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グール鉄鬼  作者: 大麒麟
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第六十四話 青太

 帰宅後、海太は今日会った人魚のことを、皆に説明した。ブロックジャックに頼んで、その時のやりとりも記憶映像を見せる。これにはやはり皆も驚いた風である。


 ちなみに陽子と夢は、いつもの軍服ではなく、ヒナイの作った新しい服に着替えている。レグン達の民族衣装を、人用にあしらった服だ。

 海太からすれば、いつもの軍服の方が、通気性も動きやすさも良いと思うのだが、女性にはそれなりにプライドがあるのかもしれない。


「人魚か。確かになんでもありだなこの世界は。でもさあ海太。いつのまにか口説いてるけど、信用するの早すぎじゃないか?」

「少なくとも土地神が地脈を強化させてるって部分は、信憑性があると思いますよ」


 これには全員が同意した。異常な植物の生育速度・動物の巨大化・モンスターの自然発生。これらは本来の自然現象では起こりえない。

 確かに人魚の言葉は、話としては辻褄が合う。そうなると話にあった強い土地神というのが気になるが、今は確かめようがない。


『少し前にブルーが遭遇した珠の中身があいつだろうな。恐らくは人が祠に近づいたら、生まれる仕組みだったんだろうよ。あいつが持ってる言語や知識は、そのお母様て奴から、あらかじめ植え込まれていた記憶だな』


 それとは別の話で、ちょっと不満気な表情を見せる者がいた。陽子である。


「でもさあ……あの人魚さんに、海太は随分優しいね。ああいう子が好みなの? 上に何もつけてないし……」

「話を脱線させようとして楽しいか? 男を舐めてかかる女は大嫌いだが、あいつは冷たくする理由がないだろう?」

「うう……」


 痛いところを突かれて、陽子は落ち込んだ。そんな彼女を無視して話は進む。だがよく考えてみれば、艦長の言うとおりに口説いてるみたいに、相手に踏み込みすぎている。


(これは駄目だな。この勢いだけで行動する癖は。今後はどうにか自制するよう努力しないと)


 面倒ごとは嫌いといっておきながら、このごろの自分の矛盾した行動に、海太は新たな決意を固めていた。


「それで艦長。彼女のこと、艦隊で引き取れますか。霊獣とかって、向こうではどう扱われるか判らないんで……」

「ああ、どうだろうな? 異世界から連れてきた生き物は、全部研究所暮らしだそうだが」


 以前陽子が志望した異界科は、未だに全容が世間に明らかになっていない。一部では異世界の人間を誘拐・監禁して、人体実験をしているという噂もある。

 人魚よりもこっちの方が信用できるか怪しいところだ。ちなみに彼らの話題に、あの人魚がスパイではないかという危惧はない。

 敵が自分たちを滅ぼすのに、そういった小細工はいらないことは、最初の大敗北で誰もが判っている。


「まあ、司令部にすぐ伝えなかったのは正解だったな。シルバー(技術班長官)の奴が聞いたら、解剖しろとか言いだしかねん。しばらくの間、様子を見たほうがいい。霊獣の扱いが法でどうなるのか、私もこっちで調べてみるよ」

「ええ、お願いします艦長」


 取り敢えず様子見という、問題を先回しにする形で議題は終わる。今海太が考えるべきとは、彼女の名前を考えることだろう。これなら気楽な仕事でいい。


「でも海太ってすごいね。あんなに離れたところの子の気配に気づくなんてさ。その霊感て、いつ頃からあったの?」


 夢がちょっと痛いところをつく。いつからあったのと言われれば、それは進軍後に一度殺された後である。

 彼女は同居している仲間の中で、ただ一人海太がグールor鋼鯱であることを知らないのだ。ここまでいけば事情を話してもいい気がするが、ある理由で躊躇われる。


 彼女は鉄鬼マニアというだけでなく、鋼鯱個人に特別な思い入れがあるのは、海太も気づいていた。何しろ廃校舎の事件の後も、えらく大騒ぎで、一日中廃校舎跡を見回っていたのだから。

