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悪魔が捧ぐオンライン  作者: ヒイロロ*ヒノキ
六章.竜鳥虎搏編

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1.巨影の甲【前編】

誤字脱字はお知らせください。泣いて喜びます。


 それは学生にとって夏休み中旬。八月の日付も二桁を迎える頃合い。

 ジリジリとセミが煩く、エアコンが手放せない炎天下。

 

「――さあっ!会場にご足労いただき感謝する!!」


 避暑地として、冷房が効いた部屋でVRを被り寝転がれば、あっという間に訪れた大会当日。瞳ちゃんが贅肉を揺らした。

 手にはメガホン。少し割れた声を、応援団長さながら一帯に轟かす。


「こちら『ドキドキ最強!レアエネミー競合レイド祭り』の現場である!!」

「うるっさいし名前ダサ…」


 げんなりとした様子の沙多。大会に強制参加という胸中は酷くブルー。

――そして、視界も共にブルーだった。


 眼前に広がるのは巨大な湖畔。宝石で染められたように、深い群青が揺らめく。 


「おい!ちょっと()()()()()()!」


 "パラダイム"は実にフリーダム。

 これから生死を分ける抗争が始まる。だというのに、右頂(ギルドマスター)は水着に着替える素振りすら見せていた。


「日焼け止め持ってきてない……サイアク…」 


 同じく日傘をかざす有栖(アリス)。緊張の様子は無く、レジャー気分。


「では早速であるが大会の概要を復唱させていただくッ!」


 そんなギルドメンバーは無視して進行する瞳ちゃん。

 参加者は計百人を超えている。

 ズラリと立ち並ぶプレイヤー。既に一触即発の雰囲気すらあった。


 逆に言えば、呑気なバカンス気分の"パラダイム"が壊滅的に空気を読めていない。 


「競技は『獲物狩り(ハンティング)』!徒党を組むも、個人で立ち回るも自由!他者への妨害も可!!討伐に最も貢献した優勝者(MVP)には天恵が与えられる!!」 


――何より、面々には未知の何かを探るような緊張が映っていた。

 参加者の列に混ざる沙多も例外でない。


(…()()ってどういう事なんだろ?)


 釈然と噛み砕けない違和感を胸に、大海の如き湖を見渡した。


……

――それは前日。招待状にて招かれた、会合の場での記憶。


『まずは標的についてですな。標的を知らなければ、競技になりますまい』


 インベントリより紙の束を召喚する瞳ちゃん。

 各々の手元へ、シャッフルしたトランプを配るようにテーブル上を滑らせる。


『その外見とはズバリ"亀"!それも超巨大!トラック以上のサイズを誇るッ、まさに歩く戦車!!』


 ペラリと紙をめくれば、挿絵があった。

 紛れもない亀の姿形。それこそが狙うべきレアエネミーの実態だ。


 瞳ちゃんによる精密な色彩画に加え、綴られた見解。

 漢字が苦手なベアルでも読める。ふりがな付きの丁寧な仕様だった。


『敵の攻撃手段などは説明してくれないんですかぁ?』

『そこまでネタバレされては興醒めでしょうぞ』

『言っとくけど、うちらも詳しく知らない。レアエネミーっぽかったから、すぐ引き返したもん』


 新堂の質問は振るわず、配られた資料の一枚目が終了。

 二枚目へ、ペラリとめくる音が一斉に響く。


『次に、競技の舞台となる地点(ポイント)が――』


 このページに、招待された誰もが顔をしかめた。 

……

 

「それにしても、凄い大きいねこの湖」


 同じく参加者として並ぶベルタは、広い水平線を見渡す。

 まるで旅行の一欠片として思い出を残すように。


「ウチは行ったことないけど、ママの記憶にあるよ。琵琶湖ってこんな感じなんでしょ?」

「せやな……対岸が見えんわ」


 また菅原も空返事。前日の件から、周囲を頻りに確認していた。

 超巨大というわりに湖は静か。影も形も無い。


「敵が亀なんはまあええ。……けど何処におるっちゅう話や」

「――じゃあ呼んでくるぜ!レアエネミー!!」

 

 そんな胸中も露知らず、「とうっ!」と水面へダイブする右頂。

 いつの間にか海パンに着替え、バシャバシャと泳ぐチョコ色の髪とゴーグルだけが見える。


――と、同時に空から衝撃が落ちた。


「『はんてぃんぐ』とやらは始まったのか?」

「ゴホッゴホッ…あんちゃん…それやめて…」

 

 それはレアエネミーでなくベアルの仕業。弾道を描いて降り立った。


「…は?今、何が起こった…?」

「【祈祷師(シャーマン)】の重力操作(スキル)か?」


 旋風を巻き起こし、大量の砂塵が悪魔を中心に散らばる。

 当然、彼の素性を知らぬ者は騒然。理外にして破天荒な登場に奇異の目を注ぐ。


「今そのレアエネミーを呼びに行ってるみたいだよ?あそこにパラダイムの団長(リーダー)さん見えるでしょ?」

「ほんまに呼べるかは疑問やけどな。丸腰で泳いでどうにかなるんか…?」


 ベルタと菅原は噛み砕いて説明。すっかり悪魔の世話役となっていた。

 

「――何を言っている。『れあえねみぃ』は既に居るであろう?」

「えっ?」


 しかし彼だけは、既に捉えていた。

 上空から大気を掻き分ける傍ら、紛れもなく存在を確認していた。

 その巨大な影を。


――刹那、大気が揺れる。

 

