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さぁ、スキルを作ろう

 中一の頃、イキってホラー映画を観たらトイレに行けなくなった……。


 幽霊なんているわけないのに、恐怖ってのは厄介な感情だ。

 何に怯えているのか説明できないくせに抗うことができないんだから。


「抜丸盛大、16歳……。セーダイ君か。おめでとう、君は異世界転生者に選ばれた!」


「は……? え……ちょ……、え?」


 気が付くとそこは俺が通う高校の校長室だった。


 可笑しな点があるとすれば、校長の机に肘を着いて俺に話し掛けているのが白く光る人の形をした何かであり、壁が存在しないことと、校長室が宇宙空間のようにば場所に漂っているという部分だろうか。


 そして、そんな白い人の形をした何かが、俺に意味不明なことを言っている訳なのだが……。


「おや、直前の出来事が思い出せないのかい?」


「直前……」


 そう、たしかコンビニでガ〇ガリ君を買って、当たりが出たから交換のために横断歩道を戻ったら……。


 あれ、そこから思い出せない――。


「うんうん、そして君は見事、異世界転生トラックに跳ねられた訳さ」


「なんですか、そりゃ……」


 さらりと、絶望的なことを言われた気がした。

 というか、異世界転生トラック? なんだそのふざけた名前は。


「いやほら、異世界に渡るためには一度、精神体に戻って貰わないといけないだろう? その役割をトラックの運転手さんだけに背負わせるのは良くないと思ってね。我々が用意したんだ」


「だろう?とか言われましても……。要約すると、俺は殺されて無理やりここに連れて来られたと……?」


 白い人は右手をパタパタと振って、否定のジェスチャーをして見せる。

 多分、ハハハと笑っているんだろうが、真っ白で目も口も見えない。


「イヤイヤイヤ、そんな非道なことはしないさ。元々そういう運命だったんだ。そこで我々は精神が抜け出た際にコピーと入れ替えた。今頃、病院で目を覚ましているはずだ。それでは異世界に往く前に――」


「ちょちょちょ、ちょっと待ってくださいよ! その、魂?精神?のコピーとやらができるのなら、俺が行かなくてもコピーの方に行かせりゃいいでしょ!」


「それがそうもいかんのだよ。コピーにはスキルを与えることができないからね。そういうルールがある」


 スキルだのなんだのって、ゲームかよ……。


「異世界へと導く者には、我々から神の恩寵“スキル”を与えることができるんだ」


「え!? あなた神様なんスかッ!?」


「いや、違うね」


 どっちだよッ!?


「厳密には神に等しき力を持つ超高次生命体って感じ?」


「まさかのSF展開――ッ!?」


「ほらさ、この手の話ってSF好きな人にしか通用しないでしょ? 苦手な人には一々長々説明しなきゃならないのが面倒でね。セーダイ君はSF履修済みみたいだからさ」


「履修済みって……」


 するとこの校長室も俺が取り乱さないための措置なのだろうか?

 いや、取り乱してますけどね?


「話を戻そう。我々は数多の宇宙に存在する生命を見守り、時に手助けすることを使命とする者だ。そして、無事に高度文明を築いて貰うまでを命題としている。例えるのなら、貧困国に援助して貿易相手になって貰って互いにWin-Win、みたいなアレさ」


 白い人の言うことは一応筋が通っている気がするが、なんというかノリが軽い。


「無論、無報酬というわけではない。成果を出したと判断されれば、どんな願いだって叶えてあげられるよ」


 ノリは軽いが、なるほど魅力的な報酬だ――。

 

 俺は靴の底で校長室の床の感触を確かめる。

 鼻から息を吸い込んで、空気が鼻孔を通り抜ける感覚を確認する。


 この状況はどう考えても幻覚じゃない……。

 どこまで信じていいのか眉唾だが、次に考えるべきことは……。


「そんな訳で早速、セーダイ君の為のスキルを作ろうか」


「一応聞きますけど、それ、命を脅かす何某かの脅威があるってことですかね?」


 白い人は頷いて見せる。


 白い人の説明によれば大規模な魔法実験の失敗によって魔物たちが突然変異を始めてしまって、現状では滅びは確定的なんだそうだ。


「ええぇ……。一人でどうにかなりそうな気がしないんですけど」


「多分、大丈夫なんじゃないかなぁ? 既に何人か送ってあるし。セーダイ君は念の為って感じの人員。気楽でいいポジだと思うよ」


 なんか補欠合格とか、ベンチメンバーみたいな扱い……。


 先程から白い人がスキルスキルと繰り返しちゃいるが、これまでの話からそれが俺の身を守るための重要な手段なのだろうと想像できる。


 こんな軽いノリで話されたら、流されて答えちゃうヤツとか絶対いただろうに……。


「スキルにはどんな制約があるんですか?」


「面白い聞き方をするね。なかなかどうして、君は頭の回転が速いようだ。見てくれは良くないが」


 酷ぉッ……!


 たしかに俺は高校生になっても身長151cm……。

 クラスで前から二番目だし、女の子より小さいし、もやしだし、顔だって良くないよ――!


「確かに、チビで、もやしで、三白眼とか言われて馬鹿にされるけど、べ、別にこれからだし! そのうちぐーんと伸びるし! 大人になったら顔だって変わるって聞くし……っ!」


「ハハハ、元気で結構! さて、スキルの制約だったね。……そうだね、数を増やすと効果が弱まるってところかな?」


「複数貰うこともできると……? つまり、一つに絞れば最強……?」


「そう単純にはいかないんだよね。単一のスキルとして性能は間違いなく最強格になるだろう。けれど、弱いスキルを複数所持して相乗効果を狙うって子もいたし、実際その方が生存率は高く、快適に異世界ライフを過ごせるというデータもある」


 おおっと……。既に何人かお亡くなりになってますよぉ……。


「ちなみに君のコンプレックスである容姿と身長もスキルの枠を一つ消費すれば自由自在だ」


「なんですとォッ!?」


 なんと魅力的な選択肢だ……。

 前の世界でだって、高身長で顔がいいってだけで優遇されることは証明された社会通念だったし……。


 それに、モテモテ異世界ライフ……憧れる!


「ついでに補足。スキルの枠とは言ったけど、厳密に幾つまでと決まっている訳じゃない。ただ、やたらと増やすと一つ一つの効果がドンドン薄まってしまうから、多い子でも十五ってところかな。平均は十個くらいだ」


「なら、仮に一つに絞った場合、その性能は物理法則を超えられますか?」


 白い人はなんだか関心しているような、嘲笑っているような雰囲気で少しの間、閉口した。


 そして、言葉を選ぶみたいにして、ゆっくりと口を開いた。


「それは……。そうだな、セーダイ君次第、かな」


 急に白い人の声色が優し気に聴こえた気がした。


「スキルとは願いの力であり、いずれ君の“在り方”そのものになる。セーダイ君が強く強く願うのならば、0%を0.00001%にすることだって不可能じゃない」


「0%を0.00001%に……」


「さぁ、目を閉じて思い描いてくれ。セーダイ君の願いを、最強のスキルを――」


 中一の頃、イキってホラー映画を観たらトイレに行けなくなった……。


 けど、たまたま動画で見つけた“勝確BGM”を聴いたら幽霊だって怖くなくなった――。


「俺が願う、スキルは――」


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