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悪魔が捧ぐオンライン  作者: ヒイロロ*ヒノキ
六章.竜鳥虎搏編

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2.自明の層【後編】

誤字脱字はお知らせください。泣いて喜びます。


「なあ、どこが勝つと思うよ!?」

「…うちら以外ありえない」


 一方"パラダイム"はまだ雑談に耽っていた。

 閑散にして荒れ果てた環境には目もくれず、買い溜めたお菓子をインベントリよりつまむ。


有栖(アリス)、我らを除いてという話だろう」

「だとしても気になる奴なんて…あ…」


 そこで彼女は口をポカンと開く。

 想起する幻影は、山吹色の長髪を持ち、灰赤の身体を持つ外国人(プレイヤー)

 集会の際、【氷元素(アイス)】を生身で打ち砕いて見せた巨躯がチラつき――


「――やっぱあのダークホースのギルドだよな!あれはヤバそうだぞッ!」

「…被せないで」


 ベアルを菅原の一味(ギルメン)という勘違いのまま、サクッと甘味を咀嚼する。

 ただし観察眼は本物。僅かな接触から力量を見抜き、それを否定する声は誰からも上がらなかった。


「あれは本気でやらないと多分ダメだな!久しぶりじゃないか!?おれらの圧勝で終わらなそうな大会は!!」

「さらに彼の仲間も未知数ッ。ともすれば我らが呆気なく負ける未来もあるやもしれぬ!」

「…ふーん」


 バクバクと食い荒らし、盛り上がる右頂に瞳ちゃん。

 これに有栖(アリス)は数歩と歩み寄り、クッキーを一枚つまんだ。


「――…じゃあ、もう()()()いいでしょ」


 しかし不満を表現。ペタンと地面に体育座り。

 紅白の髪を手持無沙汰に触る。


 語るのは、とあるハンデ。

――迷宮(ダンジョン)突入から、一歩たりとも移動していない事実について。


有栖(アリス)、それでは我らが有利。何せ二回目の突入なのだからッ」

「そうそうッ、フェアに行こうぜ!まだステイだ!」

「…分かった」


 このダンジョン、彼らは初見ではない。大会の下見としてレアエネミーも知っている。

 故に雑談にふける。強者らしい余裕の表れと同時に、真摯なプレイスタイルだった。


***


「お前は特別や、その気になりゃ一人勝ちも余裕やん」


 菅原が見つめる先には、一見普通な少女。

 水色のウルフカットが特徴的な、銀鼠色(ライトシルバー)の軍服めいたものに袖を通すベルタがいる。


「うん、消そうと思えば消せちゃう。"ワンパン"ってやつです!」


 そしてベルタは否定しなかった。

 紅色の瞳がその視線と交われば、ドヤッと胸を張る。


……

 彼女(ベルタ)は『ルシフェル・オンライン』にて作られた命である。

 故に現実世界(リアル)は知識でしか知らず、箱庭(ゲーム)だけが全て。この世界にのみ生きる住民だ。


――ただし、プレイヤーでも無い。

 便利な手帳(オプション)も使えなければ、(ジョブ)によるスキルも無し。

 死亡(ゲームオーバー)となれば、金銭を支払う代わりに、記憶の一部を失う。


――代わりに創造主から持たされたのが、模写(コピー)

 ゲームの仕様でもない、純粋な少女の異能だ。超能力と称してもいい。


 指でカメラのフレームを作るように対象を収め、思い出を残すようにカシャリとシャッターを閉じる。

 それだけでプレイヤーのスキルやエネミーを写し、さらに消滅の如何すら掌の上。


 対象の技を模写(コピー)だけする。または模写(コピー)した上で被写体を消去する。

 あるいは模写(コピー)すらせず、ただただ被写体を葬る。

 その裁量は彼女次第。


――そしてそれは、レアエネミーすらも例外でない。

……

 

「せやんな?ホンマはそれだけで終わんねん」


 それをベルタはなんて事のないように誇る。

 均衡(パワーバランス)を壊す禁断の手を、子供が特技を披露するかの如く、ただ褒めてほしいかのように。

 

「ただ、んな事すりゃ大会がポシャる。……いや、オレからすりゃ別にエエけど――」


 この体内からでも、彼女が作るカメラワークにてシャッターを降ろせば消滅。

 無条件で勝利が確定する。


「他所様からすればオモロない上、意味わからん決着や」


――仮にジャンケンで競ったとしよう。

 そこで相手が後出しや、グーチョキパー全部混ぜというチートを繰り出せば「何が楽しいの?」という感想で終わる。


「そんで全員にオレらの名前がアナウンスでもされりゃ、ヘイトが溜まる」

「……あっ」


 天恵獲得の際には、"声"が参加者全員の頭に流れ込み、討伐者の名が無情に広まる。

 これはもう誤魔化しようがない。


 特に今回の面々は"パラダイム"が集めた戦闘狂ばかり。そんな者らが白けるような形で優勝すれば――


「――ウチらが報復でリンチされちゃう……ってコト!?」

「そこまでかは知らんけど、まあ穏やかちゃうわな」


 彼女らのギルドは吹けば飛ぶような存在。

 今こそ誤認されているが、勢力も小さく、財力や権力も無い。上位勢から狙われれば、結末は想像に容易い。


 カヒュッと息を吸い込むベルタ。やがて身もブルッと縮め、顔すら青く染める。

 その意味を正しく理解したらしい。


「意を得たぞっ、これは(たわむれ)れ。遊猟にして遊戯であるな?」

「せや、みんな弓で動物狩るっちゅうのに、大砲をぶっ放しても白い目で見られるだけや」


 傍らで、悪魔は鼻息で空気を掻き分けた。

 『ルシフェル・オンライン』における"大会"を真に理解したと言わんばかり。

 争奪うんぬん以前に、これは競技。根底には"娯楽"を求める姿勢がある。


「まあ、ベアルの兄ちゃんにはどうでもいい話かもしれへんけど…」


 とはいえベアルの本懐は別。主君と相まみえる事のみ。

 つまり、大人しくマナーやルールに縛られるはずもない。

 

