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グール鉄鬼  作者: 大麒麟
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第九十四話 歓迎できぬ来訪者

 異世界来訪230日目のこと。

 この日は艦隊・各村中でクリスマスの催しが行われていた。炎王曰く、今の日付は日本の地軸と換算して、ちょうどクリスマスの12月23日の前日に値する日なのだという。

 数日前にその話を聞いた村の者達が、次々とクリスマスを祝おうと言い出したのだ。以前行われた美術展に続く、新たな催し物である。


 この話は他の集落にも次々と伝わっていき、次第にこれは日本人兵士以外にも伝わっていき、かなり大規模な催し物になった。

 最初は森の中から、適当に木を引っこ抜いてツリーにしようという話になったが、それに銀子がもっといい提案をしてきた。


「うわあ~~! すごいわ、こんな立派なクリスマスツリー、そうそうあるもんじゃないわね!」


 銀子がそう言いながら見上げる先には、以前海太が訪れた虎千代のご神木である。高さ二百メートル、枝は丸く大きく広がっている、そのブロッコリーのような姿の木。

 以前鉄鼠に囓られた部分は、大土地神ならではの驚異的な再生能力で、大分傷が治っている。


そ れに大勢の鉄鬼達が、空を飛び交いながら、ものすごい速さで飾り付けをしていた。高層ビルに似合いそうな超巨大な電灯とケーブルを次々と丸い枝葉の表面に巻き付けていく。

 枝葉には最初結構な量の雪が積もっており、この作業で大分取り払われた。だが幾分か残っている箇所もあり、その具合がちょうどいい感じにツリーの雰囲気を作り出している。


「でも本当に良かったのか? これって一応ご神木なんだろう?」


 作業の指揮をしていた真河豚副艦長の佐藤中佐が、銀子の隣でそう不安げに口にする。

 神木の根元、巨大な枝葉のせいで昼でも暗いそこの地面には、飾り付けは別分担の兵士達が、ステージ会場や屋台の準備を始めている。完全に日本のお祭りそのものである。

 その中には青太が、車椅子に乗りながら調理器の準備をしている。今回は彼女も調理班として参加予定である。


「いいんじゃないの~~? ていうか炎王の話じゃあ、大昔の虎千代神社のお祭りも、ここでやってたっていうし」

「そうなのか? それじゃあ別にいいのか・・・・・・?」


 銀子がそう話してる中、これまで屋台組み立ての手伝いをしていた海太が、そこにやってきた。彼の隣にはヒナイもいる。


「あれ? もう休憩なの?」

「元々俺は仕事にきたんじゃない・・・・・・ちょっとヒナイの様子を見てきたら、いつのまに手伝わされてたんだよ・・・・・・」


 この作業にはヒナイも参加していた。というか実はツリーの電飾の半分以上は、ヒナイ達レグン族の開発である。

 ブロックジャックの通訳のおかげで、彼らの色々なことが判った。


 彼らの故郷は鉱物資源があまり豊富でなかったため、機械技術が発達しにくかった。

 だがこの世界に来て、兵士達から機械の設計図を見せてもらい、あの巨大手から供給される多くの金属素材を手にすることによって、その技術者としての実力を大いに伸ばしてきている。


