体が……伸びてる……?
五話目です。エロい描写が増えてきてしまったのでR15に変更しました。
合宿と言う名のバカンスに訪れた俺は、何の因果か芸能人でイケメンのマーカス・ルア・プリチャードという生徒に決闘を申し込まれてしまう。別に俺が何かした覚えはない。強いて言えば――。
ビーチボールでキャッキャウフフしている、俺が異世界で初めて友達になった少女シア、同じ転生者であるロミ、俺の召喚した長靴を履いた猫を気に入ったポーリーン先輩。パラソルの下でビーチチェアに体を預け、何やらフルーティーなドリンクを愉しむ生徒会長のラヴィ先輩と新聞部部長のレニー先輩。ラヴィ先輩を甲斐甲斐しく世話するエリア先輩……。
彼女たちの周囲だけが別空間なのかと思えてしまうほど華のある光景。
――そう、強いて言えば、俺のようなチビでブサイクな男が彼女たちと一緒にいたことに腹を立ててのことなのだ。わかる。わかるよ。俺だってそんなヤツがいたら嫉妬してしまうわ。けどさ……現実は何故か、一人で座禅を組まされている始末なんだ。
「おい、セーダイ。気が散っているぞ」
ロミのパパであり、ガチムチのグラハム先生が俺の頭を大きな手で押し付ける。
「さ、サーセン……っ」
「いいか。魔力を持っていようが、MPがなければ力を扱うことできない。魔力は生まれ持った才能に寄るところが大きいが、MPは鍛錬で鍛えることができる。この私もそうだ。魔力こそ低いがMPを鍛えたおかげで……。オーイ、誰か手伝ってくれぇ!」
グラハム先生は途中まで言いかけてロミたちを呼ぶ。すると説明を受けたシアが砂浜に岩を作り始めた。何をする気か知らないが、俺はその間に気になっていたことをロミに尋ねる。
「なぁ、ロミ。再定義がどうのって言ってたけど」
「あれか、うむ……。そうだな、どう説明すべきか……」
ロミは腕を組んで首を一回転すると、驚くべきことを口にした。
「普通の人間は魔力とMPの二つで魔法を行使するのに対して、お前の魔力は無限と表記されている。いいか、これの示すところは、お前だけが“世界の法則から逸脱した存在”として再定義されたことに他ならない」
「ええ゛っ……」
「よし、準備が整ったぞ! 見ていろ、セーダイ!」
言いたい事を言って、ロミはニコニコしながらグラハム先生を見ていた。
白い人よ、あんたは俺をどうしたいんだ……。
準備を終えたグラハム先生は腰を落として正拳突きの構えを取る。
拳を引いて深く息を吐くと、岩に拳を打ち込んだ。
拳が岩に接触する一瞬、周囲の空気が光に揺らいで――。
バーンッッッ!!!
盛大に岩を粉砕していた……。
俺、シア、ロミ、ポーリーン先輩は巻き起こった砂塵で砂塗れに、ロミの頭に乗っている長靴猫のいた場所には砂山があった。
「このように魔力というエネルギーの器が小さくとも、MPという出力装置がデカければ、爆発的な力を生み出せるという訳だ」
魔力云々とか言ってるけど、筋肉で解決しているようにしか見えない……。そして、グラハム先生は砂塗れになった俺たちに気付いてガハハと笑う。
「でも、先生。決闘は明日の午後って言われたんですよ。一日で何とかなるもんなんですかね?」
当然だが、変身して戦うつもりはない。
「普通はどうにもならんが……ロミ、セーダイの魔力がとんでもないというのは本当なんだな?」
「本当だよ。だからMPさえ鍛えれば、それだけでなんとかなる可能性が高い」
グラハム先生は『だ、そうだ』と言って、またガハハと笑う。
「なーに。明日の昼までみっちり付き合ってやる。睡眠時間などないと思え!」
「それ体罰です、先生……」
「違うぞ、これは指導だ――! ガハハハハッ!」
もうヤダこの人……。
そもそも、決闘に勝つ意味なんか俺にはないし、不必要な怪我をしないように適当に降参するつもりでいる。マーカスに恨みもなければ、イケメンにマウントを取られたところで俺の視座が低過ぎる所為でマウントにならない。
「ぱ、パパ! 明日の午前中はセーダイたちと水族館に行く予定なんだ! だから夜通しはちょっと……」
ロミは口八丁でグラハム先生を説得する。
明日の午前中はロミとシアと連れ立って、ある場所に行かなければならないのだ。
というか、夜通しトレーニングなんて死んでしまうわ!
