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なくなっちゃった……

 ブラックドラゴンの降り立った街は既に瓦礫の海と化していた。


「敵はブラックドラゴン一体だ! 倒せずとも体力を削り、結界の外へ押し返せッ!」


 ブラックドラゴンの周囲を生徒たちが飛び回り、学院の教師と思わしき長身の男性が指揮を執る。


 ブラックドラゴンが向きを変えるために、両足を踏み変えるだけで地面が大きく揺れ、翼開長70Mはあろうかという両翼でヒビ割れたビルを粉砕した。


「≪聖剣≫よ――ッ!」


 ジェイラスは光の剣を巨大化させて、走り抜けざまにブラックドラゴンに斬り掛かる。

 ……が、片翼を浅く裂いただけだった。


「また、強くなっているのか……ッ!」


 突然、ブラックドラゴンの周囲の温度が急激に上昇した。


「ブレス前兆! 総員、回避に専念……ッ!」


 その直後、空中を飛び回る生徒たちを一掃しようと、高温の火炎が横薙ぎに放たれた。


「≪聖鎧≫、皆を守って……!」


 シアが両手を広げると、鎧の一部が空中へ飛び出し、壁となって炎のブレスを防いだ。


 しかし、その力を削ぎ切るに至らず、周囲に飛び散り、アスファルトの地面を、コンクリートの壁を容易く溶解する。


「ブレスを放ち切った今がチャンスだ! ありったけの魔力を放てッ!」


 教師と生徒たちが突撃する中、シアは逃げ遅れた少女の姿に気が付く――。


 同時に頭上から、溶解したビルの一部が少女目掛けて崩落した。


「ダメ……!」


 ガタガタと震え、動くことも声を発することもできなかった少女は硬く目を閉じた。


 そして、痛みを感じ無かったことに不思議そうに眼を開く……。


 そこには瓦礫を受け止めて立つ騎士の姿があった。


「怪我は……ない?」


「お、お姉ちゃん……手が……」


 高温に熱せられた壁は赤く光を放ち、シアの片腕を焼いていく。


「早く……行って……」


 少女は自らの身を守る為に走り出す。

 それを見送ってシアは全力で魔力を放った――。


 シアの絶叫と共に、辺り一帯が凍り付き、崩落した壁と共に受け止めた腕も砕け散ってしまう。


 そのまま、仰向けに倒れた。

 上空では未だ決しない戦いが繰り広げれている。


 シアは凍り付いた地面から引き剥がした手で空を仰ぐ――。

 第二関節から先が無くなっていた……。


「あぁ……。なくなっちゃった……」


 魔法は決して都合のいいものではなかった。

 扱いを謝れば、自分すらも傷付けてしまう。


 氷に触れない為、炎に焼かれない為、だから彼らはまず、飛ぶことを学ぶのだ。


「シアぁぁーーーッ!」


 意識が途切れる瞬間、シアの名を叫ぶ声が駆けて来た。

 そして、無くなってしまった手を大事そうに握る。


「シア! しっかりしろッ!!!」


 ――そこには守りたかった人が大粒の涙を浮かべていた。


「なんで……」


 なんで、ここに来たの?

 そう言いたかったが、言葉が上手く出てこない。


 違う世界の人がこんな理不尽に巻き込まれていいはずがない。


 シアはずっとそう思っていた。


 いつだって、神様は奪っていくばかり。家族も友達も――。


「キミだけは、せめて……」


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