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思ってたんと、違う……

『IFFオンライン――。

勝利武装オンライン――。

現在、マナリアクター稼働率10%以下のため、貯蔵エネルギーで動作中』


 気付けば俺は天高く飛び上がっていた。

 正直、何が起こっているのか分からない。


 でも、あの子をあんなに傷付けやがったクソドラゴンが目の前にいる。

 そして、今の俺はそれをぶん殴る力を持っているのが分かる。


 それだけは理解できれば十分だ――。


『報告。活動限界時間残り六十秒――』


 ……と思ったら、いきなり出鼻を挫かれた。


「は!? ええぇッ!? 限界時間が来るとどうなるの!?」


『エネルギー切れとなり、勝利武装が強制解除パージされます』


 マジかよ……。

 どうやらチンタラやっている暇はなさそうだ。


「それは私の聖鎧だ……ッ!」


 いつの間にか俺と同じ高度にいたジェイラスが何やら文句を言っている。


 知るかそんなこと――。


「――エネルギーチャージ、一撃で粉砕するッ!」


『命令を受諾。敵性反応の消滅を第一目標に設定。全エネルギーを集約します』


 白亜の天使像から流れ続ける音楽が変調し、楽器の形状とは似ても似つかない、荒々しい音楽を奏でる。


 なんだ、この感覚……、全身を血が逆流するかのように体が熱い……ッ!


 叫んでいる――。


 この胸が、この拳が――。


 不可能も不条理も絶望も、全てを打ち砕けと――!!!


『勝利武装≪決戦楽章、栄光賛歌/グロリアスコード≫展開――。

勝利武装の出力300%に上昇、リキャストタイム72時間』


「構うもんかよッッ! 後のことは後で考える……ッ!」 


 最小限度の浮遊推力だけを残して、空中で拳を引く。

 周囲の大気が音楽に合わせて震えて、稲光が俺の拳に集まっていく。


 その時、ブラックドラゴンは初めて命の危機を感じていた――。


 これまで人間など戯れに踏みつぶす程度の存在としか思っていなかったはずだ。


 数えきれ程殺した、壊した。

 目的もなく、人間の街に降り立ち、破壊の限りを尽くした。

 それが、力ある者の特権だからだ。


 だが、白銀のそれは紛れもない敵だ。

 生まれ始めて認識した敵。


 何もしなければ、木っ端微塵に粉砕されてしまう。


「GYAAAAAAAAAッ!!!」


 ブラックドラゴンは怒りなのか恐怖なのか、味わったことのない感情を振り切るようにして咆哮し、白銀のそれに向かって突貫した。


 相手は自分よりも遥かに小さい。


 か弱く、そして脆い存在のはず……。 


『充填率97%、98%、100%――』


 ――このまま呑み込み、我が咢で砕いてやろうッ!


『指向性陽電子放砲……』


 ――くたばれぇッ! 矮小なる人間よ!!!


『イレイザー・レイ、照射――』


「ぶっとべえええぇぇぇッッッ!!!」


 セーダイの突き出した拳からブラックドラゴンの体躯を呑み込むビームが放たれる。


 極大の光の槍は、タングステン合金に匹敵する融点を持つブラックドラゴンの体表皮を確実に焼き切り蒸発させていく。


 ――この我が、そんな馬鹿な……。


 ――これが敗北、か……。


「セーダイ……」


 シアは見上げた空に神話の輝きを見た。


 あの恐怖の象徴、ブラックドラゴンの体は最後の断末魔と翼の先を残して跡形もなく消え去っていた……。


 七体の白亜の天使像はその役目を終えて、静かに扉の中へと戻っていく。 


 そして、セーダイを包む鎧もまた、光の粒となって消失……、上空からセーダイが落下してくる。


「セーダイッ!!!」


 周囲の生徒も教師も何が起こったのか理解できないまま、セーダイの姿を見つめているばかりだった。


 摩天楼で現場を見守っていた女性がベランダに身を乗り出して叫ぶ――。


「いけない! あのままでは地面と衝突しますッ!」


「ひ、姫様、危のう御座いまするぅ……っ!」


 姫様と呼ばれた人物を老人が必死に引き留めていた。



 シアは一人、空に飛び立った。

 聖鎧は失われたものの、体は元に戻り飛ぶだけならば可能だった。


「ギャあああああ!!! タヒぬうううぅぅッッ!!!」


 情けない悲鳴を上げるセーダイを地上数メートルで受け止めて、僅かに飛び上がった後、二人は重なるようにして落下した。


「うぅ……ッ、セーダイ、大丈夫……ぶ……?」


「もごもごッ!? ぐ、ぐるじぃ……ッ」


 じたばたとシアの胸の中でもがく俺……。


「キャアッ!!!」


「ぎゃふんッ!?」


 シアの怪力で横っ面を殴られて、ゴムボールのように跳ねた挙句、壁にぶつかりタイヤに引かれた蛙の様になってからズルズルと地面に落ちていく。


「お、おお、俺の異世界ライフ……、思ってたんと、違う……」


 シアは両胸を押さえながら赤くなって少し涙目だった――。




 そんなセーダイたちの姿を、白い人はケラケラと笑いながら見守っていた。


「危なかたねぇ、セーダイ君。聖鎧着用時のステータスで殴られてたら首だけ飛んで行ってたよ」


 ひとしきり笑かった後で、落ち着いた声色に変わった。


「まだまだ世界は滅びの道を進んでいるけれど、君なら救えるはずだ。だって君だけがただ一人……」


 白い人はそして、振り返る――。


「おめでとう、君は異世界転生者に選ばれた! さぁ、君のスキルを作ろうじゃないか」


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