6.王家とのお茶会
10日後、マユンはいつもより丁寧に飾り立てられ、なんとか製作が間に合った新しい豪華なドレスを着てお茶会に向かいました。
お茶会はテーブルの真ん中に可愛らしい赤や黄色のお菓子が沢山置いてあります。
「よく来てくれました」
「では、人払いを」
王妃が和やかにマユンを出迎え、国王は挨拶もそこそこに近衛以外の人払いを命じました。
人払いすると、国王はおもむろに言いました。
「前回マユン様が第一王子の絵を描いてから、王宮内の重要人物には既に話を通しています。第一王子、マユン様をここに呼んだのは他でもありません。あなたの結婚のことで話があります」
「父上!私にはもう既に婚約者がおります!」
「知っていますよ。私が決めましたからね。それに、だからこそ問題があるのです」
「どういうことです?」
「第一王子、あなたは最近花街に行って遊んでいますね?」
「……っ!父上がどうしてそれを……」
「王子のあなたに影がついていないとでも思いましたか?あなたの行動は常に監視されています。それに、花街を訪れたのは1度ではありませんね?何度も確認されていると報告を受けています」
「そ、それがどうして結婚の話になるのですか!?それに、王宮内の結婚している他の貴族たちだって何人も花街で遊んでいるではないですか!」
すると、マユンの出迎え以降はずっと黙っていた王妃が口を開きました。
「花街で遊ぶのには目を瞑ってきたのです。この国では花街で遊ぶのだって勿論、金品を介しているそういった行為は売春と言って違法に近いような遊びですけれども、今のところ処罰は規定されていませんし、若さゆえの過ちというものはあるでしょう。でも、あなたは完全に違法な行為まで行いましたね?」
第一王子は少し目を見開き口を固く結びました。王妃は続けました。
「そもそも、花街自体が違法者たちの巣窟のような場所です。この国ではそういった行為をする場所と知りながら、それを提供すること自体を違法としていますから。でも、完全にそれらを断つと違法者たち自体が地下に潜ってしまい、しかもそれらに巻き込まれた被害者を摘発する難易度も上がってしまいます。それに、国全体が飢饉に陥った時に飢えを凌ぐために身体を売る者もいるだろうと、それらの成り立ちに目を瞑ってきた悪き過去があります」
王妃は眉を下げました。美しい王妃は、輝く金髪をしています。国王は銀髪ですから、王子の髪の色は明らかに王妃譲りでした。
「大昔の戦時中はそれこそ、そういった目的のための欲望を抑えられず、貧しい村々を襲って女を攫い、より非道な悪事を行なった粗雑な者たちもいましたから、そういった理性のない方々の欲望の捌け口としてそれらが必要なこともあるのです。でも、この国が豊かになった今でもその悪き風習が続いていることも、それを公に全て摘発出来ないことも悲しい事実です。18歳以上の男女に、自身の意思で性的行為を行なったと言われてしまえば、罪には問えませんから。勿論、公衆の面前で堂々と、身体を売る契約を見せつけなければ、ですけれど」
王妃はため息をつきました。
(王妃様はとてもお美しいのに、年齢よりもお疲れになっていらっしゃるようですわ……)と、マユンは失礼なことを考えていました。
「でも、そういった性的商売による避妊しない行為に関しては、この国では違法としています。何人もの望まぬ子が産まれてしまっては、国立孤児院の運営費が足りませんからね。……それに、最近では18歳未満の売春もかなり横行しています。これは買う側も明確な犯罪なのですが、需要が高いのか、何故か率先して子どもを騙して身体を売らせる闇組織や、理性が育たず金銭欲に溺れ自らの身体を粗末に扱う子どもたちが男女ともに増えていて、どんなに取り締まってもキリがないほどです。最近では10歳の子どもが出産した例もありますしね……。だから問題なのですよ」
一体それをどうやって証明するのかは分かりませんが、この国では随分昔から厳密に、18歳以上の売春行為を、どれ以上の行為から処罰の対象とするかは決まっていました。
その法律の決定や改正に関わった者は、よほど、その行為で苦渋を飲まされた過去があるに違いありません。それとも、この国に国立孤児院があるせいで、短絡的な遊女たちにぽんぽんと子を産み捨てられてしまっていた過去があるのでしょうか。他の国にはないこの国独自の法律でしたから。
