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ムツキについての考察


天然タラシ、もとい考察の元となる獣人・ムツキは、この春から学園に通うために寮に入ったばかりだそうだ。

獣人についての知識を詰め込み直してる時に、カナは大変重大なことに気付く。

獣人がフェロモンを放つ年齢ーーちょうど学園に上がる年、その誕生日前後から発揮するとのこと。

御年、15歳。


「……ムツキって、15歳なの……?!」

「そうだよ」


恐るべき15歳の爆誕だ。

モテ自慢が天元突破した挙句、効果が強過ぎて同性までクラっとすることがあるそうなので、今は寮ではなく学園の校舎内で警護を固めた部屋を用意されてるそうだ。

「若いのに大変ねぇ……」

「カナの方が大変だろ?」

苦笑とともに頭を撫でられた。

「私?」「その年で研究室を与えられて、授業にも出ずに検証してるじゃないか。部屋だって元々校舎内なんだろう?」

頭を撫ででいた手がスル、と腰に回り、流れるように膝に乗せられる。おまけに後頭部に顔を埋めるところまで、一連の動作が完成していた。

「やっぱりいい香り……」

「私の方がフェロモン出してるみたいじゃないの」

「だって落ち着く……」

初対面から一週間、検証をともに重ねてる間にムツキの遠慮がどこかへ行ってしまった。

天然タラシ、顔が良くてもセクハラ、だが毎日お疲れなイケメン15歳の癒やしになってると言われれば、抵抗もしづらい。

もちろん、必要以上に触ってきたら電撃の用意はあるが、ムツキのカナを愛でる姿はぬいぐるみなどを抱き締めている状態に近い。

なのでカナも特に気にすることなく、ムツキを椅子代わりにして資料を読み進めるのだった。


「日中のモテッぷりをもうちょっと分類分け出来ると良いのだけど。フェロモンのせいなのか魔法が関わってるのか、ムツキのスペックのせいなのかイマイチ判断がつきづらい。バシッとフェロモンを止める、とか出来ないの?」

「それが出来たら苦労はしない……」


考察のついでに文句を言ったら、腕の力が強くなった。よしよし、と撫でてやれば緩まるのももはや慣れた。


「おい、差し入れ持ってきたぞー……って研究室でイチャつくなお前ら」


ノックとともに入ってきたピノが、ひと目見てクレームを入れてきた。

その原因は全てムツキにあるから、カナは対応しない。

お茶を入れるからと腕と尻尾から解放してもらい、三人分のカップを用意し始めた。

ムツキはその間に、何度めかのピノの説教兼忠告を受ける。


「いくらカナが無害とは言え、あまり触り過ぎるのはどうかと思うぞ?襲われたらどうするんだ」

「最初の日みたいに?大丈夫ですよ、カナはまだ小さいし。香水臭くもないし、いい香りがするから落ち着くんです」

「……おい、まさか耳とか尻尾とか触らせてないだろうな」

「それが、検証の一環で。どの器官からフェロモンが発揮されてるか、とか触られることでより量が増えるか、とか確認しました」

「おい!」

「もちろん他の女性には触らせませんよ?カナは()()()ですから」

「……一応、わかってはいるな?」

「学園に入る前、親からキツく言われてます」

「ならいいが……」


まだどこか心配そうなピノを余所に、ムツキはカナの手伝いに向かう。

「なんのお茶にするんだ?」「差し入れがパウンドケーキだから、緑茶でもいいかもって」「いいね」

小さいカナがチョロチョロ動き回る姿を見てると、つい本能で捕まえたくなる。

自分がどうこう考えるよりも早く、尻尾が彼女の腰に巻き付いてしまうのだ。

「ムツキ、動けなくしてどうするの」「じゃあ俺がやるよ」「私は?」「このまま捕まえとくか」「なんでよ」

二人のやり取りを見ていたピノは、彼らの行く末を思って深いため息をついていた。


◇◇◇◇◇◇◇


ある日、カナは珍しく一人で校舎内を移動していた。

この場合の「珍しく」は、自分の意思で研究室から出て来た事に掛かっている。

基本的に魔法バカなので、誰かに言われない限りひたすら研究室で書籍を漁っている。

実践面への興味がそこまでないのはまだ救いか。

研究室内のお菓子が減ってきたことーー最近ずっとムツキといるので、お菓子の減る量が倍になったーーと、気になる研究者の著書が届いたことと、ついでにいつも話を聞いて確認しているムツキのモテっぷりを直に見てみようと思ったのだ。