「――けど、沙多も同じ空間にいるんやで?さっきの回転、普通に被害出とるやろ」

「ム…。であるなら控えよう」

 

 だからこそ釘を刺す。最悪のケースなら死亡だと、肩を竦めながら。

 その効果はてきめん。

 意思は沙多という存在に誘導され、シュンと消える活気。インクが水を一挙に染めるようだった。


「……サっちゃんの事なら従うんだね」

「圧が凄いからなぁ…。特に最近は女王様みたいやし……」


――だがこれで計画通り。


(…おっしゃ、しれっと誘導できた。これで変な行動はせんやろ)


 しめしめと口元を緩ませる菅原。

 彼という弱小ギルドマスターの目標は、"勝つこと"でなく、"無難にやり過ごすこと"。

 悪目立ちは避ける方針である。故に下法は使わないし使わせない。


 こうして密かに心境が保たれ、胸を撫で下ろせば――


「ッ!?――【アイアス】!!」


 現実は非情。安息は外的要因により崩された。

 大盾を取り出し、咄嗟に障壁をドーム状に発生。銃弾を弾く。


「うわっ敵襲!?」

「ベルタ、後ろ下がれ!」


 見れば右斜め後ろ、五時の方向に岩陰の奥にプレイヤー四名。構えを取っていた。


(あの回転で同じ方向に落ちとったら、そらプレイヤーも集中するか……。敵は中距離タイプの【射撃手(シューター)】。残りは魔法系の(ジョブ)が二人…あと一人が分からんな)


 初の接敵、初の戦闘だ。ならばこちらも考えることは単純。

 一つは(ジョブ)の推察、もう一つはベルタの安全。競技らしい対人戦(PvP)が始まる。

 

「ベルタはあんま技使うなよ」

「うん、バレないように使う!」


 少女がプレイヤーでない事実を伏せながら、どう組み立てるべきか菅原は緊張を強めるが――


「――ならば平常の力で討てばよいのだな?」


 悪魔が矢面へ立つ。

 纏う装備で肉体は弱化。魔力も僅かな運用しか許さぬと、今しがた言い渡された。


――だが、その笑みは崩れない。

 力を封じられようと彼は人外で、戦いを楽しむ悪魔。


「これより吾も、人間の道楽とやらに興じようぞッ!」


 この大会における、ベアル・ゼブルの立ち回りが定まった。


***


「今日何食べた?」

「パエリアとカレーと肉まんですな」

「…考えるだけで吐き気する」


 和気あいあいとした空気が広がる"パラダイム"。 

 床に雑魚寝する右頂。直立不動の瞳ちゃん。依然体育座りの有栖(アリス)と、緊張感はまるでない。


 話題も最近注目してる(ジョブ)から、良さげなアイテム、使用してるVRの機種etc…。

 遂には直近の食事まで遡った。

 

「…もうよくない?」

「どんぐらい経ったよ、有栖(アリス)さんっ」

「一時間くらい。たぶん」


 だが痺れを切らしたように準備運動。ぐっと背筋を伸ばす有栖(アリス)

 傍には、再び設置した二個目の砂時計。ジッと睨めば、サラサラと流れる粒は三割ほどだった。

 

「もうそんな時間かっ!腹減ったな!」

「とはいえBBQ(バーベキュー)の用意はありませぬぞ?」

「じゃあもう行くか!!」

 

 よっ、と跳ね起きる右頂は砂時計を回収。そしてクルリと反転。逆流する砂を掲げる。


「うーん、今日も空にならなかったなっ、これ」

「それは純粋に飽き性だからでしょう」


 そしてチビチビと流れる一粒一粒を見上げた。

 購入してから、一度も完遂した姿を目にした事がないとボヤく。


「ねえ、うちも待つの飽きた」


 やがて催促の声で砂時計はインベントリへ。

 それに伴い、瞳ちゃんは柔軟なストレッチ。

 右頂はピョンピョンと飛び跳ね、刺々しいゴーグルを目に装着すれば――"パラダイム"は行動開始を宣言する。


「じゃ、後は適当に――楽しもうぜ!」


 響いた右頂(リーダー)の号令。これを聞けば、三人はそれぞれ別の方向へ歩き出す。

 

「じゃあな!おれはあのダークホースのギルドと戦りてえ!!」

「…うちも」

「私は選り好みなどせぬッ」


 チームとなるわけでも、作戦があるわけでもない。無計画な運任せの単独。

 まさしく、無鉄砲な出発だった。


チート一号とチート二号を両手に抱える菅原の明日はどっちだ

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