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グール鉄鬼  作者: 大麒麟
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第七十二話 偽鉄馬2

 異世界来訪107日目の朝。

 この日は最初に完成した温泉館・真河豚は休業である。何故かと言えば、温泉の中に大きな富士山の絵を描くためだ。

 これは管理者の浅虫 源三少将が、以前から提案していた。どうもそういった雰囲気にこだわりがあるらしい。それでこの日は、絵描きの得意な兵士達数十人が、真河豚に到着する予定である。


 広い温泉の中の壁に、大きな絵を描くとなると、かなりの量の絵の具が必要である。だがその問題はレグン達が解決してくれた。

 銀子がレグン達を大勢集めて、彼らの前に使い切った絵の具を見せた。そしてそれを指差して、お願い事をするようなポーズを見せる。

 賢い彼らは、それだけで銀子の望みが判ったらしい。後日大勢のレグン達が村の真ん中に集まり、様々な種類の石・植物・油を集めて、それらを合成して絵の具を作りだした。その腕前と手の早さは見事であった。


 次々と優れた職人技を持っていることが判明するレグン達。

 先日には、日本のたたら製鉄に似た、製鋼技術まで持っていることが判明。強度にやや問題があった農具を改良するために、現在多くの兵士達が、彼らのための工房を建築中だ。


 そんなことで必要な画材は入手した絵師達。彼らは今鉄馬馬車に乗って、目的地に向かっている。

 彼らが乗っているのは、先日謎の機体と衝突したあの機体である。あの謎の事件のことで、おかしな行動を取る鉄馬に対して警戒するよう全兵に命令が出た。

 だが実質被害は起きていないし、温泉館も休むことも出来ないので、結局今日も今まで通りに皆運行している。


 馬車の中には二十数人の絵師達が乗り込んでいる。いつもは午前でも客が多いのだが、今日は乗っているのは彼らだけである。

 画材の運搬も必要なので、今日だけ彼らは特別待遇だ。その絵師達の中に銀子もいた。絵師の一人が、面子の中で一番若い銀子に話しかけてきた。


「しかしあんたすごいのね。真河豚の鋼鯱の絵を見たけど、あれあなたが描いたんでしょ?」

「ええ、人間を描くのはちょっと不得意なんですけど、ああいうのは大得意なんです。昔からああいうのばかり描いてましたから」

「鉄鬼が好きなの?」

「はい、私の両親がそういうのに関わる仕事に就いて、小さい頃からそう言うの見て育ったんだ。鉄鬼だけじゃなく、昔からのヒーローとかロボットとか、そういうのも好きだよ」


 そういうのに関わる仕事、ということは、彼女の両親は兵士か技術者なのだろう。絵師はこの返答に、へえ・・・と納得する。

 そんなやりとりなど関係なく、操縦室の方では先日に続いた緊迫した空気が出来上がっていた。


『【こちらと同じ位置に、前方から鉄馬が接近中。位置・機体タイプ共に、昨日と全く同じ状況です】』


 自動音声の言葉に、操縦士は険しい顔をする。表示された映像には、昨日と全く同じ鉄馬が、こっちに正面から接近しているのが見える。すぐに肉眼でも見えるようになるだろう。


(どうせ幻覚だろ! なめやがって! 今度は逃げないからな!)


 操縦士は今日は位置移動も停止もしなかった。ただ少し減速して、正面からこっちに来る鉄馬に、まっすぐ突き進んだ。

 このままだと確実に衝突するが、今はそれを避けるという選択肢は選ばない。もし仮に衝突の衝撃が来ても、これは頑丈な軍用鉄馬。そう簡単に壊れたり死人を出したりはしない。


 乗客の方にも、その余波は来るだろうが・・・・・・まあ何とかなるだろう?


 やがて拡大映像だけでなく、窓の方からも相手機体の姿が見えた。相手もこちらと同じ速度で減速しているが、確実に両機は近づいている。

 やがて窓の向こうから見える光景は、相手機体の全身で埋まり、両機はついに激突した。


 ゴン!


 聞こえたのは衝突の衝撃音。だがそれはあまりに小さかった。車にボールがぶつかった程度の衝撃で、機体は一切揺れていない。

 そして窓の向こうからは、先日と同じように、相手機体の姿が消えていた。操縦士はその一部始終を見ていたが、それは先日に映像に記録されていたのと同じ、まるでテレビの画面を切るように忽然と消滅していた。


(終わったのか?)


