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悪魔が捧ぐオンライン  作者: ヒイロロ*ヒノキ
五章.遊戯のまにまに編

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8.控えた手合い【章末】

誤字脱字はお知らせください。泣いて喜びます。


「意外と良さげじゃんね?」

「かなり似合ってるよ!」


 眼前の姿を見て、舌鼓を打つ沙多とベルタ。

 さながらファッションショーの気分。そんな二人の前に立つのは、ベアルだ。


――しかし装いが変わっていた。

 

「フム、吾に影響を及ぼすか」 


 まず、ボロボロだった焦げ茶色の革ジャンと破れたジーンズ、これらが変わった。

 上半身には、分厚いベストのような陣羽織。

 その漆黒の着物には、マントや鎖の装飾があしらわれ、灰赤の肌の上から直接纏う。


 下は道着さながら丈夫に編まれた鈍色の袴に、黒鉄のブーツ。

 さらにゴツゴツと強張った拳骨には、指ぬきグローブを纏う。


「やっぱビジュいいわっ。アタシのセンス光ってない?」


 それらは、沙多が見繕った物だった。

 先日、闇ギルドとの商談に付き合った報酬。新堂により用意された装備一式だ。

 

 初期装備ですらない現実そのままの衣服を捨て、強者然とした佇まいに磨きがかかる。

 

「それでどうっ?あんちゃんの魔力、節約できてる?」 


 加えて、見栄えやコーデの為ではない。ゲームの装備らしく、ちゃんと実用的な意味がある。

 

――その効果は、消費魔力の節約。スキルやアイテムの行使に要求される魔力を減少させるもの。


「装い一つで制約が発生するとは興味深いッ」

「まあ、普通に考えたらあり得んか。服で能力が変わるなんてゲームだけやし」


 新鮮味に溢れているのか、己の衣服を見下ろし愉快と声を大にした。


 まさに魔力が根源のベアルにはうってつけ。

 何せ、電気代や水道代すら魔力で賄う彼だ。ただ普通にプレイするだけでも恩恵は甚だしい。


「サっちゃん、よくこんなの用意できたね」 

「うちの新堂(マスター)がくれたんよ」

「…あ~さっき挨拶もらった……大丈夫か?金にがめつそうな感じやったけど」


 面識がある菅原はポリポリと頭を掻く。

 印象に違わず、想起したその人物は儲け話に余念がない。


 ならばと、この件の借りを心配するが――


『――いらないですよぉ、どうせ()()()なので』


 それは実際に、新堂が口にした言葉。

 貸し借り以前の、在庫処分といった反応。


「だいじょぶ、タダで貰った。これ代償エグイから…」


……

…  

 この装備の本質は、消費魔力の節減。数値にして、従来の何倍もの効率になる。

 普通に考えるならば強力な装備だ。


 沙多で例えれば、常にスキルを打ち続けられるようなもの。

 魔力回復薬(マジックポーション)いらずの、敵を寄せ付けない固定砲台と化す事も可能。

 

――ただし圧倒的なデメリットにより、"粗悪品"の太鼓判を押されている。


 その副作用こそ、身体能力(ステータス)の低下。


 鈍重な制限により、移動はもちろん、膂力が損なわれ、防御力もが大幅ダウン。防具としての役すら成さない。


 強さを求めるのなら、誰しもが脱ぎ捨てる代物となっていた。

……


「で、どんな感じ?」


 ベアルに流し目を送る沙多。上目遣いで、体調諸々の機微を問う。


「鉛を纏う感覚であるな。以前よりも活力を必要としておる」

「なんや、呪いの装備系なんかこれ?」


 菅原の言う通り、まさしく呪いと言って差し支えない性能。

 これにてベアルの強力無比な俊敏性、強靭な破壊力、堅牢な耐久性が失われた。


「電気とやらを使わぬのであれば構わぬ」


 だが組んだ腕を解くベアル。

 腕を回しながら一歩、二歩と森に進めば――漆黒の球体を出現させた。

 ブラックホールめいた禍々しさ。濃縮された魔力が掌に練り上げられる。


 やがて重厚さすら感じるそれを、木々へ向かって投擲し――


――着弾するや否や、ドガァンッと爆ぜた。


「クハハハハッ!これならば吾の魔力も活かせよう!」

 

 ギギギと根を震わせ連鎖する倒木。 

 樹木はおろか地面の土、さらに下の岩石層すらも抉り取り、風圧が舞った。


「あんちゃん何いまの!?」

「スキルとかもう関係あらへんな……」


 思わず顔を手で覆う二人。

 対して沙多は、雄大な背に呆然と頷き――


――…あれ、これ物理型から魔法型になっただけじゃね?


 そこで、一抹の不安が渦巻いた。

 新堂のオーダーは"ベアルの弱体化"だったハズだ。

 しかし『近接が制限(ナーフ)された?なら遠距離で戦えばいいじゃない』とばかりの回答。


(ま、まぁ…総合的に弱くはなってるし…?多分…)


 どうにも目的を達成できた気がしない。

 曖昧な冷や汗が彼女の背中に流れた。


――――――

――――

――


 とにもかくにも装備の新調は終えた。ならば次は道具(アイテム)の買い出しだ。

 後日に控える"獲物狩り(ハンティング)"へ向け、備えは充分でなければならない。


 買い出し(こちら)は沙多たちがベアルの新装備に四苦八苦する間、新堂が担当していた。

 