「なに? そうなのか、ふむ。パパとしてもロミに楽しんで貰いたいからな……仕方ないな。……よし! 夕方までのハードメニューに変更だ! 死んでくれるなよぉ、セーダイ。ガハハハッ!!!」
あれ……。助かったと思ったのに余計に酷くなった?
こうして俺はより過酷な精神鍛錬のトレーニングを夕暮れまで課されることとなった。昔、カンフー映画で観たようなことをマジでやらされるとは思わんかったよ……。
夕暮れ、生徒たちは砂浜から少し離れた森の中でグランピングに興じていた。要はブルジョア向けキャンプだ。しっかりした作りのテントとバーベキューグリルが各班のごとに用意されており、あちこちから生徒たちの談笑が聞こえて、肉の焼ける音と旨そうな匂いがする。
そんな華やかな風景の中を足を引きずりながらなんとか自分の班に合流すると、俺に気付いたシアが慌てて駆け寄ってきた。
「セーダイ! だ、大丈夫!?」
水着姿のままの肩を担がれていて、思いっ切りシアのおっぱいが当たっているというのに、それを楽しむ余裕もない。
「うわー……。ゾンビみたくなってるじゃん」
「あらあら、ご飯食べられますか、セーダイ君?」
「お腹空いた……けど、眠い……」
「セーダイ!? セーダイ……っ!」
次第に瞼が下がっていって、そのまま意識を失った――。
誰かがベッドに寝かせてくれたんだろう。眠りが浅くなると清潔なシーツの匂いを感じた。目を開けると完全に日が落ちていて、僅かなランプの明かりが影を揺らしていた。
「あぁ、腹減った……。今、何時だ……?」
テントの入り口から、微かに皆が談笑する声がする。どうやらそれ程長い時間眠っていた訳じゃなさそうだ。
何か食べさせて貰おうと、ベッドから立ち上がると視線がいつもよりずっと高くなっていた。ベッドの床に段差でもあるのかと見下ろすと……。
「え……なに? 体が……伸びてる……?」
「セーダイ、起きたの? ご飯残ってるよ。何か食べ――、きゃ!」
俺の声に気付いたらしいシアが入り口のところで、口に手を当てて固まっていた。
あぁ、そうだ。白い人が身長伸ばすって……。ダメだ、なんかまだ頭がボーっとしてる。上手い言い訳が思い付かない……。
「シア……、これは……」
エリア先輩たちがシアの後ろから掛けて来る。
「どうしたんです、シアさ――」
「え……、だ、誰……?」
全員が俺を見て誰だと問う。シアが恐る恐る俺に近づいて、俺の頬に触れた。シアの身長が随分と小柄に見える。
「セーダイ……?」
「えっと、これには深い訳があって……」
シアはまるで感触を確かめるように両手で頬に触れる。コバルトブルーの瞳の中で魔力の淡い光が揺れていた。
「シア……?」
「……あぁ、ホントだ。セーダイだ」
シアは安心したように微笑んだ。
『マスターはセーダイ・バツマルで間違いありません』
腕時計がピカピカと光って、いつものカスタマーセンターのお姉さんの声で俺を擁護した。
「「「 えええええッッ!!! 」」」




