ひょとして、初期ビルドミスった?
浅い眠りの途中で起こされたような感覚があって、瞼に映る明るい日差しに目を開けると、俺は一人でアスファルトの歩道に突っ立っていた。
眼前には天に向かってそびえ立つ、先細り構造の巨大な建造物が見える。
「でっけー……。城? なんかしらの行政機関?」
インパクトのある景色に、思考が右へ左へ右往左往。
魔法のある世界だって話らしいが、もしかしたら物理法則にも違いがあるのかもしれない……、なんてどうでもいいことを考えてしまうレベルには構造計算どうなってんだ、というような圧巻の摩天楼だった。
「よくある異世界定番の中世って感じでもないのか……?」
改めて周囲を観察する――。
街を歩く人たちは現代日本と大して変わらない服装をしている。強いて言えば、結構シンプルだ。
気温は暑くもない寒くもない、丁度いい気候。
「すぅー……はぁ……」
空気がうまい……ッ!
自動車っぽい物も走っているが、化石燃料ではないようで排気ガスが出ていなかった。
至る所に液晶ディスプレイが設置されていて、何やら宣伝に利用されている感じだ。
「ふむ、近未来ファンタジー……って感じか」
正直、思ってたんと違う――!
いや、別に近未来モノも嫌いじゃないよ! 嫌いじゃないけど、ファンタジーって言ったら中世でしょッ!
ふと、憤慨している自分の間抜けな姿がショーウィンドウに映っているのに気が付いた。
「おおっとォ!? な、なんだこれ、制服? これがこの世界の普通のカッコウなの?」
ガラスに貼りついてちょっぴり中二病っぽい自分の姿に驚嘆していると街を歩く人たちがヒソヒソし始める。
ちなみに容姿も身長も元のままだ……。
「いかんいかん。通報される……」
俺は人目を避けられる路地裏に逃げ込んで丁度良さそうな木箱の上に腰を下ろした。
「ふぅ……。それでは、いざ……ステータスオープン」
セーダイ・バツマル
称号:なし(異世界転生者)
HP 16
MP 0
力 3
守り 2
速さ 4
魔法 0
スキル:勝確BGM
習得:なし
「ブフォッ!?」
目の前に浮かび上がった青白いコンソールを眺めて、その衝撃にガッツリ吹き出していた。
「いや、待って待って待ってッ! “勝確BGM”ってなんだよ! まんまじゃないか! もっとこう世界観を大事にだね……!?」
空中投影されたコンソールは俺が唯一使える魔法、ステータス魔法だ――。
白い人曰く、この世界に初めからあるモノで、広く普及しているモノに限り、スキル枠を消費せずに取得可能ということで、こんな俺でもステータスだけは見られるというわけだ。
名前がセイダイではなく、セーダイとなっているのは……まぁいいか。
言葉もちゃんと通じる。少額だがこの世界の通貨も貰った。そのくらいはねぇ?
今思うと、スキル枠で富豪になることもできたんだろうか?
そんで最強装備とか買えばイージーだったのでは?
というか、ステータスさんは俺を転生者としているようだけど、正確には転移者が正しい気がする……。
そこもスキル枠で幼少からやり直せるってことか?
記憶を持ったまま幼少期からってのは大きなメリットだしな……。
「ひょとして、初期ビルドミスった?」
そもそも、スキルを作る際に白い人がやったのはおそらく俺の深層心理の具現化であり、“勝確BGM”にしてくれ!なんてことを言ったわけではない。
まぁ、一つでいいと考えたのは紛れもなく俺なんだけど……。
現状を某国民的RPGに例えるのなら、初期宝箱で棍棒とこずかい程度しか貰えなかったみたいな状態だ。
≪称号:なし(異世界転生者)≫というのも気になる。
対外的には転生者であることを隠す必要があるのだろうか……。
「それにしても弱いな……。激弱……」
この世界の水準がどの程度なのか分からないが、ゲームに例えると思いっ切りレベル1って感じだ。
下手したら最弱の魔物にすら負けてしまうんじゃないか、これ。
「そうだ……」
俺はポケットから、ステラナビと呼ばれる魔道具を取り出す。要は魔法スマホだ。
本当はラノベの知識を活かして、定番の冒険者ギルドで足掛かりを……みたいな展開を期待していたんだが。
俺は諦めて魔法スマホこと、ステラナビを起動する。
「起動、ナビゲーションを開始して」
操作感も似ていて、音声操作、ピンチアウト、スワイプ等一から覚える手間がないのはありがたいな。
文明が発達すると似たり寄ったりになるってことかね。
『起動しました。現在位置はエルディア王国・首都ネオルミナスシティです。初回起動に付き、チュートリアルナビゲーションを開始します』
ステナビからカスタマーセンターのお姉さんのような声が聴こえてくる。
チュートリアルナビゲーション――。
白い人の言った通りに機能してるな。
初動に付いて相談した訳じゃないが、ある程度の常識や、まずどうしたらいいのか、みたいなことは言語などと一緒に記憶にインストールされている。
あのノリの軽い神様モドキがどこまで配慮しているのかについては怪しい部分なのだが。
『まずは王立エルクシア学院へと編入しましょう。編入手続きは完了しています』
「学院? 俺、学生になるの?」
『王立ルクシア学院は魔物と戦う学徒・マギストを育成する機関です。見返りとして、資格のある者の生活を保障します』
学徒って言われると、学徒動員みたいなおっかないワードを連想してしまう。
まぁでも、このファンタジー制服の理由は判明したな。
ステラナビはエルクシア学院への地図を表示して、それ以降なんにも喋らなくなった。
心細いだけにもう少し話をしたかったが俺は諦めて目的地に移動することにした――。




