シアちゃん、中の人ここにいるよ~
食堂の帰り、元気のないシアと廊下を歩いていると急に背後から呼び止められた。
「ちょいとそこ行くお二人さん」
「少し、お話を聞かせて頂けますか?」
最初に話し掛けてきたのは、眼鏡を掛け白カチューシャが印象的な緑髪のお姉さん。
もう一人は薄紫の黒髪ロングお姉様。切れ長の瞳がちょっと怖い。
「ええっと、先輩さんですかね? 俺、ここへ来たばかりで分からなくて」
「そうです。申し訳ありませんが、生徒会室にご同行願います」
生徒会室……。もしやお説教かな? さっきジェイラスと一悶着あったばかりだし。
「大丈夫、大丈夫だよぉ、少年! 痛いのは最初だけ、先っちょだけだから!」
緑髪の先輩が怪しげな手付きでボケ倒しているが、何故かシアが怯えて俺の後ろで小さくなった。
初めて訪れた生徒会室で、ソファーに座りながら室内を見渡す。
大きなディスプレイとか見慣れないものも幾つかあったが、概ね、日本のそれと変わりなかった。
最初はファンタジー感のない世界にガッカリしていたものだが、こうして二日過ごしてみるとホームシックにならずに済みそうで、大きな変化がないことは結果的には良かったのかもしれないと思えるようになった。
まぁ、中世って結構不衛生だからな……。
日本の衛生観念に慣れ親しんだ俺にはマジもんの中世はキツかっただろうし。
「私は生徒会室長、エリア・ルア・コルドウェル」
「お姉さんは、レニー・マキャナリーだよ!」
生徒会室長……はて、聞きなれないワードだ。生徒会長とは違うのか?
「さて、お呼びした理由なのですが……。……それはなんですか?」
エリア先輩はシアに抱きしめられている長靴猫について尋ねてきた。
「吾輩はダルニャニ……ちょ、コラ娘! 力を抜くニャ! ふぎぃひぃ!?」
「AIロボットですか……? 複雑な動きと表情……。これは…可愛いですね」
ちょっと赤くなるエリア先輩。
シアが怯えているので試しに呼び出してみたら現れた。
「どこ製なんだい? 見たことないなぁ。え、皮膚がある。これ本物の体毛? メーカーロゴは……」
レニー先輩も興味深々だ。
それにしても何故お前だけチヤホヤされるんだ、畜生め。
「そんなもんないニャ! 吾輩は……! こら、脱がそうとするニャ!?」
思いっ切り話が脱線してしまっているので、大きくゴホンと咳をする。
「……ハッ、し、失礼しました」
「それで連れて来られた理由は何なんスかね。俺たち午後も授業が……」
「グラハム先生には連絡済みです。さて、話を戻しますと、先日の一件についてです」
エリア先輩がそういうと、レニー先輩は指先をちょちょいと動かして、俺たちの顔の前に幾つもの画像を表示した。
「こ、これは……」
顔が引きつってしまった――。
俺の目の前に空中表示されていたのは、昨日の俺の姿だった。
空に浮かぶ七つの扉、出現する七つの像、俺がドラゴンをぶっ飛ばす瞬間、そして、パージされ落っこちて来る瞬間……。
「これ……キミだよね? セーダイ・バツマル君?」
レニー先輩がめっちゃニッコニコで画像を押しのけて俺に迫った。
俺は助けを求めるべく、隣に座るシアの方を見ると、シアは頬を赤らめてぽ~とした表情で画像を見ていた。
あれ、なんだこの表情。
まるで恋する乙女のような。
こういう顔もできるよになったんだね、シア。良かった良かった。
シアちゃん、中の人ここにいるよ~……って、そうじゃない、助けて……ッ!
そりゃ、俺だって自分の姿をカッコイイと思うさ! 誇らしいさ!
けど、グラハム先生に言われたんだ、正体がバレたらエライことになるぞって!
めっちゃ脅されたんだよ!
もやし君があんなガチムチのおっさんに詰められたんだよぉ!
「な、なななな、なんのぉことスかね~~……」
「この騎士は誰だと問い合わせが殺到しているんです。このままで暴動に発展します」
そんなに……!?
「そうだよぉ! 君自身は知らないのかのしれなけいど、もうこの機械騎士のことで学院は持ち切りさ! ちなみにこの画像は新聞部であるお姉さんが撮ったものだよ! どう、バッチリでしょ!」
顔が写ってしまっている以上、俺が首を縦に振ればこの人たちは、そりゃもう大々的に公表しそうだ。
女の子にチヤホヤされるのを想像すると鼻の下が伸びそうになるが、
さっきジェイラスに絡まれたばかりで、あんなのが増えることまで想像してしまう。
「騎士様、かっこいい……」
あれ、変身姿と中身の俺が一致してない感じ?
「ほほぉ、これがご主人なのかニャ、悪くないニャ」
「さぁ、認めるんだセーダイ君。エルクシア学院新聞部は決して審議不明瞭なゴシップを扱わない。故に証拠写真を用意した上で君に問うておるんだよっ!」
グイグイ迫る先輩。俺の視線は、前飽きの制服のワイシャツの下に吸い込まれる……。
「にひッ……」
レニー先輩は不敵な笑みを浮かべると、眼鏡とカチューシャを外してワイシャツの第一ボタンを外す。
見え、見え……見え……。
俺が堕とされそうになったタイミングで、生徒会長にノックの音が響いた。
「私だ、グラハムだ。入るぞ」
「どうぞ」
エリア先輩が返事をするのと同じタイミングでレニー先輩が「チッ」と舌打ちをした。
シアはジト~っとした目で俺を見ていた……。
ヤメテ! 違うの! これは思春期男子の脊髄反射なのッ!
「おぉ、セーダイ、いたか。お前宛てに召喚状が届いたぞ」
「「「は……?」」」
ソファーに座っていたシア以外の全員が同じ言葉を重ねた――。




