俺ってばマジでクソ雑魚ナメクジやんけッ!?
「ね、少し話をしよ?」
突然、前を歩く彼女が振り返ると、驚く俺の手首を掴んで強引に中庭っぽい場所に連れて行く。
ふひぃ、女の子の手ってこんなに柔らかいんだ……。
そこには、昇降口付近の屋内スペースのような場所で、自販機が設置されていた。
「何、飲む?」
「あ、いえ! じ、自分奢ります!」
急にジュースを奢ると言い出した女の子。
ブサメンにも矜持はあるのだと、ステナビを取り出したが、『いいから』と止められてしまった。
俺と女の子は向かい合うようにベンチに座った。
どうしたらいいのかわからず、プルタブの形状が地球と一緒だ、などとどうでもいいことを考えていたな。
「魔眼というのは、対象のステータスを見る能力」
この子、唐突に話し出す癖があるのかな?
「隠蔽されたものも見ることができる」
それって……。
「あなたは異世界の人」
何と答えるべきが思案したものの、動揺してしまった時点で肯定しているも同じだという結論に至った。
「そう、ですけど……、何かマズいですか?」
「困ってるかと思って……」
想定外の答えが返って来た。
しばらく考えてありのままの現状を離すことにする。
「それは、その通りです。今日、こっちに来たばかりで。あ、でも、このステナビを貰ったのでなんとか」
「……そう」
一瞬だけ彼女は寂しそうな顔をすると、ふわりと微笑んだ……ように見えた。
あぁ、俺がイケメンだったら付き合ってくれたのかなぁ……。
相変わらず女々しい考えが脳裏を過る。
「私のステータスも見て。見てしまったお詫び。普通は見られないけど、相互承認で見られる。……ステータス開示を承認」
「そ、そうなんですね。えっと、……承認?」
アタラクシア・ルア・ブレイド
称号:聖鎧の乙女、精霊の申し子、ブレイド公爵家三女
HP 3756
MP 1920
力 82(+1408)
守り 23(+2899)
速さ 101(+899)
魔法 743(+1789)
スキル:聖鎧、魔眼
習得:火魔法Lv.4、水魔法Lv.10(MAX)、雷魔法Lv.5、風魔法Lv.7
「ブフォッ!?」
彼女のステータスを見て、自分の時と同様吹き出した。
括弧の意味は分からんが、なんなのよこのステータス!?
俺ってばマジでクソ雑魚ナメクジやんけッ!?
どうなってんの、白い人ォォッー―!?
「あ、ああぁあ、アタラクシアさんは、お、お強いんですね~」
彼女は俺のステータスを見て、どう思ったのだろう。
『困ってそう』というのはつまり、弱すぎて……って、そういうコトォ!?
「名前、シアでいい」
「し、シアさん……は、その、どうして俺を――」
「シア。さんはいらない」
「し、シア…………さん」
「分けてもダメ」
シアさんは強情に“さん”付けを止めさせた。
無表情だが、ちょっとふくれっ面の怒り顔はただただキュートだ。
「こほん……ッ、シアはどうして俺を助けてくれたんです?」
こちらを睨んで、敬語を使ったことを非難する視線を送る。
距離感って大事よ?
さもないとシアのファンに虐められちゃうよ、俺?
「前に……」
一言呟いて、シアは変わらない表情のまま俯いた。
「前に……友達がいた。魔眼持ちは嫌われる……。けど、その子は私に、いつも一人の私に……声を掛けてくれた」
人は自身のアイデンティティを確立するために自分と他者と差別化をする。
そして、それが行き過ぎれば差別に変わってしまう。
自身の能力が数値化されてしまう世界というのは、俺が考えるよりもずっと恐ろしい世界なんだろうな……。
見られずに済むのなら見せたくはない、そう考えるのは当然のことだ。
そして、いた……とは、もういない、ということ――。
「その子も異世界人だった。明るくて優しくて……友達だった」
彼女は悲しい顔などしていなかった。
それでも、心の奥底で泣いているのがわかった。
「それで、俺を……」
「彼女がしてくれたことを少しでも誰かに返したくて。駅でキミを見つけた時、もう一度チャンスが貰えたんだって、……そう、思った」
なんて不器用な子なんだろう。
見た目は宝石のように綺麗なのに、俺なんかよりずっと強いはずなのに……。
しかし、俺に上手に彼女に接するような処世術はない。
空になったジュースをゴミ箱に入れて、俺は自販機を眺めた。
「俺の国では≪恩は人の為ならず≫って言葉があるんです! 良いことをすると、必ず帰って来るよって意味なんですけどね」
本当は“情けは人の為ならず”だけど、なんか≪情け≫って言葉を使いたくなかった。
「巡り巡って良いことは返って来るって意味です。きっと、シアにも良いことがありますよ!」
振り返ると、彼女は安らいだような、泣きはらした後のような、そんな表情をしていた……。