 想定していた最悪の被害はなく、操縦士は安堵の息を吐く。そして即座に鉄馬を停止させる。するとまたコンピュータから報告が来た。


『【機体の胴体下の地面に、小型の生体反応を確認。人間ではないと思われる】』

【生体反応だと?】


 相手の正体が判るかも知れないと、操縦士は鉄馬から降りる。外に出ると異変に気付いた銀子含む絵師達が、既に外に出ていて鉄馬の様子を見ている。

 開かれたドアから出てきた操縦士に、銀子が問いかける。


「ちょっと、何があったの?」


 生憎操縦士は日本語が判らなかった。だが言いたいことは読み取れたので、黙って鉄馬の胴体下=動物でいう所の腹の下の地面を指差す。

 それに気付いたその場の全員が、一斉に鉄馬の腹下を覗き込んだ。そこにあったものは・・・・・・





 その日の夜のこと。海太の家には、現在五人が窮屈に住んでいる。最近新しく入ってきた同居人=青太は、就寝時は広間で眠っている。

 今日も夜遅くなり、就寝に入ろうかという時、青太がいきなり海太の部屋に入ってきた。


 彼女は今も車椅子に乗った姿。そんな不便な生活をするぐらいなら、海に戻ったほうがいいのでは?と言ったことがあるが、彼女はどうしても海太と同じところがいいらしい。


「“$#&&%~?」

「何だ? この部屋は俺とヒナイで満杯だぞ?」

「ううん、違うの。海太にお願いしたいことがあるの……」


 少し戸惑いながら上目遣いで、海太に頼みごとと言ってくる青太。嫌悪感を覚える姿だが、これは銀子と違い、演出ではなく地であるため、即座に冷たく断るのはダメだろう。

 しかし会ってまだ一週間しか経ってないのに、随分と信頼されたものだ。


「頼み? まあ……言ってみろ」

「うん。アタシ今日ね、この土地の精霊を通して、他の土地神達と話をしたの……」


 そういえば彼女は外でずっと、ボーとしているような姿を見せていた。自然の風景を眺めて黄昏てるのかとも思ったが、どうやら精霊に意思を通していたらしい。


「それで少し困ったことを聞いたの。この大陸の土地神達……多くの方々が、魔物に神地を占領されて困ってるそうなの」

「土地神が土地を取られたってのか? 何か変な話だな」


 青太が精霊通信で、土地神から聞いた話は、長くて情報量が多くて、まとめ上げるのが大変だった。


 要約すればこう。この大陸に人がいなくなった後も、土地神として働いていた精霊・霊獣の多くは、この大地に残った。

 土地神が祀られていた領域=神地は、地脈の力が溜まりやすく、魔物たちにとってとても住みごごちのいいところだった。そのため魔物達が何度もその土地を襲ってきた。

 かつては酒鳥丸(さかどりまる)という土地神が皆をまとめ上げ、お互い協力し合いながら、魔物たちを追い払った。だがその酒鳥丸は、ある時突然亡くなってしまう。

 その後、力と数を増した魔物達が、次々と神地から土地神達を追い出し、そこを自分の縄張りにしてしまった。今でも多くの土地神達が、自分の本来の住処に戻れず悲しんでいるという。


「前に言ってた“強い土地神”てのは、何もしてくれないのか?」


 元々いた土地神が用済みになってしまうほどの力の持ち主だ。そいつならば魔物を一掃することなど容易いはず。だが海太の言葉に、青太は首を縦に振って肯定した。


「何もしてくれないみたい。ソーメン様は、このことには全然関心がないみたいで。元々土地神の方々は、今の土地に無理に留まる理由がなかったから、自分たちのこだわりで上の方々に頼み込むことも出来ないって、みんな思ってるみたい。」