「あはははっ! そうだね。ポイント無しで働いてもらって感謝してるわ♫」

「へいへい・・・・・・・・・」

「ヒナイもとっても頑張ったよね。お姉さんとても嬉しいわ♫」

「うん♫ ありがとう銀子さん!」


 銀子に頭を撫でられて、ヒナイは元気よくそう答える。


「ヒナイもそうだが、お前らはレグン達を働かせすぎだ。あいつらにはポイントとかやってないんだろう?」

「失礼なことを言うな! 替わりに食糧・寝床や色々な物資を与えているだろう!」


 佐藤中佐が、心外だと言わんばかりにそう口にする。

 彼らは少しの間談笑していたが、途中で海太がある違和感に気づいた。


「・・・・・・・・・うん? ・・・・・・・・・あれ?」

「どしたのまだ働き足りない?」

「いや、そうじゃなくてさ・・・・・・ヒナイ、今日本語喋らなかったか?」


 海太の言葉に、銀子・佐藤及び、その会話を聞いていた周りの者達が、一斉にヒナイに注目した。

 確かについさっき、一瞬だけ喋ったような喋らなかったような・・・・・・。

 気のせいではと誰かが言い出したとき、ヒナイが嬉しそうな表情である言葉を口にした。


「うん喋ったよ!♫ 私の日本語、ちゃんとできてるかな?」


 その場の全員が、あまりの驚きに声を上げる事も出来なかった・・・・・・


「ああ、できてるよ・・・・・・お前いつから喋れるようになったんだ?」

「少し前から。皆の言ってること、ちょっとずつ一生懸命覚えてた。何か間違った言い方すると恥ずかしいから、じっくり時間をかけて勉強したんだ」


 陽気にそう語るヒナイの口調は、完全に流暢な日本語で、もう日本人と会話しているのとほとんど変わらない。

 これには海太だけでなく、周りの者皆が、驚き感心しどよめき合った。


「すごいな・・・・・・おい。他にも喋れる奴はいるのか?」

「分かんない。他の人たちとは、あんまり喋ってないから」

「ああ、そういやお前はずっと俺ん家で暮らしてたからな」


 ブロックジャックの通訳で、やはりヒナイの家族は例の“戦争”で亡くなっていることが判っている。そしてこの世界に来てから、ほとんどの時間を海太達日本人と一緒に過ごしてきた。

 村には他にもレグン達が大勢住んでいるが、思い起こせばヒナイが他のレグンと会話しているところをほとんど見たことがない。


「そっか。まあ、これでジャックの通訳がいらなくなるから良かったのかな?」

「これは朗報だ! このことも記念して、今年のクリスマスは思いっきり張り切ってやるぞ!」


 佐藤中佐の言葉に、他の兵士達も一様に同意の声を上げ、ますますクリスマスの準備に熱が入る。海太の方は、突然の事に驚くと同時に少々思うことがあった。


(ただ人の話を聞いているだけで、ここまで言葉を覚えられるのか? ・・・・・・まあ、かなり長く一緒にいたから変じゃないのかもしんないけど・・・・・・。 この学習能力、もしかしてレグンは、人間を遙かに超えた種なのか?)






 一方リヴァイアサンのテイラーの私室にて。


『【総隊長、また転移の門のエネルギー反応が計測されました】』

【そうか? んで、どこだ?】


 ディスプレイ越しの通信で報告するウィノナ。それを聞いたテイラーも、報告するウィノナも、ほとんど動揺した様子はない。

 テイラーは最近の仕事の疲れで、ベッドの上に寝転びながら適当な態度で聞いている。


 これで三度目の来訪者。しかも今回は正体がほとんど判っており、なおかつそいつらがどの程度の奴らなのか知っているので、慌てる理由が全くない。


『【ここより北東☓☓☓・・・・・・明日クリスマスイベントが予定されている虎千代神社に近いですね】』

【面倒なところに来たな・・・・・・変に騒ぎ立てて、祭りを中止にさせるのも気の毒だ。とりあえず偵察は送っておこう。それとイベント代表者各員にも、このことを伝えておけ】

『【畏まりました】』






 祭りの会場作りに皆が専念している中、仕事中だった青太が一生懸命車椅子を引きながら、海太の元に走り寄ってくる。


「海太、大変! 近くに転移の門が開いた! 誰かがこの世界に入ってきた!」


 青太の慌て叫ぶ声に、海太だけでなく周りの者達も皆険しい顔をする。ウィノナが伝えるまでもなく、この情報は祭り準備会場の皆に知れ渡ったが、さほど混乱は起きなかった。

 ただあるのは「嫌な奴らが来たな~~」というげんなりした気持ちであった。






 森の中を転移の光と共に現れた大勢の人間がいる。彼らは山林の歩くには明らかに不便な豪華な服を着た者・鎧や刀剣類の武器を持った武装した者達、が数百にも及んで存在している。

 かつてヒナイの故郷からやってきた、コンロード教団の神官及び、聖都の貴族達・その護衛の兵士や聖騎士達である。彼らもまた人妖の脅威から逃げて、この世界にやってきたのだ。


【ええい、何だ何だこの汚い場所は!? 儂を土で汚すなど死刑じゃぞ! この土も森も全部死刑じゃ!】


 教皇のその言葉を聞いて、聖騎士達が森の木々を魔道剣で次々と切り倒す。大地を生命力あふれる緑で覆っていた木々が次々と倒れていき、虎千代眷属の木霊達の悲鳴が鳴り響く。


【なんじゃこの気持ち悪い声は!? 汚らわしい汚らわしい! 切るだけでは駄目じゃ! 焼き払え!】

【そんなことをしたら我々まで焼けてしまいますよ。どうかここは我慢してください・・・・・・】


 癇癪を起こして喚いている教皇を、聖騎士団長が呆れながらもなだめる。そしてすぐに部下に指示を出した。


【早い内に、この世界の集落を見つけねばならん。この辺一帯を上空から探し出せ!】


 団長から指示を受けたのは、数人の奇怪な生き物に乗った聖騎士達。それは竜だった。

 大きさは馬の二倍ほど。全身真っ白の鱗で覆われ、前足がコウモリの羽になっているワイバーンである。この生き物はアイスワイバーンといい、聖騎士の中でもかなり上位の者だけが騎乗できる、教団の軍竜である。


