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グール鉄鬼  作者: 大麒麟
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第五十話 幽霊

 異世界来訪78日目の朝。

 海太は目覚めると同時に、部屋の真ん中にある存在に違和感を感じた。そこには大の字になって寝ているヒナイがいた。

 どうやらかなり夜更かししたらしい。眠ったのはついさっきだろうか?


 だが彼女の着ている服は、いつものあの民族衣装ではなかった。


「これは・・・・・・俺たちの軍服か?」


 ジャージに似た形状の、緑色の軍の制服と酷似した服を着ながら、ヒナイは眠っていたのだ。

 ジッパーなどはついていないが、この色合いといい、胸にある階級章を真似たマークといい、明らかに自分たちの服に似せて作っている。


(これ、あの巨大蛾の繭糸から作ったのか? 何て奴だ・・・・・・)


 彼女の側には、木製ボウルの中に、すり潰されて汁を抜き取られた葉っぱが積まれていた。どうやらあれで染料代わりにして色つけをしたらしい。

 昨日眠っているうちは、こんなものはなかったから、あの後一人で外に出たことになる。


「これはちょっとまずいな。外が危険だってこと、どうにかして伝えないと・・・・・・」


 この日村のあちこちで驚きの声が上がっていた。ヒナイ以外のレグン達も、動物の皮などを使って、見事な腕前で服を作り上げて見せたのだ。

 兵士達は彼らの意外な才能に驚くと同時に、今後の彼らの対応に関して、今一度新しく考えるようなる。


 またあの船の中には、浮遊能力を持った謎の鉱石が発見されている。どうやらこれがあの船を浮かせる動力源らしい。他にも転移石らしき物体も発見され、現在解析中である。

 原始的な木造船に対し、アンバランスな力を持ったオーパーツのような部品。彼らが文明がなんなのか、未だ実に謎が多い。


 ちなみにもう一つ判明したことがある。彼らレグン達は、どうやらカエルの刺身が好物であるらしい。これの部分に関してだけは、どう対応しても共存はできそうにないだろう・・・・・・



 この世界の漂流が決定した当時は、どうやってこの世界の者達と対話するかが問題と考えられていた。だが蓋を開けてみれば、この世界は(少なくとも自分たちがいる地区)ほぼ無人の世界。いるのは国や組織という概念のないモンスター達だけである。

 そして今は、自分たちが先住者となって、移住者の保護&交流を行っている。何ともおかしな話である・・・・・・






 レグン達の意外な特技が発覚したその日の夕方。ありったけの量の巨大蛾の繭を持ち込んで、西村 銀子が海太の家に訪れていた。

 彼女は営業スマイル的な笑顔でヒナイに近寄ってくる。ヒナイは銀子の様子に、少し警戒しているようだ。


「ヒナイちゃん、お姉さん君にお願いがあるの。聞いてくれる?」


 何故この場所に彼女がやってくるのか? 最初は意味が判らなかった一行だが、あの繭の山と、この言動で大体判った。

 ちなみに本人は気付いていないようだが銀子の頭には、草の葉がいくつかくっついている。恐らく仕事の後の取り残しだろう。彼女はきっと今日一日中、草原結界で繭探しをしていたに違いない。


 銀子が立体写真を映し出す、小型映写機を取り出した。テレビのリモコンのような形状の、高性能映写装置である。

 そこに二人の男女の姿が映し出された。それは旅館などでよくありそうな、浴衣姿の男女である。


「君にこれを作って欲しいの。判る? この服を、私達に合わせた感じでよ」


 銀子は映像の中の人物の服を指差し、次に自分の服に指を向けた。そしてその次に、自分が持ってきた繭の山を指差す。

 そして更に彼女は一枚の紙を差し出した。それは浴衣の構造を絵で記した者である。かなり判りやすい描き方で、絵自体も結構上手い。


「$%‘%&’%&‘~!」


 しばらく考え込んでいたヒナイだが、ようやく意図が理解できたようで、繭の山を抱えて海太の部屋へと走り出した。

 どうやらあそこが彼女の仕事場になってしまったらしい。


 この様子を見ていた海太が、眉を潜めて銀子に問いかける。


「お前・・・・・・浴衣なんて作らせてどうするんだよ? お前が着るのか?」

「そんなのじゃないよ。もうじき完成するっていう温泉館に売りつけようと思ってさ。あそこの責任者、かなり本番の温泉にこだわってるから、客用の浴衣とか欲しがると思うんだよね~」


