第九十五話 歓迎できぬ来訪者2
そして夕方頃、明日の準備がおおよそ出来上がったときのことである。
虎千代の木の所に、以前弓太郎が予言した招かれざる客がついにやってきた。
森を破壊しながら無理矢理道を作り、ここまで赴いてきた数百人の人間の集団。彼らはコンロード教団の神官・聖都の貴族・聖騎士・護衛兵士達である。
連合軍兵士達は、横に長い人だかりを作りながら、この珍妙な集団を見ている。
「”%$#%$#%&$#%$~~!」
その中で聖騎士団長が彼らの前に立ち、連合軍兵士達に何か喋っている。当然何を言ってるのかは、彼らには全く判らない。
だが口調と聖騎士の表情から、どこか傲慢で苛つくものを多くが感じていた。
「あれが異世界の貴族様か? 何か服に無駄に派手なのをチャラチャラつけて、ぶっちゃけダサいんだけど・・・・・・」
「おいおい・・・・・・その言い方は差別だろう? 向こうではあれで良ファッションなのかも」
「でえ~~あいつ結局何言ってんの? 何か一方的に喋りまくってて、こっちが言う間がないんだけど?」
ヒソヒソとこの教団の者達に対する微妙な評価を口にする兵士達。海太は自分の背後で、彼らに対して明確な敵意の目を向けているヒナイに問いかける。
「通訳頼めるかな? 怖いんなら、今からジャックを呼ぶけど?」
「ううん、大丈夫。私がやる・・・・・・」
意を決して答えるヒナイ。この言葉に周りの兵士達が彼女に注目した。
「あの人の言ってること、無駄な部分が多くてすごく長い。短く言えば皆に対して、自分たちに寝床と食糧と人を寄越せって言ってる。すごい命令口調で」
「人を寄越せ? どういうことだ?」
「奴隷がたくさん欲しいんだって。今貴族の使用人がほとんどいないから、その代わりを寄越せって・・・・・・」
この言葉に、この場の全員のこめかみが震えた気がした。
「・・・・・・話にならねえな。支援が欲しいんなら、ちゃんと礼儀を持って接しろと、言ってくれないか」
ヒナイは頷いて、海太の背後から出て、教団の者達の前に進み出る。恐怖でやや震えていたが、精一杯の気合いでかつての敵国と向かい合う。教
団の者達の方は、この場にレグン族がいることに驚き、それと同時にヒナイに向けて明らかな侮蔑の眼差しをぶつけていた。
「”$%#%’&#$’%&$~~!」
ヒナイは海太に言われたとおりのことを、適切に通訳して教団の者達に喋った。 するとその言葉を聞いた彼らは、一瞬戸惑い、そしてすぐにその表情は怒りへと変わった。
「”$#%$&’$%&$&’%$&&’%$’&%($%&%%&’$~~~~~!?」
「’&%$&%#%$”#%$&%&’%&’%$&’%$’&$%~~~~~!」
「”$#%#%$&’$%&$&’%’$’&%$&$&’%%’&&&~~~~~~!」
さっきまでは喋っていたのは聖騎士団長一人だったが、こんどは後ろに控えていた貴族・神官達までもが激昂して何かを喋っている。
大勢の怒鳴り声が、凄まじい雑音となり、これだけ森が揺れ動きそうだ。
「機嫌を損ねたみたいだな・・・・・・。今度は何と言ってる?」
「“何故そんな傲慢な態度で返されるのか判らない。野蛮で下等で汚らわしい異界の民に対して、この高貴なる自分たちに奉仕する権利を授けてやろうとしているのだ。これほどの慈悲深さを与えておきながら、それ以上の礼を要求するとは何事だ~~~!”て、言ってるよ」
この瞬間、連合軍兵士全員の心が一つになった。
(((こいつら救いようもねえ馬鹿だ!)))
