第八十話 大鬼鉄砲
異世界来訪125日目。
村・艦隊群と、海まで続く林道は既に完成していて、既に順調に利用し始めている。既に向こう側では港町を造ろうと、大勢の兵士達が寝泊まりしていた。今は砂浜でテント暮らしだが、現在大勢の大工班が家を建築中である。
ちなみにその中に、熊の幽霊の姿があって、一時は皆を驚かせた。だが数日ともなると、皆大分慣れたようで、気さくに挨拶をかわしたりしている。
そんな林道の右端を、一台の鉄馬馬車が走っていた。それは以前百合之助を轢いた偵察用機体とは、大分趣が違っていた。
胴体の後ろの方に、大きくて長い大砲がついているのだ。回転可能な砲塔もついており、これは蜘蛛足の生えた戦車である。
この鉄馬の名は“大鬼鉄砲”という、完全な戦闘用機体である。総合戦闘能力はレベル6鉄鬼にも匹敵すると言われている高性能機だ。
ちなみにこれの下位機に“赤鬼鉄砲”“青鬼鉄砲”という物もいる。いずれも西村工業製だ。
その鉄馬が運んでいるのは人ではなかった。牽引している馬車に積まれているのは、野菜などの食料品が入っている。全て海で働いている者たちに配る予定のものだ。
帰りにはこの馬車の中に、沢山の魚と塩を積んでいると思われる。
見える真っ平らに土の道も、走ってみると結構デコボコがあるもので、鉄馬も馬車もやはりかなり揺れる。
出発点の村から目的地の海まで、到着まで一時間ほどかかる。それほどの長い時間この揺れに振られて、中の食べ物が潰れしまわないか、かなり不安である。
「#%&&%(%&~」
「はいはい。遊んでやるのは海についた後でな……」
その鉄馬の中には、柴&土佐と、アローカナ親子がいた。柴達は、この鉄馬の操縦士である。柴が操縦士で、土佐が何らかの戦闘が発生した場合に動く砲手である。
だが何故、アローカナ親子までここにいるのか?
この日は彼らには休みが与えられていた。それが丁度柴達の仕事日と重なってしまったのだ。いつもならば彼らの休みに合わせて、柴達も休んでいたが、何しろこの所海の町づくりの仕事で、鉄馬乗り達は忙しかった。
いつもの職場では、他の兵士達の保護があるが、今回はそうではない。廃校舎の親方が、ヒナイを誘拐する事件があって、彼らを家の中に放っておくというのは、どうにも不安があったのだ。
そこで海への観光という名目も立てて、彼らも同行させた。彼らにはまだ海を見せていないので、ちょうどいいとも思ったのだ。
機内の後部席で、揺れなど気にせずはしゃぐ子供らと、揺れに酔ったのか気持ち悪そうにしている母親。後者にはちょっと罪悪感があったが、この際仕方がない。
「今日の仕事は後ろが賑やかだな」
「いつものただ走るだけの退屈な仕事と、どっちがマシだ?」
「どっちも微妙だな……」
片道一時間。その間アローカナには、どうにか我慢してもらおう。いつもならば何事もなく、向こうの海に到着する。
途中で会うのは、すれ違う同僚の鉄馬と、道に飛び出した動物ぐらいだ。だが何故かこの日に限って、実に面倒な者に遭遇することになってしまった。
「何だあれ? 何か来てるぞ?」
「同僚の鉄馬・・・・・・じゃないな・・・・・・」
レーダーにはこちらに真正面から接近する何かが捉えられている。その様子は、例の偽鉄馬の事件によく似ていた。
「タヌキの仲間がまだいたのか?」
「だったら問題なくないか? こっちもそれと同じように、正面からぶつかってやれば……」
そう言っているうちに、例の偽鉄馬(?)が、窓の向こうからも見えるようなってきた。だがそれは鉄馬の姿をしていなかった。
それは何というか……妙な物質としか言いいようがないものである。ロールケーキのような筒状の太い物体が、林道の上をゴロゴロとタイヤのように転がって、こちらに近づいてきているのだ。
ちなみにここは坂道ではない。いったい何が動力になっているのか、それは自動で転がって林道を走っているのだ。
林道の上にあった岩が、それに潰された粉みじんになっているのが見える。一応実体はあるようだ。しかもぱっと見ただけでもかなり大きい物体だ。
「何だよあれ!?」
柴が叫び困惑するが、細かく考えている余裕はない。転がる物体は、もう目前に迫っている。操縦士の柴は直ちに、左側に動いて物体の道を開ける。
勢いが強すぎたのか判らないが、相手はそれに沿って方向を変えることはなかった。大鬼鉄砲の脇を通り過ぎ、ついさっきまで彼らのいた道を走る物体。だがそこには完全に左側に行けなかった馬車が、横90度に曲がって、まだそこにいた。
ガシャァアアアアアン!
