私は“少し違う”
フードを被った男がその場に現れた直後から、その異様なオーラに気付いたシアはロミを背に隠して臨戦態勢を取っていた。
「貴方は誰……? テロリストたちの仲間?」
「誰、だと……? 少し会わない内に偉そうなことを言うようになったじゃないか、シア」
男がフードを下ろすとその表情に二人は身震いした。
「ジェイ……ラス……」
男は間違いなくジェイラスだった。ただ、その顔は草臥れていて老人のようにも見え、かつて貴公子などと呼ばれていたはずの面影は微塵もなかった。
「上の連中は失敗したようだな……。まぁ所詮、有象無象の集まり。お前たちを孤立させてくれただけでも役には立ったと考えるべきか……」
「お前、まさかテロリスト共を先導したのか……!」
「本当はシアを人質にしてあの苛つく男から聖鎧を奪い取る算段だったんだが、お嬢さんのお陰で手間が一つ省けた」
「そこまでして……」
「そんなことより、聖鎧はサルベージできたんだろう? さっさと寄こしてくれ。それは私の物だ」
ジェイラスは怯える二人にゆっくりと歩み寄る――。
「全部知ってるって訳か。でもな、科学者は……常に奥の手を隠してんだよ! ――亜空間収納ッ!!!」
ロミが手をかざすとジェイラスの頭上に1立方メートルの鉄の塊が二段重ねで出現し、重さにして約15トン、大型トラックと同等の質量が降り注いだ――。
「おっと……」
ジェイラスは短い呟きの直後、頭上から落下した鉄の塊に押しつぶされる。
「シア、逃げるぞッ!」
シアはロミの叫びに頷いて、ロミを抱えてその場を飛び立とうとする。しかし――。
俺たちは相棒の知らせに地下へと降りた。
エレベーターが到着するのと同時に変身して全力でシアたちの元へと駆ける。
ジェイラスの背中を視界に捕らえた直後、奴の頭上に開いた穴のようなものから大きな塊が降り注いだ現場を目撃する。ロミの声が響いて二人がまだ無事なことに安堵するが、しかし、その直後、塊が崩れ落ちる。そして、追いついたエリア先輩たちもそこに恐ろしいものを見た。ジェイラスの首が体にめり込んでいた……。
さらには――。
「やるじゃないか。少し驚いたよ……」
全員が言葉を失った――。
即死であっても可笑しくないはずが、ジェイラスはその状態で喋ったのだ。そして、自らの手で頭を持ち上げる。ゴキゴキ、グジュグチュと気味の悪い音を立てて頭を元の位置に戻すと、何事もなかったかのように再び話始めた。
「なんだよ、それ……」
ロミが唇を震わせながら呟く。
「私は【不死】というスキルを持っていてね、どんなに傷を負っても再生できるんだ」
「嘘……。そんなスキル持ってない!」
「……ん? あぁ、魔眼か。残念だけど、そんなもので私のステータスは看破できないさ」
俺は恐怖を振り切り二人の前にジャンプし、ジェイラスに立ちはだかった。
「セーダイ!」
「遅くなって悪かった」
「またお前か……。いい加減、私の邪魔をするのは止めてくれないか……?」
「邪魔をしてるつもりはねーよ。そんなことより、聖鎧を取り返してどうするつもりだ」
ジェイラスから聖鎧を奪ったと言われれれば事実はその通りだし、勇者になることが目的というのも知っている。だが、コイツがその力で何をするのかは知らなければならない。
「勇者になってどうするつもりだ。納得できる理由さえ話してくれれば聖鎧は渡す」
「何度も自分の所有物を取り返したいと言っているはずだが?」
「お前……転生者か?」
それは咄嗟に出たのだろうロミの疑問だった。
神様モドキによって隠匿された≪異世界転生者≫の称号は、魔眼ですら看破できないそうだ。
ロミが俺を同じ転生者だと考えたのは状況証拠からの推測だったし、シアが俺を異世界人だと確信したのは、友人に似た俺の異国風の容姿とシアの持つ≪精霊の申し子≫という特殊な称号が関係しているのだと後になって聞かされた。
「転生者……。なるほど、お嬢さんとそこの男は転生者という訳か。残念だが私は“少し違う”」
「少し、違うだと。どういう意味だ……」
「さてね。私が何者なのかなど一々君たちに話すつもりはない。だが、私が勇者に成らなければならないのは、この世界のためだ――」
世界のため、その回答に全員が言葉に窮する。
「いずれこの世界は滅ぶ。君たちなどでは対処しきれない強大な魔物が生れ、それを打つのが勇者と成る私の使命なんだ」
「出任せを言ってる訳じゃ……ないよな?」
「勿論。誓って真実だ」
ジェイラスの言葉を鵜呑みにはできないが、これ以上は水掛け論だ……。
「ロミ、構わないか?」
「……。すまん、情報が少な過ぎて判断がつかん……お前に任せる」
「わかった……。ジェイラス、聖鎧を渡す代わりに一つ条件がある」
「おぉ! わかってくれたか。いいとも、何でも言ってみたまえ」
「二度とシアを狙わないこと。それだけだ」
「くくく……、ならば交渉は成立だ。聖鎧さえあれば、その女に用はない」
その日の夜、ビーチで花火大会が模様された。
隣で頭に長靴猫を乗せたロミが呑気にジュースを飲んでいた。
「皆無事で良かった」
「お前には感謝しているぞ。パパが一番の大怪我だったからな」
ロミの無事を確かめようとグラハム先生は大暴れしていたそうだ。他の先生の話では何発も銃弾を受けてかなり危ない状態だったらしい。グラハム先生に銃弾なんか効くのだろうかと疑問が浮かぶも、どうやらテロリストたちの使用した銃弾には魔力を阻害する効果が付与されていたそうだ。俺は闇に紛れて奇襲を仕掛けていたお陰で一発も貰うことはなかったものの、マギストたちに戦いを挑んでおいて弱すぎると感じたのは運が良かっただけだと知った。
「エンジェルラダーを使ったのは相棒だ。俺じゃない」
「ふむ、ならばステラに礼を言おう」
『恐縮です』
ネオルミナスシティの中枢とリンクした相棒は、より円滑なコミニケーションの為に人格を獲得していた。そんな相棒に対して『名前がないのは可哀想だ』というロミが“ステラ”の名前を与えた。ステラナビの“ステラ”。安直なネーミングだが相棒は気に入っているようだ。
「なぁ、ジェイラスは本当に手を引くと思うか?」
「首が捥げても死なない奴を倒せるとは思えないしな。あの場でのお前の判断は正しかった。ただ、これで終わりだとは……考えにくい」
尤もだと思った。ジェイラスの言葉が嘘でも倒せない可能性があったし、仮に発言の全て真実だとすると“強大な魔物”という存在が俺たちを脅かしていることになる。さらにアイツは強大な魔物を倒すために勇者に成る必要があるとは言ったが、勇者に成る為に学院の生徒たちにテロリストを仕掛けるような男だ、そんなヤツが皆を守ってくれるとは到底思えない。
「お前が強くなるしかない。ヒーロー……」
「ああ……」
空のディスプレイに大輪の花が咲いた――。
「ところでロミ、早速なんだけどさ……」




