アンダーグラウンド
四話目です。
アンダーグラウンド――。
始まりは地上から見放された者たちが身を寄せ合った地下空間だった。電気と水を盗用することで辛うじて人の暮らせるような場所だったが、次第に人が増え始め街になっていった。
電気と水はなんとかなったものの、魔物と空気の問題はいつまでも住民たちを苦しめ続けた。結界に守られていない為、知らぬ間に入り込んだ魔物との戦いを余儀なくされたし、一部の魔物は食用になったが、そうでない魔物の死骸は硫化水素やメタンなどの有毒ガスを発生させた。そして、いつしかガスマスクの使用が常となっていた。
やがて、空を覆う黒い影……ブラックドラゴンが現れた。
彼の巨竜はそこに在るだけで弱い魔物を退けたし、地上を混乱に陥れる間、様々な物資を略奪することができた。
そして、テロ組織『巨竜の咆哮』は生まれたのだ――。
一人の男がそんな彼らを訪ねてアンダーグラウンドを訪れる。
男は出力した女の画像をガスマスクの男たちに手渡した。
「その娘を拉致……ね。拉致するだけでいいのか?」
「あぁ、痛めつけて構わないが、殺すのはダメだ。人質として役に立たなくなる」
「ヒヒヒッ、顔は人形みてぇに無表情だが悪くねぇな。ヒヒヒッ、上の女とヤるのは久しぶりだぜ」
「話はわかった。だが、この前のラジアル・クラウン占拠失敗で金が無くてなぁ」
男はテーブルにアタッシュケースを乗せる。ケースを開くとそこには大量の紙幣が詰め込まれていた。
「前金で5000万用意した」
巨竜の咆哮のメンバーはそれぞれ歓喜に沸く。
「だが、ラジアル・クラウンの失敗でお前たちへの評価を一段階下げざるを得ない。今回の前金はこの一割だ」
そう言って男は札束を手に取り、アタッシュケースを閉じる。
「オイオイオイ。あれはお前さんが用意した素人共が暴走したからじゃねぇか」
リーダーと思わしき男は不服そうに男を睨んだ。
「お前たちだけで潜入できたと思うか?」
男の煽りに一同が殺気立つ。
リーダーと思わしき男が手を上げると一同はゆっくりと武器を下ろした。
「まぁ……、お得意様だしな。女は好きに使っていいんだな?」
「他にも数人いるはずだ。殺さない限りは好きにしたらいい」
「わかった。ただ前金で1500万は貰う。何かと準備に掛かるからな」
「いいだろう」
「レストラン、見慣れた感じだな」
俺はシアと帽子の少女ロミを連れだって街のレストランに来ていた。
「技術は自律的に発展していくものだが、デザインや快適性が発展する為には金と余裕を土台に、文化と規格が揃わなければならない」
俺の何気ない一言から、急に難しい話を始めるロミ。
「文化はわかるけど、規格ってなんだよ」
「例えば、線路の幅とかだな。ネオルミナスシティは都市そのものがエルディア王国という単一国家だ。一見、あらゆるものが利便性を重視し、統一されているかのように見えるが実は違う。結界の外の人間、中の人間、ラジアル・クラウンに住むことの出来る人間と明確な階級格差が存在しているんだ。そうなると当然、インフラなどの規格に差が生れてくる」
「な、なるほど……」
「このレストランなどは、どちらかと言えばあまり豊かでない層をターゲットとしているだろう? ラジアル・クラウン内のものと比べれば、前時代的な見慣れた感じに収まるのは必然と言える」
ロミが長々と難しい話をしていると、ロボットウェイターが料理を運んでくる。
『お待たせしましたギニ』
「ありがとうギニ」
シアがロボットウェイターの口真似をしながらお皿をテーブルに並べていく。みるみるうちに埋まっていくテーブルにロミは顔を引きつらせている。俺にとってはもう見慣れた光景だ。
ちなみにロボットウェイターはギニー君と言い、ギニーはこの国の通貨でもある。
「お、おい。なんだこの量……お相撲さんか?」
「オスモウサン? よくわからないけど、ロミちゃんもいっぱい食べてね」
「お、おう……」
「ロミは白い人にどんなスキルを貰ったんだ?」
「魔眼とか……いろいろだな。戦う為のスキルは持ってない」
ロミはお子様ランチを前に嬉しそうに答え、タコさんウィンターモドキにフォークを突き立てて話を続けた。
「私は向こうでスキル持ちだったんだ」
「向こうで? それってどういうこと?」
「ステータス開示を承認」
「承認……」
ロミ・マッコーキンデール
称号:ジーニアス(異世界転生者)
HP 8
MP 680
力 1
守り 2
速さ 3
魔力 77
スキル:ギフテッド、魔眼、並列思考、思念操作、亜空間収納
習得:数学Lv9、化学Lv5、物理学Lv7、量子力学Lv4
「本当にいろいろあるな。ん……、ギフテッドってたしか前の世界でもそういう言葉があったような。まさか、それがスキルなのか?」
「あぁ。既に持っているスキルってことでスキル枠を使わずに引き継ぎできた。神様モドキが言うには、魔力のない世界で稀に私のようにスキルを持って生まれてしまう者がいるらしい」
なかなか衝撃的な話だ。じゃあ、歌が上手いアイツも、絵が上手いアイツもそうなのかと聞いたら、それは努力だと返されてしまった。すまん。ちょっと嫉妬があった。いいだろ! 嫉妬くらい。人間だもの!
