貴方は本当にヒーローだった
「行くぞ、変身――ッッ!!!」
腕時計から増殖した金属が全身を覆ってブルーメタリックに染まる。その光景が戸惑うサイボーグ男と共に天井のディスプレイに映し出されていた。男が振り返り俺の姿に驚いた様子を見せた後、歯をギシギシと噛みしめて殺気の籠った眼差しで睨み付ける。
「あの扉、その姿……貴様、ブラックドラゴンを追い払ったヤツか……。まさか、あのガキが……」
「君はそこの猫と離れていてくれ」
「わ、わかりました!」
女の子は猫を抱きかかえると急いでその場を離れた。サイボーグの男は静かに拳を構える。
「貴様を殴る理由が一つ増えたな。貴様がブラックドラゴンを追い払ってくれたお陰で、こちとら飯の食い上げだ」
「悪いが、追い払ったんじゃなくて倒したの間違いだ」
「抜かせ。型は違うようだがマギストの鎧ごとき、この俺にすら届かん」
男に腹を立てたのか、相棒がすかさず言葉を挟む。
『マナリアクター稼働率100%――。いつでも敵正反応を消滅できます』
「やる気満々のようだけど殺すつもりはないからな。馬鹿野郎の顔を殴り飛ばすだけだ。悪いが出力を抑えてくれ」
『……了解』
拡張の影響か、微妙に感情の籠った声で相棒は同意してくれた。
「俺を殴り飛ばす? 調子に乗るなよ――ッ!!!」
サイボーグの男が拳を突き出して地面を吹き飛ばしながら突進してくる。俺も同じ射線でその拳を拳で受け止めた。衝撃波と放電が巻き起こり海岸道路を陥没させる。
「パワーは互角か、だが――ッ!!!」
もう一つの手が折れ曲がると砲身が出現して、ゼロ距離でビームが放たれる。だが、俺の装甲には傷一つなかった。
「チ――ッ!」
そのまま蹴りと蹴りのぶつかり合いから、猛攻の応酬が始まる。
「なんなんだ、その鎧は! 動きまで良くなってやがるッ!?」
「鎧じゃない……ヒーロースーツって言えよッ!」
打ち出したパンチを両手でガードして男が後方に滑っていく。
「ヒーロー……だと? そんなもん、この世に居て……堪るかッ!!!」
男が自身の胸をこじ開けると、周囲の生徒たちが皆膝を着いて呼吸を乱し始める。どうやらエネルギーを無理やり吸収しているようだ。
「マギストに挑むんだ、それ相応の武装は用意してあるッ!!!」
「近づいたら不味いな、勝利武装≪装甲変換/リボルヴ・マグナム≫ッ!!!」
咄嗟にリボルヴ・マグナムの弾丸を打ち込むが、男の体に達する前に消滅させられた。
『敵性反応の周囲に強力な磁場が形成されています。一種のシールドとして機能しているようです』
突き出した両腕から再び砲身が出現し、一つになった――。
「こいつはブラックドラゴンの皮膚さえ貫くッ! 口ばっかのヒーローなんて、いらねぇんだよォッ!!!」
「なら、口ばっかじゃないことを見せてやる――。勝利武装≪装甲変換/グランドセイバー≫ッ!!!」
「消えろ、クソガキがあああぁぁぁッッッ!!!」
放たれた超高熱のビームが地面を溶解して迫る。
だが、機械剣グランドセイバーがそのビームを真っ二つに切り裂いた――。
後方で着弾したビームが爆発する。
「……馬鹿な……」
そのまま男に突進して顔を殴り飛ばす。
そうして俺とサイボーグ男の決着が付いたのだった――。
生徒たちの許に到達した対人制圧用オートマトンが巨竜の咆哮のメンバーを次々に捕縛していく。同じく得着した救護班に抱き抱えられて衰弱した生徒たちも助けられた。元の姿に戻った俺をストレッチャーに拘束された男が睨んでいた。
「ヒーローか……、ふざけたヤツだ」
