第七十八話 地震
異世界来訪120日目。化け蟹死亡→林道工事再開から十日間が経過した。
工事によって切り出された木々のおかげで、木材の供給量が一気に上がり、木材の価格が低下する。それによって村に滞在している者達は、強度に不安があった自分の家の補強に乗り出す者が続出した。
おかげで大工仕事でポイントを稼いでいる者達は大忙しである。中には少しでもポイント消費を抑える&人手不足を補うために、依頼主自らも工事に参加するところが多くあった。
そんなこんなでこの日、各村でいくつかの家の補強が完成した。中には二階建て作りになっている物もあって、かなり本格的な家になっている。
それと同時に困ったことが、その日の夜にいくつかの場所で起きた。カナダ人兵士が多く暮らすビッグウォーラス村、その一件の完成済みの家にて。
【う~ん! やはりこの家はいい! せまっ苦しい寮の中とは段違いだ!】
【何か久しぶりみたいに言ってるけど、私らずっと工事に参加して、毎日ここに来たでしょう? でも二階建てになって、ずいぶん広くなった感じだわ。どこか物置を作ってもいいかしら?】
【まあ別にいいな。でもあまり変なものは入れるなよ】
この家に住んでいるのは、ダラス・パスカル少佐とその二人の部下の三人である。
工事の期間は、この村の名前の由来になった母艦の寮に、一時戻って寝泊まりしていた。だがこの日にようやく帰ってきたのだ。
ログハウスのような木の匂いがする木製の家は、彼らは相当気に入っていた模様。部屋の中には、技術版が開発した冷蔵庫や調理用電熱器などもある。
後者の方は、工事と同時に新しく購入したものだ。それ以前は薪で火を炊いていた。これらも含めるとかなりのポイント消費である。手痛い出費だが、これぐらいなら今後の仕事次第で、どうにかなる。
ちなみにこういったリフォームをしている家は、他にも複数有り、今後は電力不足の問題が起こる懸念が起きている。
【早速夕食を作るわね。台所が電気式になって、これからは料理が楽になるわ】
【俺個人としては、今までの旧式の竈の方が好みだったんだがな……】
そんなこんなでこれから新しい生活を始めようとしている3人。だがその時に、その雰囲気をぶち壊す事象が起きた。
ガタガタガタガタガタガタッ!
揺れである。彼らの新改装の家が、突然玩具の家を動かしたかのように、強い振動を起こした。棚の食器がガチャガチャと小気味よい音を立てている。
ほとんどが木製・金属製なので、落ちても割れる心配はないだろうが………
【地震だ! 早く外に!】
【えっ、ええっ!】
【やめろ! すぐに飛び出すな! 一旦テーブルの下に隠れろ!】
ダラス達三人は、大急ぎで木製テーブルの下に隠れる。この世界に来てからは、彼らにとっての初めての地震体験だ。
彼らは大慌てで基本の地震対策を行う。全員が身を隠した10秒以上した後も、揺れは収まらない。だがそれほど大きな揺れではない。棚の食器も特に下に落ちる気配はなかった。
【(これぐらいなら、少しは警戒を解いてもいいか?)……全員外に出るぞ】
ダラスの指示通りに、焦らずゆっくりと周りを警戒しながら、一行は外に出る。外に足を踏み出したとき、彼らの身に、揺れの体感は急に消えた。
今まで小気味よく身体の振動を与えてくれていた揺れが、本当に急に止んでしまったのだ。
【何だ? もう地震は止んだのか? まあ、大したことがなくてよかったが……】
ダリオが安堵の息を流しているところを、他の二人は妙に神妙な面持ちで、自分の家を眺めている。
【どうしたんだお前ら?】
【……よく見ろ。地震はまだ止んじゃいない。この家だけが揺れているぞ……】
【そんなまさか……おお!】
それはある意味面白い光景だった。ダラスの言うとおり、彼らの家にはまだ地震が起こっていた。外の地面や他の家には、一切揺れが起きていないのに、彼らの家だけがガタガタと震えているのだ。まるで家が風邪を引いたかのようだ。
【これはポルターガイスト? それとも九十九神かしら?】
【ここはまだ新築の家だぞ? 化けるのには早すぎるが……】
見た感じでは、即座に自分たちに危機を与える自体ではなさそうなので、彼らはしばらくその光景を傍観していた。
そろそろこれを統制司令部に報告すべきか?と考えた辺りで、急に家の振動は止まった。機械のコンセントを抜いたかのような、あまりに唐突な変異の終わりであった。
それから二十分ほどして、ビッグウォーラス村とは大分離れた地区にある集落。日本人兵士が多く暮らす“ストロンガー村”という活かす名前の村だ。ちなみに村の代表は城 繁准将である。
そこにも他より一足早く、補強が完成した家がある。何と繁の家よりも早くだ。そこには現在、五人の男女が一緒になって暮らしていた。
「お~し。お前ら、新しい家の雰囲気はどうだった?」
「「$%‘%$##%&$~」」
一人の女性兵士の言葉に、明らかに日本語とは異なる言語で離す3人の住人。彼らは人目で兵士でないと判る。