 ただのポイント稼ぎだった。そんなことのために、さして親しくもない人の家に押しかけたのかと思うと、呆れてものもいえない。

 話を聞いていた陽子も、ちょっと怒りながら問いかける。


「ていうか、温泉の浴衣になるとかなりの量が必要になると思うけど・・・・・・それ全部ヒナイに作らせるわけ?」

「ううん。他にも私と同じように考えてる人がいてね。多分あちこちで浴衣作りをしてもらってると思うよ」

『人手は足りても、材料が足りなくならないか? 浴衣以外にも服作りを頼む奴はいるだろうし、草原結界の繭なんてすぐに狩り尽くされるぞ』


 まっとうなブロックジャックの言葉。繭がなくなれば、害虫対策と戦っている者達は喜ぶだろうが、服を欲しがる兵士達は困る。


「ううん、そうだよね・・・・・・まあ、そのうち考えるよ」


 そう言ってそそくさと家から出て行く銀子。いきなり上がり込んできて、頼むだけ頼んでさっさと消える彼女は、あまりに身勝手に思えた。


「あいつ本当にお嬢か? あんなにがめつい女だったとはな・・・・・・」


 渡辺艦長もまた呆れた顔で、窓の向こうから立ち去っていく銀子の姿を見届ける。だがその言葉の一つに、気に掛かる単語があった。


「お嬢って・・・・・・あいつ金持ちの家の子なのか?」

「ああ、そうだよ。履歴を見たけれど、すんげえ億万長者のご令嬢だったぜ・・・・・・」


 確かに不思議な話だ。そんな資産家ならば、何故軍の一兵卒として働いているのか?

 それに彼女は、海太に下手くそな色仕掛けをしてきたが、元々金持ちの子ならそんなこと必要ないはずだ。この世界で生活を豊かにするために、ポイント稼ぎに必死になる点は判るのだが・・・・・・


 こんなやり取りなど知るよしもなく、ヒナイは一生懸命浴衣を作っている。えらく頑張ったようで、この後三日間で、一人で五着もの浴衣が完成させていた。






 異世界来訪82日目。第1艦隊主力艦・リヴァイアサンに在住している高橋テイラー総隊長の下に、ウィノナを通じてある報告が届いた。


【総隊長、あの廃村跡で発見された、映像媒体の解析が完了したとのことです】

【映像媒体・・・・・・? ・・・・・・ああ、あれのことか】


 以前発見された廃村跡の民家に、テレビなどに使用されると思われる録画用映像メモリーカードが発見されたのだ。

 技術班に頼んで送ったきり、ずっと音沙汰が無かったので、テイラーはすっかり忘れていた。


【随分時間がかかったな。あれから一月以上経つだろう?】

【それなんですが・・・・・・】


 解析した技術班長官のシルバー・ライマン少将が言うには、このメモリーカードは何と、自分たちの世界の技術よりも、更に一歩進んだ技術で作られているというのだ。


 容量・映像の鮮明さもかなり優れていた。さらにこれは自然劣化もまず起こらず、理論上半永久的に映像を残し続けることが出来るという。

 このぐらいの性能のメモリーは、彼らの故郷世界にもある。だがメモリー自体の強度は、こっちの方が上だという。そんなものが一家庭の民家に置かれていたというから、この世界の文明度の高さが伺える。


【そいつはまた・・・・・・それでどんな映像があったんだ。見せてみろ】

【判りました】


 映像機に映し出されたのは・・・・・・何というか普通だった。

 そこにいたのは仲の良い夫婦と、その子供と思われる赤ん坊と遊んでいるホームビデオであった。


 彼らは日本語で会話しており、彼らの会話から、この子供の名前は勝郎(かつろう)というらしい。

 映像は古い順から並んでいるのだが、映像を進めるごとに勝郎が成長していっているのが判る。

 恐らくどこかの観光地と思われるところで遊んでいたり、動物園のふれあいコーナーと思われるところで動物に乗っていたりしている。ちなみその動物は、こっちでも見かけた馬ほどの大きさの大カルガモだった。


