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グール鉄鬼  作者: 大麒麟
48/116

第四十九話 繭

「#&%(%&‘(&%(’&%~!」

『えんらえんら~えんら~』


 一時間後、既に収穫が終えて、まだ次の作物が植えられていない畑の中にて。ヒナイは煙羅煙羅と戯れていた。

 煙羅煙羅がヒナイにも届く位置で低空飛行し、それをヒナイが追いかける。時々彼女の小さいからだが、煙羅煙羅の灰色の気体の身体を通り抜けると、ヒナイはゴホゴホと煙たさにむせかえる。

 だがその加減が丁度良いのか、すぐに煙羅煙羅と畑の中を縦横無尽に走り回る。


 その様子を夢は微笑ましく・・・・・・などは決してなく、汗水垂らしてかなりきつそうに眺めていた。


(暑い~どうして今日に限ってこんなに暑いの?)


 この日はいつも以上に気温が高い猛暑だった。夢が着ているのは、環境の変化に適応性が高い軍服だが、それでも長袖の服はかなりつらい。

 一方のヒナイは、この暑さなど全く動じずにしきりに運動をしている。彼女の服が半袖であることを差し引いても、かなり暑さに強いようだ。


 先日艦隊群から公表されたことだが、レグン達の肌を解析したところ、どうも彼らは以前は熱帯地方で暮らしていたらしい。ゆえにこの程度の暑さはどうということではないのだろう。


