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グール鉄鬼  作者: 大麒麟
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第九十六話 歓迎できぬ来訪者3

 異世界来訪231日目に午前中。

 虎千代の木の神地では、これまでにないほどの人口過密地帯と化していた。

 根元の大きな広い空間に、大量の屋台やイベント用のステージが並べられ、各々の作り出した商品や芸を売り買いしている。これはクリスマスというより、お寺祭りと文化祭を混ぜ合わせたような感じだ。


 虎千代の木の電飾は既につけ終わっている。これの出番は夜になってからだ。今日の天候に関しては、ホワイトクリスマスになるかどうか、微妙な雲行きである。


「これは団子? 串がないし、なんか変なのかかってるけど」

「これはたこ焼きだ。こうやってこの細い針で刺して、こう喰うんだ」


 多くの人で賑わう祭りの中には、土佐・柴とアローカナ親子もいた。彼らは何の問題もなく、平然と日本語で会話し、土佐が子供らにたこ焼きの食べ方を伝授している。

 彼らのライブ活動は夜の予定。それまではこの親子と一緒に、クリスマス祭を廻って楽しんでいる。


 先日のヒナイが日本語を喋った件は、すぐに艦隊・村に伝わっていった。

 レグンと同居している者が問い詰めてみると、一回目の漂流者を中心に、百人以上のレグンが地球各国の言語をすらすらと喋りだした。意思疎通が簡単になり、彼らは今まで以上に親密を深め始めている。


 一方での教団の出現に関しては、一応多少は衝撃を与えていた。極端な選民思想を持った彼らの動向を危惧する者は当然いたが、どうでもいいと思っている者の方が割合的に多い。

 何しろ彼らは、暴力で対話しようとして鉄鬼に手も足も出なかった故に。ちなみに統制司令部は、この件に関して特に何の動きも見せていない。


 ステージの立ち並ぶ中に“神地絵画展”という看板のある囲いがある。その中に、各々の大土地神の神地=ガタロウ神社の池・炎王の火山火口・新郷湖・虎千代の神木・酒鳥山神社を描いた絵画が並べられ、その横の椅子に銀子と百合の助が座っている。

 彼女の作品展は、あまり注目されておらず、銀子が少し退屈そうだ。


「おう銀子、暇そうだな!」

「ええ、全く・・・・・・」


 一人だけ目を向けて、話しかけてきたのは渡辺艦長。


「誰も見てないんだな。こういう所で、絵を見せるってのは、やっぱり地味だったんじゃないのか?」

「私も今更になって気づいたわ。もう閉めて屋台周りをしようかなって思ってるとこ。ところで海太はどこにいるの?」

「海太は知らないな。ここに着いてすぐに、何か急用ができたから先に行けってさ。陽子と夢は青太の車椅子引っ張って、あちこち行ってると思うが・・・・・・」

「じゃあ海太が来たら私も出るわ。私今日はあいつとも廻りたい・・・・・・」






 聖騎士達は森の中をグングン進む。魔法で一を確認したので、この先後一キロほどで、あの人の溜まり場に着くはずだ。

 騎士団長は教皇の生首が入った袋を片手に、意気揚々と進んでいった。その時、その場所に着く前に妙な介入者が現れた。


【お前は・・・・・・あいつらの仲間か?】


 森の中で、彼らの前に現れたのは、銀色の甲冑を纏った謎の鎧騎士であった。銀色のボディが、森の枝葉から差し込む太陽の光に綺麗に反射するそれは、以前あったあの兵士達の変身した姿に酷似している。

 彼の隣には、何か妙な物体が浮いていた。サイコロのような四角形の大型の物体が、ふよふよと風船のように浮いている。


『【まあ、そんなところだな。俺はブロックジャック。こいつは鋼鯱だ。よろしくな】』


 謎の箱形物体が、こちらの言語を喋ったのに驚くが、そのすぐ後に当の鋼鯱が何かを喋り始めた。だが言語が違うので、当然何を言っているのか判らない。


『【通訳するぜ。“お前らの行動は、目目連を通してずっと監視していた。阿呆すぎて見るに堪えなかったがな。そしたら今貴様らは、折角のクリスマス祭に死体を持ち込んで乱入しようとしている。これは見過ごせない。・・・・・・というわけで全員死ね!”とさ】』

