ポンと(コア)がほっつき歩いとるっちゅうわけでも無さそうやし……」

「為すべきは変わらぬ。武を持って制するのみであろう」


 背後から刺さるは、無機質な悪魔の視線。悩みの種は肥大する一方。


「――としても、()()はアカンで?」


 再三の念押しだった。

 これだけは譲れないと、無差別爆撃の禁止令を発行する。「というか飛べたんなら助けてくれ」という視線も込める。

 しかしスタッと優雅に、重力すらも無視する悪魔だ。その怨念には気付かずじまい。


「でも一番楽に勝てそうだよ?」

「いやなぁ……」


 ベルタは意外にもヤンチャな肯定派。悪魔の隣に並び、その巨躯を見上げる。

 ただ菅原の眉目が示すのは、やはり難色。


()()()()なら、オレらは()()で終わんねん」


 腕を組み、人物の心情を答える国語のテストに向き合うように唸っていた。

 その真意とは――


「――お前(ベルタ)の技でレアエネミー、画角に収めたら消せるやろ」


「何も分からんまま死んだ」

「ピクニックしただけで終わった」

「水中ステージかと思ったら登山ステージをやらされた」

等々、リタイヤになったプレイヤーから心温かいコメントが寄せられています



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