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グール鉄鬼  作者: 大麒麟
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第七十一話 偽鉄馬1

 異世界来訪106日目。ここはいくつもの温泉館が建設され、温泉山地 (まんまだ……)と名付けられた山々。

 先日海の方でビーストが出たとかで、色々と騒ぎになっているが、山の上で働く者たちには、全く興味を注がれなかった。


 今日も多くの温泉客がここに訪れる。一回の料金は、故郷世界ではジュース一本買うような安料金だが、客がたくさん来るので問題ない。数日前から交通の便がよくなり、更に客足が増えた。


 実はこの温泉山地と、艦隊郡・農村地の間に、巨大な林道が作られたのだ。僅か数日で、あまりに早く完成してしまった大型道路。

 やり方は実に単純である。鉄鬼の超人的な力で、森林の木々を根元から引っこ抜く。そしてその後、車が通りやすいよう、地面を平らにすればいいのだ。ビルをも吹き飛ばす鉄鬼の火力を用いれば、草一つない平坦な土地に作り変えることは容易い。

 だがその空襲のような荒っぽい作業は、大きな騒音を起こして、艦隊・村からかなり迷惑がられたが。


 鉄鬼を使えば飛べるのに、何故林道が必要なのか疑問に思うものがいるかもしれない。

 だが鉄鬼は兵士全員が持っているわけではない。鉄鬼なしの兵士とレグン達は、他の鉄鬼に抱えて運んでもらうか、林の中を徒歩で移動するしかないのだ。

 前者を取れば楽ではあるが、手間がかかる。しかも雨の日は、運んでもらう側はずぶ濡れになってしまう。そんなこんなで、誰でも気軽に温泉山地を行き来できるよう、林道の建設が計画されたのだ。


 ガチャン! ガチャン! ガチャン!


 森林の中を、静かでそれでいて硬い金属音が、どこからか聞こえている。高速道路のように大きく、焦げた土が剥き出しの林道を、何かが走っている。その音だ。


 それは遠くから見ると、何かの動物に見えるだろう。何本かの足を動かして、何か大きなものが林道の上を歩行している。だがそれは近くによると、明らかに非生物だと判るものだ。


 それは大きな金属の塊が、動物的な動きをして歩行している姿。

 ロボットの一種と言えなくもない。胴体は車輪のない装甲車のようで、全長は7mぐらい。前時代に有名だったストライカー装甲車に似ている。

 しかし本来の装甲車で車輪があるはずの部分には、代わりに長い脚が生えていた。関節が二つあって自在に折り曲がっている、細長い金属脚だ。それが左部に三つ・右部に三つずつ生えており、タカアシガニのように細長い足である。

 これはまるで巨大な蜘蛛か、タカアシガニのようだ。


 これは軍事用装甲車の一種であり、戦闘用ロボットの一種でもある乗り物=鉄馬(てつば)だ。

 いくつかのバリエーションがあり、名前のとおり馬のような足で歩行するものもある、科学大最盛記になって登場した新型車両である。


 これは勿論地球連合艦隊の所有物だ。現在この林道には、それが行き帰りで何台も移動している。中には背中に大砲をのっけた、脚付き戦車と言えるものまであるのだ。


 それは皆、単独では動いていない。彼らはサンタのトナカイのように、後ろに何かを引っ張って移動している。

 それは木と鉄を組み合わせて作られた、横が少し太いバスのような物体だった。エンジンなどはないが、これは実はバスと同じ用途で作られたものだ。

 その中には、人やレグン達が何十人も乗っているのだ。皆温泉館に向かう途中の、温泉客たちだ。この大勢人が乗った、どれほどの重さがあるかもしれない車両を、鉄馬たちは悠々と引っ張っている。


「うおっ、すごい揺れるな。まあ地元のバスと同じように考えるのは贅沢か」

「‘&%#“%$’~」

「何だお前? これが気に入ったのか? それは良かったな」


 以前は知り合いに頼んで連れてきてもらうしかなかった温泉館。

 その度に相手に手間をかけさせて気まずい思いをしていたが、これのおかげでもう心配はない。発着してたった三日目だが、今日もこの鉄馬バスはお客でいっぱいである。


 ただ乗客のコメント通りにこれは一つ問題があった。揺れがとにかく酷いのである。

 訓練を受けた兵士でなかったならば、初日から吐く者が大勢いただろう。これは鉄馬の動きにも少なからず原因があるが、もっとも大きな要因は道にある。

 何せ火力に任せて、大ざっぱに平らにした道だ。土にはデコボコした部分が多く、岩の欠片なども沢山散らばっている。それによく馬車の車輪が当たって揺れを起こすのだ。故郷世界のコンクリート製の道路とは、快適性に天と地ほどの違いがある。