愚かさもここまで行くと、逆に見事という気がする。
実はヒナイの通訳は、これでも結構緩和したものだった。実際はこれ以上に口汚く、かつ傲慢・自尊・差別的な発言が、嵐のように豪勢に出まくっていった。
ひとまずこれで適切な対話法を見い出すことが出来た。こいつらには真面目に話をする価値すらないと・・・・・・
「ヒナイ、今度はこいつらにさっさと帰るよう言ってくれるか?」
その頼み通りに、ヒナイが奴らのその言葉を伝える最中に、その場の鉄鬼持ちの兵士全員が、こっそりと鉄鬼変身の準備を始めた。
「”#$&$%#’#%’$#~~~~!」
案の定、神官・貴族らは怒り狂う。そして聖騎士達に何かを指示すると、聖騎士達が一斉に連合軍兵士に向かって抜剣した。
それに反応して、こちら側も対処のための行動を即座にとる。
「「「変身!」」」
息の合った集団発生と共に、皆次々と鉄鬼の鎧を纏っていく。海太は即座にヒナイを連れて、彼らの背後に移った。
彼らの変身に聖騎士は僅かに動揺するものの、すぐに気を取り直して彼らに攻撃魔法を放った。剣身から紫色の電力が発生し、それが一気に電光となって鉄鬼達に襲いかかった。
夕暮れで薄暗くなってきた山の中に、強力な稲妻の光が辺りをまぶしく照らす。百を超える電光が、おおよそ六十人の鉄鬼に全発命中した。
人間ならば、骨すら焼けるほどの威力の電撃。聖騎士達はこれで、楽々敵を一網打尽にした思った。だが・・・・・・
「#%$&’%$~~? #%$&’$%&’%&~~~~~!?」
聖騎士達が驚愕で思わず一歩下がる。落雷し、それによって発生した煙が晴れると、そこには無傷の鉄鬼達がいたのだ。
「この程度か? ビリッとしてちょっと痛かったけど、そんな深刻な程の痛手じゃないな・・・・・・」
「#”%$#%&$’&%$&’~~~!?」
余裕綽々の鉄鬼と対照的に、さっきとは180度変換して焦り出す聖騎士。すぐにまたさっきと同じ雷撃魔法を、その次は火、その次は氷の魔法を、次々と放っていった。
だが鉄鬼達にはほとんど効いていないようだった。
「うわ、やばいなこれ。火事になるよ」
魔法攻撃の余波で草むらに燃え移った火を、冷却能力を持った鉄鬼がすぐにかき消す。そんな様子の彼らを見て、聖騎士が口々に何かを喚いている。
「“結界か? どんな術式を使った?”て言ってるよ」
ヒナイがご丁寧にその言葉を訳す。実際は鉄鬼達は何のトリックも使ってはいない。鉄鬼達の強化された肉体と装甲強度は、機関銃の弾を百発食らっても立ってられるほど頑強なものだ。
この程度の雷など、その防御力の前では児戯にも等しい。彼らの持つ文明・魔法の力は、地球連合軍の科学技術の前では全くの無力であった。
「”$#%$&’$$%(’&%’(%~~~!」
聖騎士達が再び魔道剣の、己の魔法力を込め始める。だが今回は攻撃方法が違った。聖騎士達は一斉に鉄鬼達に向けて突進し、手に持つ魔法で斬撃を強化された剣が鉄鬼達に襲いかかる。
確かに遠距離攻撃よりも、直接斬り付ける方が攻撃力は高いだろう。だがそれにもレベル差の限度がある。
ガキッ!
鈍い金属音が聞こえて、聖騎士達が数歩下がる。鉄鬼達は何もしておらず、魔道剣の一撃はしっかりと当たっている。
だが鉄鬼達は全く動じていない。多少は痛かったようで、剣身が当たった部分をさすっている者もいるが、目に見えるような負傷をしたものは一人もいなかった。
その一方で聖騎士の魔道剣は、刃が当たった部分が見事に欠けていた。中に剣そのものが折れてしまった物まである。誰にでも読み取れる、判りやすい実力差の表れであった。
「正直迷惑なんで、全員お帰り願おうか」
鉄鬼達は聖騎士達の身体を強引に掴みかかる。聖騎士は必死に振りほどこうとするが、力の差が力士と病人ほどの差があり、己の首や肩を捕まえる手は微動だにしない。
鉄鬼達は装備を合わせれば百キロはありそうな身体を、段ボール箱のように軽々と持ち上げ、向こうにいる偉そうにしている者達に向かって、ポイポイとゴミのように放り投げていった。
「”%$#%’$&&&’%&%~~~!?」
