ダルタニャンニャン……? なんて?
その時だった――。
自販機のボタンを押した直後、ポムンと情けない音を立てて、騎士の服をきた長靴の猫のようなぬいぐるみが現れた。
――ぱんぱかぱーん!
奇妙な効果音が聴こえた気がした。
俺は当然仰け反って驚いていたが、シアでさえも目を丸くして、クルクル、シュタっと着地する長靴の猫を見ていた。
そして、自販機から『大当たりー!』と音声が流れる。
「は!? え、なにッ!?」
「“勝確BGM”が発動したニャッ! やるニャご主人、さっそくスキルを使いこニャすとは!」
「スキル!? え、俺のスキルって自販機を当てるスキルなの!?」
すると、シアがニャアニャア煩い猫を抱き上げる。
「かわ…いい……」
頬を赤らめて猫モドキにスリスリするシア。
君の方が可愛いよ、シア……とか、心で思ったが口に出す度胸は俺にはない。
「ちょちょ、なにするニャ!? ぐえぇ!? 何なのニャ、この娘ぇ! 力、強ぉ!? 出るぅ! 出るぅ! それ以上締められたらなんか出るニャァ!?」
「あ……、ゴメン」
シアが可愛くて、猫がやかましてく、シアが可愛い。
……そうこうしている内に、“もう一本”の時間は過ぎてしまった。
「あーあ、せっかくこの【ダルニャニニャン】が登場しニャというのに」
「ダルタニャンニャン……? なんて?」
「ご主人、知らんのかニャ、あの騎士の物語を!」
スゲー、どうでもいい……。
いや、そんなことより……!
「俺のスキル、こんなのかよォーーーー!!!」
取り合えず絶叫してみた――。
ダルニャニニャンが『この世界の女は恐ろしいニャ』とか、言って、返って行った後、彼女に案内されて教室に行く。
意外だったのは、この学院には複数クラスというものがなかったこと。
廊下を歩きながら、お馴染みの位置に刺さった、教室プレートを幾つも見かけたが、殆どが空き教室。
あれかな、異世界も少子化問題の真っ最中?
1年Aクラス――。
そう書かれたプレートの教室に入る。
ステナビによれば編入手続きは完了しているそうだが、先生に挨拶を……と思って、シアに尋ねてみたが、教室で待てばいいと流された。
シアが俺に先立って教室に入る。
その後を俺が後を尾いて入室した。
生徒たちはシアを素通りして俺を不思議そうな目で見ていたが、直ぐに興味を失ったのか、談笑に戻る。
なんか思ってたんと違う――。
シアのステータスには≪公爵家≫とあった。
地球のそれと同じものだとすると、王族の次ぐ身分のはずだ。
俺は兎も角、普通挨拶を交わすもんじゃないの?
定番の≪学院で身分は関係ない≫的なアレなんだろうか。
まぁ、わかってたさ。
これがシアの言う“魔眼持ちは嫌われる”ということなのだろう。
なんつーか、スゲー嫌だな、そういうの――。
「セーダイ、一緒に座ろ」
「あ、うん」
俺は自然と敬語を止めていた。
その時、初めて敬語を止めてと言ったシアの気持ちがわかった気がした。
俺とシアは並んで長机に座る。
日本でも大学の講堂なんかでよく見る長机だ。
すると突然、凄まじい金髪イケメンが俺たちに話し掛けてきた。
「キミは見ない顔だね? もしや編入生かな?」
「あ、はい。そうです。今日から……」
俺は立ち上がって名乗る。
「セーダイ・バツマルって言います。よろしく」
金髪イケメンは握手を求めた俺の手を眺めただけで、差し出した手を返すことはなかった。
「セーダイ・ばつまるま? んー、なんだか発音し難い名前だね。私はジェイラス・ルア・フォードだ」
≪ルア≫ということは、こいつも貴族か。
ざっくりとだが、常識も俺の記憶に言語と共にインストールされている。
流行り廃りとか一々汲んでくれるほど完璧なものではないが、どうやら目の前の金髪イケメンは俺を思いっ切り軽視しているみたいだ。