 竜騎士達は跨がるアイスワイバーンの横腹を軽く蹴る。それを合図に、アイスワイバーンが両翼を上げて羽ばたき、地面を蹴ると全身が地面から離れて浮き上がった。

 魔力による重力操作と、羽ばたきの風による飛行能力。推進力以外では、鉄鬼の飛行能力と同型の物だ。


 全十騎の竜騎士が空高く舞い上がり、命令通り集落捜索のために各自別方向に散っていった。






 かつてヒナイの故郷の街は、戦況の劣勢を受けて今いる大陸から逃げる計画を立てた。それのために急遽作られたのが、超大型飛行船である。

 木造の帆船に大きな飛行機のようなものをつけたそれこそ、かつて連合軍が見た異世界からやってきたレグンの方舟である。


 高い技術能力を持つレグンだが、あの世界では資源不足が元で蒸気機関などはあまり発達していない。もちろん一度に何万も運べる乗り物などありようもなかった。

 それを可能にしたのが、かつて緑人達がレグンに渡した秘宝の一つである。


 浮遊能力を持ち、城さえも浮き上がらせる不思議な玉。それを渡したのが、かつてレグンをこの世界に招き入れた異世界の超人達=緑人である。

 隣の人間の国々では、神だのコンロードだの、かっこよさげな呼ばれ方をしているが、実際は全て教団の脚色である。


 多くの人員と高い技術力で、ようやく完成した空飛ぶ方舟。全十隻十万人の民を乗せた方舟が、まだ見ぬ海の向こうの大陸目がけて飛んでいった。

 向こうの大陸では、人間とレグンが普通に共存しているらしいという話に希望を寄せたのである。ただその大陸にも“黒の女神聖教”という、コンロード教と変わらない信仰勢力があるらしいという話が、かなりの不安要素であったが。


 だが既に教団の魔の手はすぐ近くに迫っていた。発着してまもなくしてアイスワイバーンに乗った竜騎士達が、この船団を襲撃してきた。

 彼らもただやられるわけにはいかない。装備された機銃を撃ちまくって必死に抵抗し、どうにか奴らを追い払うことが出来た。

 だが犠牲は大きい。この戦闘で生き残った船は立ったの一隻。残りは墜落して海の藻屑である。


 どうにか大陸から逃げることができた一同。だがその先にはまだ地獄があった。最初は順調に航海していたが、何十日経っても目標の大陸は見えない。

 やがて燃料も食糧も底をつき、彼らの間には絶望が広がった。


 この海の向こうには、もう一つ別の大陸があるという伝説。それは真実である。だがそこに至るまでの距離は、地球で言う太平洋の距離があったのだ。

 レグン達はそのことを知らず、またその距離を渡る技術もなかった。


 もう後がないレグン達。ここで彼らはついに最後の手を使った。緑人達が残したもう一つの秘宝、転移石である。

 この石の力を使えば、異世界へ飛ぶことが出来る。だがその先が安全であるという保証はどこにもない。何故なら起動させるとどういった世界に飛ぶのか、その指定が出来ないから。

 あの魔物達がその異世界からきているらしいという話があり、多くのレグン達が最後の最後まで異世界へ避難するという選択をしなかった。


 だがもう選ぶ余裕はない。絶望の中の最後の光として、彼らは転移石を起動させた。その後のことは、海太達連合軍が知るとおりである。






「・・・・・・・・・何か面白い生き物が飛んでるわね」


 虎千代の木の周りで祭りの準備をしていた者達が、今は仕事をいったん中断させて、大木の木陰の外に出てきている。

 そして一様に空を見上げていた。その空の上には今、あの教団の竜騎士がこの場所を旋回しているのが見えた。


 以前の弓太郎の時とは違い、今回は兵士達の間に特に感嘆は見受けられない。あの姿を見たヒナイが、大分怯えた様子で海太の後ろに隠れている。


「安心しろヒナイ。もし奴らが襲ってきても、俺がすぐに片付けてやる」

「・・・・・・・・・うっ、うん」


 静かに頷くヒナイ。あの竜騎兵の正体は皆知っている。以前のブロックジャックの通訳と、記憶映像の採取によって、彼らの故郷で何があったのかは、既に公表済みである。


 一人の兵士が竜騎士を指さして、佐藤中佐に問いかける。


「どうしますあれ? 撃ち落としましょうか? こっちはいつでもOKですよ」

「駄目に決まってんだろうが。こっちから攻撃を仕掛ける大義名分なんて何もないんだぞ」

「あんな奴らに、大義名分なんていりますかね~?」


 やがて竜騎士は偵察を終えたのか、この場から立ち去っていく。それと同時に、特に騒ぎにもならずに彼らは仕事に戻っていった。



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