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グール鉄鬼  作者: 大麒麟
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第七十九話 地震2

 所変わってここは真河豚村の海太の家。この家は他の家よりも一日早く完成していた。現在この家には、渡辺艦長も加わって計六人が暮らしている。村の中では最高の住居人数だ。


 台所では青太が今日の夕食・魚の塩焼きのため、魚を捌いていた。この家ではすっかり青太が調理当番になっていた。

 使っている魚と塩は、全て海の方での漁業班と塩田班からもらった物だ。これらはまだ供給が少ないが、林道が完成してからは、他の家にもたくさん出回ると思われる。


 青太以外の面子は、全員今のデーブルでトランプに興じていた。このトランプは故郷世界から取り寄せたものではない。全てこの世界に来てから、兵士たちがカードの絵柄を描き、それらを大量に印刷・発行したものだ。

 これらは早いうちから流通し、兵士達の暇を潰すちょうどいい遊びになっている。ちなみに絵柄は普通のトランプとは違い、全て鉄鬼の姿になっている。そしてスペードのエースは、鋼鯱の姿だ。


 ガタガタガタガタガタガタッ!


 そんな団欒の中、突然あの地震が起き始めた。もうここまでいけば判るだろうが、揺れているのはこの家だけで、外の大地に何の異変も起きていない。


「あっ、地震だな。ジャック、震度はどのくらいだ?」

『さあ? 生憎俺は気象予報ロボットじゃないんでね』

「そんなに強くないけど、とりあえず外に出ます?」


 トランプは一旦中断、青太も台所から離れて、外に向かおうとする。だがそうしようとしないものが、二人ほどいた。

 海太と陽子である。彼らは椅子に座ったまま、訝しむようにその揺れを傍観していた。


「陽子、お前も判るのか?」

「うん。最初はぼんやりしてたけど、今ははっきりと気配が読める……」


 何やら意味深な会話をする二人。何事かと艦長が問いかけると……


「これは地震じゃないよ。霊的な何かが、この家を揺すってるわ」


 外に出るときは、あの霊刀を護身用に常備していた陽子。それが長かったためか、今では霊刀がなくても、ある程度霊感が発揮できるようになっていた。

 先に動き出したのは陽子だった。脇に置いてあった霊刀を手にすると、即座に抜刀した。そして気配の濃い位置を、注意深く読み取り、そこへ足を進める。


『何事だよ? 敵襲か?』

「大丈夫だ。敵って言うほど、大層なものじゃない」


 海太は特に何かする気はない様子。彼が感じ取った限りでは、鋼鯱の力を振るうまでもない。

 陽子は霊刀を構えながら、忍者のようにゆっくりと気配の出処に近づいていく。やがてたどり着いた先は、家の中の床の一点。木製の床の下であった。

 霊刀の刃を下向きにし、今にも床を突き刺さらん態勢をとる。


「そこにいる奴、気づいてるでしょ? コソコソしないで出てきなさい。さもないとこのこの刀の力で強制昇天よ!」


 刀身からは強い退魔の魔力が放出され始める。大分練習した陽子は、この刀の秘められた力を、今ではかなり使いこなせるようになっていた。


『わっ、判った! 頼むから、それで刺すのはやめてくれ!』


 あっさり床下から降参の声が上がる。中年男性ぽい声質の日本語だ。床下に誰か潜んでいるのか?と思えるが、故郷世界の日本家屋と違って、この下には人が入れるスペースはない。

 それに電話音声のような、妙な声質だ。やがて陽子の言葉に従って、それは皆の前に姿を現した。


「くっ、熊~!?」


 夢が思わず悲鳴を上げる。それは黒い毛並みの一頭の熊であった。首の下には三日月状の白い部分があり、日本のツキノワグマを一回り大きくしたような感じだ。

 しかもそれは床からヌーと姿を出してきたのだ。床の木材を突き破ってなどいない。まるで床など最初からないかのように、木の板をすり抜けている。

 最初は頭だけ、次に首→胴体と腕→腰→足、と瞬く間に全身の姿を現す大型の獣。その姿は全身が半透明に透き通っていた。これだけ見れば素人でも一目で判る。こいつは非実体化した動物霊であると。