【あの水鳥、乗馬にも使えるのか? これは意外といい発見かもしれんな】


 その後映像が進み、彼が小学校に上がった所まで来る。映し出された校舎には、どことなく見覚えがあった。


【あれは・・・・・・ゴーストハザードの危険があると報告があった、あの学校じゃないのか?】

【ええ、私にもそう見えます。現存する建物は、植物に見る影もなく浸食されていたので、確証は持てませんが・・・・・・】


 さらに時間を進めると、この少年の成長と共に、かつてのこの村の様子も断片的に見ることが出来る。これを見る限りでは、あの新郷第十三村という村は、林業と農業に携わっていたらしい。


 やがて彼が成長し、十歳の誕生日の時の映像からしばらくして、このホームビデオは終わりを迎えた。彼の中学・高校時代の思い出の映像は一切無い。


【ここで終わりか・・・・・・。まあ、仕方ないことだが】

【仕方ないとは?】


 テイラーはこの映像の少年の姿を、気の毒そうに眺めながらこう言った。


【お前は気付いてないのか? この勝郎という子供。あの校舎内でキャントレル中佐の部隊が目撃した映像の死霊の姿とそっくりだ・・・・・・】





 その夕方のこと。夕方といっても、夏なので日の入りは遅く、辺りはまだ明るい。

 だがそれで時間が延びたわけではないので、それほど忙しい仕事を抱えていない者は、皆次々と帰り支度を始めていた。


 ヒナイは、今日は村の中で遊んでいた。ここ数日働きづめだったのに、彼女は未だ元気である。

 彼女はその辺にいるバッタなどを追いかけ回している。捕まえる気はないようで、少し近づいてジャンプして逃げられると、またその後を追いかける。

 その様子を遠目から陽子が見つめていた。今日は彼女が保護者係だ。


(本当に楽しそうだね・・・・・・。あんなので)


 今のヒナイの姿は、現代の地球人の観点からすれば、実に物珍しい姿だった。

 今や子供でも、インターネットやコンピュータゲームに興じて、あまり外出しないような時代。あのような自然の生き物に純粋に興味を示して、それだけで楽しめる子供は珍しい。


 ここは自分たちの居住地である村の中。村の周囲には警備兵が巡回しているため、外と比べるとずっと安心だ。その安心が、ある意味今回の陽子の油断を招いたと言える。

 少しすると、今まで明るかった空が、急に薄暗くなってきた。そしてポツポツと、天空から小粒の水が落下してくる。


「うわっ大変!」


 この世界には気象衛星など無いので、天気の完全な予測など不可能である。 こういった急な天気の変化が起きても別に誰も驚かない。

 実は家の庭に、現在洗濯物を干している。洗濯して干す物と言ったら、今は予備も含めて一人数枚の軍服があるだけだ。


 だが今後レグン達のおかげで、洗濯に必要な衣類の種類・数が増えていくと考えられる。耐水性のある軍服とはいえ、濡れさせるのはあまりよくない。

 陽子は慌てて、家の方へと走っていった。まだ遊んでいるヒナイを置いていって・・・・・・


「!?」


 ヒナイは、雨が降り出してどうしようかと周り見渡すと、村の歩道の方から誰かが近づいてくるのが判った。

 ヒナイはそれに関して、特に警戒を示さなかった。その人物は、実に見慣れた連合軍兵士の制服を着ていたからだ。つまりその人物は、自分たちを保護してくれた海太達の仲間ということだ。


 その兵士は、雨で濡れるのもお構いなしに、ゆっくりとヒナイに近づいてくる。やがてその容姿が見える位置まで近づいてきた。

 その人物は二十代後半~三十代前半ぐらいに見える白人女性である。この真河豚村は、日本人兵士達で形成された集落。ここで白人の姿を見かけるのは珍しい。


「$&$&~?」


 彼女が明確にこっちに近づいているのを見て、ヒナイは首を傾げた。

 自分にいったい何の用だろうと。やがてすぐ側までやってくると、初めておかしな事に気がついた。遠くから見た時は判らなかったが、その女性兵士の身体は、うっすらと透けているのだ。


 ヒナイが彼女の顔を見上げると、女性兵士はニコリと微笑みかけ・・・・・・そしてヒナイは意識を失った。


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