食糧を積んだ馬車が、その物体に跳ね飛ばされる。左側に大きく吹き飛ばされ、林道の脇の林の中に、馬車が突っ込んでしまった。
それを牽引していた大鬼鉄砲も、それに引っ張られて林の中に飛び込む。
「「うわぁあああああっ!」」
「「#$%&$&‘&’!」」
二種類の言語の悲鳴が、絶叫マシンに乗っているかのように機内に響く。柴の咄嗟の回避運転で、どうにか転倒は避けられた。
だが後ろの馬車は、一部破損を起こして見事にひっくり返ってしまっている。後部カメラの映像を見て、二人は深くため息をついた。
「あれ、中身はどのぐらい無事かな?」
「さあ? でもあの状態じゃ、引っ張るのは無理そうだな……」
馬車の車輪が一つ外れてしまっている。すぐに修理できるような状態じゃない。とりあえず牽引用のロープを外し、林道の中に出る。
「これどうするよ? 土佐、助言をプリーズ!」
指揮をする戦車長がいないため、判断を土佐に丸投げする柴。元来考えるのは苦手な女なのだ。
「荷物の安全確認は後にしよう。今は外に出ないほうがいいな。まずはあの変なのがどうなったか……」
レーダーを見ると、あれはまだいた。しかも林道をUターンして、こっちに再び接近している。しかもかなり近い。
「おいおいおい!」
こっちを跳ね飛ばさんとする物体を、紙一重でよける大鬼鉄砲。二度も近場に接近されて判ったが、その筒状の物体は、高さ3メートル長さ6メートルはある。この鉄馬を轢くぐらいは、十分可能な大きさだ。
最初は丸太か何かかが転がっていると思っていたが、その物体の表面には獣のような毛がびっしりと生えている。何かの動物なのかと思ったが、レーダーには生体反応は記録されていない。
「また来るぞ!」
その物体はこちらへの関与を諦めていないようだ。よけられた後、勢いを下げながら百数十メートル程走る。そしてピタリと止まると、今度は逆向き転がって、こちらに突撃してきた。これは明確なこちらへの攻撃行動だ。
そうと判ると、砲手である土佐の判断は早かった。彼は既に、ガン・コントローラのような機械(グリップが操縦席に固定されているため、ゲーセンなどにあるのとは少し違うが)に手を触れていた。
「くたばれ!」
物体に照準を合わせ、力強く引き金を引く。それに連動して、機体後部にある主砲が、勢いよく火を吹いた。
ドオン! ダン!
白く光るエネルギー弾が、白い光の粒子を撒き散らしながら、砲口から発射される。それはまっすぐ突っ込んでくる敵物体に、見事命中した。
前時代の戦車主砲に使われていた滑空砲の、約四倍の破壊力のエネルギー弾だ。それを喰らった敵物体は、今まで転がってきた方向とは、逆向きに吹き飛んだ。だが……
(なんて頑丈なやつだ……)
敵物体はそれの直撃を受けたにも関わらず、破壊されていなかった。着弾点の体毛が少し焦げて、白い煙を吹いているが、本体は無事である。それはしばらく死んだように止まっていた。
「もう一発だ! 土佐、撃て!」
「おっ、おう!」
更なる一撃を与えようと、大鬼鉄砲が再び主砲をそちらに向ける。それに反応したのか、今まで止まっていた敵物体が、再び動き出した。土佐はそれに向かって、即座に発砲する。
ドオン!
再び鳴る砲声。だが今回は着弾の音は聞こえなかった。何と今回は敵物体が避けたのだ。
(なんじゃそりゃ!?)