 ここで明かしたら、また面倒な話が起こりかねない。


「それはまあ……よく覚えてないな。気がついたらいつのまにかあった」

「ふうん……まあ、そういうものだよね」


 苦し紛れに言った言葉だが、意外と順当な返答だったようだ。こういう感覚的な話は、普通は本人もはっきりしないものだ。


 人魚の件以外にも、色々と厄介な問題を抱えていることに気づかされながらも、この日を無事に終えることになる。






 異世界来訪100日目の夕方。海太は畑仕事を、いつもより早い四時頃に終わらせた。そして一旦家に戻ってから、荷物を持って海へと向かう。


 海では漁業実験が今日も行われており、ここに参加すれば移動の手間が省けるはず。だが仕事の合間に勝手に抜け出たら、昨日の佐藤副艦長のように、不審に思われる恐れがある。

 畑仕事を途中で切り上げたことを質問された場合、ヒナイの仕事の手伝いをしていると説明する予定だ。


 久しぶりにレベル2鉄鬼・番犬侍に変身して空を飛ぶ海太。鋼鯱に変身して飛ぶと、色々と面倒な騒ぎを起こしかねない。

 ふと艦隊の方を見ると、大勢の兵士たちが大規模な森林伐採を始めているのが見えた。


(本気で林道を作るつもりなのか……)


 木材の調達という目的が混じっているとはいえ、今回含めてこれまでの開拓への兵士達の士気の強さは随分なものだ。

 もうここに自分たちの国を作る気では?という疑念が湧きそうだ。よく見るとその方角は、海ではなく、温泉館がある山脈の方へと向いているのが判る。港町より温泉街のほうが先のようだ。


 海に向けてまっすぐ飛ぶ。最短経路には新郷川がずっと流れているので、レーダーなど使わなくても迷うことはない。

 やがて海にたどり着いた。他にも飛行中の鉄鬼を見かけるので、さして目立つこともない。もう夕方であるためか、あの砂浜には前よりも人が少ない。残った者たちも、すぐに帰っていくだろう。


 新郷川河口を右横に周り、例の岩浜へとやってくる。幸い近くに人はいない。漁業実験は昨日より早く終わっているようだ。


 そこに彼女はいた。昨日と同じところの岩場に座っており、空にいる海太に気づくと、嬉しそうに手を振っている。


「いつから待ってた?」

「お日様が真上にきた頃から。何か待ちきれなくて……」


 それは健気で可愛いことだが、こっちとしては困る。というか彼女のすぐ側に、とんでもないものが転がってるが、今の場合どっちを先に突っ込めばいいのだろう?