こっちに飛んでくる肉と鎧の塊に、神官・貴族達は避けようという思考判断すら出来ずに、次々とその下敷きになっていく。
見ると事態の劣勢に気がついたのか、聖騎士以外の護衛兵士達が、自分の雇い主を見捨てて次々と森の中へと逃げていった。
「$%#%#%’&$%&#$~~~!?」
さっきまでの余裕綽々の態度はどこへやら、神官貴族達は大慌てで森の中へと逃げていく。聖騎士達もそれを追って、森の中へと退散していった。
「何か余計な横やりが入ったけど、さっさと最後の仕上げに行くぞ!」
「「おおおおっ!」」
さっきまでの騒ぎがなかったかのように変身を解いて仕事に戻る兵士達。最も、残りの仕事は少なくすぐに済むものだ。
後はこの場所の宣伝と、客の移動手段の準備だけである。特に大した問題も起こらず、クリスマス前日の夜は過ぎていった・・・・・・
だいぶ時間が経ち、もうすぐ朝日が昇るだろう時刻。虎千代の木付近の森の中で。
【何してる!? 戦わんか!? うわぁああああああっ!】
森の中で遭遇したそれに対して、聖騎士達が背中を向けてまた逃げている。自分を見捨てていく彼らを追って、教皇と神官達もその方へと走っていった。
彼らが森の中で遭遇したの蟒蛇。連合軍の方では、タレの素材に駆られている大蛇の魔物である。
高レベルの鉄鬼達ならば、たやすく狩れるレベルの相手だが、聖騎士達にはそれは無理だった。
山の中で野宿しているところを蟒蛇の群れに襲われ、いくばくか抵抗したものの全く適わなかった。
何十人もの聖騎士が、虫のように簡単に倒され、鼠のように彼らの餌となっていく。今逃げ出している最中にも、遅れていた貴族の何人かが、奴らの餌となっていた。
【はひぃ、ひぃ・・・・・・・・・蛇は・・・・・・おらんのか?】
いつの間にか森の中で一人となっていた教皇。全身に土と枯れ葉の欠片が付着して、豪華な服はもう台無しになっている。
だがもうそれを気にしているような余裕はどこにもない。
【誰かっ、誰かおらんのか~~~!? 儂は教皇じゃぞ! さっさと助けにこんか~~~!】
子供のように泣き喚きながらそう叫ぶ教皇。しばらくその場で喚いていたが、やがて叫び疲れておとなしくなる。
そんなとき彼の近くにあった藪が、ガサガサと揺れ始めた。また化け物かと、教皇が再び泣き叫ぶ。
【ひぃいいいいいいっ!? やめろ! 儂を喰うな! 喰うなら役立たずの聖騎士共にしろ!】
やがて藪の中から、何者かが現れる。それは一時間ほど前まで自分と一緒にいた聖騎士団長であった。彼の後ろから生き残りの聖騎士達が続々とやってくる。
【お前ら!? 今までどこにおった!? この儂を置いておくなど極刑じゃぞ! へ? ひぃいいいいいっ!?】
教皇の非難に帰ってきたのは、団長の魔道剣だった。剣の切っ先が、まぎれもなく教皇を指して向けられている。
【ぐだぐだうっせえんだよ! この豚が!】
【いいいいっ!? へぇっ!?】
【どうやらこの世界で、俺たちだけで生き残るのは無理なようだ。だがあいつらに貴様の首を差し出せば、俺たちだけは助けてもらえるかもな・・・・・・】
教皇に向けられる団長の言葉には、何の敬意も感じられない。ただ相手を見下しきった冷酷な感情だけが発せられていた。
【ききききっ・・・・・・貴様ら!? 気でも狂ったか!? 儂の首じゃと!? 教団の最悪の大罪じゃぞ! 地獄行きじゃぞ!】
【あいつらはレグンと仲がいいようだな。だがあいつらを殺したのは、全部貴様に命令されたからだ。あのような非人道的なことは本意ではなかったが、我らにはそれに背く権利はなかった!・・・・・・てな。というわけで死ね!】
振られる剣撃。教皇の首がそれによってあっさりと跳ね飛ばされた。彼の部下達が命令通りにその生首を拾って袋に詰める。そして再びあの大木のある方向に、彼らは歩み始めた。
言うまでもないが、団長のさっきの言葉は嘘である。彼らはこれまで散々教団の権威の元で甘い汁をすすり、戦争には積極的に参加して、殺戮を楽しんでいた。
だが彼はそのことも、これからつく嘘も、一切罪とは思わない。高貴なるもののすることは全てが許され、嘘も全て真実になる。それが彼らの大昔からの価値観であった。




