第一回セーダイ会議
グランピングエリア――。
「さて、お前たちに幾つかの相談と提案がある」
シア、ポーリーン、ラヴィ、エリア、レニーは後はもう寝るだけとリラックスした面持ちで私を見ている。ついさっきまで他愛のない話題で過ごしていた空気を引き締めるように話題を振った。
「まず、私とセーダイには異なる世界での前世の記憶がある」
いきなりの大暴露。
しかし、ここを躱しては本題には入れない。
「そういえば、ジェイラスと対峙した時もそんなことを……」
この中でその事実を知っているのはシアだけだ。私の目配せに気付いて、シアが擁護してくれる。
「ロミちゃんが言ってるのは本当のことだよ」
「異なる世界の記憶……まるでアニメや映画のようなお話ですわね」
「信じられないならそれでいい。ただ、このロミ・マッコーキンデールはお前たちより遥かにお姉ぇさん!だった、ということを念頭に置いてこれからの話を聞いてくれ」
“お姉さん”に思わず力が入ってしまう。呑み込めたのか否かは別として、何故かエリアがガーンって顔をしているのは解せない。
「皆も見ていた通りジェイラスに聖鎧が渡ってしまった。きな臭い気配がぷんぷんだ。シアが狙われなくなったことは喜ばしいが、万が一に備えセーダイには強くなって貰わなければならない」
ちなみにシアには聖鎧のコピーを用意した。劣化版だが当初のBクラス落ち阻止という目的は果たされるだろう。
「――でだ。今回の経験からセーダイの秘密が一つ明らかになった」
シアがコテンと首を傾げて呟く。
「秘密……セーダイの?」
「そうだ。聞いて驚け――」
私がわざとらしく焦らすものだから、このノリのいい連中は“固唾を飲んで見守る”というやつを実演してくれる。子供のお遊戯に付き合ってる印象だな。
「奴のエネルギー源は……リビドーだ!」
シア以外の全員が仰向けに或いは仰け反ってぶっ倒れた――。
見事なテンプレ、アッパレである。
「ろ、ロミちゃん? リビドーの意味、わかっていますか?」
真っ赤になりながらあせあせとエリアが私に尋ねる。
「だから私はお姉ぇさん!だと言っただろう」
「リビドーってなに?」
「うむ、快楽を求める本能的な欲求のことだな。つまり……エッチな気持ちだ!!!」
レニーが『ブフォ!』っと吹き出す。
「いや、ええっと、一応確認したいんだけど、冗談だとかでは……ないよね?」
「マジもマジ。大マジだ」
「エッチな気持ち……。セーダイはエッチな気持ちで強くなれるの?」
「……もう、セーダイったら♥」
何を想像しているのか、ポーリーンがモジモジしている。そして、ラヴィがふんすふんすと息巻いて、エリアに代返を要求した。
「ええぇ……。そ、そんなこと聞くんですか? わ、わかりました……。ロミちゃん、性的欲求は高めれば良いのですか? それとも……その……ううっ」
エリアが涙目になったところでレニーが察したのか言葉を繋いだ。
「それとも発散させた方が良いのか……ってことですかね? 生徒会長」
顔の大半を占める大きな眼鏡が飛んでいくんじゃないかと言うほど、首をぐわんぐわん振って見せるラヴィ。やる気過ぎてちょっとコワイ。
「確かに重要な部分だな。高める為にはセーダイをムラムラさせた方が良いんだが、全く発散させないでいると……人体と言うのは不思議なものでな、リビドーを不必要なものだと判断して失われてしまうことがあるんだ」
「よ、要するにある程度は発散させる必要がある……ということですわね!」
「その通りだ――!」
第一段階の話を終えて、ここまでの様子を見ると、こういったことに割と冷静なレニーと、性知識に乏しいシアだけがピンと来ていない様子で、それ以外の面々は受け入れ……というか、むしろ喜んでいるようにさえ見えた。シアには追々個別のレクチャーが必要だな。
「発散ということはさ、私たちにエッチなことをさせたいってこと?」
「端的に言えば、そうだな。私は心はお姉ぇさん!でも、体は子供だ。お前たちがやるしかない。ただ、無理強いはしないぞ。セーダイは童貞拗らせ野郎だから性欲だけは立派でも誰彼構わずってタイプじゃない」
「ええ、セーダイ君はそういうタイプではありませよね」
「別に子供をこさえろとは言っていないからな? 時々抱き着いてやったり、手とか口とかおっぱいとかで発散させてやってほしい」
「手、口……お、おっぱいで? そ、そんな方法がありますのね……♥」
お股に手を入れてモジモジしてる癖に、ポーリーンの奴の性知識はなんか偏ってるな。
「――よし! 自分は構わない!という者がいれば挙手してくれ!」
すると、レニー以外の面々が手を上げた。
「ごめんね。ちょっと私はそこまで踏み込めないかなぁ」