「手持ちの回復薬(ポーション)も、そろそろ在庫切れですねぇ」


 砂利が敷き詰められた小さな通りで、露店を前に手帳(オプション)を開く新堂。

 そこはゲーミングピラミッドのギルドから南西に進んだ、こじんまりとした集落。


――『(ショップ)なら、すぐ近くにあるぜ!!』


 それは右頂の言葉。赴けば、情報通りにこの牧歌的な空間が広がっていた。


 されど無骨な木製造りのそこは無人。ただ"古代言語"が書かれた看板がぶら下がるだけ。

 そんな状況下で店に並ぶのは不自然。


 しかし、NPCの存在しない『ルシフェル・オンライン』ではこれが平常だ。


「さて、掘り出し物が見つかると良いのですが……」


 手帳のページに、浮かび上がる商品のリスト。

 この店舗はいわゆる()()()

 エネミーの残骸や鉱石といった、武具などの作成に必要なアイテムが整列されるが――


「――…これは()()ですね」


 無人売買のカウンターから即、踵を返した。

 眼下の商品一覧がお気に召さなかったらしい。


 とはいえ他にも店舗はある。新堂が歩く先には、何人かの先客(プレイヤー)がいた。


 彼らは同じく買い出しを目的にした者。

 "パラダイム"に招待されたついで、周辺の流通事情を探る強者。

 いわば情報通だ。それらが集うならば期待も高まるが――


――おい価格倍くらい違うじゃねえか。

――妙に品揃え悪いなこの辺境ッ。

――クソッ、悪質な店紹介しやがって!


 ただの愚痴だった。


 辺境の土地で売られるアイテムはやはり需要が違うらしい。

 乾燥した空気の中、不満が飛び交う。


「ちょいと失礼、あちらは素材系の(ショップ)でした。こちらは?」

「ああ、ここは回復薬(ポーション)系だよ」


 するりと嘆きの群れに潜り込む新堂。情報交換の場に着席する。


「素材系に目ぼしいものは無し。いっそ買うより、自分で狩った方が効率的ですねぇ」

「こっちも同じだ。帰ってから定価で買った方がいい」

「地域限定の特産品やレア素材は?」

「そんなものがあったら、誰もここで呑気に喋っていないでしょう」


 持ち寄る情報はどれもこれも微妙。

 掘り出し物が眠る可能性すら無いとタレコミがもたらされた。


「向こうの食べ物系ならパンが売ってたぜ。ただクッソ硬ぇ」

「買ったのかよ…特殊な効果もない嗜好品だろ?」

「ってことは…」

「ああ…」


――じゃあもう帰るか。


 全員の思考がリンクした。

 とんだ無駄足だった。訪問してはや数分、解散とばかりに閑散とする空間。


「――どうだッ?アイテムの準備は出来たか!?おれら御用達のお店だぜッ?」


 しかし刹那、群衆に負けぬデカい声に視線は誘導される。


 そこには、"パラダイム"のギルドマスターこと右頂が単身、顔を覗かせていた。

 敵情視察というより、ただ単に興味があった故の行動だろう。


「ここらの店ぼったくりじゃねえか!」

「何で雑草とか芋が売ってんだよッ」

「せめて調理後であれよ!」


 しかしプレイヤーは口を揃えてブーイングの嵐。期待を返せと、微熱が渦巻く。


「え、これ高いのかッ?」


 自覚も無しに手帳(オプション)を開く右頂。

 やがてページにサラサラと商品名を記入していけば――躊躇いもなく購入した。


「おい嘘だろお前」

「買ったのか!?」


 次には無人屋台のカウンターに、山のように出現する高級な回復薬(ポーション)


「おう!とりあえず百個な!」

「百個ォ!?」

「おい馬鹿やめろ一個何万すると思ってる!」

「お金は大事に使え!!」 


 繰り返すが、『ルシフェル・オンライン』の通貨は、そのまま現実の金銭である。

 それを百個分。つまり、新車すら余裕で買える額。

 リアルマネーに厳しいプレイヤーは口々に忠告を重ねた。


「右頂君……残高とか大丈夫なんですかぁ?」

「ん?見た事ないけどきっと大丈夫だろ!今まで平気だったし!!」


 特に新堂は戦慄もの。

 エッサホイサとインベントリに収納する背中を、凍った笑みで眺める。


「どっからそんな金が出てくるんだよ」

「お前の現世の(ジョブ)石油王か?」

「――いや?無職だぞッ?」


 ようやく全てを収め終えれば、さらっと言い放つ真実。

 右頂 天真(うちょう てんま)、働いていない。

 

 だが逆に言えば、全て自力。

 莫大な資産を『ルシフェル・オンライン』のみで築いた事実でもあった。


「就活しろ就活」

「俺はこのゲームの収益だけで生きていく!」


 食い扶持をこのゲームで賄っているプレイヤーは珍しくない。

 上級者(ベテラン)であればその傾向は強く、新堂もその類。

 

――しかし格が違う。


 目の前にいるプレイヤーは、チョコ色の髪を揺らす青年は、その頂点。

 このゲームに君臨する、一角の覇者だ。


(……末恐ろしいですねぇ)


 この事実を再認識し、密かに舌を巻く新堂。

 ゴクリと固唾を飲み込む音が数名から聞こえた。

 

 数日後には、そんな彼ら(パラダイム)と競う未来が控えている。


「あ、魔力回復薬(マジックポーション)も念のため百個買っとくか!!」

「おい待てェ!」

「早まるな!!」

 

 ただし短絡的かつ楽観的である。

 若者の未来のため、一挙に制止する一同。


「あ~楽しみだなぁ…!大会!!」


 一方、右頂は笑顔を零す。

 まるでクリスマスプレゼントが待ち遠しい子供のようだった。


これで章末です。信じられないかもしれないけど。

日常回や下準備の話だけの、息抜きの章でした。


次回からバチクソ戦っていただきます。

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