「あんた言ったな。『一人の犠牲で大勢が助かる選択は正義だ』って。俺はその逆も知ってる。俺はそんなヒーローたちに近づきたいだけのただの学生だ」
男は呆れたように鼻で笑うとそのまま搬送されていった。
「セーダイ君!」
振り返るとエリア先輩たちが走り寄ってきた。
「エリア先輩、皆、怪我はなかったか?」
いつの間にか首輪も取れていて、皆は無事だと笑顔で答えてくれた。しかし、シアの姿が見当たらない……。
「あれ、シアは……?」
「実はあれはラヴィ様だったんですよ」
エリア先輩の後ろからニコっと笑いかけるラヴィ先輩。そして、何故か後ろの方でテロリストの服を着ているマーカスを指差した。
エリア先輩の説明によれば、テロリストに恫喝されてラヴィ先輩に首輪を付けてしまったマーカスだったが、直後、罪悪感とプレッシャーからその場で失禁。テロリストさえも困惑する事態になったそうだ。その隙にラヴィ先輩はシアに扮装した。
「汚ったねぇなぁ……、おい、臭せーから近づくなよ!」
「おい、ちょっと待て……、そこのお前……」
薄々シアがターゲットだと予想していたらしいラヴィ先輩は自身を犠牲にシアや他の生徒たちを助けようとしたらしい。だが事態は思わぬ方向へ転がる。シアの姿を見たテロリストたちは、知らぬ間にターゲットを確保していたことに本気で慌て始めたそうだ。
「マズイ、マズイって! こんなポカやらかしたってバレりゃ殺されちまう!」
「き、気付かなかったんだから仕方ないだろ。一旦落ち着け。さっき定時連絡を入れたばっかだからな……少し時間を置くいたほうがいいか……」
ヒソヒソと密談を始めるテロリストたち。直後、解放された生徒が現れて、間抜けな二人はボッコボコにされたそうだ。
「でも、外に出たらセーダイ君が酷い事になっていて焦りました……。なんとかあのサイボーグ男の気を逸らす為、マーカスにテロリストの扮装をさせて声を掛けさせたんです」
「……あぁ、あれ。マーカス君だったのか。言われてみればなんか三文芝居臭かったな……」
「芸能人などと言う割りにバレるのではとヒヤヒヤでした」
「き、貴様は誰だ! 見知らぬ人間に僕の演技を三文芝居などと言われたくない!」
エリア先輩の眼光が鋭く射抜くと、途端に借りてきた猫みたいに縮こまるマーカス。そう言えば俺の成長知らないんだよね、マーカス。
これはひょっとしたら決闘もいい感じに流れそうだなと考えていると、レニー先輩とポーリーン先輩が駆けて来た。二人の元気な姿にまた安堵していると、立ち止まるレニー先輩を通り越してポーリーン先輩が俺に抱き着いた。
「え!? ちょ、ポーリーン先輩!?」
「あぁ、セーダイ、セーダイ……。わたくし、映像で観ていましたのよ? とても……素敵でしたわ……」
俺の頬に両手を当てて、今にもキスされそうな距離。
「え、ええっと……あれは……」
「話には伺っていました。でも、実際に貴方の戦う姿を見て……。貴方は本当にヒーローだったのですわね」
あたふたとする俺にレニー先輩が助け舟を出す。
「まぁまぁ、落ち着いてポーリーンちゃん。そういうのは後でゆっくりね」
「――っ! わ、わたくしったら、こんな大勢の方々の前で……。そうですね。後で……ゆっくり……♥」
助け舟ではなかったかもしれない……。ついでに何故か、ラヴィ先輩とエリア先輩が不満そうな顔をしている。
――唐突に相棒が事態の急変を知らせる。
『マスター、緊急事態です。直ちに地下メインシステムルームに向かってください』
「――!? 何があった!」
『シアとロミがジェイラス・ルア・フォードと遭遇しました』