 また彼らは最初に煙羅煙羅や泥田坊の姿を見ても、さほど驚く様子はなかった。一般的な人間ならば、その異形な姿にすぐ恐怖と警戒をするだろう。

 だが彼らは特にそんなことはなく、今のヒナイのようにあっさりと仲良くなっている。レグン達が元はどんな所に住んでいたのか実に不思議な所だ。


「$&%‘~?」

『えんら?』


 ふと煙遊びをしていたヒナイが立ち止まった。もう飽きたのかと思ったら、隣のキャベツ畑の方をじっと見ている。

 そこはキャベツ畑があるところだ。作物を傷付けないよう、なるべく隣には寄らないよう気を付けていたようだが、今回は様子が違う。


 そこはまだ結球が出来上がっていない、葉っぱだらけのキャベツが、大地を緑色の絨毯のごとく覆っている。


「どうしたのヒナイちゃん?」


 様子がおかしいことに気付いた夢が、彼女の元へと歩み寄ろうとすると、今度はヒナイが走り始めた。

 てっきり逃げたのかと思ったら、ヒナイはどうやらキャベツ畑のある物に興味を示したらしい。それは育ったキャベツの根本に置かれていた。


「ああ、これは蛾の卵だね。取り残しがあったんだ」


 それは害虫と目される、あの巨大蛾の卵であった。巨大蛾が活動するの夜間。煙羅煙羅は夜間でも活動しているが、夜は見通しが悪く、こういう見落としもたまにはある。

 しかもあの巨大蛾は、普通の虫よりも耐性が強いのか、煙の匂いが付着した葉っぱにも、平然と近づくことが出来るようだ。


 夢はその卵を手で取り出すと、足で踏み潰す。これまでの研究から、この卵は食用には適さないと判っている。

 栄養状は問題なくとも、味がかなり悪い。そのため見つけたらすぐに潰すのが慣例となっている。


「$&‘%&’‘&’#$%~!」


 ヒナイがしきりに何かを喋っている。だがやはり何を言っているの不明だ。


「ちょっと落ち着いて。ねっ!」

『えんら~?』


 夢も煙羅煙羅も、どうすればいいのか判らず困惑している。当然だが言葉が通じなければ、お説教も出来ない。

 するとヒナイが走り出した。今まで遊んでいた畑から外れ、歩道へ出て、そこを一気に走り抜ける。


「ねえっ! ちょっと待ってよ!」


 夢も慌てて追いかける。その場の流れでか煙羅煙羅もついていった。彼らが向かっている先は、農場の端っこの山林との境界であった。


 農場と山林の間には、20メートルほどの距離の原っぱが、農場を囲う塀のように長く広がっている。

 山林の木々が作物に影で覆わないようにするためと、害獣が農場に接近した時に、すぐに気づけるよう見通しをよくするためである。

 この場所を草原結界と呼んでいる。故郷世界の観点からすれば、とても贅沢な土地の使い方だ。


 だが基本的に放置された原っぱは、必然的に雑草が生い茂る。それを食べようとする動物も、兵士に目に止まった瞬間に追い払われるので、草がいくらでも生え放題だ。

 草が生長しすぎると、これもやはり作物に影を作り、見通しを悪くして獣の侵入に気付きにくくなる恐れがある。


 そんなことからこの草原結界にも、定期的に草刈りなどの手入れもいるという意見もあるが、皆めんどくさいのか今のところ実行する者はいない。


 そんなことから現在この草原結界は、兵士に警戒されないレベルの動物=虫やトカゲなどの小動物の天国となっている。


 ヒナイはこの草原結界におおはしゃぎで入り込んでいった。草丈が高いため、背の低いヒナイの姿が一気に見えにくくなる。


「ちょっと、あの子どうしたの?」


 周囲を巡回していた兵士達がこれに気付いて、彼女の後を追ってきた夢に問いかける。


「分かんないよ。いきなり走り出して・・・・・・ちょっとヒナイちゃん待って!」


 慌てて姿を見失う前に、夢も草原結界に入っていった。


「あそこには虫しかいないけれど、昆虫採集かしら?」


 不思議に思いながらも、行方不明になられると面倒なので、警備の兵達もヒナイを追って草原結界に入っていった。


「$&‘%&’$~!」

「ヒナイちゃん?」


 ヒナイはすぐに捕まった。というかそっちから夢の方に戻ってきた。

 草原結界の踏み倒された草の中で、彼女は夢に向かって、得意げにあるものを見せつけた。


 それはひょうたんのような形状の不思議な物体であった。色は白く、大きさは30センチ程ある。

 何かの卵かと思ったが、表面をよく見てすぐに違うことが判った。


「あの巨大蛾の繭ね。こんなところで繁殖しているとは・・・・・・どうりで蛾の卵が減らないわけね」


 発見した警備の兵が、それを険しい顔で見つめている。畑の害虫でとりわけ厄介なあの巨大蛾、この草原結界に卵を産んでいたのだ。

 よく考えてみればここは、森林よりも遙かに幼虫の餌が多い。意外と盲点であった。


「$&‘%&~」


 ヒナイはその繭を大事そうに抱えながら、草原の中を再び探索する。どうやら何かを探しているようだ。


「もしかしてあの繭を探してるの?」

「そうみたいね。あの子にとっては宝なんでしょ」


 子供がおかしな物を大事にするのはよくあることだ。その辺に落ちてる木の棒を拾って、得意げにあちこち持ち回るなんてのも珍しくない。

 様子を見ていると、ヒナイが後ろの皆に手を振って、また何かを叫んでいる。その意図が、彼らには何となく読み取れた。


「しょうがない。一緒に探してやるか」


 繭の収集に夢と煙羅煙羅・警備兵達も加わる。かなりの数が繁殖していたようで、繭は次々と簡単に見つかった。

 順調に見つかっていく一方で、夢の中にある不安が生まれた。


(ヒナイちゃん、これどうする気なんだろ? 中に入っているのはすごく大きい芋虫なんだよね・・・・・・。もし家の中に並べられたりしたら・・・・・・)