 これに対して、道のちゃんとした整備もして欲しいという声が、即座に上がった。だが開拓班はこれに対して消極的である。

 例え道を細かく工事して、完全に綺麗な平らにしても、鉄馬の足跡などですぐに崩れることが考えられるからだ。とりあえずこれは要検討ということで、話を見送っている。


 バスを引っ張っているのは鉄馬だけではない。何と湖で捕らえて飼育していた大カルガモを、馬のように引っ張らせる馬車(鳥車?)まである。

 以前廃村で発見された、勝郎の映像に、この大カルガモに馬のように乗っている映像があった。それに着眼点を得て、作り出されたのが、このカルガモ馬車だ。

 これの移動速度は、鉄馬馬車よりもずっと遅い。歩くたびになる機械音や、乗り物の揺れも比較的少ないことから、快適さを求める客からは人気である。


 今も林道の中間地点の左端を、一台の鉄馬馬車が温泉館に向けて走っている。

 この機体はかなりの高級品で、高性能の支援コンピュータが搭載されていた。こんなものでありながら、この世界ではただの牽引車と同じ扱いになっている。だが今更誰もそんなこと気にしていない。


 この機体は元々偵察機体として使われていた物だ。だからこそ周囲の様子を、細かく分析するために、支援コンピュータがついている。

 だがそんなことは関係なく、相変わらず馬車の方の揺れが大きい。未だ慣れずに酔う者もいるが、それは我慢してもらうしかない。


『【正面にこちらに向かい合っている機体を発見。このままでは危険です】』


 馬車の内部で、危険物を探知したコンピュータ(人工知能法に触れるため、感情などはない)が、自動音声で操縦士に警告している。


【ほんとだ? 何やってんだあの馬車?】


 まだ遠いので肉眼では見えにくいが、表示された拡大映像は、確かに無視できないものである。

 それは正面から走っている別の鉄馬馬車だ。映像を見る限りでは、おそらく今自分が乗っているのと、同じ機体であろう。


 それは別に問題ない。今までだって帰りの鉄馬馬車と、何台かすれ違っている。問題なのは、それが左側、向こうの視点からは右側の道を走っていることだ。

 この林道では、衝突事故を防ぐために、あらかじめ行き帰りで左右違う地点を走るよう指示されている。だが正面から見える鉄馬馬車は、完全にその規則に違反している。このままでは二台が正面から激突してしまう。


【何やってんだあいつ! 危ねえぞ!】


 操縦士は向こうの鉄馬に、すぐに横に逸れるよう通信を送る。だが……


『【受信を確認できず。あの機体の番号も不明。未知の機体です!】』

【どういうことだそりゃ!?】


 映像に映し出された馬車は、通信に反応した様子はなく、こっちに接近してきている。

 双方大体時速50キロで走っているため、接近するのはとても早い。既に肉眼でもその姿が、窓からはっきり見えるようになっている。


(いったい何者だ!? いやそれより今は……)


 操縦士は自分の機体を横に逸らして、林道の右側に入る。規則違反だが、向こうが動かないのでこうするしかない。馬車の乗客たちは、鉄馬の突然の行動に動揺している。


 これで衝突は避けられる。後はすれ違った後に、また左側に戻ればいい。通信が効かないのは向こう側の故障だろうか?

 とにかく今はさっさと通り過ぎるのみ。だが更に思わぬ行動に出た。何と向こうの機体が、こちらの動きに合わせるように、右側に移動したのだ。両機は再び向かい合う形になる。


【どういうつもりだ!?】


 衝突の危機が再び来てしまった。慌ててまた左側に走るが、相手もまた鏡のようにこちらの動きに合わせて左側に戻った。相手は確実に、こちらにぶつかる気だ。


【うわぁあああっ!】


 両機はもう、避けようのない距離にまで行っていた。衝突はもう防げない。少しでも衝突の威力を落とそうと、咄嗟に操縦士はブレーキを踏んだ。


 ギギギギギギギギギギッ!


 今まで小刻みに動いていた六本足が、急に凍ったように停止した。走行の勢いはすぐに無くせず、足元が地面の土を削りながら、スケートのように前進している。

 この急停止行動のせいで、馬車の方にも反動が来た。


「うわぁああああああっ!」

「ななっ何だ!? うごぉ!」


 今までとは比べ物にならない、爆弾が落ちたかのような揺れに、大勢の乗客がひっくり返った。

 椅子に顔をぶつけて鼻血を流す者や、両者当たり所が悪くうっかりキスをしてしまう者もいる。突然の事態に乗客たちが怒り始めたが、それは操縦士も同じであった。


(くそ! 何のつもりだ! 後で訴えてやる……あれ?)


 衝突が来ると思って咄嗟に目をつぶっていた操縦士が、再び窓の向こうを見る。だがさっきまで目の前にいたあの鉄馬が、影も形もなくなっているのだ。

 よく考えてみれば、急停止の揺れはあったが、肝心の相手機体との接触による衝突は、一切感じられなかった。確かに直前まで、窓の向こうにはこちらと同型の鉄馬がいた。それはコンピュータの探知機能も認識していたはずだ。


『【相手期待は消失しました。原因は不明……】』


 一体何が起こったのか、さっぱり判らない。困惑する操縦士には、馬車の方から聞こえる怒鳴るような通信も、全く耳に入っていなかった。


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