「大体、そうでなくとも、花街で貴族だと気付かれると危険なのです。何年か前など、事後の避妊具の中身を横流しして花街の最下層の遊女たちにわざわざ貴族の子を妊娠させていた、より闇深い犯罪組織すらいたのですからね?その子たちが誰にどのように扱われているのか……恐ろしくて知りたくもありませんが、私たち王家は、どうしてもその報告を見てしまう立場ですから……」
王妃は少し青ざめ、身震いしました。
その犯罪組織は、本当に恐ろしい闇組織でした。でも、今でもその全容は解明されていません。
彼らは自分たちの息のかかった遊女に、公にその貴族と自身の子の親子関係を騒がせ、そしてそれらが世間に広く知られるようになったところで更に親子関係を証明する魔道具で子と貴族たちとの血縁関係を証明し、その貴族の知名度や信用を失墜させました。しかも、驚くべきことにそれだけでは飽き足らず、それをネタに貴族たちから養育費として莫大な大金を脅し取っているのです。
さて、今でも続いているこの事件は、誰を加害者と呼べば良いのでしょうか。
花街に行った貴族なのか、花街に行っている夫を止められなかった貴族夫人なのか、避妊具の中身を横流しした見目の良い高級遊女なのか、横流しされた避妊具の中身を使って妊娠させられた上に世界にそれを公表して騒いだ最下層の遊女なのか、その遊女が無事に出産出来るよう手助けした医師なのか、その遊女の発言を信じて拡散に加担した者たちなのか、その遊女の発言を信じて魔道具で子の出生を明らかにしようと提案した弁護人なのか、それとも親子関係を明らかにする魔道具を発明した者なのか、横流しを指示した闇組織の下っ端なのか、その下っ端や遊女たちを闇組織に取り込んだ勧誘員なのか、その勧誘や犯罪計画を立てている闇組織の中堅なのか、その中堅を纏めている闇組織のトップなのか、それとも、各国間に広がりすぎているその大規模な闇組織を壊滅させられない王家や世界が悪いのでしょうか。いえいえ、その仕組みにすら気付かず、受け入れたり支援していた周囲の民衆が悪いのかもしれません。
だって彼らはそうやって悪事で生きているのですから。
被害者だけは明らかでした。それは、誰にも望まれずに産まれてきたその赤子です。
第一王子は王妃と同じように少し顔を青ざめさせて、目を白黒させました。
「は、母上……。建物の中にまで影は入れるのですか……!?そんな個人的な室内での行動までもを暴露するなど、それこそ完全に違法ではないですか!隠している個人情報は事実だったとしても、拡散した場合は名誉毀損ですよ!影とはそのようなことまでしているのですか……?」
第一王子は、まだ王太子ではなかったため、王家専属の影の扱いについてきちんと学んではいませんでした。
「そうです。ですが、拡散はしていませんよ。この事実は、王家と信頼できる一部の者しか共有していません。知り得る者は10人にも満たないでしょう。それに、影はそういった業務のための訓練を受け、私たちのために仕事をしてくれているわけですから、そのような仕事で知り得た内容を王家以外に報告しなければ刑事罰には問われないことになっています。そういった、彼らを守るための法律まできちんと制定されているのです。そうでなくては影が報われません」
どうやら影は業務上、法的に多くの権限を得ているようでした。室内まで侵入することが許可されるとなると、相当な権限ですが……。この王国はよほど影を信頼し、手厚い教育や給金を与えているに違いありません。
ですが、この王国ほどではなくとも、多くの国が影の権限を法的に守っていました。住宅侵入権以外は。そうでなくては王家や貴族が自身の正当性を証明できないこともあるからです。
王家専属の影が裏切ったらどうなるのでしょう。とても恐ろしい気がします。
「でも、花街の者たちが王子の姿を全く知らないわけでもありませんから、そちらでは情報が拡散されてしまっているかもしれませんね。そもそも、影がどうしてそこまでするのか、何故あなたが悪かったと言われているのか分かりますか?」
国王が聞きました。国王は鋭い眼光で第一王子をじっと見つめています。
「……分かりません」
第一王子は赤くなったり青くなったり、まるで林檎のように顔色をコロコロと変えています。
(こうやって容姿端麗な方が焦っていらっしゃるのを見ると、美しいというよりも少し可愛らしいかもしれませんわね)とマユンは思っていました。それなりに失礼でしたが、言葉に出さなければ大丈夫でしょう。