 あまり虫が好きでない夢は、今後の最悪の事態を想像して、背筋が寒くなるのは覚えた。






 一方の真河豚村にて。

 ここでは多勢のレグン達が、村の中や周りの山林を動き回っていた。彼らはまだ全員が全快したわけではないが、元気な者はかなり活発に動いている。

 ずっと方舟と飛行艦の中で閉じこもっていたため、彼らにとっては初のこの世界の外の世界だろう。


 だがこの世界は、どこに怪物がいるか判らない危険地帯。現在の所、この近くに危険生物の接近は感知されていないが、万一のことを警戒する必要はある。

 何しろレグン達には、怪物と対抗する力がないのだ。かといって怪物の危険性を説明することも出来ないし、下手に家に閉じこめて関係を悪化させるの問題だ。


 兵士達は元気に動き回るレグン達の様子を、やや緊迫した空気で見つめていた。

 そんな彼らの様子に気付いたのか、一人のレグンの少年が、何かを持って兵士に近づいてきた。


「こっこれは・・・・・・」

「$%‘(%&’~」


 明るい笑顔で差し出されたそれは、それはとても大きな生きたヒキガエルだった。

 彼らにとってどんな価値があるのか不明だが、こんなものを差し出されても困る。


「・・・・・・あっ、ありがとう」


 だが怒ることもできずに、兵士はそれを受け取る羽目になる。カエルのヌメヌメした肌の感触が、彼の脳に即座に伝わる。


「!!」


 あまりの気持ち悪さに悶絶しそうになるが、それは訓練を積み重ねた軍人、不屈の精神力で耐え抜いて見せた。実に偉い・・・・・・






 一方村の別の場所では、あるレグンの男が村と林の端っこにある物に注目していた。


「どうしたんだ? それはただのゴミだぞ」


 彼が見ていたのは、大量に積まれた大ウサギなどの動物の、骨や皮のゴミ山だった。

 どれも食糧に使われ廃棄された動物の残りかすである。これらは土に分解されにくいので、肥料などにも使えず、そのまま投棄されたものである。

 そのうちゴミの量が増えすぎれば、どっかその辺の山にでも捨てようと思っていた物だ。


「$‘%&’&&%~」


 何を思ったのかレグンの男は、そのゴミ山を漁り始めた。別に取られて困る物ではないが、彼の意図が分からず、兵達は困惑していた。

 レグン達が拾い集めているのは、骨ではなく動物の皮であった。






 夕方頃になって海太達は帰ってきた。家のヒナイのことが気になって、いつもより少し早い帰宅である。

 一応夢から、ヒナイと一緒に家に戻ったという連絡はあったが・・・・・・


「・・・おい、なんだこれは?」

「ちょっと! まさかこれ食べるの!?」


 彼らの目に飛び込んできたのは、テーブルに置かれている、大量の芋虫の死体が乗っかった大皿であった。

 何十匹という巨大芋虫が、皿の上でケーキのように大きな山になっている。虫の嫌いな人が見れば、卒倒しそうな気持ち悪さだ。


『ああ、大丈夫だ。それは食べないよ。畑の肥料に使えそうと思ってとっておいたんだ』

「そんなのテーブルの上に置くな! ここで物を食べにくくなるだろ! ていうか、何でこんなのが集まったんだ?」

「ヒナイが集めたんだ。何か面白いことをしてるぜ」


 既に来ていた渡辺艦長がそう答える。彼女の指し示す通りに、上の海太の部屋を訪ねると・・・・・・


「あれって・・・・・・編み物か?」

「すごい速い・・・・・・」


 何とヒナイがあの巨大繭の糸を絹糸のように扱い、棒針編みで布を作っていた。

 とてつもなく慣れた手つきで、常人離れした速度で糸を編んでいく。とても子供の出来ることとは思えない。


 よく見ると彼女が棒針に使っているのは、食事に使うための箸だった。

 以前栄養剤以外の食べ物を初めて上げたときに、器用に箸を使っていたは印象的だったが、まさかこんな使われ方をされるとは思わなかった。

 というかあの太さの棒で、あの細い糸を編むのは難しいと思うのだが、ヒナイは特に問題とせず、着々と行っている。


「辺に干渉せずに、様子を見ておこう・・・・・・レグン達に関して、何か新しいことが判るかも」


 皆一旦部屋から引いて、食事の時以外にヒナイを部屋の外へと呼び出すことはなかった。

 一心不乱に糸を編む彼女は、側で海太が寝静まっても止まることはなかった。



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