用事が三つも重なれば、扉を開けることもそれほど嫌ではない。と思うたぶん。


受け取った著書はそのまま研究室へ転送した。

自分の分とムツキの分のお菓子も、買うと同時に転送する。

これで二つは済ませたし、後はムツキのモテ自慢を観察するのみ。

そう考え、はたと気付く。

……ムツキ、どこにいるんだ?

会う時はいつもカナの研究室、しかも彼女はほぼ部屋にいるので、ムツキが部屋にやってくるのみだ。

検証のためスケジュールは把握しているものの、今日の昼休憩をどこで過ごすかまではさすがにわからない。

ここまでしといて、無駄足とか!

どうにか探し出したいものの、適した魔法がある訳でもなし。

こうなるとわかってたら、魔力でマーキングしといたのになぁ。

いや待てよ。ムツキの魔力は散々研究して把握してるし、魔力から本人を探す魔法を構築できるのでは?

新たな魔法の可能性を考えつくと、途端にテンションが上がりやる気が満ちる。

よし、ここはひとつ気合を入れて、なんとしても昼休憩が終わるまでに『ムツキ探索魔法』の確立をーー。


なんて考え始めるより先に。

喧騒が耳に入った。


誰かが中庭の方でモメてるらしい。

周りの人たちも気付いたらしく、注目し始めた。

やる気に……満ちてたのに……。

魔法の可能性を追究したいのは山々だが、カナとて()()()()()()()()()()()()()()

揉め事に気付いたなら仲裁くらいはしなきゃな。

だだ下がったテンションのまま、騒ぎの元へと歩き出した。





騒いでるのは女生徒のようだった。

何人かがそれぞれに付き、声高に主張をしている。

その女生徒たちに囲まれて途方に暮れているのがーー


「あら」


探そうとしていたムツキだった。

つまり、モテ自慢の一幕。

魔法を構築するまでもなく見付かった。これはもしや、聞き込みでもしたら簡単だったのでは?

ガッカリしながら仲裁のために近付くと、声を掛ける前にムツキに気付かれた。

「ーーーーーっ!」

「うわぁっ」

駆け寄り、抱き上げられ、首筋に顔を埋めてくる。

ムツキの奇行に、揉めていた女生徒たちも呆気に取られた。


「ムツキー?何?」

「もう駄目……あの辺、匂いが混じり合って……」


涙声になって訴えるムツキに、なるほどと合点がいく。

人族より五感の鋭い獣人にとって、香水などの香り付けは時に暴力的なものとなる。

ましてや、彼に好かれようと張り切って香水を纏わせた女生徒が複数詰め寄ってきたのだ。

呼吸を止めて対応していた限界の状況に、いつもいい香りのするカナが現れたのだから、それは駆け寄るだろう。

よしよし、といつもなら腕を撫でるが、抱き上げられている状態なので頭を撫でた。

二人の様子を見て、当の女生徒たちも野次馬たちも呆然としている。


一番最初に我に返った女生徒が、悲鳴のように叫んだ。

「ムツキ様!何をしてらっしゃるのです?!そんな破廉恥な、離れてくださいませ!」

破廉恥、とは。この縦抱っこのどこに色気があると?

納得いかないカナだが、今それを言うのは火に油を注ぐ行為だろう。

女生徒に釣られ、他の生徒たちも騒ぎ出す。


「そうよ、ムツキ様こちらに戻ってちょうだい!」

「誰ですのあのちっちゃいの!ムツキ様に触れるなんて、厚かましい」

「こうしちゃいられませんわ、あの二人を引き剥がしましょう!」


最後の言葉にギョッとする。引き剥がす?!これを?