「理由はいくつもあります。まず、民の税で生活している貴族のトップである我々が、そのような知性や行動に問題があり性奴隷に近い存在にまでなっている、常に性的搾取をされている犯罪者予備軍、もしくは犯罪者たちに活動資金を与えてしまうということ。まあ、彼女たちは自身が犯罪を行っていたり、犯罪に加担していたりすることまで理解していないことも多いのですがね……」
国王は握っていた右手の人差し指を立てました。
「2つ目に、その行動を犯罪者たちに知られると、後々それによって彼らに脅され、彼らに便宜を図らなくてはならない場合があること。これは犯罪幇助になりますからね。法を決定し、時に裁くこともある我々がそのようなことをしては民に示しがつきません」
国王は人差し指に加えて中指も立てました。
「3つ目に、あなたのためです」
「私のため?」
第一王子は怪訝な顔をしました。
「そうです。最近国内で、とある新種の性病が流行しています。これは今はまだ研究段階で公表されていませんが、近々公表する予定としています。治療しなければ死に至ることが分かりましたからね……。それに、その病の初期治療薬はとある医師が昔の師匠とかいう研究好きの好事家から譲り受けたもので、数も少なかったため、最初は限られた人間しか治療も出来なかったのです。しかもその方はその後行方不明になられたそうですし……。この1年で、王国内の薬師たちによる懸命な研究によって、ようやく治療薬増産の目処が立ちました。それまでは本人に注意喚起したり、隔離したりするしか、拡散しない方法がありませんでしたから……。この性病は、直接的な性器の接触がなければほとんどうつらないとされていますが、一部では口腔内粘膜の接触でも感染するとの報告を受けています」
第一王子は一気にバツが悪そうな顔をして、王妃やマユンの顔を見ました。王妃もマユンも、静かに紅茶を飲んでいます。
マユンは内心、(まあ!ただの性病じゃなくて新種だったのですね!)と驚いていたのですが、第一王子の視線には気付かないふりをしました。
「この性病は感染すると、治療をしなければ次の接触者に感染させます。ここまではまだ良いのですが、治療をしなければ、罹患者は早いと数年後には青白く痩せ細り、苦しみながら死んでしまうことや、罹患して治療せずに1年以上経過していると、治療しても男性も女性も不妊になる者がいることが判明しています」
「そんな!」
第一王子は叫びました。
「たった1回だけですよ!」
ここで驚くべきなのはこの王国の薬師や研究者たちの優秀さな気もしますが、誰もそこは指摘しませんでした。
「それだけ、その性病が花街に蔓延しているのでしょう」
王妃は静かに言いました。
「花街は最近、ろくな性病検査もしていないお店が多いと聞きますから。花街より街中や貴族同士での自由恋愛の方がまだ、感染リスクは低いかもしれません。勿論、違法行為はいけませんけれどね」
「それだけではありません」
国王は続けました。マユンは少し退屈になり、花街の見た目を想像し始めていました。行ったことはありませんが、あらゆる噂や書籍の知識から、それらの様子を伺い知ることは容易でした。
「その新種のものは死に至りますが、感染により不妊になる性病は数多くあります。ですから、そのような事態を避けるため、貴族たちもなるべく花街に行かず、身元のきちんとした貴族として教育されている貴族令嬢を妻に迎えて国を支えるのです。ただ、相手が1人だと子を成せない場合もありますし、各家庭によってやむにやまれぬ事情もありますからね」
今は夏真っ盛りで、濃い緑が目に鮮やかな季節です。庭師たちに整えられている花々も窓の外で彩り豊かにマユンの目を楽しませました。
「それらを鑑みて、何人かの妻を娶ることまでは許可しているのです。実際私も、国同士の外交や政略など様々な理由はありますが、第三夫人まで迎えていますからね。ただ、これを貴族にだけ許可しているのは、それだけではありません。貴族以外の者が妻を複数人迎えて子を作っても、資産や価値感、能力などの影響により、大抵はきちんとした教育を行なったりその手配をすることができず、中には貧困で犯罪に手を染める者もいるからです」
(ふぁぁあ……)
マユンは段々と眠くなってきました。早起きして色々と身体を磨かれ、その後にドレスやら化粧やらの準備をさせられてから随分と時間が経っています。
