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乙女の花園

 放課後、約束通り地図に従いシアと共に目的地を目指していた。

 街の通りを歩くと以前よりも遥かに明るい。雰囲気の話ではなく、物理的に明るかった。


「電力制限もされていたから」


 俺にとっては最初に見た景色が正常なのだという意識があった為、気が付かなかったのだが、息を吹き返したネオルミナスシティはイルミネーションに彩られて活気に満ちていた。シアも詳しくは知らないそうだが、結界の動力源は街の電力も同時に担っていたらしい。


 そういえば、相棒が何か言っていたな……。なんだっけ……。


『動力源についてのデータが不足しています、とお知らせしました』


 そうそう、そうだった。


 ステナビから分裂し、腕時計型に変貌した相棒は基本無口なのだが、適宜俺の状態をモニタリングしているようで、話し掛けると答えてくれる。腕時計型になったのも心拍数などをモニターし易いかららしい。ところで素人考ではあるが、結界と都市の電力は分けた方がいい気がするんだが……。


『推測になりますが、この都市の根幹部分は完全なブラックボックスとなっている可能背が高いように思います』


 ブラックボックス……。つまり誰も理解していないってことか?




「セーダイ、ここが地図の場所だよ」


 そうこうしている内に目的地に到着した。


「これは……。なかなか絶景だな」


 目の前に広がっていたのは屋外ショッピングモールだった。

 俺の知るそれとは違い、地下に向かってフロアが広がっており、地上から見ると抉れた地面に店舗が並ぶグランドキャニオンのようだった。


 最近になって知ったことだが、この都市ではラジアル・クラウンの農園だけに雨が降る。厳密に言えば外界の砂漠地帯に雨が降ることがあれば降雨を観測できるとのことだが、そんな訳で屋外ショッピングモールなどという風雪に脆そうな施設も簡単に作れてしまうという訳だ。


「けど、どうしてショッピングモールに呼び出したんだろう?」


「それはわかんないけど。時間もあることだし、せっかくだから見て回ろぜ!」


「……! で、デート! 行く……行く行く! セーダイと一緒に行くっ!」


 ……うん。シアさん、『行く』を連呼してはいけません。



 俺たちはショッピングモールを見て回った。概ね前の世界の雰囲気と似たり寄ったりだったのだが、デートってだけで景色は違って見えるもんだ。シアの服を見て回り、俺に着せ替えをしてシアはすごく楽しいそうだった。


 ふと、パステルカラーのお店の前でシアが足を止める。


「そうだ。下着買わなきゃ。セーダイ、行こう!」


「え!? ちょ、待って! お、俺はマズくない!?」


 俺はシアに引っ張られて乙女の花園、ランジェリーショップに連れ込まれる。幸いお客さんはいなかったが、店の前を通り過ぎる女性がキョドりまくる俺を不審な目で見ていた……。


「こ、ここはアカンでしょ。男が入っちゃダメなとこでしょ……」


 そんなことは露知らず、シアはハンガーを手にしては戻して見比べている。


「これ、可愛いかな? セーダイ、見て。どう? 似合う?」


 体の前でハンガーを握って訪ねて来るシア。薄いエメラルドグリーンのサテン生地に白いレースが付いた上下セットだった。脳みそが勝手にシアの制服を透過して、下着姿のシアを可視化する。


「ウ――ッッ!」


 速攻でくの字になった。


「ど、どうしたのセーダイ! お腹痛いの?」


『心拍数の急激な上昇を確認。速やかな発散が必要です』


 放っておいてーー!!!




 紙袋を抱えてウキウキのシアと一緒にランジェリーショップを出た頃、ドローンの主との待ち合わせ時間が近づいていた。


『ご来店の皆様にご案内申し上げます。18時から予定通りヒーローショー≪仮面ヒーロー・ショウ≫を中央広場にて開演致します――』


「仮面ヒーロー・ショウのヒーローショーって、ややこしいわッ!」 


 思わず店内放送にツッコンでしまったが、子供たちははしゃいで親御さんの手を引っ張っている。

 その時、ステナビが着信を告げた。届いたメールには『ヒーローショーの観客席で会おう』と綴られている。理由は分からないが、俺はシアと一緒にヒーローショーが模様される中央広場へと向かった。




 ヒーローショーの演者たちが詰めるスタッフルームに汗だくの男が駆け込んでくる。


「さ、サーセン、遅れちゃって!」


「あぁ、よかった。バイト君、間に合って。もう来ないのかと思ったよぉ」


「すみません、ホント」


「いいからいいから、すぐ着替えて来て。怪人役の出番早いからさ」


 アルバイトの男は慌てて更衣室に入る。

 すると廊下をひたひたと歩く影が狭い廊下の荷を崩して更衣室の扉を塞いでしまう。影は振り向くこともなく、廊下の闇に吸い込まれて行った――。


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