「いや、無理はしないでいい。その代わり私に協力してくれ」
「わかった! 色々シチュを用意したりとかの舞台係みたいなもんだね!」
「そういうことだ」
シアは“セーダイのため”という理由だけで手を上げている気がする。まぁ、ベタぼれみたいだし想定内。ポーリーンの奴はもう完全に覚悟が決まっている。むしろこちらがブレーキ役を担わなければ早々に孕みそうな勢いだ。エリアはおずおずと手を上げている。若干、義務感みたいなものもあるようだが、可愛い後輩の為……と言った類の肯定的な感情だろう。そして意味が分からないのがラヴィだ。セーダイと過ごした経験が一番浅いくせに何故か好感度が初期マックスになっているという……。まぁ、薄々正体はわかっているので、やりたいようにやらせてみるとするか。
それでは、ここからは第二段階に移行だ――。
次の課題は“序列化”である。
要するに誰が最初の相手になるのかって話だ。その目的は……例えるなら、恋愛ゲーム初心者がいきなりハーレムルートを目指して大量の爆弾を抱えるのを阻止する、みたいなことだ。一番はこの子、二番目はこの子……と言った具合に奴の中に明確な順位を植え付けることで罪悪感を軽減し、今後、ここにいる面々の関係性が縺れる可能性を未然に防ぐことができる。
一見クズ養成みたいだが、時間が経てば心の閾値も下がって安定した関係性に落ち着くはず。そのくらいにはセーダイを善良な人間であると見繕っての判断である。
私は順番の必要性を懇切丁寧に説明してみる。幾らかの反発があるかと思いきや。皆一応にシアが一番になるべきだと言った。
「私がセーダイの……一番♥」
「次はわたくしですわね!」
「待ちなさい、ポーリーン。生徒会室長の私がセーダイ君のお相手をします」
「ちょっとエリアさん、急に何を言い出しますの!?」
「え、なんですかラヴィ様? ――だ、ダメです! 貴方様にこのようなことをさせる訳には!」
「生徒会長までぇ!?」
二番目は揉めた。これは予想外……決着が付かなかった為に二番目以降の序列は保留となった――。
そして、満を持しての第三段階――。
情報を共有し、将来のリスクの可視化して、直近の課題の重要性を周知させる。転生前に大学の講義で私が良くやっていたことだ。
「皆が協力的でありがたい限りだ。……とこで、シア」
誰が二番目なのかと揉めていた連中が名指しによって一斉にシアに注目する。
「お前とセーダイ、そもそも付き合ってすらないよな?」
全員が固まり、そして……絶叫した――。
シアが真っ青になっている。
「ど、どういうことですのシアさん!? わたくし、てっきり……!」
「そうです、もうとっくに恋人関係なのだとばかり! ――どうしました、ラヴィ様? え、仕切り直し? ……た、たしかに!」
仕切り直しとは、誰が序列一位なのか……ということだろう。だが、この最も基本的な話題を三つ目に持って来たのには理由がある。私は両肩を掴まれてぐわんぐわんと揺さぶられる顔面蒼白のシアとパニック状態の愉快な連中を大きく手を叩いて黙らせた。
「はいはい、そこまで。落ち着けメス共。レニー、このことに付いて説明できるか?」
「私ィ!? あぁええっと、そうだな……。セーダイ君とシアちゃんから聞いた話を繋ぎ合わせると……」
流石新聞部、耳聡い――。
レニーの話はこうだった。
世間的には誤報扱いされた、最初のラジアル・クラウンの事件によって結界が拡張され、結界の外になろうとしていたシアの実家をセーダイは結果的に救うことになった。セーダイの入院中、シアは『私、何でもするよ』と言って、女の子慣れしていないセーダイは抱き着かれ、気恥ずかしさからシアを遠ざけようとしたらしい。そんなセーダイに対してシアは『私のこと嫌い?』と尋ねたところ、セーダイはこう返した『大好きです!』と――。
話しを終える頃、一同はあちゃー……という感じで頭を抱える。
「そ、それは……仕方ないと言えば、仕方ないのかもしれませんわ」
「セーダイ君の自己評価が低いことも原因の一つなのでしょうね」
ラヴィも流石に流石に擁護できない様子。
「でもさ、じゃあどうするんだい? なんか今更って気もするんだけど」
「今更と言えばそうだな。シアはとっくに付き合ってるつもりだし、セーダイもシアの好意が分からん程バカじゃない。だけど曖昧なままじゃ序列二位以下の面目が立たないだろ?」
「なるほど、たしかに」
「という訳でシア!」
「は、はい……ッ!」
「セーダイに告白しろ! ちゃんとした形で! 逃げ場のない感じで!」
“第一回セーダイ会議”はこうして閉幕した。明日はリゾート三日目、奇しくも最大の山場となるのであった――。




