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第16話

 レオンがリリィを連れ出た場所は、リリィがミヤといた薔薇園の庭だった。

 レオンは、その庭の中にある真っ白なベンチにリリィを座らせると自分もリリィの隣に腰を下ろした。


(あの奥に、バイオレットさんの――)


 リリィは座っている場所のさらに奥に『バイオレット』という名のお墓があることがわかり、リリィの目線はその場所へと自然に行っていた。


「ここ、綺麗でしょ?」

「え……? あ、はい。そう、ですね」

「なんか、ぎこちない返事だなぁ〜。もしかして、緊張してる?」

「それはありません」


 スパンッと真顔で言い放つリリィに、レオンはあからさまにションボリと項垂れた。


「傷つくなぁ……」

「そう言われましても……」


 困った顔をするリリィに、レオンはクスクスと笑う。


「冗談だよ♪ それより、さっきの幽霊みたいってどういう事?」

「それは……」


 リリィは、ミヤとここに来たことを全てレオンに話す。もちろん、この先にあるお墓のことも。

 レオンは驚いた様子でリリィを見ると、口元を隠すように手を当てボソリと呟いた。


「……まさか、あの場所にもう行ってたなんて」

「……?」


 リリィはレオンが何を言っているのかよく聞こえず首を傾げる。リリィはレオンの真剣な表情に「……もしかして、あそこは秘密の場所だった……?」と、心の中で思う。

 レオンは、またいつものようにリリィに優しい笑みを浮かべる。


「そっか。君は、あそこに行けたんだね」

「……は、はい」

「それより、ミヤのことを幽霊って……あははっ」

「そ、そんなに笑わなくても……」


 からかわれたリリィは子供のように頬を膨らます。レオンはそんなリリィに苦笑しながら「いや、確かにそうだなと思ってね」と、言った。

 レオンにとっては別にリリィをからかったわけでも馬鹿にしたわけでもないのだ。リリィはレオンから逸らした顔を元に戻し目を合わす。


「ミヤって、本当に幽霊なんですか?」

「あぁ、違う違う。そういう意味じゃないよ。ミヤはね、元はバイオレットの猫なんだよ」

「…………」


 リリィは、レオンからバイオレットの名を聞くと何故だか胸がチクリと傷む。レオンはそんなリリィの気持ちは知らず、リリィにミヤのことを話した。


「病で亡くなったバイオレットが今、黒曜がミヤの新しい飼い主になったんだ」

「そ、そうですか」

「知ってるかい? あの黒曜はね、あぁ見えてミヤを前にするとデレデレになるんだよ?」

「で、デレデレ?」


 レオンはミヤにデレる黒曜のことを思い出したのか、おかしそうにお腹を抱えながら大笑いを堪えるように笑った。


「くっ、ふふふ……くくっ……あ〜、思い出しただけでも笑えちゃうな~♪」

「はぁ」


 曖昧な返事をするリリィにレオンは「あれが本人の無自覚だというのが、また、面白いし……くくくっ」と、言いながら笑う。リリィはあの冷静沈着そうな黒曜がレオンが思わず笑ってしまうぐらい猫にデレてしまうということが想像しないでいた。


(何だかよくわからないけど、レオン様がここまで笑うぐらいなんだから、相当なのかしら?)


 レオンは落ち着きを取り戻すとリリィに話を続けた。


「僕は記憶に無いけど、ミヤは元々自由奔放な猫らしいよ。いつの間にか傍にいて、いつの間にか消えている。幽霊みたいにね、あはは」

「あの……」

「ん、何?」


『あのお墓はレオン様の恋人なのでしょうか?』とリリィは聞きたかったが、その言葉は不思議と喉に突っかかり出てこない。


(……どうして?)


 リリィは、また難しい顔になり少しだけ俯いた。

 そんなリリィを見て何か思ったのか、レオンはリリィの頬にそっと触れる。外出していたのは霊関係だからなのか、霊に触れられる不思議な手袋を既に身につけていた。


「……っ!!」


 薄暗くなる空に、レオン様の美しい銀髪の髪が僅かな太陽の光で反射し、絹のように美しく揺れる。まるで、夜空に浮かぶ月のように輝いて見えた。

 レオンは真剣な眼差しでリリィを見つめる。


「君にそんな顔は似合わないよ。だから笑っていて、ずっと。リリィ……」


 頬に触れられている手が、撫でるように優しく少しだけ動く。リリィの心臓は幽霊だから無いはずなのに、不思議とドキドキと高鳴っていた。

 凄く恥ずかしいのに、リリィはレオンの美しさから目を逸らすことができないでいる。だからなのか、自然とお互い見つめ合う形になった。

 すると、レオンは何もなかったかのようにパッと頬から手を離し、ベンチから立ち上がると「寒くなってきたし、屋敷に戻ろうか♪」と、リリィに言った。


「は、はい……」


 レオンの差し出される手に触れ、ベンチからフワリと宙に浮くリリィ。

 そして二人は手を繋いだまま屋敷に戻ったのだった。

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