「夕方でいいんだよ……。人に見つかったら面倒なことになりそうなんだ」

「それは大丈夫。海太以外の人が近づいたら、すぐに海に戻った。海太は気配が変わっているから、すぐに判る」


 気配が変わっているというのは、恐らくグールの魔力のことだろう。だからと言って用心はして欲しいのだが……

 人魚は近くで転がっていた物体を拾い上げ、海太に差し出した。これには海太は困惑しまくる。


「海太の仲間たち、魚を欲しがってた。だから大きいのを獲ってきた。これあげるね♪」

「ああ、ありがとう。でも実はこれ、人間には食べられない種類の魚なんだ……」

「えっ、そうだったの? 海坊主は、アタシには美味しかったけど……」


 彼女が差し出したのは、一匹のカジキ型の半魚人の死体だった。例の海のマジックモンスターの一匹である。今判明したが、こいつらは海坊主というようだ。

 ちなみ明らかに成人男性よりも巨大なその魚人の死体を、軽々と持ち上げている辺り、この少女は見た目ほど貧弱ではない様子。


「それより名前を考えてきたぞ」

「本当!?」

「今日からお前の名前は“青太(あおた)”だ」


 まるで男のような名前だが、人魚=青太は気に入ったようで喜んでいる。名前の由来は、彼女の髪の色=青と、海太自身の名前である。


「ありがとう海太、アタシ嬉しい! ……!?」


 喜びのあまり抱きつこうとしたのか、海太に飛びついてきた青太を、紙一重の距離でよける。青太はそのまま、岩の地面にダイブして激突してしまった。

 海太のこれは、反射的な行動だった。こういうのは好きじゃないというのもあるが、何より青太の身体は潮臭くて、あまり触れたくなかったのだ。


「悪い……大丈夫か?」

「ううん。こっちもいきなりでごめん……」


 盛大に岩肌に衝突した青太だが、割と丈夫なようで傷などはついていない。ちょっと心配になったが、相手も気にしていないふうで、元の岩場に再び座る。


「お前さっき、この怪物を美味しいとか言ってたけど、普段何を食べてるんだ?」

「そのへんの魚とか蟹とかをそのままだよ」

「やっぱりか。そんなことだろうと思った」


 海太は、今日持ってきた荷物=手に握られた布包を差し出した。布を取ると、中にあるのは木製の弁当箱だった。


「これ何?」

「渡辺艦長が作った弁当だ。お前のこと、知り合いに何人か話したけれど、別にいいよな?」


 青太は特に不満は持たずに頷く。海太が箱を開けると、中にはキャベツとトマトとキュウリのサラダ、白米のご飯、そのご飯の上に散りばめられたウサギ肉の生姜焼きである。

 簡素なメニューの弁当だが、どれも艦隊郡が自力で取った食物から作った弁当だ。艦長曰く「仲良くなるなら餌付けが一番」とのこと。


「これ、アタシが食べていいの? 海太は?」

「俺はまだ食べる時間じゃないからいい。お前もそれは、後で食べてもいいぞ」

「今食べる!」


 弁当に同封された箸を取り、弁当を頬張る青太。その味にえらく感動したような表情だ。たかがこの程度の料理で大げさすぎるように見えるが、彼女にとってはそうではないのかもしれない。


「お前、こういうの食べるの初めてか?」

「うん。食べ物のこととか食べ方とかは知ってるけど、味はアタシの記憶にないの」


 よく見ると彼女の箸の使い方は、初めての割には使い慣れているように見える。これも彼女の母が与えた記憶によるものだろうか?

 弁当を一欠片も残らず食べ終えると。蓋をしめてから頭を下げながら海太に弁当箱を返す。何だかオーバーな礼儀作法だ。


「ありがとう、美味しかった」

「……ああ、どういたしまして」


 弁当箱を受け取ったあと、見つめ合う二人。話題の展開が難しいのだろう。どう声をかけたものかと、海太が悩んでいると、先に青太が質問してきた。


「ねえ、海太。どうして海太達は、この世界に来たの?」


 かなり返答に困る質問だ。この世界に戦争をしに来たら、あっさり負けて立ち往生してます、というのは……

 しかも場合によっては、この世界の住人の青太と敵対関係という構図になりかねない。海太が悩んでいるところを、青太は察知したようだ。


「やっぱいいや。話しにくいなら……」

「いや、違うんだ! ちょっと考えたけど、やっぱりこれは教えたほうがいい」


 青太と今後も接触する気でいるなら、これは隠していいものじゃない。海太は正直に話すことに決める。


「俺たちは……この世界を攻めに来たんだ。軍隊だからな。でも色々と間違いがあって、来る世界を間違えたかもしれないんだ。俺たちの国の話じゃ、ここじゃリョクジンていう悪い奴らがいるって話になってたけど」


 この言葉に、今度は青太が悩ましげな表情をする。


「リョクジン? 何だか知ってるような気がする。何だろう……? 思い出せない」

「そうか……」

「アタシこの世界の国のことあまり知らない。海太の世界はどんな国なの? 教えて」

「ああ、判った」


 その後二人は暗くなるまで話し続けた。最初は地球連合などの国関連の話だったが、次第に青太の実家や学校時代の話題に移っていく。

 あまり有用な情報を、相手から引き出すことはできなかったが、青太との親交を深めるという目的は、大いに前進したと実感した。


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