加減はしてるもののギュウギュウに抱き着いてるし、いつものごとく尻尾と巻かれてる。

獣人の腕力でしがみついてるムツキを、どうやって離すと言うのだ女子たちよ。

しかし、言葉に煽られた女生徒たちは賛同してこちらに向かってくる。

あ、匂いの元がやってくるってこと?ムツキがまた苦しくなるかも……。

しがみついてくるムツキの頭を反射的に抱き締める。すると、ムツキが小さく「煩い……」と呻いた。


「ムツキ?」

「煩い……煩い、煩い煩い!なんで俺に関わってくるんだ、俺は何も求めちゃいない!」


カナの首元に顔を埋めたまま、ムツキが怒鳴り出した。

その怒声に応じて、ムツキの周りの風が渦を巻き出す。風は勢いを増し、中心にムツキとカナを置いたまま猛威を振るい出した。


「ムツキ!落ち着いて、魔力が暴走してる!」

「近寄ってきてくれなんて誰にも言ってない、取り合ってくれなんて頼んでもない!なのになんで俺のことで揉めるんだ!俺が悪いのか?!おまけにカナまで取り上げようとするのか!」

「ムツキ!」


入学してからというもの、ムツキの環境は大変騒がしく煩わされ続けていた。

カナを紹介され、彼のフェロモンに反応しない普通の対応に癒やされはしたものの、日常の不満は彼の心に溜まっていく。

女生徒の媚びる視線、男子生徒の嫉妬の言葉、騒ぎの中心であるムツキへの苦言。

それらがピークに達した結果、魔力の暴走が風を呼び彼のフェロモンを纏った嵐へと変化した。

物理的な風と脳内へ届くフェロモンが伝える彼の『怒り』、それらをぶつけられた人々が次々と倒れていく。

嵐の中心からそれらを目撃したカナは、ムツキに電撃を食らわせようとしてーーやり方を変更した。



怒りに震える彼の丸い耳を、力いっぱい引っ張ったのだ。



「いだっっ?!」

「ムツキ!ほら、しっかりしなさい!」


弱点を引っ張られ正気に戻ったムツキへ、カナの叱咤が飛ぶ。

「嵐なんか起こしてる場合じゃないでしょ?!呼吸を鎮めて、魔力を落ち着かせなさい!」

「え、あ、あぁ……」

少しだけ風の勢いが収まったが、まだ周囲では吹き荒れている。

学園に入ったばかりの魔法に不慣れな獣人では、自力で暴走を収めることは難しいだろう。

仕方なく、カナはムツキの頭をまた抱き寄せた。

「私が手伝ってあげるから。まず落ち着くことが大事よ。目を瞑って、私の香りだけ感じ取ってなさい」

「……うん」

「深く呼吸して。体に平安を取り込むようにして。身の内にある魔力の塊を、まあるい形に整えていくの。イメージできる?」

「うん」

「丸くなったら、今度はそれを徐々に小さくしていきなさい。水分が抜けるでも、風が抜けるでも、ムツキのイメージしやすい形でいいわ。まあるく、ちいちゃく。魔力を収めていくのよ」

「……」


カナの誘導に従い、ムツキは自身の魔力を収めていく。

まあるく、ちいちゃく、と言われると、どうしてもカナの小さな頭を浮かべてしまい笑ってしまった。

「何よ。一人で出来るなら手伝わないわよ?」

「いや、手伝ってほしい。お願いします」

「なら真面目にやりなさい。このあとは荒らした中庭の復興作業が待ってるんだから」

「そうだった……」


視界に入るだけでも相当な荒れ方だ。

魔法を使えるし手伝いもしてくれるだろうが、それでも相当な作業のことを思うと、ムツキは整えていた魔力の塊が少しだけ歪になってしまった。




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