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グール鉄鬼  作者: 大麒麟
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第四十四話 発展と来訪者

 移動はあっとうまに進んだ。夢を抱えた鋼鯱はジェット機のような速度で、あの休憩地の岩場の近くまで飛んでいった。

 遠くから、掘り当てられた温泉の湯気が、空中へ昇っているのが見える。


「えっ!? ちょっと待って!」


 彼は夢をその場から降ろすと、逃げるように走り林の方へと消えていった。

 これは前の陽子の時と全く同じだった。


「……いっちゃった」


 全てがあっとうまに起こって終わったこと。だが終わってみると、さっきまでの時間が惜しいような気がしてくる。

 一分ほどそこでボーとしていると、どこからか聞き覚えのある声が聞こえてきた。


「夢、どこ行ってたんだ! 探してたぞ!」


 その声の主は海太だった。さっき鋼鯱が消えた方向とは、ちょっとずれた所の林から、大急ぎで夢のほうへ駆けてくる。


 ……事情を知っているものが見れば、彼のこの行動はわざとらしいと感じるだろう。だが何も知らない夢は、何も不思議に思わず救助の手を喜んだ。


「うん、私は大丈夫。助けてもらったから……」


 この日の報告で、一人の兵士が取り逃がしのモンスターに誘拐されたものの、謎の勢力・鋼鯱によって救出されたとあった。

 これには警護の兵士たちは、自分の油断を大いに反省した。それと同時に、再度現れた謎の戦士の存在の不可思議さに、頭を悩ますことになる。


 二度目の出現となった鋼鯱。この事態に関しては、一部の兵士たちの間で、彼は英雄のように持てはやされ始めた。






 その日の夕方、取り調べから解放された夢は、第一艦隊のある林の中に来ていた。

 そこには現在一人で鍛錬中だった、高橋テイラー総隊長がいた。その時見た、木刀の振り方を見て、夢は再度自分の中の一つの仮説を強く考える。


「……あの、おはっ、お初お目にかかります総隊長……」


 相手が日本語が分かる人だと知っているので、英語の喋れない夢でも、普通に話しかけられる。

 だが彼女は緊迫して、少しどもっている。彼は友人の海太の父親であるが、軍学校で数回ほど遠くで見たことがあるだけの人物だ。


 彼は時々臨時講師として、日本の軍学校を訪れることがあるのだ。


「ああ、君が遠藤兵長か。今日は大変だったな……」


 初対面の人物の突然の来訪にも、特に嫌な顔をせずに返してくれるテイラー。彼は相手が海太の関係者だと知っているのだろうか?


「ああ、あの! 何ていうか……」

「どうした? 慌てずに落ち着いて喋りなさい」


 優しく声をかけられ、夢は意を決して喋りだした。


「あの! どうしても聞きたいことがあるんです! あの鋼鯱は総隊長だったんですか!? あの剣の振り方、前に授業で見た総隊長の剣技に似てました」

「いや、俺ではないぞ」


 勇気を振り絞って、一気に立てた夢の言葉を、テイラーはあっけなく否定の言葉を返した。


「俺は今日警備の仕事を休んでてな、ずっと艦の方にいたぞ。なんなら仲間たちに聞いてみるか?」

「うえ?」


 夢は英語を喋れないので、アメリカ人ばかりのこのエリアで聞き込みをすることは不可能だ。

 だがその物言いから、テイラーは嘘を言っていないということが、何となく読み取れる。


「俺は剣技を見世物にしていないが、それを真似る奴がいてもおかしくない。案外、そいつは軍の関係者だったかもな。だが確かに言えることは、鋼鯱は断じて俺ではないぞ。それならお前の前から逃げる必要もないだろう?」

「そ、そうですね……もっ、申し訳ありませんでした」


 何度もしきりに謝った後、夢はそそくさとその場から退散した。もし彼が鋼鯱だったら、何というつもりだったのだろう?

