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part.18

 馬車が揺れること数分後。森を抜けた先には大きな街があった。

 リリィは馬車の中で子供のように楽しそうにしながらはしゃいでいた。


「わ~、懐かしい!」

「来てよかった」

「え?」

「ここは君の生まれ故郷ではないけれど、養子として来た街でもあるだろう? ずっと屋敷の中にいても気分が滅入るだけだろうからね」


 レオンの優しいはからいにリリィはなんだか嬉しく自然と笑がこぼれる。


「……レオン様」


 レオンはリリィにニコリと微笑むと「さぁ。早速、この街で調査しよう」と、リリィに言った。


「は、はい!」


 リリィとレオンは馬車を降り聞き込みは開始する。と言っても、人に聞くのだはなく、聞く対象は主に幽霊だ。


「あのぉ……どうして、幽霊相手に聞き込みを?」


 頭から血を流し片眼を失っている、見た目が少々グロテクスな幽霊に聞き込みをしているレオンに耳打ちをするリリィ。

 そんなリリィにレオンは微笑みながら「霊は基本その場から動かないからね。イコール、普通の人よりも、その場の出来事を多く見ているということだからね」と言った。

 リリィはレオンの説明に曖昧な返事をする。


「はぁ……そうなんですか」


 同じ幽霊でもリリィは自由に行き来ができるため、リリィには『その場から動かない』ということがよくわからなかった。


(幽霊って、そういうものなのかしら?)


 リリィがそう思っていると、レオンは片目の幽霊に礼を言い道の隅へと寄った。

 リリィもそれに着いて行く。レオンがお店の壁に背を預け「ふぅ……」と、息を吐くとリリィの方を向き苦笑した。


「しかし、君はどこに行っても人気者らしいね。……少し、嫉妬をしそうだ」


 後半の呟きは、かなり小声だったがためにリリィにも聞こえていない。リリィは空を見上げ、レオンが今まで聞いてきた幽霊達の言葉を思い出していた。


『あぁ……彼女の事なら覚えてるよ。何か惹きつけられるような人だったから……』と、ある幽霊が言い、生きている人間にも聞き込みをすると、ある者は『あぁ、あの子か! いや~、あの子はいいよ~! 何せ、俺らの手伝いもしてくれる優しいお嬢さんだからね!』と、言った。

 そして、幽霊でも人間でもリリィの珍しい髪色といつも笑っていたことに深く印象が残っていたのか覚えている者が意外と多かった。

 どうやら生前のリリィは、笑顔が絶えず、困っている人を見捨てることが出来ない良心的な人物だったようだ。

 リリィは、自分のことを語ってくれる人達を見て何だか不思議な気分になった。


(……生きていた私は、皆に愛されていたのね)


「……ィ……リ……リリィ?」


 リリィは自分の顔をのぞき込むように名前を呼んでいるレオンにハッとなり慌てて返事をする。


「は、はいっ!」

「大丈夫かい? 少しボーッとしていたけど……」


 心配そうな顔でリリィを見るレオン。

 レオンは手袋をはめた手でリリィの額にそっと手を当てた。


「うーん。熱は、無いみたい、かな? 君は普通の霊とは違うから発熱もするかもしれないし……でも、手袋越しだとやっぱりわからないなぁ」

「あ、あのっ! だ、大丈夫ですからっ!」


 リリィはレオンの手から逃げるように一歩距離を置く。レオンは少し顔を赤らめているリリィを見て、キョトンとした表情をするとクスクスと笑った。


「あはは、顔が真っ赤だよ?」

「っ!?」


 そこを指摘され、リリィはレオンから顔を逸らすと両手で自分の頬を挟み込むようにして触った。


(だっ、だって、レオン様の顔が目の前にあったし……そっ、それに、わざわざそんなこと言わなくても……!)


 リリィがレオンから背を向けてそう思っていると、レオンはまたクスリと笑った。


「やっぱり君は面白いね」

「そっ、そんなに面白がられても困ります……!」

「あはは。ほら、そういう所が面白いんだよ」


 プクっと子供のように頬を膨らますリリィ。レオンはそんなリリィの頬をツンとつついた。


「もっ、もう! からかうのは止めて下さいっ!」


 そう怒鳴った瞬間、リリィはハッとなる。それは、道を行き交う人々が訝しげな眼差しでレオンを見てからだ。


「…………」


(そっか……私は幽霊で、他の人には私の姿は……)


 そう。幽霊は基本他の人には見えない。認知されない。

 それを普通に接するレオンや黒曜は、普通の人からにしたら一人でなにかをしている若しくは一人で話している『変わり者』と思うだろう。

 リリィが訝しい目でレオンを見て、異物を避けるように距離を取りならがら歩く人々に思わず顔をそむける。すると、コソコソと話している声が耳に入ってきた。


「あの方、伯爵様じゃない?」

「えぇ。また、どこかに向かって話しているわ。……変な人ね」

「狂っているって噂ですし」

「確か、剥製や悪魔召喚をするとか……やだわ……」

「綺麗なお方なのにねぇ。でも、彼の側に近すぎると死が訪れるって言われているものね」


 リリィはご婦人達の会話を聞き、心の中が黒い渦でモヤモヤとしていた。

 次第にリリィの眉間に皺がより、リリィはグッと拳を握りながらその人達の元へと寄って行く。レオンはリリィの行動に首を傾げ、ジッとリリィのことを見ていた。

 リリィはコソコソと話をする婦人達の前に来ると、腰に手を当て「勝手なことを言わないでっ!!」と、怒鳴る。だが、その声も姿も婦人達には当然見えていないし、聞こえてもいない。それでもリリィは怒声を止めることはなかった。


「確かに少し変わった方よ!? でも、彼は狂ってなどいないわ! 彼のことをよく知りもしないのに、勝手なことを言わないで!!」


 思ったことを声に出したリリィは「はぁ、はぁ」と、肩で息をする。そんなリリィの肩をレオンはポンっと叩いた。

 コソコソと話していた婦人達は、突然前に立たれたレオンに目を見開き驚くとどこか気まずそうな表情をしサッとレオンから顔を逸らす。


「リリィ、もういいよ。行こう」


 レオンはそう呟くと、リリィも黙ったまま頷き婦人達の前からその場を去った。

 婦人達はそれぞれ口をポカンと開けながらレオンの去る背中を見る。


「ねぇ、リリィって誰かしら?」

「さ、さぁ?」

「でも……やっぱり、綺麗なお方だわぁ〜」


 一人の婦人がそう言うと、残りの二人が黙ったままお互いに目を合わす。

 そして、二人は黙ったまま頷いたのだった。


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