何も言えなくなってしまった
召喚状を預け、案内されたのはサロンとかいう、所謂、談話室だった。
陽光に照らされたテーブルにはお茶菓子が用意されいて、俺たちがテーブルに着くのと同時にメイドさんがカートを押して現れた。
そして、目の前で注がれる透き通ったオレンジ色のお茶。
ジーっとその光景を見て、本物だ、とか思った。
俺が知ってる紅茶と言えばリ〇トンだからな。
シアは早速美味しそうにパクパクと食べ始める。
余りお行儀がいいとは言えない感じだったのだが、メイドさんもニコニコと穏やかな表情でシアを見ていたいので俺も幾分か気が紛れた。
「ん~、良い茶葉を使っているニャ。これ、そこの。吾輩は猫舌であるから、ぬる目のものを用意するニャ」
そういって、ダルニャニニャンは菓子まで食った。
「お前、飯食えるの……?」
「は? 当たり前ニャ。おぉ、かたじけない。うむ、このくらいの温度であれば火傷せずに済むニャ」
さらにズズズと紅茶を飲んで見せる。
多少のことには動じなさそうなメイドさんもこれには驚いていた。
「ご主人、まさかと思うニャが、吾輩をぬいぐるみとか思ってないかニャ?」
「いや、どう見てもぬいぐるみだろ、お前」
シアももぐもぐしながら、首を縦にぶんぶん振る。
「猫さん、すごい……」
謎生物過ぎる……。
そうしていると、俺を召喚した王女様が現れる。
現れるなり――。
「ね、猫……?」
王女様は目を見開いて、変なポーズで仰け反っていた。
慌てて冷静を装い穏やかな口調で話し始める。
「本日はお呼び立てしてまい、申し訳御座いません。どうしても……」
と、思いきや視線は何度も俺と長靴猫の間を行ったり来たりしていた。
「あ、あの……そちらは?」
「吾輩はダルニャニニャン! 殿下の招集に馳せ参じた次第だニャ!」
「ぶふ……っ」
あ、王女様が吹いた……。
「し、失礼しました。私はエルディア王国、王女ラヴィニア・ルア・エルディアと申します」
王女様は優雅にカーテンシーをして見せる。
俺たちは立ち上がって挨拶を終える。
そして、王女様と丸テーブルに再び着席した。
「そ、それで……あの、差し支えなければどちらの製品かお教え願いますか?」
優雅さは一瞬だった。はいはい、また、このパターンね。
「吾輩はロボットでもぬいぐるみでもないニャぁっ!」
長靴猫はぷんすか怒って地団駄を踏んでいる。
「あの、少々触らせて頂いても?」
「どうぞどうぞ」
俺は容赦なく長靴猫を売り飛ばす。
長靴猫を掴んで王女様は興味深々にヤツの体をぐにぐにと弄りだした。
「あ、ちょ、殿下までかニャ!?」
「これは……なかなか……。肉球はシリコンではないのですね。人工皮膚ですか? かなり高価なものですね……」
「や、やめ、ニャ、ニャハハハッ!」
長靴猫は王女様に散々弄り倒されてから、半分魂が抜けたようになってシアのお膝に返って行った。
「も、申し訳御座いません。余りにかわ……興味深い商品でしたので」
探して購入するつもりなんですね……。売ってないですよ、どこにも。
それから紆余曲折あったものの、王女様はようやく本題に入った。
「本日お呼び立てしたのは、早急にセーダイ・バツマル様にお会いすべきだと判断した為です。率直にお尋ねしたい。セーダイ様は何者なのでしょうか」
「……俺……、私は……」
どう話せば良いのかわからないが、ダルニャニニャンのお陰でこの人が悪い人ではないのは、何となく分かった。
ただ、何を伝えれば俺の現状を理解して貰えるのか、その部分が問題だ。
「セーダイはこの世界とは異なる世界の人です」
シアが口を開いた。
「異世界の……方……」
王女様は口元に手を当てて、しばらく考え込む。
「なるほど、アタラクシアが言うのならば……。いつ頃こちらに?」
あれ、なんかあっさり受け入れられた?
「えっと、昨日……ですけど、信じるんですか?」
「正直に申しますと半信半疑です。ですが、貴方の経歴を詳細に調べて分かったことは、『この都市の外から来た人間』であると言う事だけでした。そして、ネオルミナスシティの外からの来訪者など、ここ数百年おりませんから……」
やはり調べられていた。それはまぁ当然だろうと思う。
「さらにアタラクシアの友人だった少女も、セーダイ様と祖国が同じであることを思わせる容姿の特徴を備えおられたので」
「なるほど」
「まずはこちらの考えをお伝え致します。私共としてはこの世界に連れて来られた方々に荷を背負わせるつもりはありません」
「どういう……ことですか?」
「セーダイ様はここに来るまでに街の様子をご覧に成られたと思います。年々結界が縮小し、我々の生存可能領域は狭まりつつあります。ですが、それは我々の問題です。異世界から来られた方々を元の世界に返す術はありませんが、せめて穏やかに生涯を送って頂きたいと考えています」
俺は何も言えなくなってしまった。
必要がないと、そう言われているのとは違う。こんな世界に来てしまった俺に同情しているのだ。
「ご安心ください……とは、言い切れませんが、試算では結界は後80年程度は持つものと考えられています。お望みであれば最も安全なここ、ラジアル・クラウンに住居を用意致します」
シアの方を見ると俯いたまま、手を握りして何を言わないでいる。
――そうか、これはシアの望みでもあるのか……。