 誰もいなくなった林の中の訓練場で、テイラーはボソボソと独り言を呟いた。


「海太の奴、意外と隅に置けないものだな。……しかしあいつ、いつのまに剣術なんて習ったんだ?」


 実は今回のことは、海太が先に通信で、テイラーに事情を話していた。

 さっきの夢の言葉にちょっと疑問を感じながらも、久しぶりに気分のいい日を送れたことを喜び、テイラーは艦へ戻っていった。






 異世界来訪70日目。

 季節は夏真っ盛りであった。ちなみに異世界来訪一日目が日本の暦における五月上旬辺りと推察されている。

 この日は気温がこれまでで一番暑く、奏でられる蝉の鳴き声が、夏のイメージを深めて更に暑くなっている気がする。


 初物収穫からしばらく、この農場から大量の作物が収穫され、危惧されていた艦隊群の食糧事情は、おおよそ解消されたと言える。

 現在作物からとれた種を使って、二週目の農耕を行っている。多く採れた種を使って、未使用の耕地にも植えて、農場の使用範囲も広がる。

 最初は種で植えていたジャガイモだが、今は収穫されたイモの一部を切り分けて、種芋として使っている。


 だが耕作面積が増えると言うことは、必要な人手も増えると言うことだが、今はポイントを得るために、次々と労働志願者が増えているので問題ない。

 ちなみに泥田坊の数も、今は五千匹に増えている。


 まだ収穫がされていない作物の一つに稲がある。現在大分実っていて、田から水を抜いて収穫の時を待っている。

 気候が暑くなれば、その分作物の生長も少し早くなる。だが人間にとってはつらい季節だ。働く兵士達の身体から流れ出る汗が、初期の春頃の時よりも確実に多い。


 彼らは訓練を積んだ屈強の兵士達である。そしてここは、水と草と土に覆われた自然の大地。

 熱を吸収するコンクリート・アスファルトの地面で覆われた都市の猛暑と比べれば、ここはまだ暑さが穏やかな方だ。・・・・・・まあ、それでも暑い者は暑いのだが。


 つい最近までは、家を頑丈に作り直そう試みる物が多くいた。

 現在村に建てられている家は全て、短期間で建造されたため、構造的に甘い部分が多い。強度・耐震性に不安があったからだ。

 だがその動きは未だ見られない。この気温にやられて、家を一旦捨ててまで仕事に励む気が削がれているらしい。


 ちなみに暑さに気をつけなければ行けないのは作物も同じ。暑すぎる時間帯に水をやったりすると、土の中で熱湯と化した水分が、作物を蒸し殺すことが有り得る。

 そのため、この時期に水やりを行う時間は、涼しくなり始める夕方頃に限定される。


「あち~~~、かい~~~~、身体がベトベトする~~!」


 大豆畑で草取りをしている兵士達。その中で一番バテているのは渡辺艦長だった。今にも日射病で倒れそうな彼女を、海太と陽子が不安そうに見ている。


「あの・・・・・・大丈夫ですか? なんなら今度からは早朝に行った方が・・・・・・」

「早朝? 何でだ?」

「朝はまだ涼しいですからね。しかも日が上がるのが早いから、四時頃に出ても十分明るくて作業はできますよ」


 この会話に、他の兵士達も聞き耳を立てて注目している。彼らも我慢はしているが、やはりつらいのだ。


「まあ、これは十分に人手が足りてる場合で。実際の農家で忙しいときは、早朝から暗くなるまでぶっつけで働いたりしますけど」

「マジすか・・・・・・」


 その時陽子が、ちょっと怪訝な顔をして、海太の顔を見つめている。


「海太、さっきからあなた、全く汗をかいてないよね?」

「ああ、グールだからな。前に俺の手触っただろ。俺の身体はいつだって冷たいんだ」


 疲労感もないので、海太は暑さなど気にせず、いつまでも働ける。だがやりすぎると、この特異体質を感づかれて怪しまれるので、時々身体に水をぶっかけるという行動を行っていた。


「それって今でも冷たいの?」

「ああ、もちろん」

「じゃあ、触らせて」

「えっ!?」


 言うやいなや、突然海太の腹部に手を回して抱きつく陽子。その感触に、何やら陽子は気持ちよさそうだ。


「本当だ。すごく冷えてて気持ちいい」

「本当か? どれ・・・・・・」

「かっ艦長!?」


 灼熱の大地の中、労働中の2人の兵士達が見た物は・・・・・・2人の女性兵士が白昼堂々と1人の若者の身体に、力強い抱擁を行っている光景だった。


「何してるんだ、あいつら?」

「こんなところで、何て大胆なんだ・・・・・・」


 その奇異の目に気付いて、彼女らが慌てて手を離すのは、もう少し先のことである。







 つい先日、真河豚村の何件かの家屋に、冷蔵庫が支給された。

 全てこの地に来てから自作された者だ。素材の問題で、一時は不可能と思われていたが、あの“氷の洞穴”で発見された、あの冷凍結晶が活躍した。それらを素材にすることで、故郷世界にはない全くの新型冷蔵庫の開発に、彼らは成功したのだ。


