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グール鉄鬼  作者: 大麒麟
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第四十話 廃村

 艦隊群から離れたとある山林の中。その場所にある発見がなされ、現在フェイ・キャントレル中佐を始めとした、いくつもの部隊が捜査していた。


 そこにあったのは民家と思われる、大量の建物である。庭や道には多くの樹木が生い茂り、建物には落ち葉と蔓植物が全体を覆い、その姿を見えにくくしていたが、確かにその場所は集落の跡地で間違いなかった。


 千人以上の部隊が、各々の家を見回っている。まるでジャングルの遺跡を調査しているような気分だ。

 各家には二メートル程の塀で囲まれており、入り口と思われる部分の塀には“木下”“田村”などと、日本名に近い名字が掘られた表札がある。ここには確かに人間が住んでいたのだ。


 その家から多くの貴重な情報源が発見される。

 中の物が全て取っ払われてもぬけの殻の家がほとんどだった。だが二軒だけ、家具などの物品が、そのまま放置されている所があった。


 最初に見つかった一軒を徹底的に捜索し、物品を押収する。特に本などの書物の類は、一つ残らず押収される。まるで遺跡盗掘のようだが、この際仕方がない。

 日本語が読めるジェリーが、押収された本を一つ一つ見ながら、溜息をつく。


【歴史書とかそういうのはないのか? 今一番欲しいのはそれなんだ。小説や漫画などでも良いんだが】

【いえ、今のところそういった物は見つけられません】

【そうか・・・・・・】


 書物の多くは、釣りや園芸などと言った趣味の本が多かった。この世界の成り立ちを多く知れそうな書物は、運悪く見つけられなかった。現時点書店らしき物は見つけられない。


 他にもテレビなどの家電製品が放置されているのも見えた。そのテレビに対応したメモリーカード型の映像媒体らしきものが一枚だけ見つかった。

 だがテレビは既に機能が壊れており、映像媒体はこちらの機械に対応しない物なので、解析はまだ時間がかかりそうだ。


【樹木の調査が終わりました。道跡に生えていた木は、古い物で樹齢百年程度。それ以上の樹齢の樹もありましたが、おそらくそれは元からこの集落に植えられていた物と思われます】

【この村が放棄されたのは百年前って事か? 農場跡の樹木より古いようだが・・・・・・】


 集落にはどこかから襲撃を受けたような破壊部位は、今のところ見つけられない。おそらくここは住民が自主的に放棄した廃村と思われる。

 ただ農場跡の施設が放棄されるよりも、ずっと前にこの集落が放棄されているというのが、少し気がかりだった。


(この地域で一辺に人がいなくなったわけではないという事か? では何があった?)


 次々と運び出されるこの家屋の品々。その中の一つに、ちょっと目につくものがあった。


【これは鉄鬼・・・・・・ではないよな?】


 それはメタリックな銀色に輝く、背丈二十センチ程の人形であった。全身が銀色の鎧兜で覆われた戦士のような造形である。


【中にはこれのパッケージらしきものがありました。どうやらヒーロー番組の、玩具人形らしいです】

【ふむ・・・・・・この家には子供もいたのか? しかしこれ、何となく鋼鯱に似ているな】


 ちなみに表札にあった名前は、夫婦と思われる2人の名前しかなかった。色々と疑問が残るが、とりあえずこれも持って行くことになった。







 一方ある民家には、ある意味とんでもないものが発見されていた。その家は二軒目に発見された、物品が放置されている家であった。

 この調査隊に参加していたブルー・ジョンソンの部隊が、この民家に踏み行ったときに絶叫しかける。


【なんでこんなものが・・・・・・】


 床は埃だらけで、部屋の所々に外部からの植物の浸食が見られる屋内。その日本間と思われる一室に、一体の白骨死体が横たわっていた。

 骨は綺麗に白く、残った腐肉などはない。おそらく死んでから相当な年月が経って、汚い部分は全て、虫達が掃除してくれたのだろう。床には無数の虫の糞が散乱している。


 家の壁には、何故かあの巨大蛾が大量に眠っていた。夜行性の彼らは、昼間敵に見つかりにくい場所に隠れているのだろう。

 確かにあの目立つ巨大では、キツネやイタチの格好の標的。家屋の中は最も安全な隠れ家である。


 死体は仰向けで、足を腰を真っ直ぐ伸ばして、眠るように横たわっている。両手を祈るように組んで、自分の胸に手を置いている。

 この様子だけ見ると、不慮の事故や殺人による死には見えない。この部屋で病に倒れて孤独死したのだろうか?


 死体のすぐ側には、封筒が重しを乗っけておかれている。ブルーはそれを遠慮なく手に取り、中身を見てみる。

 だが彼は日本語が読めなかったので、側にいた部下に通訳させた。その内容はこうである。


《この手紙を書く7年前に、この新郷第十三村の廃村・移民が決定した。少子化・人口減少・人口密度低下による国家管理の困難化。これらを考えれば、この村が取りつぶされるのは致し方ないだろう。

 だが私は例え政府の命令に逆らってでも、この村に留まることに決めた。友人には私は既に他界していると国に伝えさせ、私はこの村に残った。私はこの村に生まれ、70年以上この村に生き続けた。だから最後はこの村で己の一生を終えたいのだ。

 もしこの村に再び人が住み始め、そしてこの手紙を誰かが見つけてくれたなら、私が持っている宝物を全てその方に差し上げよう。宝は階段下の物置にある。その鍵をこの封筒に入れておいた。ではさらばだ。名も顔も知らぬ未来の客人》