【なっ、何を・・・・・・?】


 言葉は最後まで続かなかった。直後に鋼鯱の頭部から、広範囲の超音波砲が発射される。


 その後は・・・・・・何もかも一瞬で片付いた。

 聖騎士達の身体は、スイカのように弾けた。血と肉と骨が、花火のように飛び散り、辺りの林をゴミだらけにして汚していく。

 さりとて周囲の木々には、傷一つ着いていない。あまりにあっけなさ過ぎる、教団最強の戦士達の最後であった。


『目標だけを的確に攻撃か。随分鋼鯱の力をコントロール出来るようになったじゃないか』

「まあな。少しずつ練習しているからな」


 血しぶきを被って、身体を赤く濡らしながら、二人は日本語で気軽に会話を始める。

 実際に彼は、暇が出来たときは人のいないところでこっそり戦闘訓練をしていた。最近ではその頻度が上がっている気がする。


『前から気になってたんだけどさ。お前戦い嫌いなんだろ? なんで自分から戦いの準備済んだ?』

「理由はない。なんとなくだ。ところでさ・・・・・・」

『うん?』

「“正義のヒーロー”てのはさ、人殺しをしても、何とも思わない奴でもなれるもんなのか?」


 答えに行き詰まる問いだ。ブロックジャックはしばし考えた後、こう答えた。


『時と場合によるんじゃね?』






「海太、やっと来た! でもあんまり待たずに済んで良かったわ!」


 クリスマス会場に帰還して、最初に顔を合わせたのは銀子だった。

 艦長に用事は済んだから戻っていくと連絡をしたら、速効で彼女が待ち受け場所にしていたここに飛んできたという。


「よし、じゃあ早く行きましょう! まあ、まだ時間はいっぱいあるし、急がなくてもいいけどさ!」

「あっ、ああ・・・・・・でも何でお前が?」


 海太の手を引っ張って、祭りを先導する銀子に、本人は少し困惑しながらもついて行った。






 さっき銀子が畳んだ場所には、えらく早い内に次の使用者が出ていた。ブルー・ジョンソンによるシングルライブである。歌ってる歌詞の内容は、英語であるために海太と銀子には、全く通じていない。

