カナについての考察
「あの時の嵐の出来方を思うと、条件が整えば獣人のフェロモンを魔力に混ぜて魔法を行使する事が可能よね。あの場にいた人たちも、あのフェロモンからは『好意・誘惑』より『怒りの衝動』を感じたって言うし。フェロモンに精神魔法が加わることによって、魅了魔法を構成できるのかしら……?」
「だいぶ条件が限定的だろうけどね。アレを再現しろって言われたら俺は逃げるぞ」
「私を置いて?」
「カナを連れて」
「逃げる意味なくない?」
相変わらずムツキの膝に乗り、カナはあの時の嵐の考証を続けている。
ムツキはと言えば、あの時の暴走がキッカケだったのか、無闇矢鱈と振りまかれていたフェロモンが効果を減らした。
恋愛感情の誘発ではなく、あくまで好意を齎す程度のフェロモンへと変化したのだ。
おかげで日々勃発していたムツキの取り合いは沈静化し、めでたく寮に戻れることとなった。
なお、自分で念じれば以前と同じ効果のフェロモンを出すことも可能で、引き続き考察の対象となっている。
なので、カナの研究室に入り浸る生活も変えてない。
「カナ、研究が一段落したなら一緒に授業に出ないか?」
「んん?」
「カナは天才で授業なんて受けなくてもいいのかもしれないけどさ、他の奴らと一緒に講義を聞くのもたまにはいいと思うんだ。俺もカナと授業を受けてみたいなって」
「んんん?」
せっかく同じ学園にいるのだから、研究室以外でもカナと過ごしたい。
そう考えて提案したのだが、カナの反応は微妙だった。
「受け入れる」でもなく「拒否する」でもなく、強いて言うなら「訳がわからない」だ。
「?」「??」
二人して首を捻っていると、「おーいドーナツ買ってきたぞー。てどうしたー?」とピノが入ってくる。
「ピノ様ぁ、ムツキが私の授業を受けたいって言うんですけど、今から受付って出来ます?」
「ん?まぁいいんじゃないか?定員割れてるだろ」
「余計な一言付けないでください。出来るってムツキ。でもスケジュール空いてるの?」
「んん?」
カナは納得し、ムツキの膝から下りてドーナツのためにコーヒーを淹れに行ったが、ムツキはまだ疑問顔だ。
ピノが残念そうな視線を向ける。
「ムツキ……お前、カナのことなんだと思ってるんだ?」
「なんだ、って……天才少女、でしょう?」
「違う。〝元〟だ。元、天才少女」
「元……?」
「アイツ、あれでも18歳だぞ」
ピノの言葉に、ムツキの思考が停止した。
体も一緒に硬直する。
やはりな……とピノはため息をついた。
薄々思ってはいたが、ムツキのカナへの接し方は『子ども』をあやすやり方だった。
だがそれは年齢を知らないからであって、カナの実年齢を知り成人女性であることを思うと、大変危うい触り方をしている。
カナ自身はまったくそちら方面に関心がないので気にしていなかったが、知らされたムツキはどうだろうか。
思考停止が解けた途端、ムツキは顔を真っ赤にした。
だよね。
「と、年上っ?!」
「元、天才少女だからな。飛び級で卒業して院生もやって、今は学園の講師だ」
「講師?!」
「持ってる授業は2コマくらいだがな。受けるのか?」
「いや待って、待って!え、18歳?!」
「何歳だと思ってたんだ?」
「11歳くらいだと……!」
「11歳だとしてもちょっと過剰なスキンシップだったがな。お前、さっきまで18歳を膝に乗せてたんだぞ」
「っっっっ!!」
あまりのことに、ムツキは頭を抱えて蹲る。
脳内を巡るのは、自分がカナにしていた数々のスキンシップだ。
膝に乗せ、腰を抱き寄せ、髪や首元に顔を埋めていた。手も繋いだし、尻尾も絡めてる。
縦抱っこはセーフか?!いやその前にめっちゃ抱き締めてた……!
「落ち込んでるとこ悪いがなムツキ。アレ、どうする?」
「……アレ……?」
「獣人て、異性に耳とか尻尾触らせるの、〝求婚の証〟だろ?」
「ーーーーーーっっっっ!!」
一番盛大なやらかしを思い出した。
学園に上がる前、母から散々言い聞かされた注意だ。
『獣人にとって耳や尾はアイデンティティーそのもの、誇りに等しいのです。それを触らせること、すなわちその者に全てを預けると言うことです。軽々しく触らせてはいけません。特に異性に触らせるのならば、その女生と生涯を共にする覚悟で許可するように』
そう言う母の耳は、父のお気に入りだ。
父にだけ触らせる、そういうことだと分かっていたのに……!
「子どもだと思ってたから『対象外』って言ってたんだろ?研究の一環としてだし、俺は見なかったことにしてやってもいい」
「教官……」
「ただ、よく考えろ?研究の一環で子どもなら、カナ以外にも触らせたのか?」
「…………」
実際、研究の一環として触らせたあともカナがふわふわ感を気に入ってたようなので、触ることを許可していた。
尻尾なんて、彼女が触り出す前に巻き付いてた。
初日の、会って5分もしないうちに、だ。
それがカナ以外ならどうなっていたか?
研究の一環と言われても触らせる訳がない。
研究室に入り浸り、考察と検証と言いながらお菓子を食べたり雑談したり、毎日いそいそと会いに来たのか?
何かを考えるまでもなく、自分と言う生き物はカナを求めていた。
花のような香り、がカナのフェロモンだと言うのは本当かもしれない。
思うことがあり過ぎてクラクラする頭を抑え、フラフラとカナの元へ歩く。
コーヒーは順調に用意されたらしく、カナは笑顔で振り向いた。
「ムツキの出番はないわよ!」
「……うん」
「うぬ?元気なくなった?どうしたの?」
心配そうに近寄るカナを見ると、勝手に尻尾が腰に巻き付き、そのまま本体を腕の中に閉じ込めてしまう。
小さいカナの頭に顔を寄せ、いつもの花のような香りを堪能すると少し落ち着いた。
「ムツキー?どうしたー?」
ポンポン、とカナが背中を叩いてくれる。
それで少し、勇気が出た。
「カナ、結婚してほしい」
「なんて?」
ちなみに、彼はまだ結婚出来る年齢に達してないのですが、本人はいっぱいいっぱいなので気付いてないです笑




