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もっと自由でいいはずだ

 ヒーローショーの会場は、開演前から子供たちの声援で溢れていた。

 俺たちは長い椅子に座って辺りを伺う。


「それで、どうやってドローンの人に会うの?」


「向こうは俺たちの姿を見ているはずだから、待っていれば……」


 すると、俺とシアの間に深々と帽子を被った小柄な子供が無言で腰を下ろした。俺とシアは驚きながらも少しだけ横に移動する。


「遭えて嬉しいよ。セーダイ・バツマル」


「――っ、お前がドローンのヤツなのか? 子供というか……女の子?」


「まぁ、細かいことはいいじゃないか。早速本題の入ろう」


 声は確かに年の頃、六、七歳の女の子だった。だが、話し方が明らかに年齢にそぐわない。


「私のことはロミと呼べ」


「ロミ……ちゃん? 本名なの?」


「別に偽名を使う理由なんかないさ。セーダイには転生者だって明かしてるしな」


 驚くシアに向かって肯首する。


「ところでなんでこんな場所で……」


「好きなんだ、仮面ヒーロー・ショウ……。悪いか……」




「さて、早速に本題に入ろう。――まず、問いたい。何故、魔力を使わない?」


 突然そんなことを言われて、シアは自分を指さして首を傾ける。


「セーダイに言っているに決まっているだろう」


「え、俺……? いや、俺、魔力ないし……」


 ロミは大きなため息を付いた。顔は見えないが落胆しているようだ。


「無いなら作ればいいだろう。【勝確BGM】ならば、それすら可能なはずだ」


 コイツ、スキルのことまで……!


「もしかして……魔眼?」


「あぁ、神様モドキに貰った。相手の情報を見ただけで読み取れる力は身を守るのに都合がいいからな」


「他に何を貰ったんだ?」


「後で幾らでも教えてやる。それよりセーダイ、お前は自分のスキルについて何も分かっていない」


「そ、そりゃ……説明書とかある訳じゃないし……」


 ロミはまた、ため息を付いた。


「そもそも、セーダイの変身後の姿は魔力が動力源のはずだ」


「え、そうなの?」


『この世界に最適化された状態で基礎設計されています。よって、マスターが魔力を生成することで本来のスペックを実現します』


「言ってくれよ。そんなの気付かないって」


「それはAIなのだろう? AIはこちらの問いに応えることしかできない。無茶を言うな」


「う……っ」


 ロミに窘められる姿を見て、シアはくすくすと笑っていた。偉そうな喋り方だが、悪意がある訳ではないらしい。


「二度も落下するのを見て気が付いた。推進剤は備わっているが、あれはセーダイが何らかの理由で魔力を作れなくなった場合の緊急用なんだと思う。常時使っていれば直ぐにガス欠になって当然だ」


「な、なるほど」


「それから重要なことはまだある。――どうして騎士の姿をしている?」


「「え……?」」




 俺はシアに補足して貰いながら、聖鎧を受け取った経緯を細かくロミに説明した。


「事情は理解したが、聖鎧の譲渡はきっかけに過ぎなかったんだと思う。セーダイはそこに至るまでに目にしたシアやマギストたちの姿から今の姿を連想したんじゃないか?」


 言われてみればそんな気もする……。

 そもそも騎士というのが俺の中のヒーロー像と少しズレてるしな。


「私の聖鎧……必要なかった?」


 ちょっと凹んでしまうシア。


「【勝確BGM】は攻撃も回復もできるし、シールドだって作り出せる。その本質はもっと自由でいいはずだ。スキルを作ったときのことをよく思い出せ」



 改めて考えてみると、俺は自分のスキルをあまりに漠然と捉えていたことに気付く。


 きっと、それじゃダメなんだ。


 そもそも【勝確BGM】とは、ヒーローの勝利を確約するものじゃない。

 ヒーローが巨悪に立ち向かう姿を音楽にした演出だ。


「【勝確BGM】は、ヒーローの代名詞……。ヒーローそのもの……」


 白い人はスキルは俺の“在り方”だと言った。

 俺は……、俺とスキルは……。


 

 考え込んむ俺の横で、ロミがふっと笑ったのがわかった。


「何かを掴んだようだな。では、私から提案だ。理解を広げられたなら、今度は小さくすることを考えろ」


「小さく、する……?」


「現状、魔力についての知識が乏しく、生成には問題がある。だったら最低限の装甲を残して軽量化すればいい」


『合理的なアイデアです。エネルギー効率も飛躍的に高まり、運動性能の劇的な改善見込めます』


「あぁ。そうすれば継続戦闘能力を上げられるし、今よりコントロールし易くなるはずだ」



 再び俺が黙りこくって考えていると、子供たちの声援が上がった――。


 どうやら怪人が現れたようだ。

 なんか……生々しい姿だな……。

 作りの良い着ぐるみだ、とか思っていると青ざめた顔でロミが立ち上がった。


「セーダイ、あれは、着ぐるみじゃない! 本物のカテゴリー1だ!」


 俺とシアはステージ上の怪人を凝視した。それはキョロキョロと辺りを観察して、アリのような口元をグロテスクに動かしている。


「――アントマン! 人型のアリの魔物よ! ど、どうしよう、こんな場所で……っ!」


「落ち着け、二人とも……。無駄に騒げば混乱が起こる……! そうだ――」


 ロミは振り返って、俺の両肩に手を置いた。その表情は必死に何かを守ろうとしている風に見えた。


「お前がステージに上がれ! ヒーローショーを利用して倒せばいい!」


「そ、そそそ、そんなこといきなり言われても!? 俺は芝居なんかできないぞ!?」


「チッ……」


 ロミは俺に見切りを付け、シアに何かを耳打ちした。


「え。でも……それなんか……。ねぇ、どういう意味なの……? 意味はわからないけど、どうしてか、すっごく恥ずかしいんだけど……っ」


「いいから、急げ……!」


 アントマンは知能が低いのか、ステージの上を行ったり来たりしている。舞台袖で縁者たちが混乱している姿が観客席からでも見えた。


 するとシアが唐突に耳元で囁く――。


「セーダイのカッコイイところ見たいな♥ カッコイイところ見せてくれたら、今夜のオ、カ、ズ、にしてもいいよ……♥」



 その瞬間、俺の中の何かが吹き飛んだ――。



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