結界の外側
校門を出て、バス停へと向かう。
俺はシアとシアが抱えて離さないダルニャニニャンと共に王城行きのバスを待っていた。
「王城ってバスで行けるんだ……」
「……普通に行けるよ?」
路線図を眺めながら呟く俺に、シアはコテンと首を傾げて見せる。
程なくしてバスが到着する。ステナビで料金を支払い、一番後ろの席に並んで座った。
「そう心配せずとも、このダルニャニニャンがいればマナーは完璧ニャ」
グラハム先生に召喚状を渡された時にはかなりビビったものの、必ず来て欲しいということ以外は、内容はどちらかと言えば招待状に近かった。
そんな訳で道案内としてシアが同行を買ってくれた。
お城に呼ばれる心当たりは……まぁあるけれど、前の世界でもこの世界でも俺はただ一般人。
王族に謁見するなんて初めてだし、正直不安で仕方ないのでありがたい限りだ。
ふふんと鼻を鳴らす長靴猫でもいないよりはマシという訳。
「大丈夫。王女様は優しい人だから。普通に丁寧語で話せばいい」
「会ったことあるの?」
何度かある、とシアは答えた。
不敬罪とか無礼打ちとか、どうも前の世界の常識が足を引っ張る。
どうやらエルディア国の王族は俺が考えるよりずっとフランクなようだ。
バスは首都ネオルミナスシティの中心へと近づく。
近づく程に中央にそびえ立つ城のその大きさを実感するようになった。
まず最初に見えてきたのは放射状支持構造のフレームだった。
頂上から六本の白い柱が木の根のように伸びている。
デカイ、兎に角デカイ。
バスはそんなフレームの先端に到着した――。
「ここからエレベーターを使う」
地上から頂上を見上げると首がもげそうになった。
フレームの先端は出入り口になっており、そこから中へ入れるようになっていた。
自動ドアを抜けると広々としたエントランスになっており、東京タワーのように観光名所的な雰囲気がある。
エレベーターの中は二十畳くらいはあったと思う。
招待状の中に同封されていたカードをかざすとエレベーターは起動する。
階層を示す数字はボタンの数より多い。
つまりは、カードを持っていないと一定層以上には上がれないということのようだ。
壁際に座席が設けられており、窓にはスチールの手すりがあった。
地上から離れていく景色をシアと並んで眺める。
フレームの内側はミルフィーユの層のように何層にもわたって街があった。
いくつかの層は一層まるごと緑で覆われているように見える。
「ほとんど農園」
「農園? 城で食料を生産してるの?」
「うん、私が生まれる前は違ったらしいけど、ここ、ラジアル・クラウンが建造されてからはここで生産してる」
今更だが、この巨大な塔は『ラジアル・クラウン』と呼ばれているそうだ。
直径は約500M。その中でも最上部の部分だけが王城なのだそうだ。
「つまりは、最後の砦として建造されたって訳かニャ」
「なんだよ、最後の砦って……」
「言葉の通りニャ。結界が縮小しているんニャろ? その結界が消失したらどうなる? 外周を武装して立て籠もるしか選択肢がないニャ」
「……っ! で、でも、これだけデカイ建造物だ、それなりの人口は賄えるんだろう? その為の街とか農園なんだろう?」
シアは寂しそうな顔をして反対側の窓に近づいていく。
「……シア?」
街の景色を眺めるシアの横顔は、何故かとても悲しそうに見えた。
視線の先を追うと、その理由は直ぐにわかった。
「あれは……」
街の外縁のある一線から綺麗な街並みが途絶えていて、その先は完全な廃墟だった。
「あそこは結界の外側。元々都市の一部だった場所……」
高度が上がる程、その瓦礫となった街の面積が恐ろしく広いことを知る。
結界が縮小している――。
こうして実物を目の当たりにすると胸が苦しくなった。
結界の外になってしまった街の人は、どうなる――。
そんな疑問が口を出そうになったが、なんとか呑み込んだ。
さらに高度が上がり、エレベーターの表示が高度300Mを表示すると結界の外の世界が見えてきた。
「……砂漠だ」
「うん、……結界の外は、もう人間の住めるところじゃない」
そして、エレベーターは最上階に到着する――。
先細り構造ではあったが、そこには庭園が広がっていた。
色とりどりの花々、木々が風に揺れ、小川がキラキラと光っている。
王城はそんな場所の中央に建っていた。
「ベルサイユ宮殿みたいだ」
俺は悲しい気持ちを振り切るように精一杯明るい表情で声を出した。
「セーダイ、こっち。カートに乗って行ける」
エレベーター出口の近くには少人数用のカートが並んでいた。
シアの後に尻いてカートに乗る。
「王城、正門まで」
シアは慣れた感じで音声入力を終えた。
よく来ているのかな? いや、街でも似たようなモノを見た気がする。
カートは自転車くらいの速度でスイスイと進む。
タイヤは……残念ながらあった。
バスにもタイヤが付いてたし、近未来にも浮遊車は存在しないようだ。




