第六十二話 海探し
異世界来訪97日目。
この日は以前から艦隊の一部の者達の間で計画されていた、ある探索が実行されていた。それはいつもの指定範囲内の調査とは異なる
。おそらくここよりはなれた所にあるだろう、海を探すことである。
総司令部の最初の命令で、艦隊群から40キロメートル以上離れた所へは、行ってはいけない事になっていた。
だがもはや艦隊の兵士達には、その命令を遵守する気はなかった。あれ以降色んな事があったにも関わらず、全く持って何の指示も出さない総司令部には、もう多くの兵士達が見切りをつけていた。
今やテイラーを中心とした“異世界探索統制司令部”という新たな統制組織が設立されており、もはや完全に彼らの手による独立国家が生まれようとしている。
そしてこの日、明確に最初の総司令部の命に背く行動に出ることになる。これに反論する者もいないわけではないが、大多数の兵士達が賛成意見を出している。
そもそも海太達が開拓している農場は、既に一部が指定範囲から外れているので、今更という気がしないでもないが。
しかし何故ここで海なのか? これはこの世界の捜索・研究という名目がつけられている。
だが多くの兵士達が期待しているのは、海の幸の収穫だ。最初に艦隊壊滅の事態にあったときは、皆右も左も判らない不安と混乱の状態だった。
だが時間が経ち、衣食住が整い始める生活に安定が生まれ始める。そうなると兵士達は、更なる物を求めようとする欲が生まれてきた。それが海産物の確保である。
これまで温泉館の建築に、大人数で大がかりな工事を行ってきた。だがそれらが次々と完成すると、手の空いた兵士達がそちらの計画に移っていく。
新郷湖から流れる河の岸辺で、数千人の兵士達が綺麗に整列して並んでいる。彼らに向けて、テイラーが大きく息を吸って、作戦実行を宣言する。
【これよりこの世界の海域の探索・調査部隊の出動を命じる! 皆、我らの後に続き、この新郷河を辿って飛行するのだ!】
数千人の兵士達が鉄鬼に変身し、鳥の大群が飛び立つように、空へと舞い上がっていった。
目当ての海を探す手段とは、実に簡単なものである。この新郷河の水流を追って飛んでいくというだけだ。
この河は、規模からして海まで流れ込んでいる可能性が高い。だからこそ、その河を道標に追っていけば、いずれは海に到着するだろうと考えたわけだ。
いくつかの編隊を組んで一人も迷わないようにしながら、河の流れを追っていく部隊。
やがて農場を抜けて、森林の上空へと移動する。空からの自然の眺めは絶景だろうが、時速百キロ以上の速度で飛んでいる彼らには、目に入る光景を楽しむ余裕はない。
やがて彼らは、初めて見るこの世界の海を発見した。
【あっけな!? もう見つかったのかよ!】
大体一日程度の飛行を考えていたダラスが、そういう突っ込みを口にする。他の兵士達も同じ気持ちだった。
飛び始めてから、僅か二十分程度。新郷湖から53㎞離れた場所に、海はあった。艦隊群は比較的海に近いところに不時着していたのだ。
見渡す限りの大海原。この日は天気も良く、海も綺麗に映っている。鳴り響く波の音も懐かしい。
森林と海の境目には、岩場や砂浜がある。故郷世界の海とあまり変わらない光景である。
彼らは比較的動きやすいだろう砂浜に着陸した。数千の兵士達が、この細い砂浜に密集している光景は、シーズン中の海水浴場のよう。空にはカモメと思われる鳥類たちが羽ばたいている。
【あっさり見つかりましたけれど、この後どうします?】
【どうするも調査するに決まっているだろう。この辺一帯に、モンスターがいるかどうかを丹念に調べろ。それらしき者がいたら、すぐに追い散らせ! かかってきたら殺しても構わん!】
言われたとおりにモンスターの有無を確認するため、周囲の森林を探索する兵士達。何人かが海に飛び込んで、この海域のモンスターの気配を探った。
【これは・・・・・・綺麗だ】
海に潜った兵士の一人=フェイが、海の中の多種多様の生物の姿を見て感動した。
普段テレビなどで見たことのあるような光景だが、直に見ると感想が違う。少し深いところに潜ると、珊瑚礁の姿もあり、その感情を高める。
その中で大きなタコの姿も見かけた。そういえば日本人はタコを食べる習慣があることを思い出し、これを捕まえて土産にしようかと思った。
だがすぐに考え直して、最優先事項であるマジックモンスターの気配を探る。
結果としてはモンスターはいた。鉄鬼の探査装置が危険信号を発する。フェイはそれをすぐに司令部(艦隊総司令部ではなく探索統制司令部)に伝え、自身は姿だけでも確認しようと、その気配の方向へと泳ぐ。
(いた!)