 手紙を読み終えた一同は、少し悩んだ末に書かれているとおりにその物置に向かった。手紙にあるとおりに、封筒の中には小さな鍵が入れられていた。


【いったい何があるんだろ?】

【開けた途端、爆弾がドカン!なんてないよな?】


 木製の扉にかけられた錠を外し、その扉をやや緊張しながら開け放つ。


【【おおおおおっ!】】


 中を見た兵士達(主に男性兵士)が、その中に有ったものに、思わず声を上げた。


 物置にあった宝物の正体。それは中全体をギッシリ詰めた、大量のエロ本の山であった……


 その後彼らは、その本の朗読を必死に行った(検査という名目で)。本来は死体が見つかった時点で行うべきだった、司令部と他部隊への報告を行ったのは、それらを読み終えた夕方頃になってからであった。







 リーダーのフェイは、集落の中にある、とりわけ大きな建物にやってきていた。

 それは縦長でおおよそ四階建ての建築物。植物が生い茂っていて見えにくいが、フェイはこれが何なのか一目で分かった。


【・・・・・・学校だねこれは。それにしても大きい学校だこと】


 校庭や校門の広場には、既に生長した樹木が大量に生えていて、完全に林になっている。それにしてもこの建物は、校舎も体育館もとても大きい。生徒が二千人は通えそうな規模だ。

 自分たちが調べた範囲では、この集落は人口2~3千人程度の、小規模の町村だと考えられる。そのレベルの集落に、こんな大規模な学校が必要だったのだろうか?


 内部には既に百人ほどの兵士達が潜入している。ここが学校であるならば、学校の資料・アルバム・歴史の教科書、などこの世界の細かい情報を入手できる物があるかも知れない。


 兵士達は外と細かく何度も連絡を取りながら、内部を探し回る。望みの物があるとしたら、職員室・校長室を探すのが妥当だろう。

 学校の内部は、一般的な日本の学校と同じだった。廊下の掲示板・教室の立て札・昇降口の下駄箱入れ、どれもが古くなっていたが、故郷世界と代わり映えがない。


 ある一組の兵士達五人が、音楽室と思われる部屋に入っていた。中にはピアノなどの器具がそのまま置かれている。

 この学校は民家と違って、多くの物品が置き去りになっていた。物を引き取る物がいなかったのだろうか?


 一人の兵士が、悪ふざけでピアノを弾いてみる。だが埃だらけで整備もされていないので、音が出ることはなかった。

 すると一人の兵士が、少し不可解な部分を発見した。


【おい、あれは誰だ?】


 黒板の上の部分を見てみると、確かにおかしな点がある。先程の説明で、この学校は故郷世界の学校と全く同じだと言った。だがこの音楽室には、故郷世界と異なる部分がある。


 黒板の上には、音楽家と思われる人達の写真立てが飾られている。だがそれらは、どれもが兵士達の知らない人物だった。

 モーツァルトやバッハといった、音楽史上絶対に外せないはずの人物が一人もいない。あるのは見覚えのない顔ばかりである。しかもその中には、頭に角やら葉っぱやらが生えた、おかしな身なりの者もいる。


【ここは並行世界の地球の筈だよな? なのに音楽の歴史は違ってるのか?】


 頭にクエッションマークを踊らせている最中、鉄鬼の探索機能が、おかしなものを察知した。霊体反応である。しかもそれはすぐ近く、今自分たちが入ってきた音楽室の入り口にいる。


 兵士達は大慌てで、そっちの方へ向いた。そしてそこにいる存在を見た。


【君は?】


 いたのは身体がぼんやりと透けた、一人の少年だった。歳は十歳あたりだろう。半袖の赤いTシャツに青い半ズボンという、夏向けの服を着ている。

 それが人でなく亡霊なのは、誰が見ても判る。そして彼は、じっとこちらを見つめているのだ。


 亡霊の存在に一時恐怖したものの、すぐに外の部隊に映像を送って、冷静に対処しようと試みる。


【君はこの学校の生徒なのか? よければ話を・・・・・・】


 話しかけた途端、少年が突然逃げ出した。霊体であるためか、足音などは立てずに、廊下を走っていく。兵士は慌てて彼を追おうとしたが・・・・・・


『【やめろ! 追うんじゃない!】』


 突然外からフェイの通信が入った。切羽詰まった様子の制止の声である。


【中佐、しかし彼は・・・・・・】

『【今からここに潜入した全ての兵士に命令する。ここの探索は中止だ! すぐに外に出てこい! さっき調べてみて判ったが、この辺一帯で、この学校の魔力がとりわけ密度が高いことが判った。ここはゴースト・ハザードになっている可能性がある。あまりに危険すぎる】』


 この言葉を聞いて、兵士達は大慌てで外へ逃げるように出て行った。幸い何か起こった様子はなく、彼らは全員帰還できた。

 以後ここは危険地帯として、一切の出入りが禁じられることになる。





 夜になって探索は打ち止めになった。あの学校の亡霊の件があってか、夜間の活動も危険と判断されたのだ。

 その後集められた物品を調べた限りで判ったこと。この世界は“女神”と呼称される存在によって統治されていたらしいということ。この世界には人間以外の亜人種が多くいたらしいと言うこと。そしてこの世界の大陸名・国名は、自分たちの故郷世界とは大きく違っていたらしいということだ。


 これだけ見ると、この世界は文明発祥の原初から、自分たちの世界とは大きく違う歴史を辿っていたように思える。

 だが今まで見てきた、故郷世界とあまりに似た文字・文化様式の品物・建築物を見ると、その考えにはどうにも違和感がある。


 民家で見つかった映像媒体は、解析にはもっと時間がかかりそうという連絡が来た。この集落の調査は、謎を解くばかりか、現時点多くの謎を新たに生み出して、ここで一旦打ち止めとなる。


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