(私まで説教されている気分ですわ……)と、マユンは思っていました。マユンは既に知っている内容ばかりでしたから。
「商人だってそうですよ。隠れて花街で豪遊したり愛人を抱えている多くの商人が、後ろ暗い事や犯罪にまで手を染めていることは多くあります。全ての貴族で多少のオイタを捕まえてしまっては国が回りませんから、目溢しをすることもありますが、遊び方が目に余る者や、能力が低い者に対しては、時々摘発させるようにしています。それに、国を司る王家まで犯罪に深く関わってしまっては、法が意味を成しませんよ。いい例が、少し離れてはいますがニャールーン国ですね。あそこは王国として名は残っていますけれど、体制はもう、ほとんど軍部が握っています。王家はおそらく軍部に何らかの弱みを握られてしまったのでしょう。それに、新種の性病まで出てきた今、放置していればいずれ国が滅びてしまいます」
第一王子はすっかり肩を落としました。
王妃は言いました。
「もう何度も授業を受けているはずなのに、あなたまでそんな遊びにハマってしまって……。本当に情けないですわ。王家としての理性はどこにいってしまったのかしら?次は違法な薬物にでも手を染めるおつもり?」
「そんなことはしませんよ!」
第一王子は叫びましたが、しばらくすると小さくモゴモゴと、
「私が悪かったようですね」
と言ったようでした。
国王はそれを見て少し息をつき、続けました。
「まあ、花街には残念ながら女性用の男娼たちもいますから、貴族夫人でも遊んでいる者は後を立ちませんしね……。だから貴族でも、男女問わず、理性が育たない者はいるのかもしれません。教育を受けているのに行動修正が出来ないというのは、知能の問題ではなく、理性の問題ということになりますからね。でも、人の口には戸を建てられません。特に花街ではね。そこでマユン様です」
「どうしてそこで……!」
「マユン様は、どういうわけか理由はハッキリと分かっていませんが、新種の性病に罹った人間を見分けられるのです」
(どうやらそうみたいです)とマユン思いました。望んではいないのですが。
「それで昔、あの近衛は……!?」
第一王子はハッとしたようでした。
「どうして分かるのですか?」
「分かりません。でも、分かるみたいです」
と、マユンは答えになっているような、なっていないようなことを言いました。でも、それが事実なのです。
「私も今日初めてきちんと聞きましたから」
第一王子は微妙な顔をしました。
「今まで知らなかったのですか……?」
第一王子が国王や王妃を見ると頷いています。どうやら本当のことのようです。
「マユン様が王家にいるだけで、王宮内の感染者が分かり、それらによる命の保証が得られるのですよ。侍女でも……と考えましたが、事を起こしたのはあなたが1番早かったですからね。第一子で年齢が誰よりも上なのもあるでしょうけれど、つまり、今後何度も同じ過ちを起こして病による死の危険があるのはあなたでしょう。第一王位継承者でもありますし、ちょうど良かったかもしれません。マユン様は今後第一王子の第二婚約者となるので、きちんと婚約者として接してくださいね」
第一王子は微妙な顔をしながらマユンに問いかけました。
「マユン様もそれをお望みなのですか?」
「恐れながら、国王陛下。正直にお話ししても構いませんか?」
「良いでしょう。認めます」
きちんと言質を得たため、マユンは再度口を開きました。
「王家に嫁ぐのも第一王子様と結婚するのも、大変そうだとは思いますわ。麗しい方々の中に私がいれば、1人だけ見窄らしいと言われてしまうかもしれませんし……。ですから、あまり嬉しいわけではない……かもしれません。でも、それが王家の利益となるのであれば、私も貴族の娘として、国の臣下として、きちんと第二夫人という役割をこなしますわ」
第一王子は少しムスッとした顔で言いました。
「これだから打算ばかりの貴族の娘は嫌なのですよ」
その途端、国王は大笑いしました。
「あなたが王子ですからね、あなたの顔や権力、財力を狙ってやってくる者は多いことでしょう。それをモテていると最近勘違いし始めてしまったのですか?まあ、男にはそういう時期があるのは私にも分かりますが、いい加減、花街の女の言わぬ打算や下心に気づいた方が良いのでしょう。あの方々が打算まみれではないとでも思っているのですか?あなたがただの鍛冶屋の息子でしたら、彼女たちの態度は全く違っただろうと、そうは思いませんか?」