ちなみに、転生だとか、容姿の変更だとか、一度限りのスキルは使用後にステータスから消えてしまうらしい。
「魔力のない向こうの世界で発現するスキルはそれほど多くはないようだ。私のギフテッドのように発現してしまった場合は逆に厄介だ。魔力の代わりに他のものを代用してしまう」
「他の何かって?」
「私の場合は……両親」
ロミはフォークとスプーンを握ったまま、悲しそうに俯いた。少し、手が震えていた。
「パパとママを喜ばそうとするほど、二人の仲は悪くなっていった。まるで幸福が削り取られていくみたいに」
シアは優しい声でロミに声を掛ける。ロミは過去を振り切るかのようにして顔を上げ、またお子様ランチを食べ始めた。
「もう過去のことだ。神様モドキにお願いした優しい両親の間に生まれ直して、今は凄く幸せだから気にするな」
「そうか……」
ロミが幾つで人生を終えたのか疑問に思いはしたが聞くのを止めた。今が幸せだというのならそれでいいと思った。
「ぐすん……ロミちゃん、いっぱい食べてね!」
涙目のシアは、これもこれもとロミにご飯を分ける。
「子供の胃袋にそんなに入るか! ああ~! 私のハンバーグが潰れるぅ! ハンバーガーになるぅ!」
再びギニー君がやって着て、食べ終わった皿を返し、食後のデザートを受け取る。ロミはメロンソーダモドキをズズズーっと3分の1程飲んでから話を再開した。
「さて、シアの聖鎧についてだったな」
今回、ロミを誘ったのはシアの聖鎧についての相談がメインだった。俺に聖鎧を譲渡したことでシア自身の能力値が大幅に下がってしまったのだ。それだけなら、俺が頑張ることでなんとかなるのだが……。
「マギストの為に開発された汎用鎧を使っているんだけど、今まで聖鎧に頼っていたから、このままだとマギスト認可を取り下げられて、Bクラス行きだって……言われてて」
「Bクラスに行けばいいじゃないか。セーダイもそう思っているんだろう?」
Aクラスはマギストとして有事の際に戦闘に駆り出されてしまう。本音はシアと一緒に居たいが、万が一のことを考えるとBクラス行きについて、ロミの指摘通り俺は肯定的だった。
「そんなの嫌、セーダイと一緒がいい! セーダイかっこいいし、私が傍にいたないと直ぐにガールフレンドできちゃうもん」
ロミがジト~っとした目で俺を見る。
「かっこいいか……?」
ロミの真っ当な疑問にシアは頬っぺたを膨らませる。
うん、こればっかりはロミが正しいよ……。
「まぁ、事情はわかった。念の為聞くが、聖鎧の再譲渡は不可能だった、ということだな?」
「そうだ。相棒にも確認した」
すると俺の腕時計がピカピカと光って相棒が話し出す。
『聖鎧の情報は勝利武装として書き換えられています』
「サルベージは不可能なのか?」
『サルベージを行い再構成する為には、現在のままでは演算領域が足りません』
「メモリ不足ってことか……。なるほど、ステナビをベースにしたシステムなんだもんな。【勝確BGM】で変異してるとはいえ、物理障害は如何ともしがたい、と」
『おっしゃる通りです』
俺とシアは見つめ合って小首を傾げる。うん。何言ってるのかわかんねぇ。
「ロミちゃん、なんとかなりそう? 二週間後、合宿なの。多分そこでBクラス行きが決まっちゃう」
「合宿? あぁ、パパも言ってたな。今年はちょっと豪華なんだって?」
「慰労も兼ねてってことで王女様がラジアル・クラウンの二泊三日リゾートに招待してくれたんだ」
「それは凄いな。動画で見ただけだが、私も行ってみたいと思っていた」
そこまで言って、ロミは何かを閃いたような顔をした。
「そうか……。私も行けば……うん、イイ手があるゾ!」
「ホント!?」
「上手くいく保証はないが……。まぁ、大丈夫だろう。まずはパパに私を連れて行くように交渉してみる!」
シアはパァっと花が咲いたように笑った。