そこにいたのは数体の人型の生物だった。一瞬ダイバーでもいるのかと思ったが、その姿を見てすぐに違うことに気付く。
それは半魚人という形容がとても似合う、異形の怪人たちである。人に近い四肢を持っているが、全身は魚のような鱗に覆われている。
頭は魚そのものである。手足には小さな水かきがついており、下半身には尾びれのついた尻尾が生えている。
その形も個々によって微妙に違う。
鯛のような顔と、赤いウロコに覆われた者。トビウオのような羽が生えた者。タツノオトシゴのような顔と尻尾と背びれがついた者。どうやら個体によって、モデルになった魚の種類が違うようだ。
体格は平均的な人間と比べるやや大きく、体重は100キロはあると思われる。
彼らはフェイに気づくと、明らかな敵意の目を向け、牙を向けてこちらに襲い掛かった。
(深追いしすぎたか!?)
この世界のマジックモンスターは、無条件で人間に敵意を持つのか、もしくは自分たちの縄張りを荒らされたのに怒ったのか、とにかく緊急事態だ。
フェイは一旦背を向けて退却する。フェイが装着するアイアン・ティラノサウルスは、水中戦に適したタイプではない。敵の実力がまだ判っていない以上、無理な戦闘は控えたほうがいい。
鉄鬼一人と魚怪人八匹の水中の追いかけっこが始まる。両者の遊泳速度は拮抗しており、すぐに追いつかれることはなかった。
やがてフェイは岸辺へと到着し、不利な海中から脱出する。魚怪人たちもフェイを追って水上から姿を現したが、彼らが見たものは、砂浜で約百人の鉄鬼達が、こちらに向けて銃を構える光景だった。
ダダダダダダダダッ!
何百発もの弾丸が飛び、魚怪人たちの身体に命中していく。頑強な肉体と鱗を持つ彼らも、これだけ喰らってはたまったものではない。
皮膚や肉が弾丸の嵐によってどんどん削れ、海を血で真っ赤に染めて次々と倒れていった。
モンスターは森林の中にもいた。いくつかの部隊が、海辺近くの森の中で、あの大猿と遭遇している。
廃校舎の勝郎の証言で、狒々という名称であることが判ったモンスターたちだ。
彼らは威嚇発砲すると、半分ぐらいは逃げ出したが、半分はこちらに襲い掛かってきた。だが何の問題もなく、数で勝る部隊の圧勝であった。
またモンスター以外のものでも発見があった。
ブルー・ジョンソンの部隊が、着陸した浜辺から5キロほど離れた位置にある岩場の海岸に、一つの祠らしき木造建築物が発見した。
建物は大分古ぼけており、かけられていただろう注連縄は途中で千切れて無くなっていたが、確かにこれは日本式の神道の祠である。
今更驚くことではないが、この世界では日本に近い文化が主流になっているようだ。
位置は海岸の岩場の奥、岩山になっている高いところに設置されている。波に攫われないようにするための当然の配置だ。ブルー達がその祠の前に集まっている。
【僅かですが、魔力反応があります。恐らく中にまだ何かあるかと・・・・・・】
【ということは、まだ中にご神体があるということか? どれ・・・・・・】
ブルーが何の警戒もせずに、不用心に祠の扉を開ける。祠の中には、一個の野球ボールほどの大きさの珠があった。
色は赤く、ルビーのような輝きを放っている美しい珠だ。
【なんでしょうこれは? とりあえず司令部にこのことを・・・・・・大尉!?】
見るとブルーがあっさりとその珠を手に持って、祠から抜き出していた。ブルーはそれを振ったり叩いたりして、これの持ち具合を確かめている。
ピキッ!
唐突に手の中にある珠に亀裂が入った。これにブルーも部下達も動転した。
【うわっつ! 強く叩きすぎたか!?】
その珠は内側から弾けるように砕け、くす玉のように飛び出してきた。中から出てきたのは、一匹の魚だった。
【なっ何だ!? マジックモンスターか!?】
体長10センチほどの光り物の鱗を持った小魚が、地面に落ちてピチピチと跳ねる。この珠は卵だったのかと皆が動揺する中、その小魚がジャンプした。
尾を地面に叩きつけ、高さ数メートルという、あの小さな身体からすれば有り得ないぐらいの跳躍力である。
飛んでいった先は祠の後ろの海の方向。ブルー達が慌てて捕まえようとするが、時既に遅し。小魚は岩山の下の海へと落ちていった。
波が岩を叩きつけており、海流もそれなりにありそうだ。これでは泳いで探すことも出来ない。
先走った行動で物を逃がしてしまったブルー。彼らは部下達に向けてこう言った。
【見なかったことにしないか?】
【【【駄目です!!】】】
海坊主:今話に出てきた魚人のこと。これも前作「不死の女神」からの再登場妖怪。このときにも言ったが、日本の海の妖怪の種類数の乏しさは何故だろう?