「出たぞオオおおぉぉぉぉ!!!!!」


 今度はベアルの仕業ではなかった。叫ばれるは右頂の報告。

 大声がよく通る彼が、さらに喉を絞り、ようやく微かに聞こえるほどの地震。


 嵐と錯覚するほど荒れる水面。波となって(ほとり)に押し寄せる。

 全ての震源は、湖の中心で――やがて、割れた。


「やっべええええぇぇぇッッ!!」


 その仕業の正体こそ、水底から斜めに突き出た巨岩。沈没船が急浮上したように、巻き上げられた水が岩肌を伝って飛沫を打つ。

 ただしサイズが尋常でない。空母すら小さく思えてしまう規模だ。


「命綱無しのスカイダイビングだあああぁぁぁ!!」


 湖の中枢で泳いでいた右頂はかちあげられていた。ベアルのように遥か上空を舞う。

 このままだと湖に打ち付けられ落下死は必然。


 しかし結果は違った。


 巨岩は身震いするように唸り――まぶたを開く。次には岩の頂点が上下二つに割れ、()()を作った。


……

『おいこれ、変じゃねえか?』

『場所の表記ミスってんだろ』


 説明された大会の開催地は、レアエネミーを指していた。


――ただし生息地ではない。まさしく"存在そのもの"。

 あまりに不明瞭な記載だった。


『それは違いますなッ。諸君らに配るこの資料、最低5回は見直している!』

『やけに几帳面じゃん』


 これに場は忽然と静まり返る。

 異常に大きな円卓を囲み、顔をしかめ歯切れ悪く唇を閉ざす銘々。


 『開催地:超巨大な亀(レアエネミー)。持ち物:自由、おやつ:不要』の表記。

 沙多が感心するように、書き損じはあり得ない。瞳ちゃん作のプレゼンは抜かりないと胸を張る。


 ならば、考えられる可能性は――

 

『――ならばその『れあえねみぃ』こそが大地となろう』


 ベアルが淡々と示した。


『そうそれ!それが言いたかった!そいつがあまりにもデケェからさ、試しに口ん中入ってみたんだよッ。したら体内が迷宮(ダンジョン)みたいになっててな!?』

 

 指をパチンと鳴らす右頂は上機嫌に唾を飛ばす。

 

『ナチュラルに喰われようとすんな』

『中から破壊する系の敵ってことか?』


 平然とした狂気にヤジが飛ばしまくる面々。されど"ダンジョン"という言葉に、全員が内容を察した。

 

――答えは至ってシンプル。


 参加者は呑み込まれて体内に侵入。

 その先に広がるフィールドにて、迷宮(レアエネミー)(コア)を見つけ出し、破壊した者が優勝となる。

……


「さあとくとご覧あれ!!これこそが貴殿らの戦場(バトルフィールド)!!」

「で、でかぁ……」


 メガホンで何とか聞こえる瞳ちゃんのアナウンス。

 立つこともままならぬ地鳴りの中、沙多は茫然と巨岩――レアエネミーの漆黒の頭部を見上げる。


「凄いよ純貴!頭だけでこんなに!体はもっと大きいんだよね!?」

「この湖そのものが亀の巣穴ってことかいな…」


 亀形レアエネミーの出現を受け止めきれず、固唾を飲む。 

 それは誰もが同じだった。百を超える人間が集まれど、有象無象という言葉が相応しいほどの無力感。


「――じゃあ先行ってるぜええぇぇッ!?」


 一方で先駆者の右頂は、重力により降下。

 そのまま下で待ち構える超巨大亀に――そのまま一口で頂かれた。


「あっ食われた」

「では私らも続くべく…有栖(アリス)!スキルを!!」


 パクリと、まるで垂らされた釣り餌のよう。だが右頂の声音は愉快に染まっていた。

 沙多が呟く隣で"パラダイム"は行動を開始。これに続く。

 

「んっ【氷元素(アイス)】!!」


 黒と赤が基調のゴスロリ服をフワリと揺らし、形成するのは氷の道。

 如何にも、"餌"と主張するような桟橋を用意。


「普通にこれトラウマだろ…」

「食われるまで目、瞑ってよ…」

 

 相手からすれば丁寧に皿の上に乗せられたディナー、そう映ったのだろう。

 青ざめる者、平常な者、逆に高揚する者など様々。

 しかしそれら全員が桟橋に立ち並べど、プランクトンのように極小の供物に過ぎない。


 沸き立つように騒ぐ波浪(はろう)警報。

 山よりも高く口を開く大怪獣(レアエネミー)

 目敏くこちらへ迫ってくる様は、下手なホラーゲームよりも恐怖を掻き立てられた。


「わー!わー!あんちゃんストップ!まだ競技始まってない!!」


 一方でベアルは既に戦闘態勢。

 体内に入ってからが本番。なのに魔力を練り、食われる前に爆撃の構え。


「しかしあれは『れあえねみぃ』なのだろう?屠らずしてどうするのだ」

「倒し方の趣旨がちゃう!!一旦ダンジョン入るのが礼儀みたいなモンやから!敵の砦に入らんで爆破する勇者がどこにおんねん!!」


 そんな説得の傍ら、既にレアエネミーの影は彼らに覆いかぶさり――


「――それでは『ドキドキ最強!レアエネミー競合レイド祭り』!開始イイィィッッ!!」


 瞳ちゃんの宣言と同時、漏れなく一網打尽にプレイヤーは捕食された。


二章リメイクしてたら話数が増えて、勝手に百話を超えてたので全く実感が無い。

それでも愛してくれてありがとう


ちなみに六章は竜鳥虎搏"りゅうちょうこはく"って読み。

特に意味は無いし存在しない四字熟語。

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