国王は続けました。
「打算とは、自己の利益のために他者の価値を利用しようとする下心のことです。花街の女たちはあなたの金や顔、知名という価値をあなたから掠め取る手段として、自身の笑顔や性的魅力を最大限に使っているだけのこと。一国の王子に気に入られでもすれば、彼女たち自身の名声にも繋がりますし、ますます商売が繁盛しますからね」
国王は笑いすぎて目に涙を浮かべていました。
「そうやって手に入れた金で顔に化粧したり顔を変えたり整えたりして、更に稼ぐというわけですよ。後ろ暗い、リスクもある行為だからこそ、客はいくらでも金を出してくれるというわけです」
そう考えてみると、彼女たちの仕事は自転車操業に近いのかもしれません。
「貴族の子女は元より裕福で金や見た目に恵まれていますからね。それらを手に入れるためにわざわざ悪事を働いたり、誰かから奪おうという価値観がほとんどないことが多いですし、そう教育されています。だからこそ、自己の利益とは、金や権力を度外視した家格の価値の上昇や、正義感、自己の名誉であることが多いのです。そのため、知識を正しく用いて献身的に国の利益のための役割をこなせます」
マユンはもう話をあまり聞いていませんでした。
(この室内に入ったのは初めてですわね……!王家に嫁ぐと言っても、部屋は沢山ありますし、再度ここを訪れるとは限りませんから、この装飾をよく覚えておきましょう)
金髪碧眼の麗しい王子はガックリと意気消沈しているようでした。
「花街の遊女らの利益は自分のためで、もっと言うと犯罪者のためで、貴族の子女の利益は国のためなのです」
王妃は静かに頷いています。きっと賢いに違いありません。マユンは(私はどう考えても王妃向きではありませんね。第二夫人で良かったですわ)と思っていました。
「手に入れられそうな目の前の利益を当然のように享受し、更に他者まで攻撃して貶めたり騙したり誘惑して自己を守る者と、既にある財産を使って自らを高め、それを誰かを守るために使う者の違いですよ。この違いが分かりませんか?」
第一王子は不服そうに口を曲げて聞いていましたが、何も言い返しませんでした。
マユンは(納得できなくても仕方ないかもしれませんね)と思いました。第一王子はまだ若いのですから。
それでも、マユンよりは年上ですが。
「婚約者のナミル様も、私もお好みでないのであれば、お好みの貴族令嬢のどなたかを第三婚約者になさってはいかがですか?」
マユンは思わず口を挟んでしまいました。第一王子が不憫になったのです。
それを聞いた第一王子は少し喜色を見せましたが、すぐに意気消沈しました。
「国内の勢力図を見ても、そんなのは無理に決まっていますよ。マユン様が学友として子ども部屋に呼ばれた時の貴族の子女たちを覚えていますか?釣り合いが取れるのはあの方々だけなのです」
「あら、きちんと分かっているではありませんか」
王妃は微笑みました。
「もっと時間をかけて説明しようかとも思いましたが、必要なさそうで助かりましたわ。それならば、これからはきちんと王子としてのお勤めを果たしてくださいまし」
「では早速、あなたの第一婚約者であるナミル公爵令嬢とご家族の方にも同じように話をしませんとね」
「ナミル様にも報告されるのですか!?」
「それはそうでしょう?あなたの婚約者なのですから。既存の婚約者との合意なしに婚約者を追加することはできません」
「そんな話は聞いていません!おやめください!横暴ですよ!」
「あらあら。案外、ナミル様には清廉潔白な王子として接していらっしゃったのかしら?ナミル様はお優しくお美しいですものね」
王妃がクスクスと笑いました。
「まだ結婚する前の遊びではないですか……!」
「だから大事にせず、内々に収めているではありませんか。そんなにご不満なら、そのような遊びをなさらなければよろしかったのですわ。違法行為以外であればこのような話にまではならなかったでしょうに……」
(あら、第一王子様は、結構本気でナミル様を好きでいらしたのですね……。報告されるのは少し可哀想な気もいたしますわ……)
マユンはそう思いましたが、マユンにはどうすることもできません。その日から、マユンは第一王子の正式な第二婚約者となりました。