「他所の世界から来た人間なら別にいいってことか・・・? しかしソーメン……それが名前かよ? どんな奴なんだ?」

「銀色の鱗と角がある麒麟様。でもその人がどこにいるのかは知らない」


 何とも薄情な神様がいたもんだと、海太は少しそいつに苛立った。まあ確かに他に住める場所なんていくらでもあるんだから、自分の都合で安易に頼むのも失礼だろう。

 ちなみ一緒にいたヒナイは、二人の会話が良い催眠音波になったようで、今は布団の中で安らかな寝息を上げている。


 そしてここまで話して、ようやく青太が本題を口にした。


「それで海太にお願いなの。魔物たちをやっつけて、土地神の方々を助けてあげて。みんなも助けて欲しいって思ってる」

「悪いが断る」


 何の迷いもない即答だった。さっきソーメンを薄情だと思った海太だが、だからといって自分が助けに行く義理などない。これは当然の返答である。

 だが青太はそう思わなかったようで、断れたことに驚き固まっている。最初から必ず引き受けてくれるものだと思っていたようだ。


「ていうかなんで俺だよ? 艦隊の他の兵隊に頼んでもいいじゃん」

「だって皆自分の仕事で忙しいし……。銀子が前に、何か困ったことがあったら、何でも海太に頼めって言ってた。海太は正義のヒーローだからって……」

「何だよ、そりゃ!?」


 あの女は自分をどう扱いたいというのか? 勝手にそんなことを触れ回れると、迷惑この上ない。そこまで考えたところで、海太はあることに気がついた。


(もしかしてあいつ……俺が鋼鯱だと知ってるのか!?)


 銀子にそのことを話した覚えはない。だがたった今青太が言った、何でも頼めだの正義のヒーローだのは、そのことを知った上でからかったというのでなければ、かなり不自然だ。


「ともかく駄目なものは駄目だ。お前、ちょっと俺のこと誤解してるぞ。前に話したけど、お前を構ったり助けたりしたのは、こっちの事情があってのことだ」

「そう……」


 がっくりと項垂れる青太。その姿に若干罪悪感があったが、これはどうしようもない。青太は海太に礼をして、車椅子を引いて部屋を出ようとするが。


「ちょっと待ってくれ! 今度はこっちから話をさせてくれ!」


 今度は海太の方から問いかけた。


「さっきと土地神と話をしたって言ってたけど……そいつらからこの世界のこと何か聞いたか? この世界の人間はどうなったんだとか、あのビースト…人妖はどうしているのとか」


 土地神はこの土地に人がいた時期から生きていたのだ。当然この世界のことに関しては、物知りのはずだ。もしかしたら今艦隊が欲しがっている情報を持っているかもしれない。


「アタシもそれが知りたくて色々聞いた。でも答えてくれなかった。桔梗(ききょう)て人が、艦隊のみんなを助けるようなことは絶対するなって……」

「桔梗? そいつは土地神の親玉か何かか?」

「判らない……それも教えてくれなかった」


 情報を知っている者が、確かにいるのに、そいつに会うことも話を聞き出すこともできない。

 もどかしい話だが、これはこれで良かったかもしれないと、海太は思った。このまま話を続けて、何か重大すぎる話を聞かされたら、また背負う荷物が増えてしまう。


「じゃあさ……最後に一つ。青太の母親の名前ってどんななんだ? よく考えたら、先代のこととかあまり聞いてないなって」


 青太は先代=母親の記憶を受け継いでる。このぐらいなら聞き出しても大丈夫なはずだ。


「母さんの名前は鮭王仙女(けいおうせんにょ)ていうの。海を空に持ち上げたっていう、ソーメン様と同じぐらいすごい人だったの」

「海を空に? へえ~それは凄そうだ」


 正直全く意味のわからない例えだった。海を泳げるだけでなく、空も飛べるという意味だろうか? しかしそういう凄い土地神とやらが、自分から人間になっていったというは不思議な話だ。

 魚の遺伝子を持つ霊獣を、人間に変えてしまうという技術も、同じぐらい不思議であるが。


「あっ、そうだ! 土地神達がちょっと、気になること言ってたの! 艦長が女神様じゃないかって、私に聞いてきた」

「は?」


 意味不明の問いである。艦長が女神? 確か新郷村に残された資料から、この世界は女神と呼ばれる存在によって統治されたという話があるが、もしかしてそれだろうか?


「私もよく判らない。あの人は、向こうの世界の人だって言ったら、すぐに何も聞かなくなった」

「そりゃ、そうだろう? あの人は正真正銘、俺たちの世界の人間だ。軍籍だってあるんだから、身元だって確かなはずだ・・・・・・」


 ここで二人は話すことがなくなり、お互い礼を終わらせて、この夜は静かに寝床に戻っていく。


(そういやあのゲーム・・・・・・もう一回やってみるかな?)


 最近すっかりその存在を忘れていた、緑天丸に渡された個人製作ゲーム。艦長に預けたままだったのを思い出す。


 そういえば艦長に、あのゲームのプレイ感想を聞いていなかったことも思い出す。思い返してみれば、あのゲームには“人妖”という名称のモンスターが出現している。これが偶然とはちょっと考えにくい。

 それに、あの主人公及び複数のキャラクターの名前は・・・・・・。

 とりあえずそのことも含めて、あの人に聞いてみようと思いながら、この日は静かに眠りについた。

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