「何だこいつは? いきなり人の家の下に潜り込んでるたあ……」

「艦長落ち着いて……。この人からは悪意を感じないよ」


 幽霊熊に銃を向ける艦長を、青太が冷静になだめる。海太の方はあまり関心がないのか、傍目で欠伸をしていた。彼らの代わりに陽子が、その幽霊熊に問いかけた。


「あなた何? 家を揺すって威嚇のつもり?」

『……いえ、そうではないんですよ。何ていうか……ただの悪戯でして……』


 熊という外見だけで恐ろしい姿だが、喋りだすと妙に腰が低く、恐ろしめが一気に低下した。最初は怯えていた夢も、緊張が解けて冷静に彼の姿を見る。


『あっしは名前もない低級の魔霊獣でして……かつてこの地に住んでいた、一本足の猪にやられて死んでしまった哀れな熊なのですわ……』

「一本足の猪? 一本だたらのこと?」


 そういえばあの怪物は、自分の縄張りにいる自分以外の肉食獣を、全て追いやっていたらしいという推測があったのを思い出した。


『死んだ後、ずっとあの廃校舎の親方に捕まって、言いなりにされてやした。たまにここにくる人間の寝床を、大きく揺らして驚かせるとか、恐怖の体験の前座って役をやらされてやした』

「人間が? ここの人間が来たことがあるの?」

『ええ、自然調査とか何とかそういうのがたまに……。この頃は滅多に来なくなりやしたが……』


 薄々は予想していたが、やはりこの新郷地方の外の地域には、まだどこかに人間が住んでいたようだ。


「でもあの廃校舎は壊れたはずよね? 何でまたこんなことしたの?」

『ええ、ある日あそこに戻ったら、何故か影も形もなくなってやした。あれはやっぱり姉さん達の仲間が?』

「まあ、そんなところね……。で、質問にちゃんと答える!」


 無駄口叩いた幽霊熊に、刃を近づけて威嚇する。これだけで相手は恐怖し、言葉を続けた。


『いえ、何ていうか……最初は嫌々やってたんですけど……何か途中で素で楽しくなってしまいやして……それで暇が出来たから久しぶりにと……』

「そう、事情は判ったわ。それじゃさようなら……」


 陽子が彼に向けて刀身を振り上げ、今にも斬り伏せようとする。すると熊は即座に土下座して(動物がこのポーズをとるのは、かなり滑稽な姿だ)、助けを乞うてきた。


『やめておくんなさい! あっしはまだ死にたくありません!』

「あなたもう死んでるでしょう!? 校舎の親方から解放されたなら、さっさと霊界に昇天しなさい!」

『どうかご慈悲を! 何でもしやすので!』


 必死に頭を下げて懇願する幽霊熊。ここまでされると強制昇天に、少し後味が悪くなってくる。人間並みの知性を持つものを、例え霊とはいえ斬るのはあまり気分がいいものではない。

 陽子は頭を掻きながら、周りの仲間に顔を向けた。


「こいつどうしよう? やっぱり斬ったほうがいいかな?」

「何でもするって言ってるだろ? ならそれを有効活用すりゃいいじゃん」


 艦長がある提案し、幽霊熊は一時拘束の上で、その夜は終わった。





 翌日の異世界来訪121日目の朝。この日も大工班の兵士たちは、他の客の家の補強・増築のために働きに出ようとしていた。

 だがその前に、渡辺大佐の紹介により、新しい仲間がこの日紹介された。


「こっちは私らのために働きたいって言ってくれた刃熊(はぐま)だ。無償で働いてくれるそうだから、思う存分使ってやってくれ!」

『どうも先日初めて名前を貰った刃熊でやす。みなさんどうかよろしく!』

「よろしくって………それ、何だ?」


 その紹介された姿に、大工班たちは口をあんぐり開けて戸惑っている。それは明らかな異形、半透明の姿の熊だったから当然だ。


 ドサッ!


 突然何かが倒れる音が聞こえて、その場のものは一時動揺した。何があったのかと言っても、目の前の熊は何もしていない。見ると脇にいた大工班の兵士の一人が、仰向けに倒れて全く動かずにいる。


「おい! 大丈夫か!?」

「馬鹿! 死人に声をかけるな!」


 同僚の心配の声は、すぐに呆れに変わる。相手は明らかに知性のある存在で、死んだふりはバレバレだ。そもそも死んだふりの対処法は迷信だというのに……。

 本気なのか悪ふざけなのかは不明だが、その兵士は動かずにいる。その様子に刃熊は、実にわざとらしい口ぶりでこう言った。


「ああ、なんてこと! 早速一人お亡くなりになってしまいました! 直ちに埋葬いたしましょう」

「おお、面白そうだ。手伝うぞ」


 いきなり足元の地面を掘り出す刃熊と艦長。ノリにノッて、他の大工班達も協力し始めた。彼の体を掴んで、掘った穴へと運んでいく。


「ちょっ、ちょっと待て! ふざけたのは悪かった! だから埋めるな!」


 大工班と刃熊は、思ったより早く打ち解けたようだった。


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