本物のヒーローにはほど遠いな
「ひ、ひぃぃッ! ば、化け物ッ!?」
俺の変身した姿を見て、テロリストの一人が腰を抜かした。
いや、この人たちはそもそもテロリストなんかんじゃないんだ。
訓練だってされてないし、銃だって扱いなれてやしないだろう。
待ってろ! そんなことしなくていいようしてやる……!
「結界が縮んじまってることが原因なんだよな! だった……広げるまでだッ!!!」
俺はその場から飛び立つ――。
ラジアル・クラウンの頂上、そこは上空1000M程の空だった。
「これか……。相棒、結界を強制的に拡張できるか?」
『結界の動力炉に十分なエネルギーを供給できれば可能です』
「なら、ありったけをぶっこむッ!」
俺の意思に呼応するかのように七つの扉が現れる。
そして、七体の白亜の天使像が顕現した。
ラヴィニア王女とシア、テロリストまでもが空を見上げていた。
一回目の変身時は殆ど相棒頼りだった。
だが、今はどうすればいいのか手に取るようにわかる――。
「勝利武装≪守護楽章、聖壁律動/プロヴィデンスフィールド≫展開ッ!!!」
天使像の演奏が大音量で木霊する。
そのエネルギーはラジアル・クラウンの頂上へと注がれて結界に波紋を広げるように伝わっていった。
テロリストの一人が銃を投げ出してサロンのガラス窓から結界に注視する。
「お、おい、見ろ! け、結界が動いてるぞ……ッ!」
だが、ほんの少し動いただけだ、これじゃ足らない……ッ!
――ドンッ!
無理矢理エネルギーを送り続けて、鎧の一部が吹き飛んで腕を焦がした。
『警告、膨大な送電エネルギーが装甲強度が上回っています』
今の俺は云わば避雷針だ。
体中を凄まじいエネルギーが通り抜けている。
「まだだッ! こんなんで倒れてたまるかッッ!!!」
ゆっくりとだが確実に結果は広がっていった。
だが、都市の外縁を覆うには程遠い……!
「セーダイ様……どうして……」
「頑張れ……がんばれ、兄ちゃん! 俺の家を、家族を救ってくれぇ!!!」
「セーダイ……ッ!」
全身を電流が駆け巡り、呼吸も途切れ途切れになる。
肉が焦げて視界が何度も暗転した。
「クソったれぇぇぇッ!!!」
装甲が次々に破裂して送り込んだエネルギーが逆流してくる。
フェイスの内側のディスプレイには警告の赤文字が大量に表示されていた。
「どうすりゃいい……! 何か方法はッ!?」
その瞬間、実に俺らしいというか、シアがベーコンを二枚重ねで食べている場面が脳裏に浮かんだ。
「そうだ、一回で足りないなら、二回重ねるッ! プロヴィデンスフィールドッッッ!!!」
そして、奇跡は起こった――。
結界は息を吹き返したかのように大きく胎動し、その直径を大きく引き伸ばしたのだ。
『警告、装甲被害甚大、飛行を維持できません。緊急処置として――』
「クソぉ! 昨日の二の舞かよ……ッ!」
スラスターの逆噴射制御に全てのリソースを割いて、俺はゆっくりと庭園に降下するが、地上10Mくらいで推力が完全に底を付き俺は地面に叩きつけられた。
薄れていく意識の中でシアと王女様たちが駆け寄って来るのが見える――。
垂れさがる重い瞼に視界を奪われながら、俺は……これ、死ぬほど疲れる……とか、思っていた。
――翌日、俺は病院のベッドでテレビを見ていた。
体中包帯塗れではあったが、再生治療のお陰で焼け焦げた皮膚は元に戻るらしい。
傍には長靴猫だけがいて、シーツの上で日曜のおっさんのように横になってテレビの記者会見を見ていた。
『長らく皆様にはご負担を強いておりました。ですが、つい昨日のこと、結界の再起動に伴い大幅な再拡張に成功しました。残念ながら完全な修復には至っておりませんが、現在ネオルミナスシティの抱える総人口256万人を養うだけの生存領域の確保は可能であると試算されております』
記者の一人がラヴィニア王女に詰問する。
『目撃証言ではラジアル・クラウンに複数名のテロリストが潜入し、一時占拠状態にあったとのことですが……。また、先日ネオルミナスシティ上空で目撃された怪奇現象も今回の再起動と何か関係があるのでしょうか?』
『怪奇現象については、某メーカーが宣伝の為の大規模な実験を行ったということしか。またテロリストに関しましては誤報であったとの知らせを受けています』
「ふむ、宣伝かニャ。上手いこと言うニャ。けど、王女殿下は本気で誤報扱いにするのかニャ?」
「労役は課されるらしいけど……。あの人らだって必死だったんだ。情状酌量ってヤツだ」
「まぁ、実質的な被害はご主人の活躍でなかった訳ニャが……。やれやれ、まったく王女殿下もあまあまだニャ」
けど正直、彼らの心配をしてやる余裕は俺にはなかった。
シアの家を救えたと思ったのに、拡張中に装甲がぶっ壊れた所為で、円形に広がるはずだった結界の一部に歪みが生じてしまったのだ。
シアの実家の危機は去った訳でじゃない……。
「それでも少しは寿命が延びたんじゃニャいか? そう落ち込むニャよ、ご主人。装甲の破損で腕を焼かれて、落下して骨折までしたんニャから、しばらく安静にしてるニャ」
「ニャーニャーうるせぇな……。わかってるよ」
「おい、吾輩のキュートな語尾をバカにするニャよ!」
長靴猫は俺の上でシュシュっと短い拳を突き出してジャブる。
「セーダイ……!」
いきなり、俺の病室の扉を開いてシアが現れた。
「し、シア……」
だけど、俺は顔向けできず、長靴猫に視線を逃がす。
突然、ふわっと女の子のいい香りがしたと思ったら、俺はシアに抱きしめられていた。
「セーダイ……、セーダイ……!」
「シア……ちょっと……何してんの」
戸惑う俺。長靴猫は潰れていた。
「ねぇ、セーダイ、どうやってありがとうを伝えたらいい? 私、何をしてあげられる?」
「……そんな。だって、シアの家はまだ……」
「そんなことない! 少しだけど戻った。お母さんを……助けられた!」
シアは俺の胸に顔を埋めながらポロポロと泣いているようだった。
薄い病院服がシアの涙で温かい。
「ねぇ、言って。私、何でもするよ。ね、セーダイ……」
今、何でもするって言った……?
「イヤイヤイヤイヤ、落ち着ついて、シア! 女の子がそんなこと言っちゃダメ、絶対ッ!」
「どうして……? セーダイは私のこと嫌い?」
「嫌いじゃないです、大好きです! でも、待ってぇ!」
もう一瞬でピンク色の妄想が脳内を支配した。
さっきまで暗い気持ちだったのに、俺ってヤツは……。
「おい、ご主人! ふざけんニャ! 吾輩がここにいることを忘れてるニャろ! 起こすな、勃たせるニャ!!」
「猫さん……? 何が立ったの?」
「クララです、クララが立ったんです!!!」
俺は精一杯大声で誤魔化した。
直ぐにナースさんが怒鳴り込んで来たよ。
あぁ、カッコ悪い……。
まだまだ本物のヒーローにはほど遠いなぁ……。