 最初にこれを貰った海太は、早速ポイントで大量の肉を買い、冷蔵庫に入れた。保存の利かない肉は、村では敬遠されていたが、今後はそれも変化しそうだ。


 最初は小田切 明のチームが中心だったが、各艦から大勢の整備兵・機関兵がこういった工作に参加している。村は徐々に機械文明化してきていると言える。

 最近ではクーラーも作って欲しいという要望があったが、これは却下された。冷凍結晶は無限にあるわけではない。快適性と食料保存を天秤にかけるなら、当然後者に向く。


 現在新しいタイプの発電施設の開発も検討されている。どんどん勢力拡大する技術チームにも、多くの事業が展開され始めた。







 ここは温泉開発が行われている高山の一角。

 超巨大な温泉旅館風(宿泊部屋まである)の建物は大分形が出来上がっていた。以前の大猿の襲撃の件は、それなりに波紋を呼び、警備強化が大きく呼びかけられるようになった。

 この世界では自然の恵みが過剰な代わり、常に怪物の脅威に晒されている事実を、改めて兵士達に認識させた。


 ちなみにあの黒猿が根城にしていた神社跡だが、あの後すぐに調査がなされた。どうやらあそこは酒鳥神社(さかどりじんじゃ)というらしい。

 検査したところ、社殿には風の精霊の魔力が検知されたが、その精霊そのものを発見することはできなかった。


 この日の温泉の警備には、テイラーも参加していた。総隊長とはいえ、何かしら働いておかないと示しがつかないと、あの事件からずっとここの警備に出ている。


(今日も異常はなさそうだな。少し飽きてくるが、断じて気を抜くわけにはいかんな)


 見上げる温泉施設の入り口には“真河豚旅館”などという看板が立てられようとしている。

 本格的に温泉経営をする気なのだろうか? ちなみこの季節の暑さによって、自身の汗臭さに耐えられず、まだ完成していない温泉に入ろうとする者が後を絶たずにいる。


 大概工事の邪魔だからと、警備隊が追い返しているが。何だか怪物より、人間の相手が多い気がする。


(むっ!?)


 そんな時だった。テイラーの通信機が突然なり始めたのは。

 発信者はウィノナである。彼女がこういうのを伝えてくるは珍しい。通信をオンにした途端、叫ぶような声が通信機から飛んできた。


『【総隊長大変です! さっき艦のレーダーが探知したのですが、新郷湖の方に次元の歪み、しかも転移の門が起動するエネルギーを感知しました!】』

【転移の門だと!?】


 あまりに唐突な展開である。自分たちは故郷世界から、転移の門が開くのを待って、この新郷の土地に住み着いている。

 だがそれはまだ十ヶ月ほど先の話の筈だ。あまりに早すぎる。


【それは地球連合が開けた者なのか? それともビーストか?】

『【いえ、この転移の門のエネルギー反応は、どちらとも異なります。まったく未知のタイプの門です。あっ、今門の反応が消えました】』


 門の反応が消えた。それはつまり開けられた次元の穴が、再び閉じたということだろう。ならば良いというわけではない。

 閉じたと言うことは、その門は役目を果たしたと言うこと。つまり何かがこの世界に侵入してきたのかも知れないのだ。とりあえずビーストが現れたという、最悪のケースではないようだが・・・・・・


【俺は今すぐ、新郷湖へ向かう! 艦隊の方も差し向けられる分の人数、探索部隊を結成しろ!】

『【はい! ところで司令部からの判断はいかがしましょう。まだ何も言ってきませんが・・・・・・】』


【司令部など当てにするな! やる気のある者だけで、この問題を解決するんだ!】


 そのテイラーの声は、今まで以上に感情のこもった叫びのような声だった……

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