 ただその歌があまり上手くないことだけは判った。実際にその歌に聴き入っている客は少ない。


 二人はその場から離れて、屋台の方へと向かっていった。開催が日本人中心であった影響もあって、屋台は日本風の物が多い。

 メニューはたこ焼きや焼きそばの他に、蜂蜜キュウリなんてものがある。この世界ではチョコもバナナも採れないので、蜂蜜とキュウリで代用したらしい。

 売れ行きはあまりよくない。原因は主に味が良くないから・・・・・・


 とりあえず焼きそばを買って、二人は休憩用の椅子に腰掛ける。すると意外と海太の方から、銀子に話を振ってきた。


「銀子・・・・・・お前は俺に何を望んでいる?」

「何って? もう判ってんじゃん。強い人・・・・・・鉄鬼にはヒーローになってもらいたい。皆そう思ってるはずでしょ?」

「ファイブドラゴンみたいなか?」

「まさか、とんでもないわ!」


 銀子は首を大きく振って、力強く否定する。あの話は銀子にとっても、禁句領域であった。かくいうそれを口にした海太本人も、かなり苦々しい顔をしている。


「じゃあ、もう一つ聞くがな。さっき俺の手を掴んで何か感じなかったか?」

「うん。海太の手って、すごく冷たいよね。いったいそれ、どうしたの?」


 海太は自分がグールになった経緯を、銀子に詳しく聞かせる。大勢の人が往来するところで、かなり不用心な判断だが、幸い彼らの話に聞き入っている者はいなかった。


「なるほど~~どうりで鋼鯱の力が使えたわけか・・・・・・」

「あっさりだな。俺が人間でなくても、ヒーローになるのを望むか?」


 この海太の言葉に、逆に銀子の方が困惑した様子だ。


「何か問題あるの? ていうか昭和頃のテレビヒーローって、主人公が人間の場合の方が少ないんだけど?」

「まあ・・・・・・そうらしいが」

「まあ、そういう難しい話は今日はここまでにしようよ。そろそろ皆と合流しない?」

「うん、お前はもういいのか? じゃあ、行くか」


 やがて夜が来る。途中で客足は減ったもの、暗くなってくるとまた人が増えてきた。予定されたライトアップを見るためだ。


 虎千代の木に設置された電飾が一斉に光り出し、超巨大なクリスマスツリーが美しく赤・青・緑・黄・紫と様々な色合いで輝き出す。

 この光景は下にいる客だけでなく、空の上から飛行中の鉄鬼達も撮影していた。


「おい、何だあれ? あんなの予定に合ったか?」

「いや、知らねえ・・・・・・あれは何だ?」


 途中で準備作業に関わった者達が、今目の前に繰り広げられている光景に困惑し、周りの客からは歓声と拍手が上がった。


 木の枝葉の周りに、何か動く物体が夥しい数、数千はくだらない規模で、何か緑色に光る物が動いている。よく見ると、それは皆人型をしていた。

 木の周りを泳ぐように飛び回りながら、フィギュアスケートのような美しい舞を踊っていた。途中でチラホラと雪が降り始めたことで、さらにその美しさ映える。


「あれは虎千代眷属の木霊達だな」


 海太を除けばそれが何なのか判ったものは少ない。勿論彼らにそんなことを頼んだ者はいない。

 これは彼らが独自に行っていることだ。海太は知らなかったが、これには同胞を傷つけた者に裁きを与えてくれた礼も幾分かあった。


 多くの者達がその幻想的な光景を褒め、立体映像で妖精を演出したのだと思っている。まさか本当にそれが妖精の類いだとは思うまい。

 裏で起こっていた血生臭い騒動など、誰も知る必要もなく、この日のクリスマスは大盛況に終わった。






 所変わって何処かの山林の上空にて。そこには一騎の竜騎士が、何故か聖騎士団長がいたのとは関係ない方向に飛んでいた。


(冗談じゃないぜ、全く・・・・・・)


 彼はあの蟒蛇襲撃の時に、空へと逃走した者であった。

 この世界の化け物の強さは、自分たちのレベルで相手に出来るレベルではない。そのことに早々に気づいたが故の気転である。


(くそっ、これからどうすれば・・・・・・)


 後先の事が判らず途方に暮れている途中で、夜の森の中に何故か木々のない開けた場所が見えた。

 月明かりがよく、その光景はよく見える。そこには木造の珍妙な形の建物が大きく立っている。その形状は本来神社というのだが、聖騎士はそのことを知らない。


(着陸にちょうどいい場所だな。雪も降ってきたし、あそこで少し休むか・・・・・・)


 神社の境内に着陸すると、彼は社殿の中に入っていく。人気が感じられないことをいいことに、随分と堂々としている。

 社殿の中には、いつからついているのか、複数の行灯に火がつけられており、内部は明るい。


 座敷畳の見たこともない部屋の内装に困惑するが、その先にある机にある物に、彼は注目した。それは横に長い大きな盆に置かれた食べ物である。

 ミカンやリンゴなどの果物の他に、二重に重なった薄型の箱だった。上部には蓋があり、それを開けてみると、そこには見たこともないような異文化の料理が詰まっていた。


【食べ物だ!】


 そんなに日は経っていない、ついさっきできあったように見えるそれを、兵士が既に掴み上げて食べ続ける。ちょうど腹が減ったところだったのだ。

 ちなみにその食べ物の前には、気の台座に置かれた円形の金属の板が、物々しく設置されている。表面は綺麗に磨かれており、行灯の明かりに照らされて輝いている。銅鏡と呼ばれる、金属の鏡だ。


 そして今、その鏡が、光の反射とは別の要因で、自発的に光を放った。


『つくづく野蛮な奴らだ。礼もせずに神地に立ち入った上に、供え物を食らうとはな・・・・・・』

【うん?】


 突然どこからか、彼には判らない言語の声が響いた瞬間、件の侵入者の聖騎士はこの世から消えた・・・・・・。


 突然社殿の中が、目が焼き付くほどの光に包まれ、一瞬にして光が消える。

 後には聖騎士の姿はどこにもなかった。あるのは僅かな量の灰。それがさっき聖騎士がいた場所に散らばっている。


 また突然にどこからか風が飛んできた。開けられた社殿の扉からではない。原理不明の現象でいきなり室内に発生した風は、灰を巻き上げて、見事な具合の方向で飛ばしていく。

 灰は全て扉の外へと飛んでいく。そしてゴミが全てなくなったと同時に、聖騎士が開けた扉は自動ドアのように勝手に閉まった。


 空を見ると聖騎士の乗っていたアイスワイバーンが、空へと大慌てで逃げていた。何

 に逃げていたかというと、突然境内に現れた謎の生物にである。


 そこにいるのは背丈五メートルほどの大型の動物。馬のような体型に、竜のような頭と全身を覆う鱗、牛のような尻尾が生えた、奇っ怪で力強そうな姿の動物。


 それはすなわち麒麟であった。


 アフリカにいる野生動物のキリンではなく、中国出展の幻獣の麒麟である。弓太郎の龍だけでなく、麒麟すらこの世界に実在していたのである。


『あの国々も・・・・・・何とも見苦しい末路を迎えたものだな。元が腐っていると、ここまで酷くなるものなのか?』


 アイスワイバーンは見上げながら、呆れた口調でそう喋る麒麟。直後に麒麟は、転移の光に包まれ、その境内から掻き消える。

 あの聖騎士は全く気にしていなかったが、ここの神社は掃除や補修がきっちりと行われており、他の大土地神の神地とは比べものにならないぐらい綺麗であった。

 その神社の入り口外、大きく赤い鳥居の側の石看板。そこには“ソーメン神社”という文字が刻まれていた。



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