羽と鶏冠が生えた鳥亜人のレグン族だ。三十半ばと思われる女性と、その子供と思われる十五歳ぐらいの少年・十二歳ぐらいの少女がいる。彼らの名前は(言葉が通じないので推測だが)“アローカナ”“シャモ”“コーチン”と言った。
彼らは新改装で広くなったこの家が気に入ったようで、手を大きく振って、喜びを表していると思われるジェスチャーを、話しかけた女性兵士に見せる。
それを見て女性兵士が頷いている中、傍らにいた男性兵士が口を出した。
「気に入ってもらったようで何よりだけどさ……。これでポイントがすっからかんだ。これから大丈夫か?」
「大丈夫さ。こいつらがすぐに稼いでくれるさ。今は紙の需要が上がってきてるしね!」
呑気に答える女性兵士。彼女の名前は山内 柴中尉 27歳と、田中 土佐曹長 27歳。幼い時からの腐れ縁であり、海太と陽子とは違って、正しい意味で幼馴染と言える間柄だ。
彼らは戦闘鉄馬の操縦士であり、アローカナ三人たちの保護役を引き受けた監察者だ。
彼らを受け入れた理由は、単純に善意ではなく、支給されるポイントにあった。レグン達を外の集落に引き取らせることが決定したとき、受け入れ先には週一でポイントの受注が約束された。彼らはそれに乗ったのだ。
だがしばらく一緒に暮らしている内に、レグン達の優れた職人技術が次々と発覚し、この親子の存在は、二人に思わぬ利益をもたらした。
アローカナは紙を作り出す製紙の技術に秀でていた。前に銀子が海太に言っていたことだが、現在村・艦隊郡では、食糧が十分に供給されたことで余裕ができ、娯楽目的の興行が流行り始めている。
需要が上がっているという紙は、どういう使われ方をされているのかは、いずれ別の出来事で説明しよう。
とにかく彼女の仕事のおかげで、柴達は親子を養う分以上の収入を得ることができた。その収入で、思いきって家の改築を実行したわけである。
「とりあえず飯だな。柴、こいつらにもしっかり良いものを食べさせてやれよ。一番よく働いたのはアローなんだからな」
「判ってるっての! 私をお話の悪役と一緒にするな!」
料理当番の柴が、台所に上がる。こちらもダラスの家と同じ、電気式調理器だ。彼らのおかげで大層な買い物が出来たようだ。
ガタガタガタガタガタガタッ!
その時にいきなり、前回のダラスの家で起きたのと同じような揺れが、この家にも起きた。揺れの大きさもダラスの時と同じぐらい。家全体から彼らの身体に、微妙な程度の震動を感じさせる。
「“$#‘%’%&(&~」
「#%&$&(&(%~」
「あっ、地震だ」
「地震だな。久しぶりだなこれ・・・・・・」
アローカナ親子が動揺している中、柴たち二人はえらく落ち着き払っていた。ダラスの時のように、狼狽える様子は一切ない。
土佐は椅子の上に変わらず座っており、柴は揺れなど何ともいないといった感じで、料理の準備を始めた。
「……まいったな。変に揺れるせいで食材がやりにくい」
揺れは継続中なのに、全然普段通りに振舞っている二人に、アローカナ達は不思議そうに首を傾げていた。いくら日本人が地震に慣れているからといって、これは緩すぎではないだろうか?
その視線に気づいたのか、土佐が彼らに通じるはずのない言葉で語りかける。
「大丈夫だよ。この程度の揺れ、すぐに収まる」
だが揺れは一分ほど続く。大した揺れでもないのに、この時間の長さに、さすがに二人も違和感を覚えた。
「何か変じゃね? この地震?」
「ああ、ニュースで地震速報を見たいところだけど……」
「この世界に気象庁なんてねーよ」
更に一分ほど続くと、さすがにこれは異常だと気づく。というか、揺れがウザくなったので、料理は一旦中止することになった。
「お前ら、一旦外に出るぞ。大丈夫だとは思うけれど、とりあえずついてこい」
「#%$‘%$’~」
アローカナ親子は、芝の手招きについていき、ようやく一行は外へ退避した。外に出ると、いままでしつこく感じていた振動感が、一瞬で消える。
ダラスのとき同じく、ここは家だけが揺れていたのだ。ガタガタと震え続ける、自分たちの家屋を見て、一行は一様に頭にクエッションマークが浮かぶ。
「何だってんだ? 私らの家に、貧乏ゆすりの癖がついてやがる。工事をしたのがまずかったか?」
「そういう問題ではないと思うが……」
その途端、家の揺れが急に止んだ。だがそこから先は、ダラスの時とは少し違った。突然どこかから、野太い男の声が聞こえたのだ。
『てめえら地震が来たのに、何だあの様は!? お前らいつか死ぬぞ!』
スピーカーを大音量で動かしているかのような、耳を塞ぎたくなるような、凄まじい怒声。声はそれだけで、以後それが響くことはなく、村はいつもどおり静かな時間を取り戻した。
「……………何様?」
突然謎の地震が起きたかと思えば、いきなり見知らぬ奴から説教の言葉を喰らった一行。
柴と土佐は、さっぱり意味が判らず、しばらくの間放心していた。