謎の物体の横長の身体が、一旦右にずれて転がり出す。すると転がる方向が、途中で変化した。結果砲弾は的を外し、地面に大穴を開けるだけで終わってしまった。
その後の敵物体の動きは、奇々怪々であった。走行中に何度もずれて本体の向きをずらし、右往左往に動き回る。
確実に命中させるために、土佐は攻撃手段を主砲から機関銃に変更する。何十発ものエネルギー弾が、嵐のように敵物体に襲いかかる。
だがそれでも中々当たらない。いや、いくつかは確実に命中しているのだが、威力不足のためか大したダメージを与えていない。
そうこうしている内に、敵物体は目前に迫っていた。もう横に回避するのも間に合わない。
「おりゃあ!」
操縦士の柴が気合を込めて、操縦桿を握った。すると大鬼鉄砲のタカアシガニのように細長い六脚が、上に向けて勢いよく、バネのように飛び上がった。
その高さはおよそ10メートル。あの巨体からは信じられないジャンプ力である。本機が空中を舞い上がっている間に、敵物体はその下を通り過ぎて攻撃を外す。
ガシャ!
大鬼鉄砲の巨体が、地面に重く着地した。あれだけの重さのものが落ちると、着地の衝撃はかなりのもののはず。
だが一見華奢に見える六脚も、胴体本機も、全くダメージを受けている様子はない。綺麗にバランスを取って立ち上がり、敵物体の走った方向へと向き直る。
この機動力こそが、戦闘鉄馬の本領である。前時代に多く使われていた、キャタピラ式の戦車を遥かに超える機動力・俊敏力を持ち、更に今のようなジャンプ(最大20メートル)や、水中を器用に泳ぐことも可能だ。
戦場で敵の砲弾・銃弾を、軽やな動きでかわす姿は、ある意味芸術的とも評されている。
だがそのために機体を軽くする必要があった。軽くなった分、装甲力を低下させた。また主砲の反動に耐えられるようにするため、手法の威力、つまり攻撃力も下げる必要がある(あくまで同等技術で作った場合の話で、前述したとおり大鬼鉄砲の主砲威力&防御力は、前時代の戦車よりも上である)。
そういうハンデを背負いながらも、現代兵器として採用・流通したのがこの鉄馬であった。
思わぬ動きで攻撃をかわされた敵物体は、200メートル程走った後、そこで停止する。そして様子を見ているのか、前進・後退を数メートル程繰り返して、その場に留まっていた。
「上等だ! 売られた喧嘩は買うぜ!」
「いやここは一旦退避して、上に討伐を頼んだほうが……」
「馬鹿野郎! ここまでコケにされて退けるか!」
「#&%&(%&(%$%~」
「#$%$%‘%$&%$~」
何かに火がついて闘争心を燃え上がらせている柴を、後ろの子供たちが笑顔を浮かべて、応援とも思える動きを取っていた。
(もしかしてこいつら、これをアトラクションか何かと勘違いしてるんじゃ?)
ちなみアローカナの方は、一連の激しい動きに、すっかり酔いまくって、今にも吐きそうな様子である。いと哀れ……
その後はまさに激戦だった。敵物体は何度も方向を変えながら、大鬼鉄砲に突撃攻撃を加え続ける。大鬼鉄砲は、それを横に避け又は飛び跳ねて、何度も何度もジャンプする。
たまに隙をついて、敵物体に銃砲を撃つが、中々当たらない。敵物体も攻撃の避け方を学習したようだ。
「うありゃぁあああああああああっ!」
「柴! ちょっと落ち着け!」
ちなみに彼らの周りの林道の大地には、仕事でここを通ろうとした、他の鉄馬達の姿もあった。彼らは道のど真ん中で戦闘を行っている彼らを、最初は驚きどうしようかと悩んだが、次第にこの戦況の行方に興味を示しだした。
あろうことか乗員・乗客共に、仕事を一旦中断して戦闘観覧を行った。一時間もしたころには、実に200人以上の野次馬がその場に集まっている。一応流れ弾に当たらないよう、防御フィールドの中にいる。
上空には数十人の鉄鬼に変身した者達が、上空からこの様子を眺めている。早速噂を聞いて、集まってきたらしい。




